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佐藤慎太郎“101%のチカラ”

【佐藤慎太郎の現状】今は“夜更けの南3局” 痛みがあるときほど己の信念が問われる

2025/09/23 (火) 16:30 21

 全国300万人の慎太郎ファン、そしてnetkeirin読者のみなさん、佐藤慎太郎です。今回は途中欠場となった共同通信社杯を振り返りながら、ケガの状態や今の心境を書き記していく。

阪神タイガース公式のサイクルウェアで共同通信社杯競輪に乗り込んだ佐藤慎太郎(写真提供:チャリ・ロト)

タイミング的に精神的な落差は大きい

 共同通信社杯競輪のシリーズ初日は納得の走りができた。前回のコラムで「言い訳のできない体に戻すことも叶った」と復調を宣言していたが、この初日のレースは感覚も申し分なく、「よし、戦えるぞ」といった実感を持てるものだった。

 走りながら余裕もあったし、要所ではコース取りの判断も冴えていたように思う。雨で重い走路だったが、突っ込んでいく感覚にも手ごたえがあり、万全に仕上げるまでに本当に“あと一歩”の水準まで来ている気がした。

 そういった好調の流れを掴みかけていただけに二次予選での落車は心底悔しい。走りながら武藤龍生と松谷秀幸の動きも把握できていたし、やや不安定な展開がよぎり危機意識もあった。「内に行けば危なそうだ、外を走るしかない」と判断し、選択に踏み切った。

 この場面の判断としては、今振り返っても間違っていないように思う。ただ結果的にはバンクに投げ出されることになった。

初日レース直後は納得感のある表情を見せていたが…(写真提供:チャリ・ロト)

 落車には大きく分けて「選択を誤らなければ避けられた」と反省できるケースと「最善を尽くしたが避けようがなかった」というケースがある。今回の落車は後者であり、頭の中では「仕方がなかったこと」と受け入れている。

 ただ、調子を戻し、さらに今後上げていける自信があった分だけ、心の中では「仕方がなかった」では片づけられず。精神的な落差も重なって、とてつもなく悔しい気持ちが刻まれた。

無念の当日欠場

 落車した当日は途中欠場など考えもしなかった。だが、時間が経過するにつれて膝が曲げられないほど腫れてしまい、3日目の出場を断念せざるを得ない状況になった。

 基本的にオレはよっぽどではない限り欠場は考えない。競輪場に足を運んでくれるファンは交通費を使って現地に来てくれる。車券を買い、声援を届けてくれ、出待ちしてお土産なんかも渡してくれる人もいるわけ。「帰り道で食べてください」とかの言葉を添えて。その存在のデカさ、かけてくれる時間とお金を知っているからこそ、オレは出走をギリギリまで諦められない。

ファンの存在の大きさを知っているからこそ欠場したくない(撮影:北山宏一) 

 だが、結果として当日欠場になってしまった。オレの走りを楽しみにしてくれた人たちに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。当日欠場はファンや関係者に迷惑をかける。今回は連係するはずの佐藤一伸にも迷惑をかけた。心からすまないと思う。

 症状としては骨は折れてなさそうで、それは不幸中の幸いに感じている。骨盤骨折で弱った部分を再度折っていたらと思うと一大事に発展していたことだろう。そうならなかっただけ救いがあったと考えるようにしている。

 ただ今回の落車負傷は結構珍しい部類で、擦過傷のダメージ範囲が広く、直径10cm程度の傷を両膝に負うものだった。傷も深いため、帰宅した当初は歩くのもままならなかったよ。欠場したときに「全治1週間ってところかな」と自己診断したものの、すぐにトレーニングを再開できない状態で、とことん悔しい気持ちになった。

 身体的な痛みなんざ、どうってことないんだが、目の前にやるべきことがあるのに取り組めない事実には「ちくしょう」という気持ちになるよな。とはいえ、自己診断は正確だった。ドンピシャの1週間で治ってきてるよ。

非情な現実とどう向き合うか

満身創痍で戦う男は逆境にどのように対峙しているのか(撮影:北山宏一)

 それにしても、どんなに自転車に乗りたくとも乗れない時間は非情に感じる。そんな現実に向き合うには現実から目を逸らさず、ポジティブな糧がないかどうかを探り、信念を忘れないことが重要になる。これは麻雀に例えるとしっくり説明できる。

 麻雀は東一局からはじまり、東二局、東三局、東四局と場が進む。続いて南場となり、南一局、南二局、南三局、南四局という具合だ。どの場面においても、「最終的にトップになること」が芯にある。トップになることーー。これが信念だ。

 今年を振り返れば、東一局は好調さも感じられたが、東二局で骨盤骨折の大ダメージを負い、大きく点棒が削られた。親に役満をツモられたみたいな感じだな。それから一生懸命に立て直すも、南二局「共同通信社杯」で跳満をツモられた。不注意はなく、最善を尽くし、放銃はしなかった。でも点棒は削られた。

 今の状況でいえば、南三局で3着目という感じだろうか。この状況での選択肢は「もう無理だとサジを投げるか」、「目的や信念を忘れて『せめて2着には』と目線を下げるか」、「最後まで役満を狙うか」だ。

 今年の南四局、オレはまだ役満を狙いたい。ここで役満を上がり、トップになりたい。親番が残っているならば連荘を重ねてもいい。とにかくトップになることだけを見据えて戦わなくてはならない。

苦境の中では信念だけが道しるべになる(写真提供:チャリ・ロト)

 そして競輪人生という軸で捉えても、ベテランのオレは南三局くらいを歩んでいる気がしている。集まって打ち始めた最初の半荘の東一局であるはずはなく、もう疲れも出て、帰りたくもなる“夜更けの南三局”を打っている。ここで役満なんて上がってみれば、ファンのみなさんの記憶には絶大なインパクトを残せることだろう。目が覚めるに違いない。「慎太郎、こんな夜更けに役満を上がりやがった!」みたいにね(笑)。

 いつか「ここからなら2着になれれば十分だろう」という考え方に切り替わるかもしれない。あるいは、その考えに至るまでに打つのをやめて帰宅してしまうかもしれない。でも今年の残された時間はまだ役満をあきらめず、トップをあきらめずに打っていく。麻雀に明るい人ならわかるだろう。心の準備なくしては決して役満にはたどり着かないことを。

 今年、残されている時間も少ない。この現実の中でも南四局の親番で役満を上がり、トップになることしか考えないでやるのが、きっと正解だろう。さあ、どの牌を切るかーー。全国の慎太郎ファンが見舞いの言葉を届けてくれている。その声を聴いて、自分の気持ちに嘘をつくような麻雀を打ってたまるかよ。

「一意専心」これまで何度となく書き綴った“信念を紡ぐ言葉”だ(撮影:北山宏一)

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佐藤慎太郎“101%のチカラ”

佐藤慎太郎

Shintaro Sato

福島県東白川郡塙町出身。日本競輪学校第78期卒。1996年8月いわき平競輪場でレースデビュー、初勝利を飾る。2003年の全日本選抜競輪で優勝し、2004年開催のすべてのGIレースで決勝に進出している。選手生命に関わる怪我を経験するも、克服し、現在に至るまで長期に渡り、競輪界の第一線で活躍し続けている。2019年、立川競輪場で開催されたKEIRINグランプリ2019で優勝。新田祐大の番手から直線強襲し、右手を空に掲げた。絶対強者でありながら、親しみやすいコメントが多く、ユーモラスな表現で常にファンを楽しませている。SNSでの発信では語尾に「ガハハ!」の決まり文句を使用することが多く、ファンの間で愛されている。麻雀とラーメンをこよなく愛する筋肉界隈のナイスミドルであり、本人の決め台詞「限界?気のせいだよ!」の言葉の意味そのままに自身の志した競輪道を突き進む。

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