アプリ限定 2025/04/29 (火) 12:00 3
“最高峰のGI”と称される日本選手権競輪(以下ダービー)。今年で第79回を数えるダービーではこれまで多くの名勝負が生まれ、競輪ファンの心に感動のシーンが刻まれていることだろう。今回は「忘れられぬダービーの記憶」と題して、7名の競輪記者によるダービー決勝回顧をお届けする。(構成:netkeirin編集部)
「GIを獲るには『運』も必要」とある選手が言っていた。猛者達が集まりハイレベルなトーナメントを勝ち抜くのだから、実力一本では確かに難しい。決勝に上がったからと言っても場合によっては2段駆けの前回りを任されることもあれば、ラインの4番手を固めるケースもある。シンプルな計算なら優勝の確率は9分の1だけど、実際には違う。山口が獲ったこのダービーは『実力』と『運』の両方が噛み合ったモノだと言える。
①脇本雄太ー⑨古性優作
⑤新山響平ー②佐藤慎太郎ー⑥和田圭
⑦犬伏湧也ー③清水裕友ー⑧香川雄介
④山口拳矢
この決勝戦のライン構成は上記の通り3分戦プラス1。山口は単騎だった。ライン戦が基本の競輪において単騎は不利と言われることが多い。しかし、この決勝は単騎が不利とならない構成だった。山口はその特性を生かし切って見事優勝を掴んだのだ。
四国の間に清水を挟んだことによって犬伏の先行確率は大きく上がった。セオリーならこのラインの後ろを取ることが一番勝負権のある位置だろう。実際に山口は赤板から咄嗟の判断でこの後ろに切り替えた。この判断が素晴らしいし、この嗅覚こそが最大の持ち味なのは間違いない。
しかし、これも単騎だからこそ取れた位置。仮にラインを組んでいたら別線もそう簡単にはこの位置を譲らない。脚を消耗せずに理想的な位置を取れるのは単騎だからこそと言える。山口はそこからジッと脚を溜めて動かなかったのも勝因のひとつ。ラインを組むとどうしても「後ろの選手にも」という気持ちが芽生える。レース後のコメントで「付いてもらっていたので無理矢理仕掛けました」という言葉をよく聞く。
ラインの先頭を任されたからには自分だけという訳にはいかない。でも、単騎は自分が勝てばいい。逆算して“獲れる”位置から踏めたのも単騎だったからこそ。もちろん、全てに当てはまる訳ではない。基本はラインの戦いとなるし、単騎で全部勝てる訳ではない。ただ、抜群のレースセンスを持つ山口にとって、この決勝では単騎が一番あっていた。この決勝戦を単騎で走ることができたのも運のひとつと言える。
凄いのは運だけじゃない。落ち着きとレースの巧さ。そして集中力。ちなみに山口はこのダービーがGI初優出。それも最高峰のGI格であるダービーで最高の組み立てをして勝った。勝負度胸が凄い。
地元GIIをデビュー最速で優勝し、記録を作った時もそうだったが、とにかく無駄な動きがない。センス、脚力、運の全てを力に変えることができるのが山口の魅力。これは練習じゃ身につけられない才能である。持っている男だと証明した2023年の日本選手権は競輪ファンに衝撃を与えた大会だった。
(協力:公益財団法人JKA 提供:平塚競輪場)
netkeirin取材スタッフ
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