アプリ限定 2022/10/24 (月) 12:00 32
前橋競輪場で「第31回寬仁親王牌・世界選手権記念トーナメント(GI)」が開催された。23日、最終日の決勝12R。グランドスラムに王手をかけていた新田祐大(35歳・福島=90期)が内を踏み抜いて1着ゴール。審議にはなったが、古性優作(31歳・大阪=100期)が外帯線を外しており、セーフ。
1988年井上茂徳氏(引退=41期)、1990年滝澤正光競輪選手養成所所長(引退=43期)、そして1999年の神山雄一郎(54歳・栃木=61期)に次ぐ、4人目のグランドスラム達成者となった。
井上氏、滝沢所長はタイトルが5つの時期で、神山と新田は6つのタイトルを手にしてのグランドスラムだ。そのすごさ、重み…。今もって信じられないレベルだ。私は井上氏、滝沢所長、神山の達成の時は見ていない。競輪を覚えた時には神山がグランドスラムを達成したばかりで、「第3代グランドスラマー」といった表現をよく見た。
2006年に取材に出るようになり、GIの現場も見るようになり、いかにGIを勝つことが大変なことかを思い知るようになった。時には豪快に、時にはラインの力で、または奇跡的な走りで…。最近の脇本雄太(33歳・福井=94期)の力を見れば、グランドスラムという言葉もようやく現実的だが、“よほどじゃないと”と感じていた。
山崎芳仁(43歳・福島=88期)が残りダービー(日本選手権)ひとつに王手をかけた時。その瞬間を見ることができるかも…と思った。しかし2013年3月の立川ダービーで、北日本勢が5車結束しながらも山崎は勝てなかった。
遠いものか…。今回の新田にしても5月に負ったケガが癒えていない状態。期待はしても、難しいと思っていた。苦し紛れに内を踏んで、ただあきらめなかったところにコースが空いた。
実際、古性の内は空いていない状態で新田は内に差している。そのまま抜くと失格だが、抜く寸前のタイミングで古性は外帯線を外している。空いていないところを入っているので、「ん?」と思うものだが、最後に、古性自身が話しているように「空いた」。失格と紙一重の走りだった。
それは新田らしい豪快なものではなかったが、グランドスラムにたどり着くとはこういうことなのだろうかと思った。
複雑に織り交ざってできているのが競輪。永遠に完成されない競輪の戦いの中、苦しい時を我慢した新田に舞い降りた栄誉があった。1948年の始まりから70年以上、たった4人だけの栄誉。ただただ、新田祐大という選手の努力が咲かせた花だった。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。