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【パリ五輪】「岩手の冬が僕を大きくさせた」日本発祥“ケイリン”でメダルを狙う中野慎詞「僕は早い段階で仕掛けることができる」

アプリ限定 2024/07/18 (木) 12:00 19

パリ五輪で自身初となる日本代表に選出された中野慎詞。出場種目は男子ケイリンと男子チームパシュートで、短距離種目と中距離種目に出場するハードなプラグラムが課されることとなった。戸惑いや不安、自信と期待。日本代表として臨む中野の胸中はー。静岡・伊豆ベロドロームでインタビューを実施した。(構成:netkeirin編集部、取材日:2024年6月26日)

中野慎詞
得意のケイリンでメダルを狙う(写真提供:日本自転車競技連盟)

ーー五輪に選ばれた心境をお聞かせください。

 今年の1月頃からどういう結果であれ“自分がオリンピックに行くんだ”という強い気持ちでいました。選考期間中も選考期間のレースが終わってからも“オリンピックに出る”という気持ちを持ってトレーニングし続けていたので、もちろん選考されるかどうかの不安は少しはあったのですけど、準備は十分にしていたので発表された段階では“嬉しい”とか“やった”みたいな感覚はなかったです。

ーーパリ五輪まであと1ヶ月です。心境は?

 まだそこまで何かが湧き上がる気持ちがあるわけではなく、冷静にトレーニングを進めています。緊張は普段の大会よりはあるとは思いますけれど、今からすごい緊張している、というわけではないです。小さい頃からなぜかオリンピックに出たいという気持ちはありましたね。憧れだったり夢の舞台だったりという印象でした。

ーー勝つためのイメージはできていますか?

 勝つイメージは、してはいますがそこばかり見過ぎていると本来やるべきことを見失ってしまう。いいイメージばかりしていても、それが自分の思うように繋がるかどうかわからないのが現実的なところだと思うので、どうやって自分の力を発揮するのかだけを考え、冷静にイメージした方がいいと思っています。

ーー太田海也選手はどんな存在ですか?

 養成所から同期で同級生で早期卒業も一緒です。ずっと一緒にやってきましたし、比べられることは多いですが、自分の得意種目である「ケイリン」は譲れないという気持ちもありますし、負けたくないっていう気持ちもあります。だからといって太田選手に勝つために、とか、太田選手に負けなければ良い、ではなくて、ケイリンは6人で走る競技。相手がどうであれ、自分のレースをしなければいけない。一人の強い人がいるから自分の走りを変える、ではなくて、やっぱり自分の能力を発揮できるように組み立てていかなきゃいけないので、そこは考え過ぎてはいけないと感じています。

太田海也と
ケイリンでは太田海也(左)に負けられない気持ちがあるが(写真提供:日本自転車競技連盟)

ーーメダル獲得の期待が高まります。

 もちろん一番良い色のメダルを獲りたい気持ちはあるんですけど、今自分がやるべきことを突き詰めていかないと、メダルは獲れないと思うので、 今やれるベストな状態で臨んで、レースで自分の能力を存分に発揮した結果がメダルに繋がるのだと思います。

ーーチームパシュートはいつぶりですか?

 高校の時以来です。当時はハイレベルな中でやっていたわけではないので、こういうハイレベルなチームパシュートに参加するのは初めてです。ドキドキしますが、残り1ヶ月切ってますし、やるべきことだったり、自分ができる最大限の力を発揮しようと思っています。例えば、綺麗なライン取りで先頭を引っ張れるようにとかそういう細かいところは毎日練習できるところなんで、そういうところはしっかり意識して練習しています。中距離の選手たちからも具体的なアドバイスをいただければと思っています。

ーーチームパシュートで目標とするタイムについては?

 大きな大会で初めて走りますし、どういう感じになるかっていうのはすごく未知の世界なんですけど、自分の与えられた仕事をしっかりこなすのがチームにとって僕ができる一番のことだと思うので、具体的なタイムというのは正直わからないです。でも自分が走るラップタイムをこなすことはできます。自分のやるべき仕事をこなして、最大限他の3人の選手に貢献できればと思っています。

チームパシュート
チームパシュートで挑む(写真提供:日本自転車競技連盟)

ーー2種目出る難しさはありますか?

 中距離種目と短距離種目は全く別の脚質種目になります。(両立は)難しいことではあると思うんですけど、チームパシュートのきつい練習は結局、長い距離を全開で走る練習もあったりするので、自分の得意なロングスプリントがすごく活きてくると思います。

ーー岩手で練習したことが今に繋がっていますか?

 岩手は自然が豊かで、練習環境に適しているのですけれど、岩手の“冬”が自分を強くしたのかな、と思っています。たとえば九州の選手は年中自転車に乗れるのですが、僕ら岩手の選手って冬は一切自転車に乗ることができないので、その中でこうやっぱり自転車に乗らずに、体幹だったり、下半身だったりを強化してきました。もちろん今の最先端の科学的トレーニングからしたらそれはどうなの? と思われることはあると思うのですが、僕は岩手の冬のトレーニングをしてきたから今の強い体ができたのかなと思うので、やっぱり岩手の冬が、冬のトレーニングが、自分をすごく大きく成長させてくれたなって実感しています。

ーー自転車に乗れないなりに考えて編み出したトレーニングだったのでしょうか。

 自転車に乗れなかったので、マラソンだったり、雪の中走ったりとか、腰に人を乗せたタイヤを巻いて引いて走ったりしていました。最先端のトレーニングではないんですけど。それが結構、ひと冬超えて次の春になってパフォーマンスが上がったりしましたし、自転車に乗ってなくてもタイムが出るっていうのは、冬のトレーニングで自分が成長したのかなと思いましたし、やっててよかったと思いました。

ーー同じ岩手県出身では野球の大谷翔平選手が世界で活躍されてますけど刺激を受けますか?

 世界のスターなので自分にとっては遠い存在として感じているんですけど、大谷選手は岩手どころか日本や世界を盛り上げているような存在です。僕もそうなりたい気持ちはあるんですけど、そこまではやっぱりまだまだ自分の力では難しいのかなと思いますので、まずはしっかり自分の出身の岩手だったり、自転車界を盛り上げていけるように、そういう存在になっていきたいなと思います。

中野慎詞
「岩手の冬が僕を大きくさせた」と力説する中野慎詞

ーーメダルの色を分けるところが1周の判断になるというお話がありました。判断力を養うために、どのような練習を行うのですか?

 自分が今まで走ったレースのビデオを見て、なぜこの走りができたのか、できなかったのか、という振り返りをします。そして、ケイリンをイメージしたバイクのトレーニングがあるので、その中でレースの時のイメージで走る練習をしています。少しでもケイリンをイメージして走ることで、仕掛けるタイミングを考えて練習することで、“反応”ができるようになってきます。ケイリンは6人で走る種目なので、6人一緒に練習するのがなかなか厳しいんのですが、自分がどれだけ練習でイメージして走るのかが大切だと考えています。

ーーケイリンは車番を抽選で決めています。抽選が出た後の対応、判断はどうしていますか?

 基本的なイメージはスタートの時点でしてあります。ですが実際のレースになって、イメージと違う隊列、動きが出た時に“どうしよう”とパニックになってしまいますので、今自分がどのくらいのペースで、どの位置で、どの位置を走っているのか。そして残り500メートルで誰も動いてないのであれば、自分はもうその距離からだったら体力に自信があるので、そこから自分で仕掛けていくとか。そういう感じでレースを進めていくつもりです。

ケイリン
しっかりとレースを見極めて自分で仕掛けていく(写真提供:日本自転車競技連盟)

ーーこれまでの大会を経験していく中で、選手間の力の比較とか、自分の立ち位置についてわかるようになってきましたか?

 はい。なんとなくわかってきましたので、どういうスピードの段階で仕掛けたら自分が前に出られるかとか。残り2周になるとどんどんスピードが上がってきますので、それはどんな選手であってもなかなか後ろから仕掛けてくるのはきついと思うんですけど、僕は結構早い段階で仕掛けることができるので、より前に出るチャンスは多いのかなと思っています。

ーー現段階で海外で気になっている選手はいますか?

  やっぱり世界チャンピオンのハリー・ラブレイセン(Harrie Lavreysen)。ただどの選手もオリンピックでは仕上げてきて強いですし“え? こんなに強かった選手いたの?”みたいな選手もやっぱりいると思いますのでなんとも言えないところですが(笑)、頑張ります。

ーーパリ五輪をどのような大会にしたいですか?

 師匠からも“楽しんでこい”って言われてます。オリンピックっていう最高の舞台を楽しむことで、伸び伸びと走ることができると思いますし、 四年に一度しか経験できないような素晴らしい舞台だと思うので、大会、レース全て含めて楽しんできたいと思います。

中野慎詞
日の丸を背負って「レースを、五輪を楽しむ」と語った

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