アプリ限定 2025/04/21(月) 18:00 0 4
GIは多くの競輪選手にとって目的地であり、ひとつの到達点。中でも“最高峰”と銘打って開催されるのが「日本選手権競輪」、通称ダービーだ。全国からトップ選手が集結し、“ダービー王”の称号をかけて争われる初夏の熱戦。今年は10名の選手が初出場となっている。今回、シリーズ前の注目ポイントとして、初出場選手にフォーカスして紹介していく。北日本2名、南関東2名、中部3名、中国2名、九州1名。大舞台に挑む精鋭たちをチェックして、その奮闘ぶりに注目してほしい。(構成:netkeirin編集部)
選手名 | 期別 | 年齢 | 登録府県 | 級班 |
---|---|---|---|---|
中野慎詞 | 121期 | 25歳 | 岩手(北日本) | S級2班 |
窪木一茂 | 119期 | 35歳 | 福島(北日本) | S級2班 |
新村穣 | 119期 | 31歳 | 神奈川(南関東) | S級1班 |
道場晃規 | 117期 | 27歳 | 静岡(南関東) | S級1班 |
藤井侑吾 | 115期 | 30歳 | 愛知(中部) | S級1班 |
纐纈洸翔 | 121期 | 22歳 | 愛知(中部) | S級1班 |
村田祐樹 | 121期 | 26歳 | 富山(中部) | S級2班 |
月森亮輔 | 101期 | 33歳 | 岡山(中国) | S級2班 |
太田海也 | 121期 | 25歳 | 岡山(中国) | S級2班 |
青柳靖起 | 117期 | 25歳 | 佐賀(九州) | S級2班 |
今回、日本選手権競輪に初出場する選手たちを紹介していく。主な実績や昨年度(2024年4月〜3月)におけるグレードレース(9車立て)の成績も記載し、期待値を解き明かしていく。
2023年3月にネーションズカップ第2戦(カイロ)で金メダルを獲得し、8月には世界選手権で銅メダルを獲得。昨年は自転車トラック競技の日本代表としてパリ五輪に出場。ケイリン種目で決勝進出し、メダルには届かなかったが最終順位4位の成績を残した。現在もナショナルチームに籍を置き、3月のネーションズカップ(コンヤ)でも銅メダル獲得と、自転車競技のリーダー的存在で実績を積み上げている。
競輪選手としてもトップ戦線で活躍しており、2023年寛仁親王牌最終日にGI初勝利、2024年開催のビッグレースは競輪祭とヤンググランプリに出場。競輪祭は準決勝まで駒を進めるも4着で敗退した。ヤンググランプリは太田海也と主導権争いを演じ、準優勝。ネーションズカップから帰国後、中0日で出場した直近3月のウィナーズカップでは二次予選で敗退したものの、3日目に白星を挙げている。
また昨年開催のGIIIの出走は四日市記念と大垣記念の2本で、いずれも決勝進出に成功している。四日市記念の決勝では果敢な先行策で主導権を奪いレースを掌握、新山響平の優勝に大きく貢献した。ナショナル仕込みの脚力はダイナミックで、トップスピードの高さに加えて航続距離も長い点が特徴。初出場選手の中でも最有力選手といっても過言ではないだろう。
◆中野慎詞データ(2024年度9車立て成績)
出走 | 勝率 | 連対率 | 3連対率 |
---|---|---|---|
18 | 33.3% | 50.0% | 61.1% |
自転車競技の中長距離で輝かしい実績を築き上げている窪木一茂。リオデジャネイロ、パリと二度の五輪を経験しており、2021年〜24年「国際賞」を受賞している。2024年のパリ五輪ではオムニアムで6位入賞の好成績を残し、世界選手権ではスクラッチで金メダルを獲得している。競輪解説者の坂本勉氏(日本人初の五輪メダル獲得者)は当サイトのパリ五輪回顧で、「不得意とされてきた中長距離が世界で通用することを証明してくれた。日本代表チームの中でMVP級の活躍」と賞賛した。
自転車競技では紹介しきれないほどの功績にあふれている窪木だが、競輪はそもそも出走機会が少ないため、参考データに乏しい。2024年度はオールスター競輪と寛仁親王牌、共同通信社杯、ウィナーズカップに出場し14走。いずれも競技スケジュールの関係から休む間もなくの“強行出場”となっているため、万全のコンディションではなかったことだろう。
競輪選手人生で特別競輪の舞台は18走。窪木の勝利はまだない。来るダービーでは“世界の地脚”を披露して初白星をあげる姿に期待したい。
◆窪木一茂データ(2024年度9車立て成績)
出走 | 勝率 | 連対率 | 3連対率 |
---|---|---|---|
14 | 0.00% | 0.00% | 0.00% |
補欠(第1位)で選出となり、追加参戦という形でダービー初出場を決めたのが新村穣。昨夏8月の松戸記念で記念初優出を決めたかと思えば、続いて小田原記念でも決勝に駒を進めている。当サイトで展望コラムを執筆している解説者の吉井秀仁氏は「松戸で話したが真面目が服を着て歩いているような選手だった」と新村の印象を語っており、その実直さがまもなく結果に繋がるとしている。8月に2度の記念決勝を走ったわけだが、ともにラインの先頭を努めた。
また昨年10月の寛仁親王牌終了後、「GIを経験して自分の方向性が見えて、前回からフレームを変えた。セッティングは煮詰まってきたし、あとは体をすり合わせていければ」とさらに成長するためのピースを発見しており、年末のKEIRINグランプリシリーズでは決勝3着と躍動した。
新村の連対時の決まり手は「逃げ」が最も多く(直近6割超)、ライン貢献性の高い走りが目立っている。GIシリーズは2023年、2024年と寛仁親王牌に出場しているが、勝利はまだない。2024年の9車立てに限定した勝率は決して高くはないが、最高峰のGIで初白星を飾りたい。
◆新村穣データ(2024年度9車立て成績)
出走 | 勝率 | 連対率 | 3連対率 |
---|---|---|---|
38 | 3.0% | 21.8% | 34.2% |
着々と成績を向上させ2024年オールスター競輪でGI初出場を果たした道場晃規。初の大舞台は8・6・9着となり、苦汁をなめる結果となった。しかし今年2月の全日本選抜競輪2日目には点数上位の菊池岳仁、河端朋之との対戦になったが、冷静に機を見極めて捲り快勝。GI初勝利を飾り、レース後には「前回のオールスターは浮足立っていたけど、今回は気持ち的にも脚的にも余裕を持って走れています」と成長した姿を披露した。
また全日本選抜前の奈良記念では決勝に進出し、松井宏佑と郡司浩平と連係。主導権譲らぬ先行策に出て、番手松井の優勝に貢献し、自身は8着(事故入)ながらもファンの記憶に残るレースを演じた。
道場の戦法は捲りが主体で、連対時の決まり手は80%前後が捲りである。勝機を逃さず絶妙なタイミングで仕掛けて前を飲み込んでいくレーススタイルだ。ただ戦績データを分析すると7車立てレースと9車立てレースで勝率には開きがあり、9車立てに苦戦している様子も見受けられる。3回目のGIシリーズとなるダービーでの快進撃を期待したい。
◆道場晃規データ(2024年度9車立て成績)
出走 | 勝率 | 連対率 | 3連対率 |
---|---|---|---|
26 | 15.3% | 30.7% | 34.6% |
ダービーこそ初出場だが、すでに過去8度特別競輪に出場している藤井侑吾。GIに限れば競輪祭を2回、高松宮記念杯、オールスター競輪に出走歴があり、2024年岸和田の高松宮記念杯では準決シードの白虎賞に乗っている。GI出走18回を数えると意外にも1着はなく、2着が3回、3着が2回で未勝利の選手。今年の開催地・名古屋はホームバンクであり、初勝利を挙げるにこれ以上はない舞台。果敢に風を切る先行のスタイルで地元にその名を轟かせたい。
藤井といえば、今年1月の立川記念決勝で9着に沈むも強烈なインパクトを残している。藤井は山口拳矢、清水一幸と3車の中近ラインを形成し、S班の郡司浩平や平原康多をはじめ、取鳥雄吾、高橋築といった実力者を相手に戦う構図に。藤井の取ったアクションは前受けからの突っ張り先行、“重い”とされている冬の立川バンクを迫力のスピードで駆け抜けた。結果として番手山口拳矢が優勝し、その勝利に大きく貢献した。当サイトのグレードレース決勝回顧コラムを担当する“帝王”こと山田裕仁氏は「王道でありながら敵の裏をかくような戦略性があった」とその走りを解説、賞賛。GI級の相手に対しても自分のスタイルを貫く強さでファンを魅了した。
そんな藤井の地元GIが楽しみでならないが、懸念もある。今年2月、皮下組織に細菌が入ることで炎症を引き起こす蜂窩織炎(ほうかしきえん)を患い、豊橋GI全日本選抜競輪と名古屋記念を欠場。3月のウィナーズカップが復帰戦となったが、シリーズ中に「疲れやすくなった気がします」とコメントを残している。ホームバンクで大暴れして欲しいところだが、“調子”がどこまで戻っているか? その点はファンも注意しておくべきポイントだろう。
◆藤井侑吾データ(2024年度9車立て成績)
出走 | 勝率 | 連対率 | 3連対率 |
---|---|---|---|
53 | 26.4% | 45.2% | 49.0% |
今回のダービー初出場選手の中で最年少22歳の纐纈洸翔。昨年のオールスター競輪でGI初参戦に挑むも8着、7着、7着の洗礼を受けた。その後、2024年度は共同通信社杯、ヤンググランプリ、ウィナーズカップなどのGIIグレードに出場し躍動。年末のグランプリシリーズではヤンググランプリの覇者となり、GII成績は勝率33%、連対率44%、3連対率56%の好数字を残している。
また藤井侑吾と同様に名古屋がホームバンク。3月開催の名古屋記念では二次予選で9着となり敗退した。鬱憤を晴らすべく、ダービーでは地の利を活かして奮闘したい。一点気がかりなのはダービー前のラスト出走となる平塚FI準決勝において最終直線で落車、レースを棄権し、そのまま途中欠場している点だ。身体に大きなダメージを受けていることは明白であり、コンディションが心配される。卒業記念レースやヤンググランプリといった名前が刻まれる“ここぞのレース”で結果を出してきた纐纈。大一番で奮起する姿が楽しみだ。
◆纐纈洸翔データ(2024年度9車立て成績)
出走 | 勝率 | 連対率 | 3連対率 |
---|---|---|---|
48 | 29.1% | 39.5% | 47.9% |
富山籍の村田祐樹は昨年のオールスター、寛仁親王牌に続き3度目のGIシリーズ。中部地区プロの1kmTT王者で、自転車競技で培った脚力を武器に長い距離でもダイナミックに逃げていく。
昨年9月の岐阜記念では決勝に駒を進め、松浦悠士や深谷知広、青野将大との対戦となったが、打鐘過ぎにカマシて最終ホームで青野から主導権を奪い去ると、そのまま加速していき独走状態に。最終直線まで失速せずにリードを保ち「GIII初優出初優勝」を思わせた。最後の最後で松浦悠士、深谷知広に捉えられてしまったが、インパクト大の逃げ脚にファンが湧き、GI級の選手相手にも引けを取らない粘り強さを見せた。
地元中部で行われる今年のダービーでは、ラインの先頭でレースを作る重責を担う可能性が濃厚なため、ここで存在感を示し自らも勝ち上がりを決めたいところ。2024年11月に松阪GIIIの2日目で落車。以降は競走得点を下げ続けており、一時期108点台を刻んでいた得点は、直近4月の高知記念終了時点で100点台に。地元地区の大一番で復調して、GI初勝利を狙いたい。余談だが、ネッツトヨタ富山のCMに出演しており、『自転車も車も風を切って走りたい』という台詞を口にしている。
◆村田祐樹データ(2024年度9車立て成績)
出走 | 勝率 | 連対率 | 3連対率 |
---|---|---|---|
33 | 6.0% | 30.3% | 42.4% |
今回紹介しているダービー初出場選手の中で最年長は35歳の窪木一茂だが、競輪選手としてのキャリアが一番長いのが月森亮輔だ。月森以外は115期卒以降の選手で月森は101期。長い道のりを経て最高峰のGIに辿り着いた。GIの初舞台は昨年の競輪祭。今回のダービーでGIシリーズは2戦目となる。月森の競輪祭といえば最終日に鋭い伸び脚を見せており、大外を回りながら入った直線で8番手から7人飲み込んでの2着。大きい着が続いたシリーズで煮え湯を飲まされたが、最後は初GI初確定板で終えた。
月森は23年の中国地区プロのエリミネーションで優勝し、24年も準優勝。決められた周回で最後尾の選手が脱落していくサバイバルレースを得意としている。対戦相手と自分の余力で駆け引きする競輪でも巧みな位置取りを見せ、隙があれば逃げたりと多彩な走りで勝利を模索。180オーバーの大柄な選手だが、細かく器用な面を武器にしている。
GI出場の契機は昨年8月の松戸記念。取鳥雄吾、清水裕友と勝ち上がり、決勝ではライン3番手を固めた。レースは南関4車の先制を取鳥が許さずイン粘り、もつれたところを平原康多が先行していく展開に。勝負所で清水が捲り、月森も食い下がり追走し切って2着。スピードの上下するタフなレースでチャンスを掴んだ。ダービー出場選手の中で競走得点的には下位に位置しているが、侮れない存在だ。
◆月森亮輔データ(2024年度9車立て成績)
出走 | 勝率 | 連対率 | 3連対率 |
---|---|---|---|
45 | 8.0% | 20.0% | 26.6% |
日本代表としてパリ五輪に出場し、中野慎詞とともに活躍。2024年はネーションズカップでケイリンとスプリントで金メダルを獲得し、世界選手権ではスプリントで日本人35年ぶりとなる銅メダルを獲得した。世界を相手に快進撃を続けており、次回五輪でのメダルが期待されている。
競輪選手としての成績も目を見張るものがあり、2023年競輪祭は決勝進出を果たし最終4着、同年ヤンググランプリで優勝。GI初登場は2023年8月のオールスターだったが、初出場でありながら準決勝に進出した。初出場となるダービーでは、台風の目になるのはもちろんのこと、“いきなり”があっても何ら不思議ではない。
ただし、直近の武雄記念は強さと存在感を示しながら勝ち進みファイナリストになるも、決勝レース最終直線で痛恨の落車。本人SNSによると「技術不足でした。怪我より情けなさで心が痛いので練習します」とのこと。軽症であることを願うばかりだ。
◆太田海也データ(2024年度9車立て成績)
出走 | 勝率 | 連対率 | 3連対率 |
---|---|---|---|
26 | 30.7% | 50.0% | 61.5% |
117期の卒期チャンプ青柳靖起がダービーでGIの舞台に初登場する。特別競輪の出走歴は3回でいずれもウィナーズカップ。2023年〜今年までの3連続出場となっている。そのウィナーズカップでの戦績だが、11走してすべて着外と上位戦の厳しいレースに苦戦している様子がうかがえる。だが、2024年の終盤戦では勝率、連対率ともに右肩上がりの成績を築き上げており、強さの片鱗が着実に顕在化してきている。
昨年12月の佐世保記念に公開された当サイトの現地記者取材ニュースによると、好調の要因は「昨年9月の青森記念でS班眞杉匠に自転車のセッティングを見てもらったこと」だという。2024年大晦日には本人のSNSでも「後半から少しずつ自転車がマッチしてきて成績も良くなってきました!来年も今の流れを維持してぶち上げていきます(炎の絵文字)」と報告している。
初日2着で好スタートを切るも2日目で無念の事故棄権となり勝ち上がりを逃した直近の地元記念。悔しさを最高峰のGIにぶち当てて欲しい。ちなみに2023年のウィナーズカップで特別競輪に初出場した際には「緊張はしていない」と強心臓ぶりを見せつけていた。ダービーでも初出場だからといって硬直してしまうことはなさそうだ。
◆青柳靖起データ(2024年度9車立て成績)
出走 | 勝率 | 連対率 | 3連対率 |
---|---|---|---|
32 | 1.2% | 28.1% | 40.6% |
今回はダービー初出場選手を紹介したが、自転車トラック競技日本代表の中野慎詞と太田海也への注目は当然としても地元勢も強力な選手が顔を揃えている。最高峰のGIにつき、軽々しく『初出場初優勝だ!』などの言葉で結ぶことはできないが、GI決勝経験がある太田海也には“いきなり”の大快挙を期待してしまう。また優勝の確率は低くとも、躍進を遂げて存在感を示すであろう選手は目白押し。全員に注目するも良し、推し選手をセットするも良し。初出場選手に注目して、名古屋ダービーをより楽しみましょう!