2021/12/25 (土) 12:00 4
伊豆ベロドロームで12月9〜13日に渡って開催された「第90回全日本自転車競技選手権大会トラックレース(エリート・パラサイクリング)」で、日本一の座が争われた。この大会は競輪選手のほか、実業団の選手や個人で活動している選手、大学生なども参加する。競輪選手の卵である競輪選手養成所の生徒も参加した。
今回はケイリンをメインに行われた12日だけしか取材に行くことができなかったが、大きな収穫があった。普段、取材することのない大学生の話を聞くこともでき、思わず心が躍った。当コラムが公開される25日は一般的にはクリスマス。もう20年ほど私には一切無縁の行事なのだが、今年は“クリスマスプレゼント”を早めにもらった気分だった。
朝日大3年の森田一郎君と中央大2年の市田龍生都君に話を聞くことができた。森田君は昨年前橋で行われた第89回大会で「おっ! 」と思った選手。市田君は、言わずと知れた市田佳寿浩(引退=76期)の息子さんだ。
前橋の大会では決勝に乗った森田君。見るからに闘争心にあふれ“ケイリン”なのだが、内を突いたり、位置取りを意識していたりと、激しい。「漢字の競輪みたいだって言われますね(笑)」。武骨な顔をしているかと思ったら、何とも甘いマスク。何か…ある。
ガールズケイリンの巨星・石井寛子(35歳・東京=104期)を生んだ杉戸農業高出身だ。「高校の時は大した成績を残してなくて、強くなかった」。
でも…。ある思いがあって、相談した。相手は同い年で活躍していた太田龍希(21歳・埼玉=117期)の父・真一(46歳・埼玉=75期)だ。
真一は相談を受け「彼に合っていると思って朝日大を紹介したんですよ」という。真一はアマチュアの自転車競技にも詳しく、全日本トラックではケイリンの誘導をするといった活動もしている。
森田君は朝日大に入ると急成長、「ボクに合った大学を選んでくれて、成長できた。真一さんには感謝し切れないです」と頭を下げる。心の奥が熱くなるドラマがある。クリスマスの夜は、あっという間に更けていく。
憧れたのは高校の先輩の「シバヤマさん」だという。もう自転車には乗っていないそうだが、「とにかく闘志あふれる走りで」と感銘を受けたそうだ。森田君は「1回1回に命を懸ける。ガッツあふれる走りをしたいんです」と瞳を輝かせる。
単純な力では劣っている。「ほかの選手に一つだけ勝てるもの、それが自分にはガッツだと思うんです」。現在3年生。4年の秋に競輪選手養成所を受験する予定だという。今、届いたクリスマスプレゼントは、いつかみんなのもとに届くもの。彼は、競輪ファンに色んなプレゼントを届けるサンタクロースになる。
市田君はまだ2年生。「父が選手なので、選手になるんだろう、ってみんなに言われますね」。穏やかだ。今は「学業を全うすることもできるし、そういうメリットも生かしたい」。全日本トラックを走っては「多くのすごい先輩方と走る中で、いつものメンタルを持ってこれなかった。しっかり学んで、こういうレースを強くなっていったかをフィードバックしたい」と振り返った。
学者も向いているのかな…。いや、そんなことはない。私は競輪担当の記者です。市田佳寿浩さんの取材もずっとさせてもらってきたし、血が騒ぐ。「競輪選手や、五輪というのは? 」と聞いてみた。
「今回で壁を感じているんで…。でも、そんなチャンスが見えていて、精一杯の努力でそこが見えるなら、一瞬でも迷わず突っ込んでいきたい」。
こんな言葉、あるかよ…。競輪選手・市田龍生都の取材をしたいとはっきり思った。もちろん人生は人生。どの道を選んでも素晴らしいが、待っている人は私だけではないだろう。
では、みなさん、楽しいクリスマスをお過ごしください。それぞれのクリスマスプレゼントを胸に…。「そんなもん、ない」という人は私のおなじみパワードリンク、ストロングゼロ(ドライ味・500ml缶)を何本か買ってきて、しみじみ飲んでください。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。