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佐藤慎太郎“101%のチカラ”

【佐藤慎太郎のGI回顧】いかにも競輪界らしい噂話が誕生していた

2025/08/26 (火) 18:00 18

 全国300万人の慎太郎ファン、そしてnetkeirin読者のみなさん、オールスターを走り終えてきた佐藤慎太郎です。今回は地元地区で行われたGIシリーズを振り返ろうと思う。悔しさ残るシリーズになったが、たくさんの高揚感も味わったな。今月もここに記録していく。

函館GIオールスター競輪にファン投票結果12位で出場した佐藤慎太郎(撮影:北山宏一)

反省をして再出発しなくてはならない

 前回のコラムに書いた通り、体の状態が戻っている。復帰後すぐに通常のトレーニングに戻したことに不安はつきまとっていたが、ようやくケガをする前に戻った感覚がある。オールスターを走っていたときは、言い訳などできないコンディションだったし、潔く「自分の力のなさ」を受け止めなくてはならないと感じた。

 GIは力がなくては戦えない。その事実を改めて感じながらも、「まだいけるかもしれない」という自分への期待も十二分に感じたし、結果に対して反省はするが、ポジティブに再出発していく。GIで優勝争いできるように毎日を生きていく。そのレベルに行けると信じて。

 さて、今年のオールスター競輪は地元の北日本地区での開催。「北日本から優勝者を!」と同地区の選手たちと一丸になって乗り込んだが、最終的に準決勝に残れたのは響平だけ。その響平も決勝には勝ち上がれず。ファイナリストに北日本の選手の名はなかった。

地元ビッグレースの結果に悔しさが残った(撮影:北山宏一)

 北日本から誰も勝ち上がれなかったことや響平が地元の準決勝を一人で戦うことになったこと。地元ファンもたくさん来場して声援を送ってくれた中で、ただただ悔しい。それ以外の感情は持てない。

 そして決勝。グランプリスラマー脇本雄太率いる近畿ラインが盤石だったな。脇本ほどの男が「ラインのために」の走りができることが最大の武器でもあるし、近畿の充実ぶりを物語っていた。簡単なことではないのは明白だが、どうやって牙城を崩していくのかを考えていかなくてはなるまい。

ライバル意識について〜中野慎詞と太田海也を追走して〜

 「悔しい」がシリーズの総括に他ならないが、細かく振り返れば、非常に貴重な経験もあった。シリーズでは日本代表としてパリ五輪を走った中野慎詞と太田海也と連係したわけだ。

オリオン賞レースで中野慎詞と連係(写真提供:チャリ・ロト)

 このふたりはお互いを“ライバル”として認め合っている関係であり、その関係性を糧に高め合っている。素晴らしくハイレベルな関係だ。慎詞とは過去に連係があったが、太田君は初めて。「どんな走りするのか?」と好奇心も高まったよ。

二次予選Aで太田海也と連係(撮影:北山宏一)

 実際に追走してみて思ったのは「似ている」ということ。二人とも同じタイムで走っていたし、トップスピードにも差がない。グググっと加速していく時の“トルク感”もそっくりで。「踏み直しの感覚がやや異なるか?」と思わなくもないが、それでも大きな違いはなく、似ていると表現していいレベルだろう。

 追走しているだけじゃわからない部分もある。本人が感じている「余力」の部分だ。同じトップスピードとトルク感、同じタイム。でも彼らがどれだけ余力を残して走っているのかは、彼ら自身しかわからない。それでも大きな差はないだろうと推測する。

 中野慎詞と太田海也。二人のライバル関係は見ていても伝わってくるものがある。オールスターでは太田君だけが決勝に勝ち上がったわけだから、慎詞も思うところがあるに違いない。ただ、ライバル意識を持ち過ぎる必要はないと思う。それは慎詞に伝えたいことだ。ライバルを意識するよりも自分自身を高めることに意識を集中させることが大切で、「自分と他人を比べる必要はない」とオレは知っている。

佐藤慎太郎は知っている(撮影:北山宏一)

 もっとも20代を生きている選手に“ライバル心をなくせ”だなんて厳しい話だろうし、切磋琢磨できる部分には恩恵がある。しかし、心の深い部分では他人ではなく、自分に意識を向け続けることが「運や流れを引き寄せること」に繋がることをオレは知っている。すべてが繋がって嚙み合っていくんだよ、勝負事ってさ。

 競輪をはじめ麻雀だってそう。勝負事は“巡り合わせ”の要素がとても強い。番組もそう、選手イメージもそう、レース展開だってそう。ありとあらゆる要素が絡み合って勝者が決まっていく。

 これはオレ自身にも言えることで、結果は出せなかったが、地元地区のGIで中野慎詞や太田海也という選手の後ろを走れたこと。これだってオレ自身がやってきたことが結集している巡り合わせであり、極上の刺激をもらうことができた。これも自分が引き寄せた“ラッキー”のひとつ。

 一瞬だけ「現役の佐藤慎太郎」ではなく、「イチ競輪ファンの慎太郎」で書くが、若手トップのライバル構図というのは本当にワクワクする。『東のシンジ、西のカイヤ』みたいなライバル同士でGI優勝争いする日が来たら、大いに盛り上がるはず。イチ競輪ファンとして楽しみにしている。

今後も競輪界を沸かせる東と西の若手筆頭(撮影:北山宏一)

 また、今開催では山崎歩夢や中石湊といった若手選手とも話をする機会があった。歩夢も湊も本当にしっかりしている。競輪界の上位選手たちのやり方やルールを落ち着いて見極めているというか、「自分はどうすればいいのか?」と探りながら生活しているような感じがしたな。

「GIの舞台でずっと戦っていくんだ」という強い意志に触れた気がしたな。試行錯誤を続けて、その強さを発揮していくことだろう。北日本の未来に明るい兆しを見たと言ってよいだろう。

山崎歩夢(左)と中石湊の存在感も増していく(写真提供:チャリ・ロト)

名誉ある“ウワサ話”

 話は変わるが、競輪界にはおもしろい風潮がある。小さい噂が大きい噂になる。これについては選手や関係者は強く強くうなずいてくれることだろう。今回のGIでオレの耳に入ってきた噂が傑作で、『佐藤慎太郎、骨盤骨折はフェイクだったのでは』というもの(笑)。「1月下旬に骨盤骨折して、そんなに戻るわけないだろ」という疑惑が表に出てきた形だね。

 自分でもコンディションの戻りは予想よりも早いと思っているし、今開催で同部屋だった伏見さんにも「お前は普通じゃない」とお褒めの言葉を頂戴した。体へのダメージに敏感になる年齢だから、回復には人一倍安堵しているところだった。そんな中でオレに届いた噂、『慎太郎、折れてなかった説』には大いに喜んだし、面白かった。

 オレの“頑丈ぶり”を讃えてもらっているようで誇らしい限り。それに、いかにも競輪界らしさに溢れている内容だ。生粋の負けず嫌いたちが集まっている世界なんだと実感するよ。“名誉ある噂話”だが残念、骨盤骨折は写真付きで証明できる紛れもない事実なんだ(笑)。

4月復帰戦直前の骨盤骨折の状態(写真:著者提供)

残りのビッグ戦線について

 さて、今年もあと4か月余り。まだまだ特別戦線は続いていく。復帰後には「ケガをきっかけにして、このまま弱っていくのかな」と感じるレースもあったが、こうして言い訳のできない体に戻すことも叶った。目的を持ってトレーニングをすれば、50歳を間近にしても復調できることを証明できた気がしている。

 競輪はレースを含めて、すべてが楽しい。オールスターではプロインタビュアーへと転身を遂げた平原とも話したし、いよいよ時間の流れを感じざるを得ない。けれど、明日の自分よりも今日の自分の方が一日だけ若い。やるべきことを先送りせずにやっていこう。一日を終えて寝るときには、やり残したことがないように。そんな毎日を送り、終盤のビッグ戦線では自分が納得できる結果を出したい。

納得に走りに向けて再出発(撮影:北山宏一)

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佐藤慎太郎

Shintaro Sato

福島県東白川郡塙町出身。日本競輪学校第78期卒。1996年8月いわき平競輪場でレースデビュー、初勝利を飾る。2003年の全日本選抜競輪で優勝し、2004年開催のすべてのGIレースで決勝に進出している。選手生命に関わる怪我を経験するも、克服し、現在に至るまで長期に渡り、競輪界の第一線で活躍し続けている。2019年、立川競輪場で開催されたKEIRINグランプリ2019で優勝。新田祐大の番手から直線強襲し、右手を空に掲げた。絶対強者でありながら、親しみやすいコメントが多く、ユーモラスな表現で常にファンを楽しませている。SNSでの発信では語尾に「ガハハ!」の決まり文句を使用することが多く、ファンの間で愛されている。麻雀とラーメンをこよなく愛する筋肉界隈のナイスミドルであり、本人の決め台詞「限界?気のせいだよ!」の言葉の意味そのままに自身の志した競輪道を突き進む。

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