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前田睦生の感情移入

【競輪の真髄】競輪は人生の縮図、中野慎詞に学ぶメンタリティ

2025/09/14 (日) 12:00 10

中野慎詞は勝ち上がってもこの表情

自分の位置を知る

 『自分を見失う』ということは人生においてままある。自分がどこにいて何をしているのか、何をすべきなのか…。実態と乖離してしまい、ともすれば自虐的に、はたまた浮ついて傲慢に。傍から見るとそれは明らかなのだが、自分では気づかない。もちろん、いい方には進まない。

 福井競輪場で開催されている「第41回共同通信社杯競輪(GII)」の2日目、中野慎詞(26歳・岩手=121期)の態度を見て、強くそんなことを感じた。中野慎詞のメンタリティは、寸分のぶれもなかった。

 3着までが準決進出となる二次予選Bを走り、混戦になったところを2着に入った。中野らしい自力を出してのものではなかったが、なんとか対応したことはプラスなのかと思った。だが、当の本人は「まったくダメ」と断じた。自分を見極めていた。

どこに進もうとしているか

エリートに見えて叩き上げ

 この結果に甘んじては、自分がたどり着くべき場所にはたどり着けない。到達点と現在地を把握しているからこその態度だった。自分に厳しいのではなく、それが普通。“中野慎詞のメンタリティ”だった。

 人生という大きなくくりの中でも、あれよあれよといい結果が出て前に進んだような気になることがある。そこで浮つくと、自分自身の基盤がないので、崩れた時に立て直せない。そこに対して冷静であることを、中野慎詞は知っている。

 若くしてナショナルチームに抜擢され、五輪にも出場したアスリート。それでいて、自分に対して強い気持ちで向き合える情熱の男。エリートの道を歩んでいても、真実は泥臭く自分と向き合ってきた叩き上げなのだ。スイスイと上がっていったのではなく、不器用に。

 競輪の取材のシーンでもいろんな光景があるわけだが、勝ち上がってもこれだけ悔しそうにしているのはなかなか見ることはなく、ハッとした。

整然とすること

整然とする美学

 考え方が統一的であればあるほど、進む道も明確になる。共同通信社杯競輪は最終日に「お帰り」と呼ばれる、3日目に帰郷選手が発生するレースプログラムになっている。最終日に企画レースが入ることが多かったこともあるが、今回はないので最終日は11R制になる。

 GI、GIIは権利を獲得して出場できるレースなので、基本的に最終日まで走れることが大事だと思う。さすがにダービー(日本選手権競輪)やオールスター競輪といった多人数の長丁場はサバイバルになるが、4日制では108人、9選手×12Rでわかりやすい。

 また、GIIの共同通信社杯競輪とウィナーズカップはFIの成績上位者が選考基準として存在するが、GI、GII、GIIIを勝っても出られないケースがある。今回は吉田拓矢(30歳・茨城=107期)がダービーを優勝したのに出場権がなく、推薦での出場だった(今回の抽選敗退や、ケガの後遺症での欠場はやむなし)。

 なにかモヤモヤするものが続いていて…だったが、中野慎詞の態度を見ていると、曖昧にしておくことはよくないのだろうと改めて感じたものである。


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前田睦生

Maeda Mutuo

鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。

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