アプリ限定 2024/07/16 (火) 12:00 26
ボート競技から転向し、瞬く間に才能を開花させた太田海也。パリ五輪前としては最後の国際試合となったネイションズカップ第2戦で男子スプリント、男子ケイリンで金メダルを獲得しており、第2走の役目を担う男子チームスプリントでは銀メダルを獲得。メダル獲得への期待が高まる日本のエースの出発前の心境は。静岡・伊豆ベロドロームでインタビューを実施した。(構成:netkeirin編集部、取材日:2024年6月26日)
ーー本番まであと少しですね。今の心境を教えてください。
どれだけやっても不安は100%取り除けないと思っているんですけど、自分にできることをひとつひとつやって、あと少しの短い期間ですけど、やれることをやって当日を迎えたいと思います。
ーーここまでの調整はいかがでしょうか?
レースに向けてのハードなトレーニング期間は終わり、今は技術面や心を整えていく段階に入っています。とても良い状況の中で向かっています。
ーーチームスプリントでは同じ岡山出身の長迫吉拓選手と走りますが、長迫選手はどのような存在ですか?
チームに入った時からお兄ちゃんのような感じで、競技的な自転車の乗り方について本当に参考にさせてもらってここまでやってきました。アスリートとして尊敬できる存在だなという風に日々感じています。
ーー同じくチームメイトの小原佑太選手はどのような存在ですか?
アスリートとして尊敬できる存在というのは長迫吉拓選手と変わらないんですけど、小原さんは個人種目にも出場するので、チームメイトであるのは変わりませんが、自分の中では手強いライバルという意識も向けています。小原さんのタイムも指標にしていますし、長迫吉拓選手と小原さんを比べると、そういう目線に違いはあるかなと思いますね。
ーー太田選手から見たチームはどのように映っていますか?
本当に3人は性格も全く別々の3人が集まっていて。でも全く別々だからこそ、チームスプリントの役割っていうのが果たせているんじゃないかなと思います。ボートをしている時に「自分がもうひとりいればもっといいスピードが出るんじゃないか?」と思ったりしたことがあるんですけど、このチームスプリントのメンバーは自分が3人いても成し遂げられない結果が出せるような、オリンピックの舞台でも力を発揮できるのではないかと感じています。
ーー太田選手は第2走をつとめますが、どういう思いで走りますか?
自分の力を100%発揮するというのは変わらないんですけど、やはり地元岡山の長迫吉拓さんのスピードを小原佑太さんにより速いスピードで届けて、より速いチームでゴールしたいと思います。
ーー東京五輪の開催時は養成所で過ごしていたと思います。どのように見ていましたか?
オリンピックの映像は養成所のみんなでテレビを囲んで見ていて、「オレンジのオランダチームはすごい強いな」っていう印象がありました。その人たちの速さを同じレースに出て体感してみたいと思いました。「どんだけ速いんだろう?」とか「自分には絶対に敵わない相手なのかな?」ということをぼんやり考えつつ、友達と話をしながら観ていた記憶があります。
ーーその3年後、日本代表として戦うイメージはしていましたか?
周りには「オレ、パリオリンピック出るから! 頑張ってくるわ!」と強がりで言っていた部分はありますね(笑)。実際のところはリアルな想像はしてなかったですけど。
ーー改めてその舞台に立つ心境はどのようなものでしょうか?
オリンピックというのはすごいデカい大会で、どう頑張っても緊張すると思いますし、どう頑張っても硬くなってしまうと思います。でも逆にいつも通りの力で、いつも通りのパフォーマンスを発揮したいと思っています。肩の力を抜いてチームのチカラで優勝を目指して頑張ろうと思っています。
ーーケイリン種目では同期の中野慎詞選手と戦うことになります。中野選手はどのような存在で、どのような思いを向けていますか?
養成所は同期ですが、中野慎詞選手はもともと日本代表に所属していました。自分の中では脇本雄太選手や新田祐大選手に向ける目線と同じように見ていました。その選手とこうして一緒に練習をできるようになって、強みも弱みもすべてわかるような感じになってきています。
本当にいい栄養をもらっているというか、日々彼を見て自分を直して、彼を見て成長してきたのかなって思っています。自分の中では本当にいいライバルだと思っていますし、絶対に負けたくないとも強く思っています。
ーー東京五輪で悔しい思いをした先輩選手からアドバイスなどはありましたか?
脇本さんや新田さんとお話しする機会があり、『自分のことに集中することが何よりも大切だ』と言ってもらえることがありました。多くのことを聞いているわけではないんですが、その言葉を信じて、自分のパフォーマンスを上げられるように一生懸命やっていきたいなと思っています。
ーー代表発表会見の時に『先輩たちのバトンを受け継ぎ繋いでいく』と話していました。改めてこの気持ちについて教えてください。
そうですね。オリンピックという舞台は脇本さんや新田さん、深谷さんとか、その前の先輩たちが何年も何年も「世界で戦えるぞ」と証明し続けてきてくれたからこそ、僕たちは「次は絶対に世界で勝ちに行く」っていうレベルをスタート地点にすることができたと思います。新田さんや脇本さんが戦っている姿を残してくれたからこそ、今、チーム全体で勝ちに行く姿を見せられていると思うので、本当に前大会が繋がっていると感じています。今大会を見て「前大会が成功だった」と言わせられるように頑張っていきたいです。
ーー目指しているハロンタイムについて教えてください。
自分自身が目指しているのは9秒5を切る事です。今まで切ることはできていませんが、このタイムを切る事が前提というか、まずそこが最低ラインだと考えています。自分の実力がうまく発揮できれば9秒3や9秒2は出せると思っているので、持っている力をうまく発揮させて、それではじめて表彰台も見えてくるのかなと思っていますね。
ーー5月末のジャパントラックカップでは東レの新車を乗っていなかったと思いますが、その後、練習ではどのような手ごたえを感じていますか?
東レの自転車はジャパントラックカップでは自分にフィットせず使えなかったんですが、その後試行錯誤しながらちょっとずつサイズも変えていきながら乗っていく中で、昨日の練習でも明らかに過去より速いタイムは出ています。実際レースで走ってみないとわからないとこもありますけど、すごくバイクにも期待をしています。
ーー自転車競技をはじめてから「これは自分に合っている」のような感覚を持ったことはありましたか?
こんなことを言うと怒られちゃうかもしれませんが、実は小さい頃から自転車に乗れば世界で一番速いんじゃないか? と思っていました(笑)。これはボートをやっている時も、その前にサッカーをやっていたんですが、その時も思っていました。ボートで負けても「自転車ならこの選手に負けないだろうな」とか思っていたんですよ。
実際、自転車をはじめて、同期の中野慎詞選手を見たり、新田さんや脇本さんを見たりして、最初は「自分は才能ないんじゃないか」と思ったりもしたんですけど、幼い頃から何年も自転車に対して根拠のない自信を持って生きてきたんで「自分は自転車の天才だ!」と思ってやってます。
ーーそうなんですか。“根拠のない自信”って何かきっかけがあるのですか?
小学校のときみんなで自転車でかけっこしても僕が全然一番速かったんです。自転車を乗っていると楽しいし速いし誰よりも自転車が好きだったのが理由です。地域の団地のまわりを勝手にコースにしてみんなで競走していましたが、敵はいませんでした(笑)。
ーーマウンテンバイクなどに乗っていたのですか?
いいえ、子どもが乗るベル付きの自転車とかですね。
ーーその幼少時代が原点のような意識がありますか?
そうですね、あります。その時から「これ以上タイヤの角度が傾いたら自転車が滑るな」とか自転車の上での体の動かし方みたいなものを感じていて。幼い頃、土の上で自転車に乗っていた感覚が今の競技にも常に活きているような感じはしてますね。
ーーパリ五輪の注目選手、ハリーラブレイセン選手にはどのような印象を持っていますか?
彼はほとんど欠点がない選手です。パワーでも技術でも世界トップクラスなので、どこに自分が付け込んでいけるのかを日々探しています。
ーーパリ五輪のその先の将来について考えることはありますか?
パリ五輪の後のロサンゼルス五輪を考えることはもちろんあるんですが、正直パリを目指してしかやってこなかったので、終わってからじゃないとわからないです。でも自分の人生をかけて自転車を極めて、自転車仙人になれるように頑張っていきたいと思っているので、ずっと乗り続けて楽しんで行きたいなと思います。
ーーどんな走りを見せたいですか?
自分自身のチカラを余すことなく発揮するような力強い走りを見てもらいたいです!
netkeirin特派員
netkeirin Tokuhain
netkeirin特派員による本格的読み物コーナー。競輪に関わる人や出来事を取材し、競輪の世界にまつわるドラマをお届けします