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【松浦悠士の復帰報告】本調子に戻すのは過酷な作業! 良いことよりも悪いことに意識を向けなければいけないのだから

2023/10/31 (火) 18:00

 みなさんこんにちは、松浦悠士です。長い欠場を明けて「火の国杯争奪戦in久留米(GIII)」と「寛仁親王牌(GI)」を走ってきました。今回は二つの開催の振り返りを書いていきます。

松浦悠士がレースに復帰した(撮影:北山宏一)

やっとレースに復帰できた

 オールスターを落車欠場してから、やっとレースに復帰することができました。僕はあまり長期間休んだ経験がないため、「1か月半も休むとこんな感じになるのか?」とおかしい感覚に陥りました。ストレートに言えば「いろいろ忘れちゃってるな」です(笑)。レースに戻れた安心感よりも、「いつもどうしてたっけ」と心配になることが多かったんですよね。

 例えば、僕は開催中に着るものを決めてシリーズに入るのですが、寝間着を忘れそうになったり、レース前準備やウォーミングアップの手順だったり。もちろん完全に忘れているわけではないのですが、無意識にこなしていたルーティンを意識しないと忘れてしまう感覚というのでしょうか。選手紹介なんかも変にソワソワしてしまいました(笑)。

 そんな“久しぶり感覚”を味わいながら復帰したわけですが、真面目な話、本調子に戻していくための情報収集をしなくてはならないので、自分の悪いところを探し続けなければなりません。良いところとか問題のないところは意識しなくともすぐに気がつけます。でも悪いところは意識しないと気がつけないし、対策だって講じなくてはいけません。この二開催はたくさんの悪い部分を見つけているので、メンタル的には厳しいのですが、ひとつひとつ課題を潰して、本調子へと戻していきたいと思います。

レースでもレース以外でも“久しぶり感覚”の連続だった(撮影:北山宏一)

落車アクシデントへの対応の違い

 久留米の初日、直前の練習と前検日の練習を比べると「マシになっている気がする」と思えたので、発走前はとても楽しみでした。ただ、落車のアクシデントがあり、僕は回避できたのですが、いつもよりも大きく回って避けたため、その点に課題のポイントを感じました。バンクコンディションもありますし、一概に怪我のせいにはできませんが、(自転車を)伸ばしたいところで伸ばせていない感覚がありました。そういった中で、「必要以上のロス」をしてしまうと勝負所で余力が残りません。

「復帰戦で落車したくない!」との思いから大きく避けてしまったのですが、この“反射的な判断”は本調子の頃と比べてだいぶ違いがありましたね。今年のウィナーズカップの決勝戦、同じようなシーンがありましたが、その時は回避しながら最善ルートに体が反応していました(※)。体の状態はもとより、「精神面でも課題がありそうだぞ…」と思いました。

※編集部注…過去のコラム(2023年4月号)で「ウィナーズカップ決勝の振り返り」がありました。松浦選手は『勝負所で新田さんが落車してしまうアクシデントがありましたが、周囲の選手が反射的に上体を起こした瞬間まで見えており、俊敏に最善のルートを取れたと思います』と綴っていました。

“物足りなさ”をインプットする大切さ

 イヤな課題を見つけてしまった初日でしたが、2日目は渡口君と連係して1着を獲ることができました。渡口君は日頃から良い競走をしている選手ですし、防府に練習に行った時に顔も合わせていました。でも、番組が出た時から少々緊張気味で固かったです(笑)。そんな渡口君ですが、レースでは完全に自分に打ち勝っていました。気持ちの強さを全面に出して主導権を奪い、しっかりと展開を作ってくれました。

渡口勝成|26歳・山口=119期(photo by Shimajoe)

 翌日の準決勝は前〜中団で組み立てたいと考えていました。スタートで新山君(2番車)、伊藤君(3番車)には意識を向けていたのですが、外枠の菅田さんと瓜生君が早かったですね。

スタート位置でさまざまなレースパターンが考えられるレースだった(撮影:北山宏一)

 後ろ攻めになったので、新山君を切ろうと踏み込みましたが、うまくいきませんでした。レースプランが想定通りにいかない時に余計な脚力消費をしてしまっては、今は本当に戦えない状態なのだと体感しました。結果は4着で決勝進出ならず。復帰シリーズとはいえ、どうにか決勝まで進んでGI戦に繋げたかったので、厳しい心境でした。

 でも3日間走ってみて「行きたいところで行けない」や「思ったほど伸びない」といった“物足りなさのレベル”をインプットできました。どれくらい物足りないのかを正確に把握できれば、それを計算して戦うことができます。レースを走るごとに「物足りない状態なりに噛み合っていく感覚」も得ていました。

 最終日は後藤君が頑張ってくれましたし、僕も要所で番手としての対応ができました。山積みの課題を持ち帰ることになりましたが、「パワー不足をどう補うか?」に向き合えばGIも勝負になるはず! と考えて復帰シリーズを終えました。

最終日レース直後の表情、現状を把握することでやっと笑顔に(撮影:北山宏一)

大きなマイナスと向き合う

 久留米を走ったことで「今の状態がどういう状態なのか」をある程度把握できたので、少しでも調子を上げたかったのですが、帰って体調を崩してしまい、思うような練習ができずに弥彦に入ることになりました。また、久留米を走ってみて“大きなマイナス”を発見していたのですが、それは寛仁親王牌でも改善できませんでした。

 その大きなマイナスというのは「治療を受けないと痛みが出る」ということです。練習期間は常に治療を受けているので痛みが和らぐのですが、シリーズが始まると治療を受けることができません。初日から最終日かけて痛みのレベルが上昇していく感じです。肩甲骨がしっかりとくっついていないので、起床時に寝違えているような痛みが出ます。体にワイヤーも入れているので、これからの寒い季節に痛みが増すのか増さないかも怖いところです。

 久留米で見つけた大きなマイナス要因ですが、寛仁親王牌でもさらに状態確認を進めたいと思いました。競輪祭は6日間開催なので、治療を遮断する時間も長い。シリーズを戦う中で、どんな痛みが出て、どんな影響が出るのかということを体感できるのは、今後の重要な指標になると考えていました。

隙が許されないGIの厳しさ

 初日は踏み込んだ感触が悪くなく、「マーク戦ならGIでも勝負できるかもしれない」と思える内容でした。古性君をしっかりと追走しての2着ですから、その感覚は間違っていないと思います。

 ただ、マーク戦ではなく、「自分で動いてどれくらいなのか?」を初日のうちに測りたかったので、その点は残念でした。赤板周回くらいまでは人任せにしないレースを望み、自分で動いていくポイントを探っていたのですが…。このレベルになると、易々と自分のしたいことはプラン通りにやらせてもらえません。

理事長杯の最終直線、内外7車が勝負圏に台頭している(撮影:北山宏一)

 初日2着でローズカップに進みましたが、シリーズ全体を振り返ってもここで崩れてしまった感があります。まず雨のバンクコンディションに対応できていないということ。走路の重さに苦戦してしまうことはもとより「グリップが全然効かない」ことに悩みました。本調子に戻していく期間の中でフォームも崩れているんですが、その影響だと思います。

 最終1角あたりで出力を上げたいタイミングがあったのですが、「滑ってしまいそうで怖い」といった危機的感覚に襲われてしまう始末。隙が許されないGIシリーズにおいて非常に厳しかったです。GIのレースに「滑ってしまいそう」なんて考えながら走って何とかなるレースなどありません。悔しい限りですが、大きな着も妥当なように思います。

それでも小松崎さんは勝ち上がったのだから

 GIの準決勝は本調子だろうが厳しい一戦になります。それにしても今回の寛仁親王牌は厳し過ぎる一戦になりました。まずはスタートけん制…。各ラインの思惑がバッティングして、誰も前を取らず。結果として浅井さんが勢い良く誘導を追いかけ、次に僕が追う形になりました。位置的には良い位置を取れたのですが、周回中にかなりの脚力を消費してしまいました。踏み出し強烈な犬伏君との連係で雨の重いバンク。序盤からの脚力消費はマズかったです。

 そんなタフな展開の中、犬伏君が出切っていくタイミングで雨谷さんが飛びつき策に打ってきました。想定はできていたのでダメージを最小限に対応したつもりですが、風を受けたり、雨谷さんが当たってくる衝撃のダメージもあったり、この攻防戦で耐力が底に。もう最終1センターから2角あたりで「ついていくのが精一杯」になりました。

ダメージが蓄積する中、雨谷一樹(手前6番車)が犬伏-松浦ラインを狙う(撮影:北山宏一)

 練習がしっかりとできていない現状で乗り越えるには「雨、スタートけん制、犬伏君追走、飛びつき対応」はタフ過ぎる内容でした。それでも小松崎さんは決勝に勝ち上がりました。小松崎さんは僕と同じ時期に落車をしているし、このシリーズも怪我と向き合いながら走っていた選手です。小松崎さんが自力で捲り上げて決勝へ勝ち上がったという事実は僕自身が重く受け止めなくてはならないです。

最終3角で脚に余力ナシ、後方からは小松崎大地が捲った(写真提供:チャリ・ロト)

 どうにか活路を見出して終わりたかった最終日ですが、もう散々でした。準決勝で刺激が入ったのかウォーミングアップの感覚は「これ行けるぞ」と好調を感じたのですが。レースで踏み込むと瞬時に疲労が現われてしまいました。まったく話にならなかったです。アップ時の感覚とレースがかけ離れていたので、映像で確認してみたが、もう見たくなくなるほどフォームがめちゃくちゃでした。

 結果はともないませんでしたが、シリーズを通して本当に勉強になることばかりでした。本調子に戻していく過程の中で、どんな風にマイナス要因と戦えば良いのか? をしっかりと考える機会になりました。まずは練習で自分の心身に向き合い、フォームを確認する作業などから徹底して打ち込んでみようと思います。

選手のレベルが拮抗してきている中で

 今年のグレードレース戦線を走る中で選手同士の差がなく、実力が拮抗してきているように感じています。そんな中でシリーズ完全優勝を決めた古性君の強さは光っていました。久留米の準決勝の後に古性君と話をしたんですが、『どうやって理想に近づいていくのか?』を追求し続けている選手なのだと思いました。だから強いのだと思います。

 レースって走れば走るほど失敗が増えて行くものなんですよね。その失敗にどうやってアプローチするのかが大切で、どうやって理想の走りに繋げるかを考えて取り組むことが強くなる秘訣に思います。僕も同じSSとして同級生として負けていられません!

読者の方から寄せられた質問に答えます

 それでは今月も質問に答えていきたいと思います!

今回は3つの読者質問に真っ向勝負!(撮影:北山宏一)

ーー寛仁親王牌初日は古性、松浦、郡司選手の単騎勢で確定板でしたね。同級生連係はしないとのニュースを読みましたが、理由について詳しく知りたいです。同型が連係してもラインの機能は高まらないということでしょうか?

「レース後の納得度に影響するから」ですね。理由はそれぞれなので、あくまでも僕の場合は、とご理解いただければと思います。古性君にしろ郡司君にしろ、僕自身も魅力を感じている素晴らしい同級生選手です。連係したら「こうやって仕掛けるのか」とか「こういう場面でこういう判断をするのか」といった多くの学びが得られるのは明白です。ラインの機能として高まらないということもないと思います。

 でもスタイルが似通っている部分もありますから「自分ならこうする」も発生する可能性があります。仮に負けたとして、「自分ならこうした“のに”」と思ってしまうような連係は極力しないように考えます。任せた以上は負けても仕方なし!と納得できるかどうかを考えているんです。

 古性君や郡司君と同走するレースは紙一重のハイレベルなレースばかりです。そういったレースで「任せたとして、任せられたとして。負けた時に納得できるかどうか?」はとても重要視しています。ですから、絶対に連係した方が良い局面で「負けても仕方なし」と納得度の面でもクリアできるなら、その時は“同級生連係”すると思います。

ーー松浦選手に限らず、落車明けで復帰するときに「まずは走ってみないとわからない」とのコメントをよく見ます。レース本番も直前の練習も体の状態はそこまで変わらないと思います。そんなに言うほど本番と練習は違うものなのでしょうか?

 これは全然違います! 発走機があって場内にお客さんが入っていて、車券投票による人気のアリナシがわかっての緊張感は練習時に再現することはできません。慣れているバンク、慣れていないバンクといった環境面や競走が始まるまでに選手紹介があったりするスケジュール面、ピークに持って行くためのウォーミングアップ方法などもすべて違います。

 何より対戦相手の気迫や一走に懸ける思いも違います。あらゆる要素が違う中で「レース本番」を走ってみると、すべてが練習とは違い「別物」です。特に復帰戦はレース勘も鈍っているのが明白ですから、「走ってみないとわからない」は正直な本音なんですよね。

 今回のコラムで久留米の初日を振り返りましたが「落車回避について」書いています。これなんかがちょうどいい例でして。落車回避の練習ができたとしても、本番の張り詰めた状況でのアクシデントと練習で「作った状況」とは訳が違います。本番を走ってみてはじめてわかる「調子」、練習で感じる「仕上がり」。これらはなるべくしっかりコメントを出すようにしていますので、ぜひ参考に車券推理に役立ててください!

ーー競輪選手は「いつもどこかしら痛んでいる」と聞きますし、過酷な選手生活だなと思います。松浦選手もずっと体のどこかが大なり小なり痛い感じなのでしょうか?

 たしかに結構ずっと痛いかもしれません(笑)。くわえて最近は20代の頃に比べて、痛みの“抜け”も遅くなっていますね。でも僕ら選手は仕事としてレースを走るので休んではいられません。走れる痛みなら許容して取り組むのが日常ですね。

 GIに向けてトレーニングで追い込み、その間に記念開催を走る中で、やはり体にはダメージがあります。でもレースに響く痛みなのかそうでないかは見極めていますし、選手はみんな敏感に自分の体を理解していると思います。“万全の状態”で走れるのが当然理想的ですよね。

 ちなみに僕の場合、「万全の仕上がりです」とコメントをするときがあれば、その時に痛みは感じていないことが多いですね。①力が自転車にちゃんと伝わる②踏み込みの感触がいい③体のどこにも痛みを感じない、この3つをクリアしている時にそういうコメントを出すようにしています。

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松浦悠士の“真っ向勝負!”

松浦悠士

Matuura Yuji

広島県広島市出身。日本競輪学校第98期卒。2010年7月熊本競輪場でレースデビュー。2016年の日本選手権競輪でGⅠ初出場、2019年の全日本選抜競輪では初のGⅠ決勝進出を果たす。2019年の競輪祭でGⅠ初優勝を飾り、同年KEIRINグランプリにも出場。2020年のオールスター競輪では脇本雄太との死闘を制し、優勝。自身2つ目のGⅠタイトルを獲得した。ファンの間ではスイーツ好き男子と知られており、SNSでは美味しいスイーツの数々を紹介している。

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