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前田睦生の感情移入

【平安賞】厳格だった村上義弘と稲垣裕之の語り継がれる歴史、そして生まれ変わる向日町バンク

2024/09/04 (水) 12:00 43

村上義弘さん(右)と稲垣裕之の関係性は壮絶なものがあった

歴史の話として語り継がれる。

 向日町競輪場で大阪・関西万博協賛「開設74周年記念 平安賞(GIII)」が9月5日に開幕する。向日町競輪場。最寄りの駅からなだらかな坂道を上がっていくと、蕭々とそこに建っている。竹林がそばにあるせいか、涼しげで、透徹。今回の平安賞の後、生まれ変わる。

 少し長い時間をかけて、大規模な自転車総合テーマパークになる。防災拠点としての機能も備え、2029年度のリニューアルオープンを目指す。ちょっと長いが、楽しみに待つほかない。オールドファンには、長生きしてよ、ということだと捉えよう。

 私が取材記者になったころ、「平安賞」といえば村上義弘さん(引退=73期)が格別の思いを持って臨むことで、GIを含めても、この大会だけ異常なまでの緊張感があった。他の地区の選手、また近畿の選手たちがそれを感じ取って走ることで、平安賞は死闘といっていいレースが多い。

 特に村上さんと稲垣裕之(47歳・京都=86期)の関係は深く、2人の戦いは今後語り継がれるものだろう。眉間にしわを寄せ、唇を噛みしめ、矢雨降る中でも進軍あるのみの表情だった。ケガの出術を経てになるが、稲垣、に期待したい。

窓場千加頼のあの時

藤木裕の表彰式を見守る村上博幸(左)と山田久徳

 2018年の藤木裕(40歳・京都=89期)以来、京都勢の優勝がない。昨年大会は北井佑季(34歳・神奈川=119期)が記念初優勝を飾り、今年もビンビンの状態で参戦する。憧れの“村上義弘”のホームバンクで、昨年は燃えに燃えた。が、その分、がある。

 地元勢は北井の、また遠征勢の好きにさせるわけにはいかない。昨年大会では山田久徳(37歳・京都=93期)が、「勝てるんじゃないか…」という状況で勝てなかった。決勝のその日、裏方で支えていた同期の小谷実(37歳・京都=93期)が「ヒ、ヒ、ヒ、ヒサノリ、勝てますかね。カ、カ、勝って、勝ってほしいです」とまだ早い内から目を潤ませて慌てていたことを思い出す。

 チカヨリ。チカヨリ!チカヨリーー。今年は、本来の姿になった窓場千加頼(32歳・京都=100期)がいる。思い出す。以前も書いたかと思うが、チカヨリが選手を目指すかどうかという時。村上義弘さんに会って、その時の話を村上さんから聞いて…。

「すぐに競輪選手を目指した方がいい、と言えなかったんです」

 当時は競輪の人気も落ちていて、向日町競輪場は廃止の話すらあった。環境として、容易に勧められない。「それが、悔しかったです」という村上さんの言葉は思い出すだけでも苦しいものがある。

脇本雄太も向日町で育った

昨年大会はお寺帰りの佐藤慎太郎が爆裂だった

 脇本雄太(35歳・福井=94期)も向日町記念で村上義弘さんと連係することで、大きなものを得てきた。何が大事なことなのか。胸に迫るものを、全身で迫られてきた。脇本はその重みから逃げることなく、強さを手にした。今回の大会の意味を、誰よりも知っているかもしれない。

 清水裕友(29歳・山口=105期)は自分の走りに徹するのみか。平塚オールスター競輪(GI)の失格は無念の一語に尽きるが、何も終わっていない。“競輪”を見せてくれるトップランナーだ。強くて、それに可愛げがあって、いつまでも底を見せていない。『ヒロトがいれば競輪界は大丈夫』と思えるようないい男だ。今回は正統派ヒール役を、演じ切る。

 そして佐藤慎太郎(47歳・福島=78期)は昨年大会で準優勝。北井との好連係は熱く、またちょうど黄檗山(違反訓練)帰りだったので、お経を唱えながらの戦いは、ファンが見えないところも伝えるような深すぎるパフォーマンスだった。“競輪伝道師”。

 今はっきり書く。人間国宝に認定されていい。

ヒ、ヒ、ヒ、ヒサノリ!

山田久徳が背負うものは大きい

 昨年大会の決勝。北井はいても、ヒサノリが…と思った。先行有利なバンクであれだけの走りができるキュウトク、とも言う。ヒロトも可愛いわけだが、このキュウトクは私は目に入れても痛くない。小谷が震えていた理由も痛いほどわかる。

 昨年優勝できなかった時。力や、才能や、いろんなことがあったのかもしれないが、勝てなかったことを受け入れていたものだが、今回は違う。はい上がることだけの人生。はい上がり続けた人生。現行の向日町バンクの最後の戦いに、すべてを刻んでほしい。

現行バンクの平安賞は見納め


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前田睦生

Maeda Mutuo

鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。

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