2025/09/16 (火) 18:00 23
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが福井競輪場で開催された「共同通信社杯競輪」を振り返ります。
2025年9月15日(月)福井11R 第41回共同通信社杯競輪(GII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①古性優作(100期=大阪・34歳)
②嘉永泰斗(113期=熊本・27歳)
③寺崎浩平(117期=福井・31歳)
④三谷将太(92期=奈良・39歳)
⑤太田海也(121期=岡山・26歳)
⑥小森貴大(111期=福井・35歳)
⑦深谷知広(96期=静岡・35歳)
⑧野田源一(81期=福岡・46歳)
⑨南修二(88期=大阪・44歳)
【初手・並び】
←③①⑨④⑥(近畿)⑤(単騎)⑧(単騎)⑦(単騎)②(単騎)
【結果】
1着 ⑨南修二
2着 ③寺崎浩平
3着 ④三谷将太
9月15日には福井競輪場で、共同通信社杯競輪(GII)の決勝戦が行われています。このシリーズが終わると、今年のビッグは前橋・寛仁親王牌(GI)と小倉・競輪祭(GI)を残すのみ。獲得賞金によるKEIRINグランプリ出場権をめぐる戦いも、佳境に入ってきます。ここまで近畿勢優勢という勢力図できているだけに、他地区の選手はそれをひっくり返すためにも、ここで賞金を上積みしたいですね。
未来のスターを目指す若手の登竜門といった位置付けのシリーズで、それもあって一次予選からシードなしのガチンコ勝負。「自動番組」という独特の方式が用いられることで、通常ではありえないような並びがみられるのも、面白いポイントですね。初日の第8レースでは、あの新山響平選手(107期=青森・31歳)が北日本ラインの3番手を固めて、話題を呼びました。
波乱決着もおのずと多くなり、郡司浩平選手(99期=神奈川・35歳)はなんと一次予選で敗退。犬伏湧也選手(119期=徳島・30歳)も二次予選で敗退と、ビッグネームが次々と姿を消していきます。準決勝では岩本俊介選手(94期=千葉・41歳)や、先日の岐阜記念を優勝したばかりの清水裕友選手(105期=山口・30歳)、新山選手、そして地元のエースである脇本雄太選手(94期=福井・36歳)までもが敗退しています。
脇本選手はかなりデキがよさそうだっただけに惜しいですが、それでも随所で存在感を発揮した近畿勢は、過半数となる5名が決勝戦に勝ち上がりました。その並びがどうなるかと思われましたが、別線は選択せず、一致団結でひとつのラインにまとまって勝負。ラインができたのは近畿勢だけで、そのほかの4名はすべて単騎での勝負を選択するという、かなり極端なメンバー構成となっています。
注目の近畿勢は、地元の次世代を背負う存在となった寺崎浩平選手(117期=福井・31歳)が先頭を任されました。番手を回るのが古性優作選手(100期=大阪・34歳)で、3番手が南修二選手(88期=大阪・44歳)。4番手が三谷将太選手(92期=奈良・39歳)で、最後尾を小森貴大選手(111期=福井・35歳)が固めるという布陣です。言うまでもなく強力なメンバーで、二段駆けも大アリでしょう。
単騎勢での注目は、無傷の3連勝を決めた深谷知広選手(96期=静岡・35歳)でしょう。ラインができなかったのは残念ですが、このデキならば…と思わせてくれるほどの素晴らしい動き。また、スピードならば太田海也選手(121期=岡山・26歳)も負けてはいません。野田源一選手(81期=福岡・46歳)は立ち回りの巧さを活かす競輪で勝負してくるはずで、嘉永泰斗選手(113期=熊本・27歳)も引き続きデキはよさそうです。
単騎勢もタテ脚は十分ですが、近畿勢の分断を積極的に仕掛けてくるようなタイプは見当たりませんよね。しかし、近畿勢にやりたいレースをさせてしまったのでは、単騎勢に勝ち目はない。手持ちのカードが少ないなかで、単騎勢それをどのように使って近畿5車に立ち向かうのか? そこが、この決勝戦で最大の見どころであり、勝敗を分けるポイントにもなることでしょう。
それでは、決勝戦のレース回顧に入りましょうか。レース開始の号砲と同時にいい飛び出しをみせたのは、1番車の古性選手と5番車の太田選手。ここは古性選手がスタートを取って、近畿5車の前受けが決まります。太田選手が6番手で、7番手には野田選手。深谷選手は8番手からで、最後方9番手に嘉永選手というのが、初手の並びです。さて、ここから誰がどのように動くのか。
レースが動いたのは、青板(残り3周)周回のバックから。最後尾の嘉永選手ではなく、8番手にいた深谷選手がポジションを押し上げていきます。嘉永選手もそれに続いて、野田選手も切り替えて嘉永選手の後ろにシフト。深谷選手は3コーナーで寺崎選手の外に並んで、その動きを抑えにいきます。しかし、寺崎選手は引かずに突っ張る姿勢。寺崎選手と深谷選手が絡みつつ、赤板(残り2周)掲示を通過しました。
突っ張る寺崎選手と斬りにいく深谷選手が先頭でぶつかり合いながら、1センターへ。ここで斬りにいった深谷選手が引いて、寺崎選手が突っ張りきりました。深谷選手は自転車を下げて、再び後方へ。ほかの単騎勢が続いて仕掛けてくる気配はなく、嘉永選手や野田選手は降りる場所を探します。これで寺崎選手は、近畿勢の“数の利”を保ちつつ、主導権を奪取することに成功しました。
ここでレースは打鐘を迎えますが、まだペースが上がらないままで、打鐘後の2センターを回ります。そしてホームストレッチで、最後方にいた嘉永選手が動きますが、それに先んじて6番手の太田選手が仕掛けました。これをみた嘉永選手は一気に捲りにはいかず、後方8番手で前の状況をうかがいます。素晴らしいスピードで前を捲りにいった太田選手は、最終1センターで南選手の牽制を乗り越えました。
そしてバックストレッチの入り口で古性選手に並びかけますが、古性選手はヨコの動きでしっかりと太田選手をブロック。これで完全に受け止められた太田選手は、勢いをかなり削がれてしまいます。この古性選手のブロック、まさに“完璧”でしたね。ここで、後方8番手にいた嘉永選手が再び仕掛けて、前を捲りに。ブロックされた太田選手も踏み直して、3番手の外から再び追いすがります。
捲りにいった嘉永選手はいい加速で、三谷選手の外まで一気に進出。三谷選手は進路を外に振って、嘉永選手の捲りを牽制しにいきました。太田選手も古性選手に再び並ぼうとしますが、古性選手はこれを大きく外に張って牽制。しかし、イエローライン付近まで持っていったところで太田選手がバランスを崩し、落車してしまいます。後方にいた野田選手も、これに巻き込まれて落車してしまいました。
嘉永選手、三谷選手、深谷選手は外を回って落車を回避。古性選手が外に動いて空いてしまったスペースを南選手が詰めつつ、最終3コーナーに進入。逃げている寺崎選手には、まだ余裕が感じられます。後続を離して寺崎選手が逃げ、内に近畿勢の4車が続き、イエローラインよりも外に単騎の嘉永選手と深谷選手という隊列で、最終2センターへ。古性選手は、ここで少しずつ下がっていきます。
近畿勢と単騎勢が内外に離れた隊列のままで、最後の直線に向きました。南選手は、寺崎選手の直後まで進出。その後ろからは、直線の入り口で外に出した三谷選手が前を追いすがります。イエローライン付近からは嘉永選手が前を追い、大外からは深谷選手も前を追いますが、一気に前を捉えられるほどの伸びはなし。30m線で、差しにいった南選手が、寺崎選手の外に並びかけます。
そして…最後の直線でいい伸びをみせた南選手が、そのまま先頭でゴールラインを駆け抜けました。選手生活23年目にして、悲願のビッグ初優勝です。僅差となった寺崎選手と三谷選手の2着争いは、微差で寺崎選手が残していましたね。最後に外を伸びた嘉永選手が4着、深谷選手は5着という結果でした。古性選手は6位で入線しましたが、レース後に審議の赤ランプが点灯しました。
審議の結果は、古性選手の「押し上げ」による失格。太田選手が落車した時点で、古性選手は失格を覚悟していたことでしょう。太田選手の捲りをしっかり受け止めた一発目のブロックは文句なしのファインプレーでしたが、二発目の牽制は太田選手と野田選手を落車させて反則をとられている以上、褒めることはできません。古性選手にしては珍しい、焦りを感じるような判断だったといえます。
古性選手もレース後にコメントしていましたが、太田選手の後ろから嘉永選手が捲ってきているのが見えていたからこそ、まとめて止めようと外に張っているんですよね。これで太田選手が落車していなければ「計画通り」だったのでしょうが…残念ながら結果はそうではなかった。ライン番手としての“仕事”を果たそうとする意識が、いささか過剰に働いたといえるでしょう。
ライン戦は近畿勢の勝利で、序盤でそこまで脚を削られなかったのもあって、寺崎選手もかかりのいい逃げで、最後までよく粘っていましたね。地元で優勝を飾れなかったのは残念でしょうが、自分自身としても納得できる結果だったのではないでしょうか。いささか後味の悪さが残る結果とはなりましたが、南選手の優勝自体は素直に賞賛すべきでしょう。この結果は、彼の努力の成果ですからね。
少し前にも触れていますが、かつての南選手は激しいヨコの動きを駆使する、荒っぽいマーク選手という印象でした。しかし、いまの競輪に対応するために、ベテランと呼ばれる年齢になってからタテ脚を磨いて“進化”している。現在では自力で勝負ができるレベルにまで到達しているわけで、そこに至るまでの努力は並大抵なものではなかったはずです。近況の好調さは、それに支えられたものにほかなりません。
残念な結果に終わりましたが、レースを動かそうと積極的に動いていった深谷選手も、気持ちの入った走りをみせてくれました。近畿勢を外からキメてポジションを奪うことも視野に入れていたと思いますが、相手が古性選手や南選手といったヨコに強い選手だと、そう易々とはいきませんからね。しかしそれでも、自分から動かなければ求める結果は出せない。そんな心の声が聞こえてくるような走りでした。
そんな深谷選手とは対照的に、やはり動けなかった嘉永選手。岐阜記念のコラムで触れたばかりなので繰り返しませんが、初手が後方でも先に動いたのは深谷選手で、その後も太田選手が仕掛けたのをみて、判断を保留してしまっている。引き続きデキはよかったのに、それをビッグの決勝戦で生かせないというのは、本当にもったいないですよ。多勢に無勢とはいえ、もっと勝負にいってほしかったですね。
▶︎【長良川鵜飼カップ 回顧】不可欠なのは勝負にいく“勇気”
惜しかったのが太田選手で、古性選手の神業ブロックで止められていなければ、一気に捲りきっていた可能性もあったと思いますよ。しかも、止められてからも必死に食らいついて、再び近畿勢を脅かしていました。初手で6番手の位置を取りにいったのも正解で、函館・オールスター競輪(GI)で何もできずに終わってしまった失敗を糧に、単騎でやれる最高の立ち回りや走りをみせてくれました。
レース後コメントを確認したところ、幸い落車のダメージはそれほど大きくはなかった様子。あの素晴らしいスピードは本当に大きな武器で、この決勝戦のようなレースを続けていけば、遠からずビッグにも手が届くのではないでしょうか。今回の結果でさらに「近畿優勢」に傾いた天秤を戻すためにも、残りのビッグでもいい走りをみせてほしいところ。そうでなければ、KEIRINグランプリが盛り上がりませんからね!
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。