2023/02/07 (火) 18:00
みなさんこんにちは、松浦悠士です。今回は和歌山記念「和歌山グランプリ」の欠場と豊橋記念「ちぎり賞争奪戦(GIII)」のレースを振り返りたいと思います。
和歌山記念では試してみたいことがあり、ワクワクする気持ちで競輪場に入りました。今回はセッティングをかなりいじっていて、前検日は16時30分過ぎくらいまで作業をしていました。多少の疲労感はあったものの、風邪の兆候というよりも「ただの疲れ」だと感じていて、宿舎でも問題なく過ごし眠りにつきました。夜中に一度、暑くて目が覚めたんですが、「暖房のせいかな?」と思っていました。
朝起きると物凄い倦怠感があり、「これは発熱しとる…」とすぐにわかりました。熱を測ると38度7分…。今年1発目となるはずの開催でしたが、あえなく欠場となってしまいました。抗原検査は陰性だったため、すぐに自宅に帰ることができましたが、高熱も2日続き、意識が朦朧としてしんどかったです。
僕の走りを楽しみにしてくれていたファンの方々、関係者の方々には申し訳ない気持ちで一杯です。僕自身、「出場させてもらうからには最終日まで走ることが何より大事」といつも言ってきました。今後はより一層、体調管理に意識を向けたいと思います。
豊橋記念が近くなった頃、日本全国に大寒波が襲来しました。「移動がヤバそうだな」と考えて、僕は前検日の前の日に出発。でも新幹線が停まってしまい、それを車内からSNSで投稿しました。すると、身を案じて温かい言葉をかけてくれる方や新幹線の運転再開見込みを調べてくれた方までいました。たくさんの優しい気遣いを受けて、応援してくれる人達の存在を改めて実感しました。
デビューした頃は「誰のためでもない、自分が勝つために練習するんだ」としか思わず、「自分のため」という気持ちが強かったです。その後、競輪場の声援に感謝することの大切さに気がついてからは「お客さんに面白いレースを見て欲しい」と考えるようになりました。
思い返せば『応援してくれる方々に楽しんでもらうこと』というプロスポーツの根本に向き合うようになってから、弱い自分を成長させることができたように感じています。レース外、しかも新幹線の中で、改めて「自分のためじゃない、誰かのために走るんだ」と自分のやるべき競輪に気づかされるような感覚になりました。本当に嬉しく、ありがたかったです。
気持ちの上では力が入っていましたが、病み上がりの身体はさすがに絶好調とは言えませんでした。なおかつレースも今年の初戦。豊橋は厳しい風に悩まされるバンクですが、「風がないにしても通常よりも距離は踏めないかもしれない」と考えたり「でもレース1本なら走り切れる感覚がある」と考えたり、前検日では今の状態がどの程度かと入念に探りました。
初日は車輪やタイヤをはじめ、セッティングもこれまでのものからガラリと変えて臨みました。挑戦したいことのひとつが自転車まわりにあったので、ここは自分の感性を練習ですり合わせたものを実戦投入という感じです。また、今回は走りの面でも挑戦したいことがあり、「3番手に固執しない」とか「ダッシュで脚力を削らないように」とか「余力十分に勝負所でしっかりと自力を出す」などテーマを持っていました。
その結果、すべてが悪い方向に行ってしまったというのが正直なところです。2コーナーから踏んでいきましたが、まったく車が進まないばかりか、脚力もあっという間に消耗してしまいました。練習と実戦の違いも痛感しましたし、セッティングも見直す必要がありましたが、何より『アップ方法』に反省点がありました。
僕はレース前にガッチリとアップをします。陸上のダッシュをやり、その後ローラーで目一杯もがいてから走るタイプです。初日はアップの時点で体力の消耗をしてしまった部分が否めません。会場に入った際に「レース1本ならしっかり走り切れる感覚」と自己分析していただけに、いつも通り“負荷のあるアップ方法”でレースに臨んだことは誤りでした。2日目に入る前にセッティングまわりもアップ方法も再考し、すべて考え直しました。
初日の反省点を活かしたかった2日目、セッティングや車輪を元に戻して、アップ時のダッシュはメニューから外しました。ローラーも思い切りもがくのではなく、ある程度ハイペースながらも長い距離を踏む形にして「1本走るためにやり過ぎず・やらな過ぎず」で調整。本調子ではなくとも、しっかりと態勢を整えられました。レースも周りの選手との駆け引き含めて状況がきちんと見えていたので、自分の戦略性を武器に進めることができました。
2日目にしてやっと豊橋のバンクコンディションにも注意がいきましたが、風も厳しいし、バンクも重い。「早めの仕掛け」には難しさを感じましたし、納得のレースができたとはいえ、まったく余裕は生まれず、逆に気が引き締まる感じでした。
3日目の準決勝は勝ち上がりを逃してしまい期待に応えることができませんでした。2日目の状態よりも感覚は取り戻せていましたし、仕掛けた時の踏みごたえも申し分なく、自信を持って走りましたが結果は出せず。「残れる自信」の中で仕掛けましたが、バンクがそうはさせてくれませんでした。準決勝のレースは状態が良い時に走っても残れなかったと思います。豊橋の風は凄まじかった…。本当に重かった…。あの強い向かい風を切る能力、言い換えれば「長い距離を行けるような脚力」の必要性を痛感しました。
勝ち上がりを逃してしまったので、自分の着だけを見れば反省しなくてはいけません。でもスローペースで誰も動かない中で「自分も行きたくない」と躊躇するような競輪はしたくないです。開催に入る前に「応援してくれる方々に楽しんでもらうこと」を考えていた分、つまらないレースは絶対に見せたくありませんでしたし、連係した岩津さんにも「結果だけ」を考えて臆病になるような走りは見せたくありません。課題と反省点は持ち帰りながらも、負けても「明日は勝つ!」と切り替えました。
決勝には乗れませんでしたが、自分の中で尻上がりに調子を戻せている感覚があったので、最終日は絶対に1着で終わりたかったです。佐々木君が競りのコメントを出していたので、連係した小川さんや佐方さんにとって難しいポイントが増えますし、そこはラインとして考えなくてはいけません。
ただ、すごく個人的な感情だけで言えば、僕の後ろに魅力を感じてくれての佐々木君の判断なので、“光栄”とも捉えています。最終日ともなると風も把握できていたので仕掛けどころは考える必要がありましたが、「バックは取る!」と強い気持ちで走らなくては! と気合が入りました。
踏み込んだ感触も良く、かなり戻ってきた感覚の中で獲れた1着だったので、明るい気持ちで開催を終えることができました。豊橋記念全体を振り返れば、まだまだ思った以上に走れていない部分もありますし、初日は応援してくれる人の期待を裏切る結果になってしまったと思います。でもシリーズを終えた今、不安はありません。全日本選抜に向けてしっかりと追い込んだ練習を積んでいきたいです。そして、次走の静岡記念。豊橋で学んだことを活かして、次こそ期待に応えたいです。
それでは今月も質問に答えていきたいと思います! 今月は3問の質問に答えていきます!
ーー和歌山の欠場は残念でした。当日に欠場が決まった時の気持ちは?
冒頭に書いたものと重複してしまいますが、楽しみにしてくれるファン・関係者のみなさんに対して「申し訳ない気持ち」の一言に尽きます。悔しい気持ちや残念な気持ち以前の話です。ファンのみなさんにはツイッターで直接発信することができますし、すぐに状況をお伝えすることができました。
ただ、開催の準備をしてくれる人やともにレースを走る選手など、競輪関係者のみなさんに関してはファンの方々に向ける申し訳なさと色合いの異なる申し訳なさがあります。呼んでもらった開催は最終日までしっかり走りたいです。今後は自己管理をさらに徹底していきたいと思います。
ーー競輪を観ていて納得できないことがあります。例えばラインの3番手以降の選手が何もせず、時に番手の選手がヨコに牽制をした際に開いた内を突いていくばかりか、番手の選手をどかそうとする場面すら見受けられます。それについてはどう思いますか?
文章の描写だけではレースの状況や背景がわからない部分があるので、何とも言えないのが正直なところです。ただ間違いなく言えることは、競輪選手はみんなそれぞれ考え方が異なります。「競輪道」という言葉もありますが、この言葉ひとつ取っても、各選手の捉え方はさまざまです。本当に性格や考え方がレースに出るなあって思います。僕はそこが競輪の楽しさだと思っています。
僕の場合、他の選手のレースを観る時、正解・不正解よりも「あの選手はこういう時こういう走りをする選手」とインプットするようにしています。同じレースになった時に、この情報が活きるんですよね。これはお客さんから見ても「車券の予想材料」にできると思います。良い悪いよりも選手の特性のひとつを見つけたと考えてみると、レース予想の面白さも深くなっていく気がします。
もちろん僕自身も走りに関しては「好き・好きじゃない」はありますけどね(笑)。「素晴らしい判断だな!」と惚れ惚れする走りをする選手もいますし、「あれ?」と首を傾げたくなる走りも当然あります(笑)。でも選手は全員自己責任の中で、『自分の正解』だと思う判断で走っているのは間違いないです。
ーー400バンクでも佐世保と武雄では直線が24mも違います。直線やコーナーの長短で仕掛けるタイミングはどのように変えているのでしょうか?
少し話は逸れますが、直線が長いバンクはコーナーがキツイので、「3コーナーでは上りたくないな」と考えます。仕掛けどころは基本的に「ここだ!」というポイントがあるので、(33バンクと500バンクともなると大きく違いますが)周長が同じ400バンクであれば「佐世保だからどう、武雄だからどう」とは考えないですね。
僕の場合は直線の長短よりも、それが生み出すコーナーのキツさに注意が向きます。タイミングが「ここだ」というポイントで仕掛けてもブロックされて3コーナーを上らせられてしまうなら、それは仕方がないので上ります(笑)。ただ、なるべくなら3コーナーで張られる前にはしっかり乗り越えておきたいので、それを基本にレースを組み立てます。
あとは「失敗経験」が一番糧になっている実感があります。「あの時はあのタイミングで仕掛けて失敗だった」という実戦の記憶が一番の判断材料です。これはA級で走っていた頃からを含めて「失敗経験」を今の走りに活かしています。
それでは今月のコラムはここまでにしたいと思います。静岡記念で楽しんでもらえるレースができるように精一杯頑張ります。ぜひ応援よろしくお願いします!
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松浦悠士
Matuura Yuji
広島県広島市出身。日本競輪学校第98期卒。2010年7月熊本競輪場でレースデビュー。2016年の日本選手権競輪でGⅠ初出場、2019年の全日本選抜競輪では初のGⅠ決勝進出を果たす。2019年の競輪祭でGⅠ初優勝を飾り、同年KEIRINグランプリにも出場。2020年のオールスター競輪では脇本雄太との死闘を制し、優勝。自身2つ目のGⅠタイトルを獲得した。ファンの間ではスイーツ好き男子と知られており、SNSでは美味しいスイーツの数々を紹介している。