ーーいわき平のオールスター競輪は長丁場、お疲れ様でした。

　いやあ、疲れました。何がきつかったって1週間、酒が飲めないってところで。いま宿舎は終日、酒を出していないんです。だから終わってすぐコンビニに寄ってビールを流し込みました。あれはうまかった。あ〜ってなりました。

ーーあの強豪たちを相手にGI決勝まで勝ち上がるとは思いもよりませんでした。

　自分でも驚きました。ワッキー(脇本雄太)に会えたのが良かったのかな。数少ない友人だから。今年のGIは出るたびにダメで、負け戦で1着を取るのがやっとだったし今回はちょっとだけ存在感を出せました。

ーー開催中、某スポーツ紙に掲載された中野浩一氏のコラムでは「セイちゃん、やればできるじゃないか」と褒められていましたね。

　ああ、読みました。まだ気にかけてくれていたんだとうれしくなりました。最近は悪口すら書かれなくなっていて寂しかったから。悪口やヤジって無きゃ無いで物足りないです(笑)。

ーー特に二次予選のカマシ先行、逃げ切り勝ちには度肝を抜かれました。

　スキがあるときはFI負け戦だろうがGI勝ち上がりだろうが関係なく逃げるんです。実際にバックを取ったときの方が勝率はいいはずだから調べてみてください。二次予選はいわゆる〝誠一郎チャンス〟でした。駆けた方がいいというところで体が動いてくれたパターンです。なかなか珍しいんですよ、あれ。

ーーそれは後ろが普段から可愛がっている同県の後輩(中本匠栄)だったということもありますよね。

　もちろん、それはあります、あります。後ろが誰だから先行したくないとかも今は別にないですけど。あっ“今は”とかいらないか。

ーー中川選手は「まくり」の印象が強いので「先行」への意識が高かったとは意外です。

　レースを走る上で、例えばラインが４つあっても先行できるのは１人でしょ。あと３人はまくりになっちゃう。だから可能性として先行回数が少なくなる。それに元々、積極タイプじゃないのでまくりになる方が絶対に多い。先行したくない、できないのではなくて、まくりになる方が多いというだけ。これは統計学的なものです。

ーー決勝戦は単騎か深谷知広選手に付くかの2択でした。かなり迷ったそうですね。

　北が4人でそのうち福島が3人だったから、(深谷と)同期の守澤(太志)が深谷の番手を主張すると思っていました。だから、こっちはもう単騎でやろうと気持ちを固めようとしたら、まさか番手が空いて。いざ、空いたら空いたで迷いました。

ーー深谷選手の勝ち上がり方は充実しており超抜なデキでした。

　そうなんですよ。“超・優良物件”が決勝の大一番でポロっと出てきたから。しかも山口拳矢君のお父さん(山口幸二氏)が、聞こえるか聞こえないかの声で「セイちゃん、優勝するなら深谷の番手じゃない?」って怪しくささやいてきた(笑)。だから余計にこんがらがりました。

ーー山口拳矢選手のお父上がそんなことを言ってきたんですね。結論は「単騎で自力」でした。

　自力でずっと戦った身としてワッキー、新田、深谷とGIの決勝で戦えるって光栄なことでしょ。決めたときは、もう自己満足の世界に入ってました。壮大なマスターベーションといいますか。

　あと先輩風を吹かせれば、ワッキーと新田には「お疲れ様!」、深谷には「パリがあるぞ!」って伝えたかったのかも…。たまーに、こういったセンチメンタルな感情が出るんです。

ーー無謀な挑戦状との声もありました。いざ、戦っていかがでしたか。

　完敗でした。負ける可能性が極めて高い戦いだと分かっていたし、ワッキーをすんなり出したらおしまい。新田が抵抗するしか自分の勝つパターンがなかったけどそうならなかったので。打鐘から1ミリも仕掛けるスキがないし、あきらめの笑いがでました。レース後はぶっ倒れているワッキーに「参りました…」と一言伝えてきました。

　負けたあとって「ああしとけば良かった」とか「打鐘からやり直したい」って思いが浮かぶものだけど、あの決勝に関してはもうやり直さなくていいです。何回やっても同じだと思うから。

ーーそれだけ脇本選手の先行力がすごかったのですね。

　それに尽きます。だって3番手の平原(康多)がパクパクしているんですよ。打鐘からホーム、ホームから最終バックのタイムがいずれも10秒台で、古性(優作)の差しが11秒2。ワッキー以外だと古性の位置しか勝負圏がなかった。

ーー“たられば”で、何らかの動きがあればワンチャンスあったと思いますか。

　新田が抵抗する以外、ワッキーのスンナリ先行を相手に何ができますか?　深谷もオレも粘らないし、平原も3番手があれば2車には競らない。そもそも、今の古性に粘る選手なんかこの世にいないか(笑)。

ーー深谷選手に付いておけば…との後悔は無かった。

　これは半々で。レース後、深谷に謝りましたもん。「悪かったね、本当は付きたかったんだ。でも、このメンバーでオレも自力でやってみたかったんだ」って。そうしたら「…わかります」って。しかも、「この先、もし付いてもらえるのなら今度は行きますよ!」とも言ってくれた。

　だけど、もし仮にオレが深谷に付いていたとしても、ワッキーに抵抗する手段は番手から出るしかなかった。それでもワッキーには行かれていたでしょうね。レース後、荒井(崇博)さんに言われたんです。「もし深谷に付いて番手まくりを打ったとしても結局7、8着だっただろうな」って。それなら単騎で8着の方が見栄えも悪くないし、誰も傷つかないから決勝はこれで良かったと思っています。欲を言えば成田(和也)さんを拾いたかったけど(笑)。

ーー7月高知記念(GIII)から動きが良化していますね。同月の函館サマーナイトフェスティバル(GII)の際には「これじゃあS級落第です」とボヤいていた人と同一人物の仕業には見えません。何かきっかけがあったのですか。

　サマーナイトというか、函館はいつも成績が悪いんですよ。たぶん前々検日と前検日にすでに気持ちが萎えてしまうんでしょうね。もうやり切ったなと。

ーーそれは、どういうことでしょうか。

　前々検日にうまい寿司を食べて、前検日に宿舎でジンギスカンを食べたらもう満足で。旅行気分というか何か海外にいるようなぬるい気持ちになってしまって、どうにもならなくなる。函館で後泊したホテルの露天風呂でそんなことをずっと考えてました。

ーー高知記念から見違えるほど充実しています。

　高知の少し前、たまたまテレビを付けたら東京五輪の開会式をやっていました。見ていたらドラクエの音楽みたいなのが聞こえてきて。途中からだったから聞き間違いかと思ったらその後にファイナルファンタジーやモンハンの音楽が流れてきて、これはすごいと身震いしたんです。オレはゲーム好きだから感動しましてね、思わず泣いてしまったんですよ。

ーー泣いた!? 競技を見て感動したとかではなくて。

　そもそも競技は始まってもいなかったんです。しかも国名や選手団のプラカードが漫画の吹き出しだったでしょ。オレはゲームと漫画は小さいころから大好きだから、何か自分の人生を肯定された気がして。そこへ使うのってところに涙腺が崩壊して、ちょっと人生そのものにやる気が湧いてきたんです。

ーー人生そのもの、とは壮大ですね。「競輪」もその中には含まれているのでしょうか。

　人生で大事なことのやる気ボタンに、たまたま競輪があったって感じですね、これでも仕事なんで。高知は心に希望が開けた最初のレースだったから頑張れました。

　オールスターはそれにプラスで、ワッキーと新田の競輪を見て「もしかしたらオレにもできるんじゃないか?」と勘違いしたからでしょう。(オールスターで)決勝に上がれた原動力だと思っています。

ーーオレにもできるとはどういうことでしょう。それは錯覚ではないですか。

　まあ、たしかに錯覚と言えば錯覚なんでしょうけど。ただ、すぐに心が病んでしまうタイプなので、乗っているときは過信してもいいのかなと思うんです。どれだけ続くかはわかりませんよ(笑)。

ーーその脇本選手と新田選手の出場した東京五輪「トラック競技」をご覧になっていかがでしたか。

　結果は残念でしたけど、日本の代表として頑張ってくれたのがうれしかったです。緊張感や独特な空気は自分には伝わってきた。あのなかで100%の力を出せる人の方が少ないですから。ただワッキーは「スプリント」を頑張りすぎたのかもしれませんね。オランダの(ハリー)ラブレイセンもケイリンになったら動きが悪かったでしょ。

ーーオールスターでは仲のいい脇本選手と久しぶりに再会できましたね。

　ワッキーは相変わらずでした。今年初めてまともに話したかも。最近はナショナルチームの責任を背負っていたからピリっとしていて、公人って感じ。例えると Twitter の公式マークが付きました、みたいなちゃんとしていますよ感。実際ワッキーの Twitter には公式マークはないけど(笑)。だから2人のときだけ思い切りふざけます。

ーーどんなやり取りがありましたか。

　周りから「ケイリン」のことを聞かれすぎて飽きていたと思ったから、オレはゲームの話と「スプリント」の専門的な話しかしなかった。ワッキーがレースのない休みの日には(脇本の弟の)勇希を交えてゲームの話を延々としてました。

　あとは10月に熊本のバンクが取り壊される予定なので、チャンスがあれば福井へ出稽古に行きたいねとか今後のビジョンですか。ワッキーも「自由な身になったから」って熊本にメシを食いに来たいみたいで。コロナの影響もあるから当分は無理でしょうけど、もし来てくれたら昼も夜も大接待しますよ。

ーー新田選手とも話はしましたか。

　新田は会うなり「netkeirinのインタビュー読みましたよ。あれでヤル気が出ました!」って言ってきました(笑)。あとは「ケイリン」の話を少ししましたね。準々決勝はラブレイセンに疲れがあったから流したんじゃないかなってオレはずっと思っていて。本調子だったら先行していたのかなって。そんなマジメな話をしていました。

ーー元・五輪選手としてわき立つ思いを感じながら観戦していたのではないですか。

　そりゃ、見ている方が出るより楽しめます。自分は8年間、出る側だったのでなかなか楽しめなかった。口では楽しもうと思っていたけど、いざ出るとなると「楽しい」って言葉は口にはでない。今回は張り詰める緊張感もなくテレビにかじりつき、時には晩酌をしながら一日中くぎ付けでしたね。

ーー五輪もオールスターも終わりました。中川選手は今月21日から、松戸記念(GIII)が控えています。

　松戸は勝負駆けなんです。競輪祭の選考期間が今月いっぱいで、競走得点を109・5点ぐらいまで上げるか、決勝3着以内に入らないとダメ。最近は記念以外のGIII開催が増えたので、点数で潜り込める枠が減ったから必死なんです。

　噂ではオールスターで決勝に乗って点数を上げたからセーフティゾーンに入ったという話も聞きましたが、どうなるか分からない。S級に上がってからはナショナルチームのからみさえ無ければ競輪祭はほぼほぼ出場しているので今年も狙っています。

ーー今回もいろいろとお話をありがとうございました。最後に質問やお悩み相談が来ていますのでお答えください。

Q、中川さん最近負け多くないですか? 走りが好きなので断酒して練習しまくってください。あと負けすぎるとヤケ酒とかするんですか?
(神奈川県/30代/男性)

　これは無理な話ですね。だって酒を断ったらもっと弱くなりますよ。ヤケ酒は…するに決まっているじゃないですか! 若いときなんかヤケ酒しかしていなかったです。合志(正臣)さんにグチを聞いてもらいながら絡み酒をしまくっていました。

Q、前回のインタビューを拝見しました。私は長塚智広選手の大ファンでしたので久しぶりにお名前が聞けてとてもうれしかったです。ところで長塚さんはお元気なのでしょうか?
(愛知県/40代/女性)

　長塚さんですか…。詳しくはわかりませんが優勝とかしたら「おめでとう」ってメールを頂いたりしますので、お元気なのは間違いないです。そうだ、東京五輪の際に伊豆のベロドロームで見たって目撃情報がありました。あとはウィキペディアやSNSででも調べてください。

Q、誠ちゃんは力があるのに、なぜいつも諦めが早いのですか? ずっと応援しています。
(埼玉県/40代/女性)

　ん〜、これは難しいですね…短いながらも刺さる質問です(笑)。何でかなぁ〜。力尽きて内に降りても怖い人たちにハネ返されてしまうのと、落車に巻き込まれたくないって気持ちが本能にあって。オレの大前提がほかとズレているのかもしれません。冷静に計算してしまうところ、選手としては悪いところなんでしょうね。

Q、競輪ファン歴が浅いため中川選手が2度も五輪に出場しているとは知りませんでした。脇本選手、新田選手たちの東京五輪を見て3年後のパリを目指そうとは思いませんか?
(愛媛県/20代/男性)

　これはまったく刺さらない質問(笑)。パリのときオレ45歳ですよ。無理に決まっているじゃないですか!　仮にもし、今から伊豆のブノワのところへ行って「ナショナルBチームに入れてください!」って直訴しても、「Youは何しに伊豆へ?」って冷たくあしらわれて帰されるのがオチです。

Q、競輪の予想がなかなか当たりません、どうすればいいのでしょうか?
(熊本県/70代/男性)

　熊本、70代、予想って…。これ、絶対にコンドルの社長ですよね(笑)。社長はカネを持っているんだから黙って全通り買って、あとは祈っててください!　ぐらいしか答えようがないですよ。