アプリ限定 2025/08/04 (月) 12:00 9
競輪界のシンデレラ・仲澤春香選手(24歳・福井=126期)。ナショナルチームでのストイックな日々、初めて経験したGI『パールカップ』の振り返りに加え、目前に迫る『女子オールスター競輪』への意気込みを語ります。彼女の強みである“強い気持ち”の源泉と未来への挑戦、そして知られざる素顔に迫ります。
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現在、ナショナルチームBに所属している仲澤。ガールズケイリンのレース参加がなければ、月曜日から土曜日までは決められたトレーニングメニューをこなし、日曜日はオフという生活だ。
「食事は基本的に自炊です。自分から栄養士さんに食事のことなど聞いています。開催で同期と食事に行ったときなどに自分だけちょっと我慢することはありますが、この生活には慣れてきました。元々食べることは大好きだけど、ストレスなくできています」
今のナショナルチームでの目標は、8月末に開催される全日本自転車競技選手権大会(8月22日〜25日・伊豆ベロドローム)で結果を出すこと。
「BチームからAチームへの昇格や、10月の世界選手権に出られるかは全日本の結果次第になると思うので。強化したいポイントは全部ですね」
なかでもフィジカル面の課題についてはコーチから指摘を受けているそうで、世界で戦うための体づくりに努めている。チームスプリントでともに戦う佐藤水菜の存在も大きな刺激になっているといい、ストイックに日々を過ごしている。
「すごいと思いすぎてはいけないかもしれないですが、本当にサトミナさんはすごいんです。自分はまず1日1日、生活のクオリティから上げていかないといけない。食事、睡眠、トレーニングとコツコツやっていくしかないですね」
ナショナルチームの先輩である男子選手も女子選手にもリスペクトを置き「世界で戦っている姿は憧れます」と話しつつも「憧れているようではまだまだですね」と表情を引き締めた。
デビューから1年が経過し、65レースで57勝。勝率は87.6% 、3連対率は95.3% (7月31日時点)と素晴らしい成績を残している仲澤。心に残る“会心のレース”はあったのか。
「難しい質問ですね。結果オーライのレースもあったし、周りがいいって言ってくれるレースもあったけど、判断が難しい…」
ガールズケイリンファンなら、仲澤がセンセーショナルな勝ち方をしたレースが頭に浮かぶだろう。例えば、1月の大宮競輪決勝で太田りゆを破ったレース。最終バックで完璧なまくりを放った太田に前に出られた仲澤は、そこから踏み直し直線で外から太田を差し返して優勝した。
「あのレースは直線の長さに助けられただけ。理想は先まくりで外併走のりゆさんを合わせて勝つことでした。自分の中ではいったん前に出られている時点で満足はできない。勝ったけどベストレースではないですね」
まっすぐな瞳できっぱりとそう言った仲澤。これだけ白星を積み重ねてもインタビューでは常に謙虚で、時折自信のなさすら覗かせていることが不思議に思えたが、仲澤が目指す理想はまだまだ先にあるからこその言葉だったようだ。
「今年からGIに参加する機会が増えていく。その中で自分が納得するレースができれば、“ベストレース”と言えるものが出てくるかもしれません。パールカップでも納得いくレースはなかったし、自分の弱い部分が出てしまったので… これからですかね」
6月、パールカップでのGIデビューも鮮烈だった。初日の西日本予選は小林優香の追い込みに屈したものの、積極的に仕掛け山原さくらに踏み勝った。
「パールカップは男子のGIと一緒の開催だったので、記者さんの数がものすごく多くて驚きました。初日のレースはすごく緊張していて、とにかく後手だけは踏まないようにと思って走りました」
グランプリレーサーの坂口楓華、尾方真生ら錚々たるメンバーがそろった西日本準決勝。仲澤はGI初出場ながら1番人気に推された。ここでも果敢に攻め1着。東西準決勝の勝利者インタビューで佐藤水菜と肩を並べ笑顔を見せた。
「あのときサトミナさんと何か話していたかな…? 普段から仲良くさせてもらっているのであまり覚えていなくて(笑)」
目標として掲げていた決勝進出は叶ったが、決勝では5着に敗れた。打鐘で先行した奥井迪の2番手と好位置にいたものの、ホームで佐藤水菜に仕掛けを許してしまう。
「平常心で走れたけど…。後ろに強い選手がいる状況で、勝負所で脚が固まってしまった。レースが始まる前から、後ろからまくれる脚はないのだから絶対先に仕掛けなきゃダメだと思っていた。結局前々にいられたのに仕掛けられなかったのは、自信がなかったからだと思います」
敗因は、仕掛け損じてしまったことだけではないと分析する。
「前にいた奥井さんとの車間も空けすぎてしまったし、決勝はミスしかしていないレースでした。勇気を持って、動くべきところで動けるように今後のレースに生かします」
競輪界では今、仲澤と同郷の福井支部の選手が何かと話題だ。グランプリスラムの脇本雄太に、トップ戦線で活躍する寺崎浩平、さらに養成所を早期卒業した市田龍生都もいる。パールカップ決勝のあと、脇本からは直接アドバイスを受けたそうだ。
「決勝のあと、脇本さんが来てくださって『決勝はもっと早いタイミングで仕掛けないと』と。自分でも感じていた部分だったので、やっぱりそうだよなと。自分が競輪選手を目指し始めたころに脇本さんがナショナルチームを引退して福井に戻ってきたので、ナショナルチームで直接交流したことはなかったのですが、優しく接してくださるのでありがたいです」
高みを見据えるゆえに、謙虚な言葉が目立つ仲澤。では、彼女が考える“自分自身の強み”とは何だろうか。
「うーん…。自分ではまったく意識していないけど、気持ちの部分なのかな。最後まで諦めないで踏むところですかね。強い人と比べてしまうと脚力では自信がないし、粗が見えてしまうので」
根性、粘り強さーー。長い距離を踏んでも失速せず、不利な展開でも驚異的なしぶとさで勝ちをもぎ取る仲澤には、そんな言葉が似合う。
「根性、どうなんですかね…。自分のミスで苦しい展開にしてしまっているのですが、そこから勝てていると根性があるように見えるのかな…。ウエイトトレーニングではいつも『もっと、もっと』と言われているんですよ(笑)」
見る者を熱くさせる走りとは対照的に、自分自身を冷静に見つめている。会話からクレバーさがひしひしと伝わってくるが、そのキャラクターは非常に親しみやすい。まだミステリアスな部分も多い仲澤に、休日の過ごし方を聞いてみると…。
「休日は体を休めることが第一で、ご飯を食べに行ったりはしますね。お肉とアイスクリームが好きです。伊豆はおいしい定食屋さんがたくさんあるんですよ」
ナショナルチームでのトレーニングは苦しいことも多いだろうが、モチベーションの源となっていることはあるのだろうか?
「(練習で)数字が出ることが一番のモチベーションで、本当に無趣味なんです(笑)。でも服は好きかな。友達と電話もよくします。同期の平子(結菜)には自転車の話、練習の話も全部聞いてもらっています」
その平子に仲澤のことを聞いてみると、こんなエピソードが返ってきた。
「仲澤さんはめちゃくちゃ負けず嫌いで、向上心がある人。養成所で仲澤さんは一番強かったんですが、ナショナルチームの大会に出て、先輩たちにコテンパンにやられて帰ってきたときは相当落ち込んでいて『もう無理かも、自転車辞めようかな』と言っていて…。そのときは手紙を書いて渡しました。電話はよくしますね。パールカップで私が補充で入ったときもいっぱい話しました。まだ自分はGIに出られる選手ではないけど、いずれGIに一緒に参加できるようになればいいですね」
佐藤水菜や梅川風子がそうであったように、ナショナルチームである以上ガールズグランプリへの出場はGIタイトルを獲ることがほぼ必須条件となる。仲澤は力強く語る。
「自分の場合、グランプリに出るためには賞金の積み重ねでは厳しい。GIを優勝するしかありません。今年中にとは言いませんが、GIを優勝することが目標です」
ボート競技での挫折を経て飛び込んだガールズケイリンの世界。その魅力をこう語る。
「ガールズケイリンの魅力は、プロスポーツとして確立しているところだと思います。女子のプロスポーツできちんと稼げる競技は一握りだと思うけど、みんな自転車は小さいころから馴染みがあるし、誰でも挑戦できる。とても可能性があるスポーツだと思います」
仲澤にとって2度目となるGI『女子オールスター競輪』が間近に迫っている。
GIとしては初開催となるオールスターは、ファン投票で出場選手が決まる。仲澤は初めてのファン投票で14位となる5,792票を獲得した。
「中間発表を4月の岐阜参加中に聞いて、想像以上の順位(10位)だったのでビックリしました。最終的には14位だったけど、素晴らしい選手がたくさんいる中で選んでもらえて感謝の気持ちでいっぱいです。自分は華があるタイプじゃないと思うし、勝利者インタビューで気の利いたことも言えないので…。走りで評価してもらえたのなら、すごくうれしいです」
開催地は宇都宮競輪場。長走路の500バンクで、強地脚の仲澤とは相性がよさそうだ。500バンクは1月の大宮でしか経験がないが、先述の通り驚異的な走りで完全優勝しておりイメージは悪くない。
「初めて走るバンクは情報収集をして行きますね。過去の宇都宮でのレースダイジェストを見てイメージをふくらませようと思います。前検日の指定練習で感覚をつかめれば」
最後に女子オールスター競輪への意気込みを聞いた。
「パールカップから福井、四日市、別府とガールズケイリンで走れているので、セッティングや部品などいろいろ試すことができています。パールカップから修正した状態で走れると思うので、女子オールスター競輪では今できる100%のレースをお見せしたいと思います。応援していただけたらうれしいです」
ひとつの経験も無駄にせず、ストイックに自転車と向き合う仲澤春香。これまで歩んできた道のりは、決して順風満帆ではなかった。その心の内を聞き、彼女は“超新星”の枠に収めるべき選手ではないと思い知った。
“最後まで諦めない”ーーその気持ちを誰よりも強く持ちペダルを踏み続ける彼女が、ガールズケイリン、そして自転車競技で頂点に立つ日を見届けたい。
取材:デイリースポーツ・松本直
撮影:北山宏一
構成:netkeirin編集部
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netkeirin特派員による本格的読み物コーナー。競輪に関わる人や出来事を取材し、競輪の世界にまつわるドラマをお届けします