閉じる
松浦悠士の“真っ向勝負!”

【松浦悠士の夏バトル】最高の走りができても唇を噛む思い…目指せ『99点のレース』を!

2022/08/30 (火) 18:00 41

 みなさんこんにちは、松浦悠士です。いつも熱い応援をありがとうございます。8月に出場した二つの開催は僕にとってすごく意味のあるものになりました。今回は西武園『オールスター競輪(GI)』と富山記念『瑞峰立山賞争奪戦(GIII)』を振り返りたいと思います。

長丁場のオールスター明け、瑞峰立山賞争奪戦で優勝(撮影:島尻譲)

もっと面白い“ドリームレース”をしたかった

 オールスターはしっかりと照準を絞ってコンディションを整えることができたので「これで負けたら仕方がない」と言えるまでに仕上がっていました。万全の状態で初日を迎え、良いメンタルでドリームレースに入っていけました。

 今のところ脇本さんに個の力で勝つことは難しいので、自分のラインだけではなく、別線含めたすべての選手が脇本さんを意識して「勝たせない競走」をしないと、まるで勝機がないという現状です。僕が優勝した2020年のオールスター決勝のようにそれぞれの選手が脇本さんを警戒していく必要がありますし、それができたとしても「勝つチャンスが増える」程度だと思います。それくらい圧倒的な強さを感じています。

 そんな難しいドリームレースでしたが、やはり脇本さんが強い走りでした。僕から仕掛ければ大敗してしまうリスクもあり、特に何もできず…。ただ、脇本さんとの過去の対戦にはない形というか、僕の位置や流れが今までに経験のない展開でしたから、道中は「脚を最後まで溜めることができたら何とかなるのか?」と望みを捨てずに走りました。結局そのまま3着でレースは終わり「もっと面白いレースにできなかったのか?」と自問自答することにはなりました。

レース後の松浦選手は「もっと面白いレースを見せたかった」と振り返った(撮影:島尻譲)

イレギュラーや違和感に対応できた

 オールスター2走目は石原君と連係してワンツーを決めることができました。ここで大きかったのが感覚のズレや違和感に気がつき、シリーズを走る上で「注意すべきこと」を2つ見つけられたことです。1つは西武園の「直線の短さ」です。短いことは当然頭に入っているのですが、ホームバンク広島の感覚を消さないと危なく、今一度距離感を修正しなくてはと考えました。

 2つめは「バンクコンディション」で、初日は軽いと感じていたバンクなのに、とても重く感じました。台風の影響による気圧変化もあるでしょうし、シリーズを通してバンクの重い・軽いが安定しないことは頭に入れておこうと意識しました。実際にシリーズを終えてみても、バンクの感触は安定しなかったですね。

1走目:軽い 2走目:重い 3走目:重い 4走目:軽い 5走目:軽い

 重い・軽いで表すとこんな感じでした。3走目のシャイニングスター賞も重く、少し嫌な感触でしたが、準決勝をしっかりと戦おうという気持ちに切り替えていきました。

自身のイメージしているバンク特性を走りながら確認していた(撮影:島尻譲)

 しかし準決勝を前にして開催が順延に…。この順延は初日めがけて調整をする僕としてはあまり嬉しくないものでした。個人的にはプラスもマイナスもないのですが、対戦する「強い自力選手」にとって回復の時間があるという点が好ましくないんですよね。長丁場のオールスターでは強い自力選手は少なからず体へのダメージが蓄積していきます。レースは自分と対戦相手の比較なので、トータルで見れば順延はマイナスであり「相手が回復している状態で戦う」と意識しました。

 もちろん順延が決定した以上は慌てても仕方がないですし、きっちり休むことに集中です。僕は練習をせず「将棋」をやってリフレッシュしました。そして勝ち上がりを懸けた準決勝ですが、僕は2着で決勝への切符は手にしましたが、ラインでは決められず。大舞台ではどのように勝ち上がるのかも非常に重要なので、ここは一緒に戦う仲間との今後の課題でもあります。

順延のもたらすプラスとマイナスを冷静に分析していた(撮影:島尻譲)

地道にコツコツ実力をつけるしかない

 そして決勝戦。いくつか思い描いていたレースプランの中で「少しでも優勝の可能性が高い」戦い方はできたと思います。北日本ラインが勢い良くドーンと来ていたら、近畿の内は空かなかったでしょうし、もしもそれで番手を取ったとしても脇本さんが僕のすぐ後ろになってしまっては難しくなります。早い段階でゆっくりと抑えに来た場合にしか使えないプランでしたが、うまくレースの流れに反応できたように思います。少し早く動き過ぎて古性君の横で一旦様子見をして止まったくらいです。

 うまく番手を取れたので、スピードのある寺崎君に乗っての番手まくりでしたから、最終4角を回っているときには「優勝できるかもしれない」と思うくらいの勝負はできました。自分のやるべきレースができたと思います。

 ただ事前にレースプランを練っている時にも「優勝争いまでは行けそうだけど、結局最後に脇本さんが来て2着までか…」と考えていました。その通りのゴール前であり、結果だったので、レースに納得はできても結果に満足できません。『脇本さんが強過ぎる』ということを肌で感じながら、オールスターは幕を閉じました。

 この負けをすぐにでも取り返したい気持ちですが、自分のすべてを出し切り戦っても埋められない圧倒的な脚力差があり、その差はすぐにどうこうできるものではありません。地道にコツコツとレベルアップを図り、タイトル獲得を目指していこうと総括しました。

赤板で脇本雄太選手(9番車・紫)の位置を内から奪い去るシーン(撮影:島尻譲)

富山記念初日「平原さんは“すべてお見通し”ということ」

 オールスターが終わり富山記念でしたが、中4日が中3日になり、すごくタフな日程になってしまいました。条件はみんな一緒ですけどね。僕はオールスターに入る前から「オールスターと富山の間は休もう」と決めていたので、そこまで疲労が悪影響することなく、比較的良いコンディションを維持しながらシリーズに入れました。そして4日間、最高の走りがしたいと思っていましたし、すごく満足できる戦いができたように思います。

 初日は雨がひどかったんですが、僕のやりたいレースには好都合でした。ホームまでに吉澤さんを超えるように組み立てようと考えていて、関東ラインからは気づかれないところから仕掛けようと作戦を立てていました。しっかりと『見えない位置』で行けたと思った矢先、すぐに僕の動きを平原さんが察知し、吉澤さんにも伝わりました。吉澤さんが反応して踏み合いになってしまったので、脚は削られてしまって2着が限界という結果に。自分の納得できる走りはできましたが、さらにその上を平原さんが行ってしまったという感じです。

「動きを察知した平原さん」と書きましたが、仕掛けどころは完全にバレていたというのが正確なところでしょう。僕がどういうレースをしたいのか、どういう性格をしているのか、平原さんはすべてお見通しということ。さすがとしか言いようがない選手です。

オールスター明けに富山記念を走った平原康多選手(撮影:島尻譲)

自分がレースを作りラインで決まる喜び

 そんな初日を終えて2日目、11R〜12Rで強風が吹き始めました。風は敵にも味方にもなりますが、この日の強風は意識すれば味方になるものでしたし、風を活かしながらレースを進めることができました。ここは思い通りのレースができて気持ちよかったですし、ラインを組んだ三宅さんとワンツーを決めることができて何よりです。

 その後の準決勝は「金ヶ江君と志田君がやり合うパターン」を考えていて、もがき合う展開なら動向を後ろで見てから組み立てていこうと思っていました。ですが、金ヶ江君がその選択はせず。一方で志田君ですが、レース中に目が合って、その表情に踏んでいく気配を見ました。彼のレーススタイル的にも出させる競走ではないだろうと思ったので3番手を確保しにいきました。ペースで駆けられると33バンクの富山は危険です。

 当初の予定よりも早い段階で脚を使ってしまったし、志田君のカカリも良かったので、後ろから来るであろう吉澤さんが脅威になります。しかし、後ろについてくれた小倉さんが勢いを止めてくれて、ワンツーを決めることができました。レース展開を見極めて柔軟に対応し、結果もついてきたので、ここも気持ち良く決勝へ勝ち上がることができました。

連係実績豊富な小倉竜二選手と決勝へ勝ち進んだ(撮影:島尻譲)

富山の決勝は“今年1番”のレース

 決勝までの3日間、長い距離を踏み、カカリも良かったですし、脚へのダメージもピークに近いところにきていました。決勝戦の朝には脚が火照っていて、熱を帯びていました。そのため、ハードなレース展開になった時に脚に余力があるかわからなかったので「関東ライン前受けの僕は中団がいいなあ」なんて考えていました。山口君が切りにいけば多少は踏み合ってくれる展開になるだろうし、そこをたたきに行くような競走が理想かな?と考えたりもしました。でも実際のレースは後ろから。ハードな展開を自分で作っていく選択をしました。

 レースでは僕の姿が相手から見えなくなるポイントがあり、姿を消せるそのタイミングに「切るべきタイミング」がありました。誰も来ていないのに突然踏み出せる選手はなかなかいないでしょうし、一気にカマシていくことで「相手が自分に気が付いたときはもう対応できない」という状況を作れると思いました。この点がうまく判断できたと思います。

 その後は山口君が来るのか吉澤さんが来るのかで判断は違いますし、両方のプランを持っていたので「どのラインが来ても大丈夫だ!」と走っていましたが、山口君も関東勢を後ろに置けると判断しての反応で、スピードを上げた状態で出てきました。ここも想定内にあったので、慌てずに対応していけました。

 ゴールした瞬間は「残ってるかも!」という感覚でしたが、どっちかわからなかったです。たくさんのお客さんが平原さんに「良かったな!」と声をかけていたので「あれ、これいかれたのか…? ん? いかれてないよな?」と困惑してしまいました。別のお客さんの「松浦おめでとう」でホッとした感じでしたね(笑)。

 振り返るとこの富山の決勝レースは今年1番のレースができたように思います。4車ラインを機能させないという部分を自分で作れた上で結果を出せたので、とても満足のいくレースができました。また、準決勝でサポートしてくれた小倉さんは決勝でも後ろからの猛攻をすべて止めてくれました。2車でしたがしっかりと「強いライン」を見せることができ、本当に信頼できる選手です。これはずっと前から感じていることですが。

充実感の中でファンの声援に応えた(撮影:島尻譲)

オールスターと富山を終えて思うこと

 富山の4日間は自力で勝負し続け、さらには結果も残すことができたので、本当に嬉しかったです。この充実した感覚は久しぶりでしたし、自信にもなりました。でもそんな喜びの中で痛烈に実感するのは「脇本さんは本当にすごい」ということです。僕は富山の4日間で、体へのダメージが限界でした。

 脇本さんは僕よりもスピードも出していれば、踏む距離も長い。疲労度やダメージは半端じゃないはず…。何より警戒され続けることに対してのタフさ。「脇本さんしか知らないダメージ」があり、脇本さんしか見えない世界があるのだろうと思います。

 正直、富山を終えて帰っているとき「脚力以外にさらに差を見つけてしまった…」と振り返りました。そんな中、ツイッターでファンの方が書き込んでくれた言葉があります。原文を引用させてもらいます。

目指せ99点のレース100点のレースは進歩がない、ミスター松浦99点のレースを、期待します。

 この言葉は今の自分にすごく刺さりました。この8月は自分の中で100点をつけたくなるレース内容もあったかもしれません。でも脇本さんとの差を実感する中で、絶対にあと1点を見つけて、強くならないといけないと思います。

 今は個の力でどうにもできない差があるので、レースの中でさまざまなアイディアを出しながら戦って行くしかないです。同時に個の力もつけていかなくてはいけません。8月のオールスターと富山記念、そしてファンの方がかけてくれた言葉で、これから強くなっていくための意識にさらに気合が入ったような気がしています!一生懸命頑張りますので、これからも応援よろしくお願いします!

読者の方から寄せられた質問に答えます

 それでは今月も質問に答えていきたいと思います! 今月は3問の質問に答えていきます!

今回は3つの読者質問に真っ向勝負!(撮影:島尻譲)

ーー自力の強化練習がメインになることで、番手を回る時に悪影響があったりしないものですか?(勘が鈍るとか)

 その心配はないですね! どちらかと言えば自力強化に励むことで「自力勝負に悪影響」があります(笑)。説明しますと、練習でタイムが上がり、脚力が上がっている感覚を持つと、レース本番で「このくらいで仕掛けてもいけるだろうな」と“勘違い”するリスクが高くなります。

 練習でうまくいっているからと本番もその感覚で臨むと危ないんですが、何しろ実戦は走ってみないことにはわかりません。結果的に過信して位置取りへのこだわりが薄くなることもあります。過去のレースでそういう失敗もありますし、気を付けている部分です。

ーー「レースは背中で語る」くらいの松浦選手をまた見たい。最近は後輩選手を育てようとし過ぎているように見えますがどうでしょうか?

 そうですかね?? 僕自身あまり「後輩選手を育てよう」という意識レベルに変化している自覚はありません(笑)。昔も今も自分が感じたことは後輩にも伝えていますし、意見を交換した方が良い選手にはきちんと言葉にしています。

 後輩選手に何かを伝えるなら自分もそれなりのレースを常にすべきだと取り組むことも忘れていないと思います。言葉で伝えることで吸収してくれる強い後輩もいるので、自分が気になることは言葉でもレースでも真剣に伝えていけたらと思います。

ーー野球で『キャッチボールを見れば上達するか否かわかる』と言われていますが、競輪は『自転車の乗り方を見れば強くなるか否か』わかるものですか?

 自転車を速く走らせる能力が高くなりそうか否かはある程度は見える部分もありますね。でも自転車の乗り方を見ただけで競輪が強くなるかどうかはまったく判断がつきません。自転車の乗り方やフォーム、体格よりも『人柄・考え方』がすべてだと思います。若手選手に会って話をして考え方や性格を知り「この選手は強くなるな」とかはわかります。

 今月はこの辺で書き終えようと思います! これからもっと強くなれるように一歩一歩進んでいきたいです! それでは!

帰りはお寿司を食べるんです」と富山記念優勝直後に喜びの“寿司ポーズ”、張り詰めていた連戦から解放された瞬間(撮影:島尻譲)

【SNSはこちら】
松浦悠士Twitter

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

バックナンバーを見る

質問募集

このコラムでは、ユーザーからの質問を募集しております。
あなたからコラムニストへの「ぜひ聞きたい!」という質問をお待ちしております。

松浦悠士の“真っ向勝負!”

松浦悠士

Matuura Yuji

広島県広島市出身。日本競輪学校第98期卒。2010年7月熊本競輪場でレースデビュー。2016年の日本選手権競輪でGⅠ初出場、2019年の全日本選抜競輪では初のGⅠ決勝進出を果たす。2019年の競輪祭でGⅠ初優勝を飾り、同年KEIRINグランプリにも出場。2020年のオールスター競輪では脇本雄太との死闘を制し、優勝。自身2つ目のGⅠタイトルを獲得した。ファンの間ではスイーツ好き男子と知られており、SNSでは美味しいスイーツの数々を紹介している。

閉じる

松浦悠士コラム一覧

新着コラム

ニュース&コラムを探す

検索する
投票