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ほろ酔い放談 -競輪の因数分解-

【競輪偏差値70の男】「いつも応援してくださる皆様へご報告」♯26

2023/07/07 (金) 18:00 79

浮き沈みの激しい競輪界を生き抜くため、必死にしがみつく元一流選手・中川誠一郎。オワコン化のなかでも今月はある一筋の光明が差した。S級上位へ舞い戻る、ここから始まる物語は波乱の連続。私利私欲にまみれた1か月を振り返ります。【構成=塩次洋太(九州スポーツ)】

ーー先月のコラムの姪っ子さんへの対応に関して、読者から「誠一郎、人でなし」や「姪っ子ちゃんが可哀想」などの反響がありました。

 ほうほう、それはありがとうございます。あれから何回か家で預かったから、さすがにもう慣れました。苦笑いは無くなって、今では会うとお辞儀をしてきます。

ーーお辞儀ですか。

「こんにちは! 母がいない間、お世話になってます」みたいにペコって頭を下げるんです。バイバイとかしたら1歳児が90度に近いお辞儀ですよ。そんなに威圧感があるのかな。

ーー他の方にはどんな感じなのですか。

 ウチの母親や子どもにはキャッキャと甘えているのに、オレに対する行動だけ異常なんです。家主のことをやっとわかってきたな、と思いました。まず泣く、次は苦笑い、そして今は90度のお辞儀って変貌がもはやどこへ向かっているかわからないのでもう少し見守ろうと思います。

ーー6月は向日町GIII、小倉FIの2本を走りました。

 両方ともGI(高松宮記念杯競輪)の裏開催でした。言ってみればファーム戦みたいなものです。

ーーファーム戦とは。

 野球でいうとGIが一軍じゃないですか。だからファームで調整中って立場。今はそこでヒットを打って喜んでいる自分と、周りから「強いね」って言われるとイラっとする自分がいるんです。

ーーオレはこんなもんじゃない、ってことですか。

 そうです。ただ、いかんせん結果に付いてこない。それでも最近はファームでようやくヒットが出だしてきました。

ーー向日町は裏開催といえども、決勝3着までに入れば競輪祭の出場権利を得られました。気持ちが入っていたのではないですか。

 もちろん、今年はGIの権利がありませんから鬼の居ぬ間に… のつもりで狙っていましたが、第3打席で痛恨のゲッツーを食らい決勝にすら上がれませんでした。

ーー第3打席とは準決勝のことですか。

 そうです。アベマサ(阿部将大)の後ろで粘られるみたいな形になり、あおりがきつくて付いて行けず、あっけなくゲッツーでした。

ーー逃した魚は大きかった。

 せっかくファームでヒットが出だして、そろそろまた一軍に呼んでもらえると思ったのにぜんぶパーですよ。

ーー一軍に呼ばれなかったのは残念ですが、その代わりに8月西武園「GIオールスター競輪」はファン投票でお呼びがかかりました。

 ついに来ました! まさに皆さんのおかげです。競走得点だけじゃ300位ぐらいで落選でしたから。ファン投票は上位50人中30位とかに入ったのかな。

ーー投票を呼び掛けたのはこのコラムだけでしたか。

 (松岡)貴久のTwitterぐらい。これはあまり意味が無かったかも(笑)。けど貴久は自分が出られないのに他人の宣伝をしてくれた。

ーー久しぶりの大舞台になりますね。

 ここでオレが呼ばれたことには、2つの大事な意味合いがあるんです。

ーーどういうことですか。

 つまり首脳陣へのアピールの場になるか、引退試合になるかってことです。

ーー勢いに乗ればそのまま一軍に定着できるけど、一発で飛ぼうものなら浮上は無いと。

 去年、調子を崩す前までは165キロを投げる剛速球キャラで売っていたじゃないですか。今は150キロぐらいまで落ちたし、今さらシンカーやカーブを覚えられない。だから炎上しないように頑張らないと。

ーー奇しくも舞台は昨年と同じ西武園です。昨年は前検前日に体調不良で欠場しました。

 忘れ物を取りに行かないと(笑)。だいぶ置いてきましたよ、忘れ物。あそこから競輪人生が激変しましたから。

ーー昨年の今ごろは佐世保記念でバンクレコードを叩きだし、決勝は山田庸平選手の前で発進するなどS級上位に君臨して暴れ放題でした。

 そのあとに体調不良と骨折ですよ。まさかS級の一般戦で飛ぶとか、これまでにない地獄のような日々を味わいました。

ーー忘れ物は大きいです。

 引退試合になるか、また一軍に復帰できるか。こっそりとアピールしに行ってきます。

ーー小倉FIは大きな収穫があったそうですね。

 どうやらS級1班の点数が取れたっぽくて。成績が成績だからあきらめていたら向日町で103点台まで乗せたんです。

ーーボーダーの正式な数字は定かではありませんが103.3〜4点あたりと目されていました。

 103.2点で小倉に入ったので、もしかしたら取れるかもしれないとなったんです。そうしたら初日特選からしくじったけど。

ーーならば準決の1着が大きかったですか。

 そうです。決勝に乗れて何とか103.5点台まで乗せました。もう、これは(瀬戸)栄作のおかげ。

ーー瀬戸選手とは5月の高松準決で連係しており、中川選手は7着でした。

 それを栄作が「申し訳ない」ってずっと思ってくれていたらしい… と記者経由で聞きました。こんなオワコン男を助けてくれてうれしかったです。

ーーこれまではなかなか連係する機会がなかった。

 熊本ならともかく栄作ら他県の後輩とはあまり接点がなかったですから。ただ、九州の後輩は地区プロで会うからだいたい顔と名前はわかりますよ。

ーーあまり選手の名前を覚えられないタイプと思っていただけに意外です。

 他地区だとさすがにわかりませんよ。本当に覚えないと言うか、基本的に選手に興味がないから。向日町でも合志(正臣)さんに「お前、競輪選手のなかで一番、競輪選手のことを知らんぞ」と言われました。

ーーそこまで競輪にのめり込んでいないからでしょうか。

 でしょうね。合志さんも「それ、幸せなことだよ」って呆れ気味でした。そこで、その日の出走表を持ち出してきて選手の名前がどれぐらいわかるかを試そうってなったんです。

ーー結果が気になります。

 合志さんはほとんどの選手を知っていましたが、オレは6割ぐらいしかわからなかったです。

ーーGIの裏開催だったですし、若手が多かったので仕方がないかもしれません。

 だから検車場や会見場とかにいると、選手より新聞記者の方が顔と名前が一致するんです。デイリースポーツの森田さんとかいて。

ーーその方はなかなか目立ちます。

 選手って、競輪場で記者の人と頻繁に顔を合わせているけど、名前や会社名までは知らないんですよ。

ーー普通はそうでしょうね。

 でもオレはかなり記者マニアでして。後輩が「〇〇競輪にいた記者が変な質問ばかりしてきてムカついた!」みたいに言っていると、顔や特徴を聞きだして捜査員ばりに判別することができます。

ーー競輪場のエリアなどの情報で特定するのですね。

 そうです。例えば“〇〇競輪場にいた中年太りでメガネをかけた生首みたいな記者”って通報があったら「それは△△新聞の××記者だろう」みたく。本業にはまったく役に立たない特技です。

脇本雄太を迎え松川高大、瓜生崇智、伊藤颯馬らと競輪界の未来を語り合った

ーー6月はほとんど仕事をしていませんでした。何をしていたのですか。

 いつもながら、ほどほどに練習をして飲み歩いていました。久留米記念のあと、ワッキー(脇本雄太)が熊本に来たからメシに行きましたよ。

ーー脇本選手、久留米を走っていました。

 今さら何を話すとかでもなく、麻雀の話をダラダラして酒を飲んでいました。今度、麻雀プロの方々とプチ大会をするみたいで、また呼ばれました。

ーー麻雀の超初心者にとっては苦行ですね。

 そうですよ。今さら頑張ったって、プロと対等に戦えるわけないじゃないですか。

ーー脇本選手も中川選手がいれば楽しいからいいのでは。

 そういえばワッキーが不思議がっていたことがあって。「何でタッキー(滝沢和典プロ)さんたちから先生って呼ばれているの?」って。

ーーたしかに由来はわからないですね。

 初対面のときから呼ばれていたからわからないんです。今度、聞いてみます。

 あ、この場を借りて読者の皆様にご報告があります。

ーーえっ! まさか引退ですか。かなり唐突ですね。

 いやいや、まだ辞めませんって、なんで辞めさせようとするんですか。このたび、通算500勝達成を記念した祝賀会をすることになりました。

ーー4月に達成した通算500勝ですね。日取りは決まっているのでしょうか。

 まだハッキリしていないのですが、秋ぐらいですかね。業界に迷惑がかからないよう、特別競輪とかと被らないような日程で。

ーー1月に行った荒井(崇博)選手のパターンですね。

 ワッキーにも暇なら来てって言っておきました。そこで、もしファンの方で来たい人がいたらこちらで募集しようと思っています。

ーーグッズや記念品もつくらないといけませんね。

 記念品は何がいいですかね? それもここでアイディアを募りますか。採用した人には何かグッズを見繕って差し上げます。サインでも何でも書いてお渡ししますよ。

ーー祝賀会となると余興とかはあるのですか。

 荒井さんのときは武雄と佐世保の若手たちが裸踊りをしていたけど、どうなるのかなぁ。何なら弟子(吉田悟)にでも歌わせますか。1人でオンステージとか。

ーーさすがに裸踊りは怒られるでしょう。

 荒井さんのときは裸と言っても、別に全裸じゃないし全然セーフでしたよ。青柳(靖起)だけ半分、ハミだしそうになっていて危なかったけど(笑)。

ーー青柳選手、強烈ですね。

 裸で暴れるのが得意なあの貴久が、青柳のポテンシャルの高さに「オレはもう引退です」って肩を落としていましたから。それでも、昔の余興に比べたら何てことない。

松岡貴久(左)は突如、裸芸引退を宣言。山田庸平(中)、中本匠栄(右)

ーー昔の競輪選手の余興は相当すごかったそうですね。話せる範囲で何か思い出はありますか?

 コンプライアンスやモラルとか様々な観点からして、たぶん9割方は話せないものばかり(笑)。競輪選手は代謝がいいせいか基本的に暑がりで、それに肉体自慢が多いからとりあえず脱ぐことがベースにありますので。

ーーレベルの高い話ですが、とうてい表には出せませんね。

 脱ぐと言えば、オレがまだデビューして間もないころ「トレイン・トレイン」という余興というか団体芸がありました。

ーーあの名曲が関係しているのですか。

 そうです。たしか西九州の宴会芸だったと聞きましたが、発祥はよくわからないです。

ーーどのようなものなのでしょう。

 要は曲に合わせて裸で踊るんですよ。ただ、これはルーティンと言いますか、踊るまでには大事なフリや順番があるんです。

ーーフォーマットが決まっているのですね。

 スナックか何かで初めはみんなで普通に飲んでいるんです。んで、場が盛り上がってきたころを見計らって、誰かがカラオケであの「トレイン・トレイン」を入れるんです。

ーーそれって、飲み屋ではよくある光景ではないですか。

 曲を入れた人が「栄光に向かって〜♪」とかマジメに歌っていると、どういうわけか歌やイントロの途中に、周りが1人また1人と中座してスナックの奥や店外に消えるんです。

ーー何か嫌な予感がしてきました。

 それも、トイレに行くような感じでしれっといなくなる。そして、いざサビの部分になると、中座した面々が全裸で股間にビール瓶を挟み、隊列をなして登場するんです。

ーーやっぱり裸ですか。

 サビに合わせて汽車ポッポみたく線路を漕ぎながら出てくるんです。みんな鍛えているし、肉体美を見せながら。しかも小慣れたもんだから、隊列も整っていてラインダンスばりに結構、美しいんですよ(笑)。

ーー普通の店じゃできないですね。

 もちろん、貸し切りのスナックとか知り合いの店とか完全オフの場所ですね。昔は裸になるのが体育会の芸のひとつでしたから。暗黙で理不尽な変なやつ。

ーー今の時代では各所から怒られそうです。

 間違いないです。この手のものが許容されるのはオレらの世代まででしょう。昭和・平成の古き悪しき時代のアウトな文化。後輩たちはやらないだろうし、やらない方がいい(笑)。

ーー中川選手が最後に「トレイン・トレイン」を見たのはいつぐらいですか。

 もう記憶にないなあ… 20年ぐらい前でしょうか。20代の荒井さんがいたのはうっすら覚えています。継承者もいないし、コンプライアンス的に披露できる場もないし、今となっては途絶えた伝説の宴会芸、古典芸能みたいなものです。

御大・大塚健一郎(左)も中川を祝福

ーー怖い物みたさで少し見たい気もします。

 いや違う。そうだ! オレが別府のGI(2019年・全日本選抜競輪)を優勝したときに一回だけ復活したんだ。

ーーそんなタイミングで。

 10数年ぶりですよ。あのときは九州勢がみんな別府に後泊して祝勝会をしてくれました。メシを食ったあとに飲み屋で盛り上がっていたら、誰かが「トレイン・トレイン」を選曲したんです。

ーーザワザワとしませんでしたか。

 モニター画面の「次の曲」に「トレイン・トレイン」って表示されると、それまで速射砲のようにしゃべりまくっていた荒井さんが気づいて、ソワソワしながら席を立った(笑)。あれは笑いました。

ーーしゃべりを切り上げてでも準備しなきゃって感じですか。

 もうパブロフの犬ですよ。条件反射(笑)。長年やっていなくても、体は覚えているんでしょうね。昔取った杵柄で、ここだってタイミングをわかっているんです。

ーー継承者がいたではないですか。

 そのあと、西九州の血が騒いだのか(井上)昌己も中座して、気づいたらオレも汽車ポッポをしていました。かなり盛り上がりましたね。だけど大塚(健一郎)さんは「トレイン・トレイン」の隊列に参加していなかったのに、なぜか全裸だった(笑)。

ーー謎の全裸!

 荒井さんから青柳へと西九州の裸芸が継承されていくのは、伝統を現代に伝える意味ではとても素晴らしいことですが、途絶えていいこともある(笑)。そこまで過激な余興はないでしょうけど、500勝の祝賀会がどうなるか楽しみです。

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中川誠一郎

Seiichiro Nakagawa

中川誠一郎(ナカガワセイイチロウ)。熊本県熊本市出身。日本競輪学校第85期卒業。日本競輪選手会熊本支部所属。師匠は従兄の瀬口慶一郎。 実妹の中川諒子は女子競輪選手、義弟の吉成晃一も競輪選手。2000年8月15日、ホームバンクの熊本競輪場でデビューし1着。後2日間も勝利し、デビュー場所で完全優勝。2016年日本選手権競輪(静岡)、2019年読売新聞社杯全日本選抜競輪(別府)、高松宮記念杯競輪(岸和田)を優勝している。好きな食べ物は寿司。

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