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【松浦悠士の優勝報告】長かった“やっと”のゴール線…! ファンのみなさんへの感謝と帰り道のチョコレート

2024/01/30 (火) 18:00

 みなさん、こんにちは松浦悠士です。今回は2024年最初のコラムになります。本年もどうぞよろしくお願いします。まずは昨年末の「KEIRINグランプリ2023」の優勝報告から書きたいと思います!

「KEIRINグランプリ2023」優勝・松浦悠士(撮影:北山宏一)

「グランプリを自分が走っている」そんな“当事者感覚”が薄かった

 グランプリへ向けての調整は順調でしたが、本番直前に体調を崩してしまいました。「最後の最後で…万全の状態にできなかった…」と思いながら競輪場へ。ただ不思議と焦りや不安もなく、「やれることはやったんだ。あとは走ってどうかだよな」と落ち着いていました。

 今振り返ってみると、体調を崩したことで「勝ちたい!獲りたい!」といった気持ちが強くなり過ぎず、リラックスできた要因のひとつのようにも思えています。「勝ちたい気持ち」が過剰に出過ぎるとレースで結果が出ないといったことは競輪ではよくあるんです。

力は入り過ぎず、落ち着いた心境でレースに入れた(撮影:北山宏一)

 レース本番は歓声がすごかったです。まさに“歓声しか聞こえない”という状態。脇本さんが仕掛けてきたところは目視確認するまでもなく、歓声が大きくなったタイミングで「あ、来たんだな」とわかる感じでした。

 そんなグランプリ特有の雰囲気の中でしたが、今年は高揚感も緊張感も不思議なくらい気持ちが上下しませんでした。外から見ているような感覚、が近い表現です。自分が走っている“当事者感覚”が薄かったんです。頭に浮かんでいたことを言葉にしてみると、「グランプリってやっぱり歓声がすごいんだよなあ」みたいな感じです。“他人事”とは違うんですが、距離のあるところから自分を見ている感じが、過去に走ったグランプリとは違いました。

 勝負所に差し掛かり迎えた最終1コーナー、裕友が仕掛けたところで深谷さんに合わされ、後輪がはねた感じに見えて、過去にバックを踏んで失敗した経験から一緒にバックを踏むことはできず、早めの切り替えになってしまいました。ここは考えての選択というよりも、体が動き反応しました。

 余力は十分に感じていたので、「深谷さんがこのまま失速せずに近畿ラインを捉えるなら、最後に抜けるかもしれない」という手応えの中で踏み込むことができました。立川は外が伸びるイメージもありましたし、うまく直線を走れたと思います。ゴールした時は本当に嬉しかったです。

大歓声の中、両拳を高々と掲げた(撮影:北山宏一)

気持ちが込み上げた表彰式、新幹線で食べたチョコレートの味

 表彰式を迎えたとき、「ここまで長かったな」という気持ちでした。これまでのグランプリは確定板さえ捉えられず、いつも難しさを感じていました。何の根拠もない話ですが、「今回はチャンスある」とどこか思い込んでいたので、今回獲れなかったら、ずっと獲れない感じではないか…、とも感じていたんです。

 でも、さきほども書きましたが、体調を崩したことで余計に高ぶることも、変な形で根詰めることもなく、「その場その場でしっかり判断して、自分ができる走りをしよう」と思えたのが良かったかもしれないですね。2023年は長期欠場も味わい、決して順風満帆ではありませんでした。「最後は笑いたかった」「ここまで長かった」の思いが相まって、表彰式では自然と込み上げる感情がありました。

歓喜の表彰式、込み上げる気持ち(撮影:北山宏一)

 そして帰り道。一気に疲れがどっと押し寄せてきました。新幹線で帰ったのですが、重たい疲労感の中でチョコレートを食べました。このチョコレートはグランプリシリーズ開催中に、僕が砂糖を控えていることを知っている深谷さんが「終わったら食べて」と差し入れてくれたものです。深谷さんの気遣いも込められている気がして、本当にめちゃくちゃうまかったです。今年初出場の川崎記念明けに深谷さんと練習する機会がありましたが、すっかりスイーツ友達になっています(笑)。深谷さんありがとうございました!

応援してくれる人達に“2回目”を見てもらえるように

 レースが終わってから、長く応援してくれる人達からたくさんのメッセージを受け取りました。「ずっと買ってたよ!やっとだね」などの言葉とともに祝福してもらえて“やっと”の思いを共有できたことは格別に嬉しかったです。みなさん、いつの時も応援していただき本当にありがとうございました!

 それと、今回のグランプリは現地観戦予定だった家族が体調不良で来られませんでした。グランプリの会見でも前回のコラムでも「あと10年間SSでいたい」と大目標を掲げていますが、もしもその予定通りに行けるのなら、またグランプリを走るはずです。今度は応援してくれる家族に“生”で優勝する姿を見せられるように“2回目”を目指して頑張っていこうと思います。

大きた目標は達成したが、決して最終章ではないということ(撮影:北山宏一)

2024年、川崎記念で初出走! 初日と二日目に「同着」

 グランプリが明けてお正月。僕は体調を崩し、今年1発目の大宮記念を走れる状態ではなく、それに輪をかけるように家族全員が体調をやられてしまい、家事などに一杯一杯で欠場の判断を下しました。回復してからすぐに練習をスタートしましたが、川崎記念に入る時には練習不足も否めず、自分の状態に自信はありませんでした。でも大宮記念を優勝した裕友の状態がすごくて、初日特選レースでは仕上がり切っていない僕の状態を打ち消してくれたのが大きかったです。

 その初日特選ですが、(2022年の川崎記念決勝に続き)郡司君とまたしても“同着”!「同じ人とこんなに“同着”ってある?(笑)」と信じられない気持ちでした。もうここまで来ると何か不思議な縁があるのか?とも思えてきます。そんな驚きで始まったシリーズでしたが、二次予選でも3着同着のゴール。「え?ほんとに?」と思ってしまいました(笑)。同じ人と同着も珍し過ぎますが、同開催連日同着も驚愕です。

 でも「1ミリでも先にゴールしないといけない」と意識する経験にもなりました。レースを分析して、「どこかでもうひと踏み頑張れなかったか?」や「ハンドルはもっと投げられなかったか」と振り返り、不思議さに包まれはしましたが、勝ち切っていない事実は課題として捉えています。しっかりと“差”を生み出せるように走っていきたいです。

苦しくてもラインがある限り

シリーズを進むにつれて調子を上げていった川崎記念(写真:チャリ・ロト提供)

 準決勝は東矢君と久米君と連係しました。久米君とはA級の時によく連係していて、2人で戦う時に前で頑張ってくれたことをはっきりと覚えています。東矢君の意思も聞いて、3車でレースに臨みました。結果的に東矢君は叩かれはしましたが、その状況下でも仕掛けてくれましたし、次は自分の番とばかりに仕掛けようとする久米君の思いも伝わってきました。

 そんなライン連係があって、勝負どころの僕は余裕もありましたし、前の2人の仕掛けをしっかりと見てから「外に行くか内に行くか」の判断をしようと落ち着いて走ることができました。結果は3着で勝ち上がることができましたが、次回はラインで勝ち上がる連係をしたいですね。

 練習不足は否めない状態で開催に入りましたが、連日ラインの力を感じながら決勝戦まで辿り着くことができました。苦しくなるであろうシリーズで確定板を外さず、勝ち上がれるのは大きいことです。日に日に状態が上がっていく実感もありましたし、決勝は優勝を狙って勝負できると思いました。疲労はたまっていくので肉体的には落ちているんでしょうけど、それ以上に実戦で筋肉に刺激が入ることで、戦う力を養っていけたのは自信に繋がります。

最終局面に向けて南関ラインを捉えにかかる8番車・久米康平選手、1番車・松浦選手も気持ちを受けながら追走(写真:チャリ・ロト提供)

虚を突かれた決勝のタイミング

 迎えた決勝、深谷さんがあんなに早いタイミングでカマシてくるとは思ってなかったのが正直なところです。想定よりもだいぶ早い仕掛けでしたし、完全に虚を突かれた形です。2周から1周にかけてのタイムも良いものでしたし、「深谷さんの先行が強かった」が敗因のポイントの中でも大きな部分です。

 また、想定外とはいえ裕友は果敢に踏んで行きました。しかし、結果として松谷さんとの並走状態も長くなり、僕らの脚は削られてしまいましたね…。それも勝てなかったポイントに挙げられます。ただ悪いことだけではなく、激しい脚力消費がありながらも最後まで粘り込んで戦えたことは良かった部分でもあります。特に裕友は並走のダメージも大きいはずなのに最後まで踏む力を絶やしていません。この点は本当にすごいと思いました。

 僕の走りを分析してみると、コース取りがどうだったのだろうか?と振り返っています。最善のコース取りを考えてみても自分の余力を考えれば厳しい選択になっていたと思うし、なかなか勝ち筋を手繰り寄せるのには難しいレースでした。ゴール前の攻防では中割強襲できそうな位置関係にはなったものの、脚が削られている分、理想の加速は難しかった上に、前を走る郡司君も外帯線を外している走行でしたから、アクション起こせず3着まででした。

 この最終シーンにおいてお客さんから「抜けたのに抜かなかった走り」との言葉があり、上記の内容をSNS上で説明しました。まず前提として「抜けたのに抜かなかった」のような走りは断じて“ない”ということ。また、そもそも競走における心構えとして「落車をしない・させない」などはすべての土台になっている考え方です。これは川崎の決勝に限った話ではなく、どのレースでも。今回も自分の制御できない無理矢理状態で中割を敢行すれば自分自身が転んでいたと思います。疑念なくレースを楽しんでもらいたいので、「抜けたのに抜かなかった」に関しては、改めてきっぱりと否定させていただきたいです。

決勝ゴール手前の3車の位置関係(写真:チャリ・ロト提供)

初戦を走り終えて全日本選抜へ! そして今年の目標!

 初戦を終えて思うのは、苦しい中でも全レースで確定板に乗れたことに大きい意味があるということです。昨年のスタートと比べて、戦える感覚は今年の方が上に感じています。川崎で会った選手たちに「グランプリおめでとう」と言葉をかけてもらったのも、改めて嬉しかったです。これからのレースが楽しみになるような戦いができたので、今年も前半戦からタイトルを狙えるように、全日本選抜から状態を上げて走って行ければと思います!

 そして、いつも1年のはじまりには賞金王やグランプリ制覇という目標を掲げてきたので書こうと思うのですが、昨年末にそれらの目標が達成できて、今はあまり“新しい目標”というのが思い浮かびません。だから、今までも目標にしてきた「タイトルを獲得することを目標にして、昨年の自分を超えること」を継続していく意識があり、それが目標として固まっています。特に共同通信社杯はGIIで獲得していないタイトルなので自然と意識も向きます。

「昨年の自分を超えること」という目標は「あと10年間SSでいること」や「グランドスラムへの挑戦」といった大目標に繋がっていくことになると思うので、頑張っていきたいです。気を引き締めて頑張りますので、これからの1年も熱い応援をよろしくお願いします!

2024年もとことん真っ向勝負!(撮影:北山宏一)

読者の方から寄せられた質問に答えます

 それでは今年1発目! 読者質問へのアンサーを書いていきたいと思います!

今年もコラム本編終了後に質問にアンサー!絶賛質問募集中!(撮影:北山宏一)

ーーグランプリ優勝おめでとうございます! まったくレースに関係ない質問ですみませんが、松浦選手は日常生活では広島弁なのでしょうか?

 ありがとうございます! インタビューとか先輩と話す時とか敬語を使うと出ないんですが、広島にいる時はほとんどが広島弁です。練習で他地区の後輩選手と話すときなども完全に広島弁です。ただ関東のように少し距離が離れている選手と話す時は標準語を意識しますね。伝わらないことがあるので(笑)。

 ちなみにインタビューとか配信番組の出演とかは結構神経を使って広島弁にならないように気をつけているんですよ。言葉遣いを意識する場面では標準語という感じでしょうか。

ーーヤンググランプリは本場で見ていたと思いますが、あのレースをどのようにご覧になったでしょうか? 自分は最近のヤンググランプリの中でも好レースに感じて満足しました。太田海也選手には何か声はかけられましたか?

 まずレースの感想ですが、本当にめちゃくちゃいいレースだったと思います。犬伏君の駆けている上を超えてゆく判断・強気のメンタルもすごかったですし、実際にそれをやってのけてしまう能力ももちろんすごいです。

 海也は競輪祭で課題を見つけていたと思うんですが、そういった反省点を血肉にして帳消しにする走りだったように僕には見えました。声をかけたというか、終わった後に海也が出し切ったこともあり「インタビュー受けられる状態じゃないです…!」とクタクタになっていったので「早く受けてこいー!」と声かけしました。もちろん良いレースだったことは本人に伝えましたけどね(笑)。

ーー「あとは松浦さんがなんとかしてくれる」「(後ろにつくのが)松浦さんがいいな」という感じのコメントを最近よく見るような気がします。先行選手からそう言われることについて、松浦選手としては“光栄”なことなのか、ちょっと“気が重い”のか。そのあたりの感じ方を教えてください。

 これは回答が非常に難しいですね(笑)。個人的に僕の気持ちの話だけをするなら、めちゃくちゃ嬉しいです。光栄です。選手冥利に尽きるとさえ思います。でも個人的な感情を抜きに考えると、「後ろが誰であっても自分の力をしっかりと出す走り」が先行選手にとって一番いいに決まっています。だから後ろが誰であっても、良し悪しを考えずに、自分のできる最高のパフォーマンスを求めていく意識で臨んで欲しいです。でもラインで連係する前を走る先行選手にそう思って思えるように、番手の時もしっかりと自分の仕事をしていきたい気持ちになりますね。

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松浦悠士の“真っ向勝負!”

松浦悠士

Matuura Yuji

広島県広島市出身。日本競輪学校第98期卒。2010年7月熊本競輪場でレースデビュー。2016年の日本選手権競輪でGⅠ初出場、2019年の全日本選抜競輪では初のGⅠ決勝進出を果たす。2019年の競輪祭でGⅠ初優勝を飾り、同年KEIRINグランプリにも出場。2020年のオールスター競輪では脇本雄太との死闘を制し、優勝。自身2つ目のGⅠタイトルを獲得した。ファンの間ではスイーツ好き男子と知られており、SNSでは美味しいスイーツの数々を紹介している。

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