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【松浦悠士の詳細解説】レースで見ている景色と競輪の醍醐味を伝えたい

2021/02/28 (日) 18:00

あのレースで松浦選手は何を思っていたのか。トップ選手が思う競輪の魅力とは何か。今回は、松浦選手が出場した豊橋記念「ちぎり賞争奪戦」、高松記念「玉藻杯争覇戦」を振り返ります。松浦選手の視界やレース中の心境を臨場感たっぷりに綴ってもらいました。

 皆さんお久しぶりです。今回はレースの振り返りを中心に書いていきます。 僕がどういう視点、考えでレースを走っているか、参考にしていただけるかと思います!

新幹線で自転車持参

 豊橋記念については、追加参加だったのですが、松山が終わった次の日の昼過ぎに電話がかかってきました…。まず、追加というのは2通りありまして、斡旋メールで来る場合と、競輪場の番組からかかって来るパターンがあります。

 メールで来る場合は早めにくるので、比較的予定も立てやすく、準備もできます。電話の場合は急な場合が多く、自転車が手元になかったり、予定が入っている事もあるため、行けない場合もあります。今回は松山から自宅に自転車を輸送中でして、前検日に間に合わないため、練習で使っている自転車、新品のヘルメット等を用意していきました(笑)。中2日で、豊橋まで車はさすがにきついので、新幹線で自転車持参です(泣)。

脇田師匠にいただいたケースで自転車持参

冬場の豊橋は風が吹き荒れる

 豊橋に到着して、練習で使っている自転車を組んで指定練習を乗ってみると…なんと風の強いことでしょう…(笑)。豊橋は冬場、風がとても強いことが多く、かなり厳しい環境の中、競走しなければなりません。そのような環境だと、僕は感覚、感触も悪くなったり、調子がいいのかどうか全然わからなくなります(笑)。練習用の自転車は競走用のものとセッティングが違うため(フレーム自体の寸法は同じ)、少しの違和感を抱きながら初日を迎えました。

初日特選の踏み出し

 初日特選では深谷さんが早めに仕掛けるかなと思っていたので、深谷さんの前にいて、深谷さんが仕掛けたあと、後ろにスイッチして捲ろうと思っていました。野原君が結構ハイピッチで踏んだことにより、自分のイメージよりも深谷さんの仕掛けが少し遅くなり、やばいかなと思ったのですが、なんと深谷さんの捲りの上を捲れてしまいました! 自分でもビックリの踏み出しでした。

 練習用の自転車の方がいいんじゃないか…と、この時は思いました。普段のレースで使っている自転車もこの日にはもうあったのですが、戻さずにこのまま走ることにしました。

2日目、人間味溢れるのが競輪の魅力

 次の日…とにかく爆風…(笑)。皆さん本当にきつそうでした…。普段S級のレースになると400メートルバンクのラスト一周が22〜23秒前半が当たり前になるのですが、(脇本さんは21秒台をだしたりします(笑)この日は24秒台、25秒台のオンパレード。とにかく重たかったです(笑)。

 対戦を楽しみにしていた眞杉君と脇本君との競走でした。僕の番手は地元の吉田さんと、静岡の岡村さんで競りになりました。競りとはお互い番手を主張して譲れない場合に身体をぶつけ合いながら取り合います。もちろんぶつかり合う事で脚力は消耗しますが、地区的なものや、譲れない位置、主張、信念、走るスタイル、これらがぶつかり合うのが競りだと思います。もちろん「もがき合い」、「先行争い」にも同じことが言えますが。こうした人間味溢れるところが競輪の魅力、面白さなんだな〜といつも思うところです(笑)。

 話を戻します! 2日目の競争はホームで叩いて先行したかったのですが、爆風の中、脇本君の絶対出させないぞという気迫、ペースに内容では負けてしまいました。眞杉君の捲りに乗り、スピードをもらって更に上を捲っていったら…なんと眞杉君が横に動いてきました! 正直横の動きをしてくるとは思っていなかったので、この時はビックリしました。

 1回目の振りをギリギリでかわして、2回目眞杉君が振ってきそうな素振りをみせたため、横に動いて来るタイミングで僕も頭を出し、内側に押し返しました。ちょっと強く当たりすぎ押し返しすぎましたが…(汗)。事故がなくてほんとによかったです…。

 無事一着でゴールしましたが、横の動きも、風の中での練習もまだまだ足りないなと思いました。勝つための準備として、できること、必要だと思った事は全てやります。そして、3日目準決勝を迎えます。

準決勝、自転車と身体との一体感が…

 3日目は2日目よりも少しだけ風は弱まりましたが、相変わらず厳しいコンディションでした。僕の方もウォーミングアップの段階から自転車との一体感がなく、バチっと身体がハマらないままレースを迎えてしまいました(普段は自転車と身体がバチっと決まってます笑)。

 レースは前受けからがよかったのですが、車番が外枠で、後ろ攻めになりました。このスタートの位置はかなり重要で、やりたいレースができるかどうかはスタートでとれた位置で決まるといっても過言ではありません。もちろんそれぞれの位置からの作戦もしっかり立てますが。

 後ろ攻めになってしまったので、残り2周で先頭までいかず、一度前受けだった野原君に突っ張ってもらうような形をとり、そこを柴崎さんが内から先頭まででます。この時とっさの判断で先頭にすぐたちますが…、風がたちはだかります…(笑)。

 先頭にでると風の影響をもろにうけるため、だんだんと脚力は消耗していきます。そのため、なるべく踏み出す距離を短くしたい、と思いペースを緩めていました。そろそろ踏み出そうかなと思った時、野原君がものすごいスピードでかましてきました…。気付くのが遅れたため、あっさりでられてしまい、なんとか4番手に入りましたが…立て直せず、近畿3番手の村田さんをなんとか直線で交わし3着で勝ち上がることができました。

 この時アップの時に感じていた自転車との一体感のなさがレースででてしまいました。僕はフォームがぶれないように、最大限の力が出せるようにペダリングや、身体の使い方を常に意識して自転車を漕いでいます。それが一体感がないため、いつものように踏めず、ゴール前は自転車も身体も暴れていました(笑)。ゴールしてからも柏野さんに抜かれ4着だと思いました。結果的にハンドル投げで勝っていましたが…。

 この自転車に違和感があるままでは自分の持ってる力を出し切れないと判断したため、準決勝が終わったあと、今までの競走で使っていた自転車に戻しました。初日のレースではものすごく感触がよかったんですが…(笑) 。決勝戦のメンバーが出揃い、僕は福島の佐藤慎太郎さんとラインを組ませていただくことになりました。

決勝、ラインを組んだ選手を信頼する

 佐藤さんとは昨年9月の伊東温泉競輪場で行われた共同通信社杯以来2度目の連携になります。その時は1、2フィニッシュでした。決勝戦は佐藤さんにスタート真ん中辺りがとれたらとお願いしてましたので、最高の位置をとっていただきました。あのスタートの位置があったからこそのレースだったと思います。

 レースは浅井さんが前受けで、そこを野原君が抑える展開。そのあと、深谷さんはかまし狙いだと思ったので、深谷さんを牽制しつつ、自分は深谷さんが仕掛けた後スイッチする準備をします。打鐘前の2コーナーで深谷さんが仕掛けます。僕は準備をしていましたが、切り替えるのに失敗してしまい、自力で追いかける形になってしまいました。

 しかし、深谷さんと野原君で踏み合いになっていたので、チャンスだと思い、目一杯仕掛けました。深谷さんが野原君を叩ききった後、少しペースに入れたように見え、僕の仕掛けも気付かれていないような感じでしたので、ばれないように捲っていきました。深谷さんの番手の岡村さんを通過する時、こっちを見ていなかったはずなのに横に動いてきました。通過する音で察知したのか、車輪が見えたのか、これは避けきれず、少し失速しましたが、なんとか捲りきれました。

 まだ少しだけ余力が残っていたため、これは佐藤さんとゴール前勝負だと思って最終バックを通過しました。そして、2センター付近で佐藤さんが大きくブロックしてくれたのが見えました。頼むもう誰も来ないでくれ…と願いながら直線に入りました。この時はもう余力も残ってなく外から1人きてるのが見え…ゴールして、あぁ2着かぁ…。しかし、力を出し切り佐藤さんと、いいレースができたため、負けたものの爽快感がありました。

 地区が違っても番手にいきたいと、指名してくださるのはそれだけ魅力があると思われているということですし、それに応えたいと思いながらレースをしました。力が足りず優勝することはできませんでしたが、ラインを組んだ選手を信頼して、気持ちを前面に出してレースをすることは競輪の醍醐味なのかなとおもいます。それだけにどちらかは優勝したかったですが…(泣)。

惜しくも準優勝、でも爽快感もあった(7番車・松浦悠士選手)

高松記念で連覇達成

 岸和田記念に続き、今年2回目の優勝を飾ることができました。過密日程で疲労がピークを迎えている中での優勝は自信になりました。高松はとても相性が良く、連覇となりました。このままずっと連覇したいです(笑)。

過密スケジュールの中、連覇したことは自信になった

疲労よりもメンタルにダメージ

 ここではコンディションと優勝戦について話していこうと思います。まず高松のコンディションについて。正直身体の疲れはありました。が、一概に疲れがあるから調子が悪い、身体が動かないというわけではありません。高松バンクとの相性が良いこともあり、疲れはあるものの身体はしっかり動いていました。

 どちらかと言いますと、この時は精神(メンタル)面でのダメージが結構あり、それが少なからず影響していたかなと思います。レースを走るごとに負けられない、人気に応えないといけない、ラインで決めたい等のプレッシャーがかかります。そういう一瞬の迷いが仕掛けどころを逃したり、タイミングを狂わせたりするものです。2日目には弱音も吐いてしまいましたが…(笑)2着1着2着の勝ち上がりでしたが、「なんとか勝ち上がれた」という感覚でした。

 僕の場合、メンタル面での調整とかは特になく、レースでいいレースをすること、しっかり力を出し切ることと、リラックスできる時間をとったりすることで(スイーツとか笑)上手く調整できている気がします。正直ここまでの過密スケジュールで走ったことがなく、こんなにダメージがあるとは思いませんでした。スイーツが足りてませんでしたね(笑)

 しかし、決勝戦までいけば後のことを考える必要がなく、精神的には解放されました(笑)。頼もしい後輩もいましたし!

同県の後輩・町田君と決勝へ

優勝戦、町田君の選択について

 決勝戦は同県の後輩、町田君と一緒でした。彼はたまに一緒に練習するのですが、とても強くて練習では最近全然勝てません。まだ走り方に未熟な部分はあるものの、いきっぷり、素直さ、負けず嫌いな部分があり、選手として必要な性格的な要素も揃っています。いずれG1の決勝戦で連係することになると思います。その時を楽しみにしています。

 高松記念決勝戦では彼は後ろ攻めを選択しました。できたら中段がいいとのことでしたが、単騎のみなさんはさすがに入れてくれませんでした。『なぜ前を取らなかったのか』という書き込みをSNS等でよく見ましたが、僕は町田君のこの時の考えはよかったと思います。

 結果的に眞杉君につっぱられたものの、期も年齢も、町田君の方が後輩であり、前受けというのは、基本的に受けて立つ場所になります。僕は走り方、競輪道というものを大事にしたいと思っているので、「眞杉選手より後ろでレースしたい」という彼の言葉が嬉しかったです。

 行くタイミングや行き方に失敗して叩くことはできませんでしたが、しっかり眞杉君との力勝負をしてくれた結果、平原さんとのゴール勝負に持ち込め、僕の優勝がありました。昨年の10月頃から走る度に、平原さんにはやられっぱなしだったので、やっと勝てた〜とも思いました(笑)町田君の気持ちに応えれたことも嬉しかったです。

自分ひとりだけの力で勝っているわけではない

次回のコラム

 今回のコラムはここまでにします! 皆さん気になっていることと思いますが、今年最初のGI・全日本選抜の振り返りは次回に書きますね。ぜひ楽しみにお待ちください!

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松浦悠士の“真っ向勝負!”

松浦悠士

Matuura Yuji

広島県広島市出身。日本競輪学校第98期卒。2010年7月熊本競輪場でレースデビュー。2016年の日本選手権競輪でGⅠ初出場、2019年の全日本選抜競輪では初のGⅠ決勝進出を果たす。2019年の競輪祭でGⅠ初優勝を飾り、同年KEIRINグランプリにも出場。2020年のオールスター競輪では脇本雄太との死闘を制し、優勝。自身2つ目のGⅠタイトルを獲得した。ファンの間ではスイーツ好き男子と知られており、SNSでは美味しいスイーツの数々を紹介している。

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