2025/09/15 (月) 12:00 7
現役時代はトップ選手として長く活躍し、現在は評論家として活動する鈴木誠氏の競輪予想コラム。今回は福井競輪場で開催されている「共同通信社杯競輪」の決勝レース展望です。
自動番組編成方式で一次予選と二次予選が行われている【共同通信社杯競輪】は、メンバーによっては、非常に予想が難解なレースともなります。
それは並びが決まるまでの選手も一緒であり、特に追込選手は目標とする選手がいなかった場合は苦戦を強いられていました。それでもSS班のように実力のある選手は、しっかりと準決勝に勝ち上がってきました。
その中でも地元での特別競輪も手伝って、一際、注目を集めていたのが脇本選手です。準決勝では福永選手に前を任せてのレースとなりましたが、突っ張っていった福永選手が中野選手に叩かれてしまいます。
番手から抜け出しを図ろうとする脇本選手でしたが、ホームで単騎で捲ってきた取鳥選手にかぶせられた結果、進路を無くして8着に敗れています。
福永選手としては、脇本選手の前で結果を出したいとの思いも強かったとは思います。ただ、結果としては先行選手としての仕事ができませんでした。
自分も新人だった頃、同じ千葉地区の滝澤さんと一緒のレースに出る度に、幾度となく、「先行させてください」と打診をしたことがあります。
その度に滝澤さんは、「自分が先行するからいい」と前を回らせてはもらえませんでした。そのレースでスタートを取ったとしても、結果的にはラインの後方を回っていることがほとんどでした。
このままではいけないと思い、どのレースでも意識して先行するようになり、いつしか滝澤さんよりもバックの回数が多くなった頃、改めて同じレースに乗った時に、滝澤さんから、「今回のレースは先行してみるか」と言われました。その頃には先行選手として名前も売れるようになっていただけでなく、レースによっては、滝澤さんの番手を回してもらえるようにもなりました。
福永選手も厳しいレース展開だったとは言えども、このチャンスを逃したのは辛いと思います。
また脇本選手に前を任せてもらうようになるためには、近畿の先行選手として誰からも認められる存在にならなければいけません。そのためにも今後は意識して、バックを取りに行くようなレースを見せていくことも必要になると思います。
今日における近畿地区の隆盛は、脇本選手のような強い先行選手は勿論のこと、番手を安心して任せられる選手が揃っていることも大きいと思います。
福永選手も後ろにいる選手を信じて、得意とするスタートを決めた後に、大きなレースをしていけば、おのずと結果は付いてくるはずです。
その近畿地区ですが、今大会の決勝には5人が勝ち上がってきています。メンバーを見た時は別線もあるのかなと思いましたが、結果としては5車での連係を選択しました。
その並びは地元の③寺崎選手を先頭に、①古性選手-⑨南選手-④三谷選手-⑥小森選手となっています。
寺崎選手と小森選手は共に地元福井の選手であり、まずはこの2人で連係して、近畿の3人がどう並ぶかと思っていました。
ただ、小森選手がこの中では唯一のS2班であったことや、番手選手としての格を考えた場合に、近畿ラインとしての最強の並びを選択したとも言えます。
そして②嘉永選手、⑤太田選手、⑦深谷選手、⑧野田選手はそれぞれ単騎となりました。特別競輪どころか、記念競輪の決勝でもなかなか見られないライン構成となりました。
1番車の古性選手はまだ、いい頃には戻り切っていないとは言えども、今大会でも3着以内を外していないレース内容はさすがだと思います。スタートも早いだけに、ここはすんなりと誘導員の後ろに入って、寺崎選手に前を取らせていくでしょう。
近畿の後ろはスタートの上手い太田選手が入って、その後は嘉永選手、深谷選手、野田選手となりそうです。単騎4名の中で誰が寺崎選手を叩きに行くかですが、それは3連勝中の深谷選手だと見ています。
勿論、寺崎選手は突っ張りにかかります。深谷選手は最後方から立て直しを図りますが、間髪入れずに、後ろに野田選手を付けた嘉永選手が仕掛けていくはずです。
ここでも寺崎選手は突っ張っていくだけでなく、番手の古性選手もブロックにかかります。二の矢、三の矢とばかりに太田選手も外から捲りに来ますが、寺崎選手は自分の行けるタイミングで踏み出していったのならば、その追撃すら凌ぎ切れるはずです。
ただ、深谷選手を突っ張り切った後に、寺崎選手が脚を溜めるべく流していくようだと、ナショナルチーム仕込みのスピードを持つ、太田選手のカマシがハマる展開も考えられます。
その時、太田選手のカマシの後ろに嘉永選手が入っているようだと、ゴール前で交わせる可能性も充分にあるはずです。そこに今大会でも位置取りの上手さが目立っている、野田選手が車間を割ってくるようだと、3連単はかなりの高配当も期待できます。
印としては◎①古性選手、◯③寺崎選手、△⑤太田選手、×②嘉永選手に打ちます。大本線は5名で並んだ近畿ラインとなります。
寺崎選手としては地元で開催されている特別競輪だけに、勝ちにこだわったレースをしたいとも思っているはずです。
寺崎選手は【オールスター競輪】において、脇本選手が先行する展開から、初のGI制覇を果たしています。それは先行選手として認められた証でもあります。
今後も寺崎選手が近畿地区を代表する先行選手として、更に評価を高めていくのは間違いありません。その中で勝ちにこだわった走りを意識していくことで、更に成績も上がっていくはずです。
鈴木誠
千葉県市原市出身。日本競輪学校第55期卒。千葉経大付属高校の頃から競輪に没頭し、吉井秀仁氏に師事。現役時代はすべての戦法を完璧にこなし、「本物の自在型選手」と評されるほど多彩なストロングポイントを武器に、引退するまで長きにわたってトップ選手として君臨した。現役時代は通算3058戦665勝、優勝109回(うちGIは競輪祭新人王を含め4回、GP1回)、年間賞金王1回、通算獲得賞金は17億を超える。18年7月に、ケガのため惜しまれつつ引退。引退後は選手経験を生かし、解説者として活躍。スピードチャンネルなどの番組にも出演している。