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松浦悠士の“真っ向勝負!”

【松浦悠士の詳細解説】今は我慢の時期! 悪循環を断ち切って堂々と前へ進みたい

2021/10/30 (土) 18:00 13

 みなさんこんにちは、松浦悠士です。10月は『火の国杯争奪戦(GIII)』と『寛仁親王牌・世界選手権記念トーナメント(GI)』に参戦してきました。今回は寛仁親王牌の準決勝レースの振り返りを中心に書いていきたいと思います。

自転車のセッティングを詰める松浦選手。火の国杯争奪戦が行われた久留米競輪の検車場にて。(撮影:島尻譲)

すべてが無駄になってしまうような感覚があった

 寛仁親王牌の準決勝に敗れたときの精神的ダメージはかなり大きいものでした。しばらく経っても「どうすれば良かったのか?」と腑に落ちなかったほど…。平原さんのブロックによって、太田竜馬君と僕はバランスを崩して後退。あの時点で、勝敗が分かれました。「自分がやってきたことは何だったんだ」とすべてが無に帰したような感覚になり、レース後はいつもと違う感情を味わいました。

 前回のコラムでメンタルをコントロールすることの重要性を書いたのですが、それらをきちんと立て直していく気持ちでしたし、周囲からは体の状態を心配してもらっていましたが、2日目を終えた時点で「十分に戦える仕上がりだ」と確信していました。

 レースの最終局面では「よし! 決勝に上がれる!」という気持ちが湧いてきて「勝てる!」と思いました。勝負所での状況も見えていたし、余力も残っていたので『どのタイミングで踏み込むか? 中に行くか外を踏むか?』の判断さえ間違えなければ勝ち上がれる展開だったと思います。自分の体の状態やバンクコンディション、そういった一つひとつの要素を見極めて「タイミングを待たずに外を踏み込む」という選択をしたんですが、これが結果的には『間違い』になってしまいました。

影響を受ける位置にいてはいけない

 結果がすべてとは言え、間違いがあったのなら、しっかりと分析をしなければいけません。負けた戦いから将来に繋げる何かを見つけなくては強くなれないと思っています。ですが、敗因分析をしていても「運が悪かった」「流れが悪かった」と言いたくなってしまうような悪循環を感じたのも事実です。それを言っていては先に進めず成長がないので、考えを巡らせ続け、自分なりの答えは見つけています。しかし、厳しく難しい判断でした。

 実は今回の寛仁親王牌、シリーズを通して難しい場面が多かったです。初日は外併走のレースになってしまい、自分のコースもなかったですし、2日目は山口拳矢君があのタイミングで、あんなにドカンと行くとは思わなかった部分もありました。ですが、その中でも自分が勝ち上がっていくためのヒントを見つけることができていましたし、毎レース収穫を得ながらシリーズを過ごしていました。

悪いサイクルを断ち切るため、復調の材料を探し続けていた(撮影:島尻譲)

 初日に気が付いたことはバンクのコンディション。「思ったよりも外が伸びる」という感覚で走れました。また、2日目はレース自体の反省点はありましたが、体の状態が悪くないことを再認識し、不安も払拭できました。準決勝では自信を持ってレースに臨めましたし、状態も良かったため、余裕のある状態で勝負圏にいることができたのだと思います。

 ですが、「外を踏もう」とか「(踏み込むタイミングを)待って後悔はしたくない」という選択が、『ブロックの影響をもろに受ける位置』に入ってしまう最悪の結果に繋がってしまいました。競輪のレースは紙一重というのは当然わかっているのですが、自分の最善だと思う選択が間違いだったという瞬間はショックですし、勝ち上がりを確信した瞬間に負けが決まってしまい、その分、落胆も大きかったです。

自分に何ができたのかを考えながら次に繋げる

 レース直後はあれこれと考えが巡りましたが、落ち着いて分析すると『リスクを察知する判断能力』が足りなかったのかもしれないと振り返っています。この準決勝で言えば、平原さんがあそこまでブロックすることを想定していなかったですし、想定していれば踏むタイミングもコース取りも、もっと違う選択をしていたかもしれません。

 そもそも事前に想定していれば、前で頑張ってくれた太田君にもアドバイスを送ることができたかもしれないですし、それができれば太田君も避けられた可能性だってあります。

 この準決勝に限らず、今年は去年に比べて危ないレース、危ないシーンが多いため、改めて気を付けなくてはと思います。9月の向日町記念あたりから、体勢が崩れてしまうような接触をもらい、体にダメージを受けることがあるため、そういう所に悪循環の要因があるのかもしれないです。

 競輪のレースではアクシデントが付き物です。大事なのはリスクを避けることも視野に入れて戦い方を組み立てること。実戦でしかわからないことがあるので、うまくいかなかったことを受け止めて、対策をしていきたいと思います。

最終日にも準決勝の精神的ダメージが残っていたと語る松浦選手(撮影:島尻譲)

体の状態とレース内容・着順にはギャップがある

 レースの話ではないのですが、最近なかなか結果が出ない中で、競輪ファンの皆様や関係者の方に「無理をするな」とか「走り過ぎてるんじゃないか」という声をかけてもらう機会が多いです。いつもたくさんの方が心配して声をかけてくれることに感謝しています。

 ただ、僕は実戦こそ何よりも為になると考えていて、何よりも強さに繋がると思っています。どんなに質の高い練習をしたとしても、いくら練習で強くなれても、本番のレースで力が出せなければ勝てないんです。だから僕は競輪のレースを走ることが、自分が強くなる一番の方法だと思っています。実戦で強くなること、いただいた仕事を全うすること。これが僕のやり方であり、大切にしていることです。決して無理をして走っているわけではありません。なぜ突然こんなことを書き始めたのかというと理由があります。

 最近『体の状態が悪くない(むしろ良い)』という時に、そのようにコメントを出しても、結果が悪いことで信じてもらえないことがあります。特に寛仁親王牌は熊本記念の落車明けでしたから、余計に信じてもらえなかった感じがあります(笑)。競輪のレースは調子が良いから勝てるというわけでもないし、調子が悪いから負けるというわけではありません。5月のダービーを優勝した時も感じていたのですが、体の状態が悪いとコメントをしても『絶好調』と評価されることが多かったです。

 自転車のセッティングや体の状態などは、できるだけ正確なものを届けたいと心がけています。体の状態とレース内容・着順にはギャップが生じることが多々あるということを、予想を楽しんでいるお客さんには改めて伝えておきたかったんです。もちろんプロは結果がすべて、どう判断するかは見ている方達の判断ということは、僕自身、深く理解しています。

読者の方から寄せられた質問に答えます

 それでは今月も質問に答えていきたいと思います! 今月は5問の質問に答えていきます!

今回は5問の読者質問に真っ向勝負!(撮影:島尻譲)

ーー自分を奮い立たせる言葉はありますか?

 特にないです(笑)。でもレース前に『やることはやってきた。これでダメならしょうがない!』という言葉を自分に投げかける時があります。こう思えるように準備をすることで、「こうしておけば良かった…」という考え方をなくすことができますし、失敗をしても「次に繋がることは何だろう?」という思考になれるんですよね。そういう気構えを大切にしています。

ーー他のスポーツを参考にして取り入れているものはありますか?

 たくさんのスポーツから勉強しています。僕は学生の頃に水泳をやっていて、今も競泳に興味があります。以前、入江陵介選手が背泳ぎする際、おでこにペットボトルを置いて、それを倒さずに泳いでいたのを見たことがあります。

 入江選手のフォームはすごく綺麗で、自転車にも必要な考えが見て取れます。まだ完璧ではないですけど、僕もフォームにはこだわり続けていて、日々研究しています。入江選手の泳ぎを見ていると、力の入っているところはしっかりと力が入っていて、抜けているところは抜けている状態が見えるんです。競技も動作も違いますが、フォームを試行錯誤する上ですごく参考になります。

ーーレースは左回りですが、練習で右回りに走ることはありますか? また、レース用の自転車は左回りに合わせるために左右のバランスが違うなどあるのでしょうか?

 バランスの取り方は選手によってさまざまですね。フレームに対してサドルの角度を曲げたり、ハンドルを握る位置などを左右で変えていたりする選手は多いです。僕の場合は、サドルは真っ直ぐにしていなくて、やや右方向に曲げています。選手は皆、工夫しているので、細かく見てみると面白いかもしれません。

 前半の質問ですが、練習時に右回りで走ったことはあります(ダッシュ練習ではなく周回練習)。感覚がまるで違い、すごく怖かったのを覚えています。左回りの走行が身体に染みついていて、全然うまく走れませんでした。右回りでレースをやったらとんでもないことになると思います(笑)。

ーーデビュー時と今では体のケアは変わっていますか? 調整はどちらの方が難しいですか?

 デビューした頃(20〜22歳あたり)は、そんなに身体のケアは考えていませんでした(笑)。その後、身体のケアは練習と同じかそれ以上に必要だと気付き、日々考えているので、若い頃よりも自分の身体について理解できるようになったと感じています。

 競輪選手はケガをしても、ちゃんと元に戻せれば出場機会がなくなることってないので、そこは他のスポーツと違うなぁっていつも感じてますね。若い時にケガをしてしまって引退しなくてはならない厳しい業界って結構あると思います。競輪選手はケガをしても乗り越えることができれば引退とはならないので、体のケアはちゃんと考えて取り組んでいきたいです。

ーープライベートで自転車には乗りますか?

 選手になったばかりの頃は乗っていたような記憶がありますが、今はまったく乗らなくなりましたね(笑)。危ないから乗らなくなったのが一番の理由です。街道練習なども車の動きを予測できないと危険ですし、僕の場合は高校生の頃の方が街道練習時の危険回避はうまかったかもしれません。あとは突然の雨に濡れるのも嫌なので、いつしかプライベートでは乗らなくなってしまいました(笑)。

大舞台に備える! 我慢の時期を必ず乗り越える

見ているのは前だけ(撮影:島尻譲)

 それでは今月のコラムはここまでにしたいと思います。応援してくれる皆さんにレースで起きたことを伝えたり、自分の考えを伝えたりも大切なことだと思うので、今回は寛仁親王牌の準決勝を詳しく振り返りました。今の僕の状態を知ってもらえたでしょうか?

 自分の中で状態が良いと思っていても結果が出ないというのは本当に苦しいことです。でも「これを乗り越えないと今以上に強くなることはできない」と考えています。今は我慢の時期なのかもしれません。苦しい時期は調子が良い時期よりも、ちょっとしたことを深読みし、マイナスの感情も入ってきやすくなるように感じています。でも必ずここを乗り越えて、成長の糧にしていきたいと思います。グランプリまで気持ちを途切れさせずに戦っていきますので、応援よろしくお願いいたします!

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松浦悠士

Matuura Yuji

広島県広島市出身。日本競輪学校第98期卒。2010年7月熊本競輪場でレースデビュー。2016年の日本選手権競輪でGⅠ初出場、2019年の全日本選抜競輪では初のGⅠ決勝進出を果たす。2019年の競輪祭でGⅠ初優勝を飾り、同年KEIRINグランプリにも出場。2020年のオールスター競輪では脇本雄太との死闘を制し、優勝。自身2つ目のGⅠタイトルを獲得した。ファンの間ではスイーツ好き男子と知られており、SNSでは美味しいスイーツの数々を紹介している。

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