2025/10/03 (金) 18:00 17
同士や親友たちに刺激をもらい少しずつヤル気が出てきた一発屋組合の重鎮・中川誠一郎。内容の濃い1カ月を五月雨式に振り返り、競輪の魅力もホンの少しだけ紐解きます。【構成=塩次洋太(九州スポーツ)】
ーー9月の仕事は小倉FIナイターのみでした。小倉は準決こそ出番がありませんでしたが後輩選手の頑張りもあってシリーズ2勝を挙げました。
初日は浅見(隼)君が頑張ってくれました。3番手の(菅原)晃も固めてくれて3人で決まったのだからいいレースでした。
ーー浅見選手がそうだったように、最近は初連係の後輩が増えています。中川選手の全盛期を知らない若手選手は存在を認知してくれているのですか?
浅見君は115期だったかな、だからギリ知ってくれていました。オレは名前や、最近九州に引っ越してきたってことは知っていたけど、彼の顔を知らなかったんです。初めて話をしたらすごくいい子でしたね。
ーーレースでは軽快に主導権を握っていました。
事前に「前を取ってもらっていいですか?」って頼まれたんですよ。でも、オレ7番車なんだけどなと思って。ちなみにキミ、白いユニフォームだよね… って(笑)。
ーースタートの早さを見込まれたのですね。
浅見君は得意ではないみたいで、ならば4番車の晃なんだけど「絶対ムリ」って泣いたからオレになりました。でも、晃は晃で何かしなきゃいけないと思ったらしく、あとから「オレも取りに行こうか?」とか言い出したんです。
ーーラインの仕事をどこかで、と思ったのでしょうか。
晃なりに気を遣ってくれたんだと思います。でも言いました。「遅いなら、オレが頑張るけん。邪魔になるから出ていかんで」って。4番車や5番車の冷やかしは7番車にとっては妨げなんですよ(笑)。
ーー頼むから手伝わないでほしいという感じですか。
7番車は斜めにいかないといけないでしょ。晃がノソノソ出てきても、こっちからすれば障害物競走みたいになる。まあ、それでも何とか取れたし3人で決まったからいいでしょう。
ーー最終日は同県の後輩、曽我圭佑選手の番手でしたが、このレースに関しては「最終日、久々に現地で観戦しました。日頃は逃げない曽我選手が鐘から流さずに駆けたのはこれぞ競輪だという感じでした。中川さんは最終バックでヨダレが出たのではないですか?」(福岡県/40代/男性)という質問がありました。
圭佑は結構、逃げている方ですよ。結果が伴っていないだけで、アイツはどっちかと言うと逃げたがり側で先行基本にレースを組み立てたいタイプ。オレのなかでは積極的組合の人だと思います。
ーー以前に、原田研太朗選手たちとの一発屋組合というものがあるという話を聞きましたが積極的組合もあるのですね。ちなみに九州では他に誰がいるのでしょうか。
残念ながら九州には見当たりません。絶対にバックだけは取る、みたいなタイプ。有名どころでいえば野見(泰要)さんとかいるじゃないですか。
ーー普段、選手の顔と名前が一致しないとか言っていますけど、野見選手を知っているのですか。
あの人は超有名ですよ。だってオレの周りのチャレンジを走った先輩たちが口を揃えて「野見様」と言っていましたから。離れないように駆けてくれて、ぜんぶ1人でやって連れてってくれるんですから。チャレンジ界ではスーパースターでしょう。
ーーたしかにそうですね。
先輩たちがあまりにも「野見様」と言うもんだから、話をしたことはないけどオレもなぜか「さん」付けで呼んでいるんです。だけど、調べたら年下でした。
ーー野見選手は補充や追加の電話もすぐに出て引き受けてくれるので、競輪場の番組の人たちもありがたい存在だと言っていました。
野見さんは月に5本ぐらい普通に走るでしょ。今回、改めてプロフィールを見たら7月が5本 、8月が4本プラス補充1本だったんです。なんだ、この斡旋と、驚愕でした。
ーー興味津々ですね。
どれが追加かと調べてみたら、中1日でどうみても移動が不可能な日程の現場と現場をしれっとハシゴしているんです。あれはすごかった。
ーー小倉でのエピソードが他にありましたら教えてください。
荒澤(貴史)さんがいたんです。だから宿舎では北海道部屋に召集がかかって通っていました。また、友だちが一人増えました。
ーーどなたですか。
外崎(一成)君です。荒澤さんが「こいつもドラゴンボールが好きだから合うんじゃないか」とかアテンドしてきて。そういうの、別にいいからって。荒澤さんはいつも雑なんです。
ーー外崎選手もいきなり中川選手を紹介されても困るでしょうね。
ドラゴンボールの話で意気投合して色々話していたんです。そうしたら、思いのほか盛り上がりすぎて、蚊帳の外に置かれた荒澤さんがチョイチョイ口を挟んでくるんですよ。それもいい加減で。
ーー話し相手を取られて1人だけ置いていかれてしまったと。
お互いに紫色が好きって話になって。そうしたら仲間外れで悔しかったのか「紫色が好きなのは頭の変なヤツが多い」とか、いちいち割り込んでくるんです。もう、適当でしかなくて。その勢いは最終日、後泊の夜にも発揮されました。
ーー最終日のあと、飲みに行ったのですか。
同期が6人いたから、荒澤さんが音頭を取って同期会になったんです。メンバーはオレらと晃。あとは川村(晃司)さん、真崎(新太郎)さんと岡本(英之)。
ーーこのコラムでは珍しい名前も出てきました。
最初は荒澤さんが博多にホテルを取っていたから、移動して博多でやるぞって感じだったんです。晃とオレは別にいいけど、真崎さんと岡本は宿舎に後泊だから博多まで行くと翌朝がきつい、となって。だけど荒澤さんはオラオラ系だから「いいから、来いよ!」って強硬なんです。
ーー嫌ですね、それ。
そうしたら真崎さんは「しょうがないか…」と観念したんですけど、岡本は博多でやるなら今回は欠席、と。川村さんは京都に帰るには逆方面だけど、みんなが行くなら博多でいいよ、と折り合ったんです。
ーーそれで博多に行ったのですね。
それが、荒澤さんを除いた5人で冷静に考えたんです。そうしたら、ひとつの意見でみんなが一致しました。つまり“小倉で飲めばみんなで参加できるじゃないか”と。
ーー荒澤選手さえ折り合えばいい、と。
そうです。小倉だと晃も大分まで帰りやすいし、川村さんも新幹線で京都まで近くなる。東の2人は宿舎泊りだし、もう5対1で小倉なんですよ。
ーー荒澤選手の反応は。
それまでオラオラだったのに、そんなド正論が飛び出したうえに「最年長の川村さんを遠回りさせるのはいかがなものか」というトドメの意見が刺さったのか「うっ…。じ、じゃあ、キャンセルしてくるわ」って寂しそうにホテルに電話を入れていました。さっきまでのオラオラは何だったんだって。川村さんという、水戸黄門ばりの印籠が効きました。
ーー荒澤選手、菅原選手とは仲がいいですが、他の3人とは普段、飲みに行ったりするのですか。
川村さんとは私的には1回しかないし、真崎さんと岡本は初めてでした。真崎さんは現場では硬めのキャラを作っているでしょ。いわば、小橋正義さん系(笑)。だけど飲むとまったくそんなことなくて楽しかったです。
ーー小橋正義さん系とはどういうことですか。
昔は気難しい雰囲気を作っていたけど今は陽気なオジサン、みたいな。小橋さんは怖すぎたし宿舎とかでも声なんかかけられなかったですから。真崎さんも追込のファイターですし、昔は雰囲気がありましたよ。
ーー岡本選手は。
岡本も結構、楽しいんですよ。話すとトゲがあるし言い回しも独特でクセが強いけど。最近は年齢を重ねてヒゲの濃さが増してEXITのりんたろー。みたくなってきた。同い年だから刺激になります。
ーー盛り上がったと思いますがどのような話が。
どこの期もそうだと思いますが、誰と誰の確執とかあるんですよ。当時オレはあまりそういうのを知らなかったから、20何年経って初めて知る話とかありました。ウチの期は表に出して微笑ましく笑える話題って本当に少ない。
ーー長い日をあれだけの大人数で張り詰めて過ごしていれば、何かしらのいざこざがあるのは仕方がないですね。
「シャンプー」とか「パンツ」とか隠語がポンポン飛び出す変なエピソードばかりで、あまりいい思い出がなくって(笑)。そんな当時の若者たちも、もう40代後半です。現役が減っているなか、こうして元気に集まれてよかったです。
ーーさて、話題は変わりまして9月は友人の脇本雄太選手の「グランプリスラム達成祝勝会」がありました。共同通信社杯に出られなかったため自腹での参戦でした。
昼の12時から開始だったので当日じゃ間に合わないから前乗りしました。だけど、祝勝会だけのために往復10時間かけていくのも勿体ないと思い観光をしてきました。この写真をみてください。
ーーどちらに行ったのですか。
わかりませんか?「松井秀喜ベースボールミュージアム」ですよ。
ーー松井秀喜さんですか。中川選手はソフトバンクホークス以外、野球には興味がないですよね。
そうなんですけど、ドラクエウォークのために現地に行く必要があったんです。でも、写真の右下をみてください。
ーー「本日休館日」とありますね。
そうです。とんだ骨折り損でした。タクシーの運転手さんも「この観光客ツイていないな」みたいな気まずい顔をしていて。傷心のまま小松へ戻り、福井へ入りました。
ーー本当の目的は友人の晴れ舞台ですから、いいではないですか。
到着して座席に着いたらビックリですよ。なんですか、この席次。濃厚すぎるでしょ。元SSイレブンが2人もいるし。
ーーそういう話題を挟むのは止めてください。
まずはドラクエウォークばりに、チェックポイントの中野(浩一)さんのところへ行って「挨拶」のスタンプを押してきました。
ーー平原康多さんもいますね。
ようやく酒を酌み交わすことができました。平原氏も「やっとですね!」とノッてくれて。遠距離恋愛がようやく成就した、心にしみる一献でした。記念にヒデ(山田英明)に写真を撮ってもらいました。
ーーこのあと仲が深まることはないのですか。
平原氏は“営業”でしょうからたぶん無い(笑)。今、売れっ子だから来年の全日本選抜(熊本)にも来ると思うので寿司屋に同伴してもらおうかな。こっちは誘導だから、夜は毎日ヒマですので。
ーー隣の席は村上義弘さんだったのですね。こちらの組み合わせも滅多にないですね。
村上さんにビールを注いでいただき、心にしみる魂の一献でした。ただ、そのあと、マジメな顔でボソっと「誠一郎… ヨコは、どうにかならんか?」と、ささやかれたんです。
ーーいきなりですか。
アドバイスでもダメ出しでもない微妙な感じで。たぶんオレも村上さんも、ほとんど話したことが無いからお互いに接し方がわからなかったのだと思います。せっかく、先輩が話しかけてきてくれたから「頑張ってはいるんですけど、どうしたらいいですかね?」って魂の相談をしてみたんです。
ーー何かのきっかけになれば、と。
そうしたら「ハハハッ」と笑って何も教えてくれませんでした。見事にトボけられてしまいました。それにしても「ヨコはどうにかならんか?」は刺さりました。まさに魂の一言でしたね。
ーーあまり「魂」を連呼しないでください。ちなみに現地ではコラムの読者からの報告はありましたか。
1人だけいました。司会者の子で、以前に加藤氏(加藤慎平さん)の「ぺーちゃんねる」に出たとき一緒だった萩原菜乃花さんです。
ーー以前にこちらのコラムで、どこかの飲み会で萩原さんにからまれたという話がありました。
そのエピソードを覚えていて、久々に声を掛けられました。今回は司会だったから、もちろんからまれることはありませんでしたけど(笑)。
ーー意外な再会だったのですね。
久々だったから話ができて良かったです。また、どっかでご一緒できればいいですね。今度、慎平さんに会ったら聞いてみよう、うん。
ーー主役の脇本選手とは交流できたのですか。
忙しそうでしたが、写真を撮ってチョコッと話しましたよ。「どうせ、この写真をコラムで使うんでしょ」ってアクセス数狙いがバレバレでした。
ーー見透かされましたか。
だから悔しいので、あえて、この写真を使いましょう。この写真、すごくないですか?いろんな情報が詰まっていて何が何だかわからない、まるでパラレルワールド。
ーー真ん中で背中を向けているのは中野さんですか。
そうです。古性(優作)がいて、左の奥には笑顔の鬼脚(井上茂徳氏)も写っているという。さすがに中野さんと井上さんのツーショットはありませんが、奇しくも(以前にレースで競り合った)福井で2人が間接的に一葉に収まるなんていいじゃないですか(笑)。
ーーいちいち、そういうのは言わなくていいです。他に面白いエピソードはありましたか。
最高だったというか、ぜんぶ持っていったのはワシコー(鷲田幸司)でした。支部長としてスピーチをしたのですが、緊張していたのでしょう。最後の最後に「皆さんのご多幸とご発展を… お祈りします!」って言ったんですよ。
ーー緊張のあまり言葉が飛んだのでしょうか。
もう、会場はドッカーンですよ。「お祈りってなんだよ」とか「え、祈っちゃったよ」とかザワザワしだして、ステージ上のワッキーにも「大丈夫か?」って突っ込まれていました。
ーー盛り上がってよかったです。
あと、そうだ。席次表を見て、ここには絶対に挨拶へ行かなきゃいけないって名前を見つけたのでビール瓶を持って突撃したんです。
ーーどなたでしょうか。
選手会理事長の安田(光義)さんですよ。パーティーで安田さんを見つけるたびに、開催中の食堂での酒類の解禁を求めて直訴しにいくんです。これで3回目です。
ーー安田理事長もまた来たって感じでしょうね。
自分の500勝祝賀会のときもステージ上から安田さんを見つけたので直訴しに行きましたから。今回もオレがニヤニヤと寄ってきた瞬間、いつもの「まあまあ。気持ちはわかるけど…」ってテンプレの回答が浮かんでいたと思います。
ーー理事長も毎回こられたらたまりませんね。
せっかくだからと勢いのまま、横にいらしたJKAの木戸(寛)会長にも頼んできましたよ。今回のパーティーでビールを注ぎに行ったのはそのお二人だけ。狙い撃ちです(笑)。
ーー会長にも直訴したのですか。
もう、村上さんのように「会長… サケは、どうにかならんか?」って。
ーーあとから絶対に怒られますよ。
まあまあ、それは盛りましたけど(笑)。「会長、存じ上げております。際限なく飲みたいとは申しません。せめて風呂上りのビール1本でいいですので、ご検討願えませんか?」って感じですね。だけど「厳しいけど、善処します」みたいにしか答えられないですよね。
ーー理事長は中川選手の扱いに慣れているからいいでしょうが、会長は困りますよ。
「そんなに飲みたいのか。しょうがねぇなあ〜。おう、オレに任せろ!」と、言ってもらえるまで地道に活動を続けたいと思います。
ーー先日、話をしていた脇本選手の新居には行けたのですか。
パーティーのあとに自宅にお邪魔して麻雀をしました。選手何人かに(鈴木)たろうさん、愛内(よしえ)さん、木原(翼)君とかプロの方を交えて。
ーー豪華なメンバーですね。
ただ、自宅には一卓しかないから待っている間はワッキー自慢の私設ジムを見学していました。今回、初めてオギ(荻原尚人)と同卓したのですけどスゴいヤツでした。
ーー荻原選手は麻雀好きの競輪選手の中でも一目置かれるほどの腕前と聞きます。
オギはレースでは完全にオレと対する側、平原氏や桐山(敬太郎)みたく漢字の競輪をする選手だから、今までそんなに話をしたことがなかったんです。
ーー中川選手は常に「ケイリン」側の人間と言っています。
オレはフライングの1周とかで押し切るタイプだけど、あっちは漢字の競輪でカタカナ側を引き込んで蟻地獄に落とす側。そんな接点のないオギと雑談ができて楽しかったですね。話すといいヤツでした。いろいろと楽しい思い出ができた福井遠征でしたし10月もこっそり頑張ります。
【大募集】
中川誠一郎選手が、読者の皆さんのお悩みを解決します!「仕事がうまくいかない」「お酒がやめられない」「オフの日の過ごし方は?」……など皆さんからのお悩み&質問を中川誠一郎選手へお届けします!
中川誠一郎
Seiichiro Nakagawa
中川誠一郎(ナカガワセイイチロウ)。熊本県熊本市出身。日本競輪学校第85期卒業。日本競輪選手会熊本支部所属。師匠は従兄の瀬口慶一郎。 実妹の中川諒子は女子競輪選手、義弟の吉成晃一も競輪選手。2000年8月15日、ホームバンクの熊本競輪場でデビューし1着。後2日間も勝利し、デビュー場所で完全優勝。2016年日本選手権競輪(静岡)、2019年読売新聞社杯全日本選抜競輪(別府)、高松宮記念杯競輪(岸和田)を優勝している。好きな食べ物は寿司。