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【松浦悠士の優勝報告】3連覇達成よりも“ワンツー”に歓喜した「競輪人生の中で一度は脇本さんと連係してみたかった」

2023/07/28 (金) 18:00

 みなさんこんにちは、松浦悠士です。今回のコラムでは小松島記念とサマーナイトフェスティバルを振り返ります。両開催ともに優勝報告ができ嬉しく思いますが、今夏はさらに優勝を重ねられるように気を引き締めてやっていきます。

得意とする夏、さらなる結果を求めている(撮影:北山宏一)

「走るのが楽しみ」は好調につながる

 前回のコラムで「落車の影響は時間差で出てくる」と書きましたが、原因を突き止めてしっかりとケアできたので、ドン底の大垣記念から右肩上がりに復調していく日々を過ごしていました。

 睡眠の質も元に戻ってきましたし、体調面や精神面で感じていた疲労感が抜けていき、小松島記念は「走るのが楽しみ」でした。そういった気持ちでシリーズに入ると開催を通して良い状態が保てたり、自分のやりたいレースができたり、不測の展開にも対応できたり、上向きのまま戦うことができます。

 この状態面を考えれば初日はもう少しどうにかできたのではないか? と思わなくもないですが、やはり郡司君が強かったです。どうすれば勝てたのか? と自問自答してみても明確な答えがないくらい完璧なレースをされましたし、とても難しかったです。

取材対応時の表情からも充実が見て取れる(撮影:北山宏一)

1着でも心残りがある

 2日目は太田竜馬君と池田良さんと連係して、僕は1着を獲れましたが、3人で決められなかったのが心残りです。「状態もいい、自分が動いてラインを優位にしよう」と意識し過ぎた感があります。その結果、僕の追走の仕方にミスがあったように振り返っています。

 太田君が出切るタイミングで車間を空けるように走っていたのですが、そのせいで『池田さんが志智さんに捌かれやすい状況』を作り出してしまったように思います。志智さんがうまかったのは言うまでもありませんが、ピタリと追走に専念して、後ろのことは“池田さんまかせ”にすれば結果は違っていたかもしれません。このシーンは今後の糧にし、状況ごとに最適な追走ができるように取り組んでいきたいです。

準決勝の“オーダー通り”と“想定外”

 準決勝は犬伏君との連係でしたが、作戦を立てる段階で「大垣記念の準決勝みたいな感じで行こう」と提案していました。野口さんが早めに駆けたとしても、さらにその上を行って欲しいと考えていました。長い距離を踏むのではなく、「赤板2センターから4コーナーで仕掛けて“1周21秒台”のタイムを出して欲しい」が僕のオーダーです。レースでは犬伏君が見事に応えてくれましたね。

 ただ、想定外だったのは犬伏君が大垣記念よりもさらに強烈だったことです。“1周21秒台”というのも僕の中では「21秒半ばくらい」を想定していたのですが、ホームバンクの犬伏君、なんと1周タイムは21秒3でした(笑)。しかも前半が10秒4というとてつもないタイムです。

 僕もかなり状態が良かったのであのくらいの離れ方で済みましたが、すごい走りを体感しましたね。わかっていても踏み出しから離れてしまう現状ですが、最終的に自分で巻き返せたことも良い意味で想定外です。今後の連係を考えでも、この連係実績はプラスの材料になると思います。

失敗を恐れず最善の作戦を実行、連係を重ねながら活路を見出す(写真提供:チャリ・ロト)

“結果オーライ”は手放しでは喜べない

 決勝は犬伏君が先行する雰囲気がありましたし、4番手を確保したい思いでしたが、展開は思い通りには行かず…。新山君がレースの隙を生かすような形になりました。このあたり、「新山君はさすがだな」っていう感じで、周りの動きに乗っていく走りがうまいです。

 結果として僕は優勝することができましたが、僕自身とても隙が多かったレースです。内容にはあまり納得できず、“結果オーライ”みたいな感覚が残っています。決勝は郡司君を一番警戒していたんですが、郡司君は仕掛けに迷いがあったと思います。でもその迷いは「僕の詰めの甘さが想定外」といった感じで、逆にリズムが狂ったんじゃないかなと推察しています。言い換えると「自分がうまく走れなかったから勝てた」みたいなレースでした

ゴール線へ目一杯投げたハンドル(写真提供:チャリ・ロト)

 結果を出すために日々頑張っているわけですし、優勝には喜びがあります。シリーズを通じて状態の良さも確認しながら走れたので、サマーナイトへ向かうのも楽しみになりました。ただ、それと同時にシリーズを通して、どこか“結果オーライ”だったことには向き合わないといけません。課題は課題として持ち帰り、内容もしっかり求めなくては「GIタイトルなど獲れん」という気持ちになりましたね。

表彰式では「ファンのみなさんとの交流もうれしかった」と本人談(写真提供:チャリ・ロト)

選手にとってのバンク相性

 小松島もそうでしたが、サマーナイトも「走るのが楽しみ」でした。直前の調整がいい感じで、大川龍二さんや池田良さんとタイミングが合ったので一緒に質の高い練習ができました。僕にとってサマーナイトは相性が良いシリーズであり、函館も相性のいいバンクです。2年ぶりの函館にテンションも上がっていました。

 ただ、シリーズ前にスケジュールがスケジュール通りに行かず、バタバタだったんですよね。行きたいタイミングで整体の予約が取れなかったり、函館に前泊する予定だったものの東京までしか行けなかったり。このバタバタには良い面もあって、3連覇を意識し過ぎて変に緊張するみたいな気持ちの余裕もなかったので、気負うことなく開催に入れました。

レースを読み間違えたことよりも

 初日は「脇本さんが早めに仕掛ける展開になりそうだな」と思い、近畿の後ろを走っていたのですが、菊地君がかなり早く上がっていきました。残り3周時点で「この展開は踏み合いになるケースだ」と考えました。

 宮記念杯では「前に脇本さんがいるパターン」に課題を見つけていましたし、今取り組むべきテーマ『前の脇本さんを捉える形』に挑戦する機会にもなり得た展開でした。それもあって近畿の後ろでレースを進めようと決めたのですが、レースが流れていく中で思う展開にはならず、勝負圏からは外れてしまいました。

 そんな気持ちで初日は走っていましたが、“展開の読み間違い”といったネガティブなことよりも自分の調子の良さを自覚できて気持ちが上がりました。脚に余裕があったと言えば大袈裟ですが、もっとピッチが上がっていたとしても勝負できていた感覚を確認できたんですよね。確定板を逃したものの、バンクとの相性も良く、身体面も状態良く、気持ちはスパッと切り替えられました。

「調子いいぞ! 行ける!」と確信した初日(撮影:北山宏一)

 そして2日目。アップ段階で初日に感じた調子の良さよりもさらに手応えがあり、自信を持ってレースに臨むことができました。勝負所に差し掛かり、古性君と稲毛さんの近畿2車が上がってきた時に飛びつき含みで出て行きましたが、この時も思いのほかダッシュがよかったです。

 深谷さんの位置関係は全然把握していませんでしたが、うまく近畿の3番手の位置を確保でき、その後も納得できる加速でまくっていくことができました。「まだ踏み込める!」という確信の中で自転車がぐんぐん進んでいく感覚は久々に感じるクオリティでした。力が自転車にしっかり伝わっていきましたね。状態面に一切の不安がなく、決勝でも力をしっかりと出せるはず! と嬉しくなりました。

久々に絶好調の推進力を感じた準決勝(撮影:北山宏一)

競輪人生で一度は連係してみたかった脇本さん

 準決勝が終わり決勝の並びについて決める際、山田英明さんに「脇本さんの番手に行きたい意思」を明かしました。山田さんの了承をもらい、脇本さんに気持ちを伝えにいきました。「つくか・つかないか」の決断はさまざまな条件がありますが、今回はすべての条件が揃っていました。ずっとつきたい選手だったので、念願が叶いました。

 特に強く「脇本さんについてみたい」と思ったのは去年の8月、富山記念で優勝した時でした。あの頃、僕は調子がものすごく良くて、自力のレースで高い出力を放つことができていました。ただし、その分の負荷も高く、レース後に感じる消耗度合いが凄まじかったんです。そんな時、「自分がこのダメージなのだから、脇本さんのダメージは想像もできないな」と痛感していました。

 しかし、そのダメージを周囲に悟らせずに戦う姿には尊敬の念もあるし、(この表現は適切ではないのは重々理解していますが)僕の中には“脇本さんファン”みたいな心理もありました。もちろん戦っている時は完全に敵と認識していますが!

「今一番強い選手の旬の時期に後ろについてみたい」といった興味は選手をやっていれば誰にでもあるものですが、僕にとって条件が揃い、なおかつ連係したい気持ちを自然に表せるタイミングはサマーナイト決勝でした。絶対に自分にとって収穫になるレースだと確信もありました。競輪人生の中で絶対やってみたい連係だったんです。

 レース前は不安と期待が半々で、「いつも以上に仕事をしなくてはいけないぞ」と気合が入ったり、「もしも連結を外してしまったら?」 とかも考えてしまったり、「1着を獲る選手だからしっかり追走さえできれば2着にはなれるんだ」とビジョンを描いたり、脇本さんとの連係について考えを巡らせていました。

 3連覇への意識よりも「最高の連係がしたい!」の一心でした。※脇本さんには「3連覇がかかってるんでお願いします!」と声をかけさせてもらいましたけど(笑)

脇本雄太-松浦悠士-山田英明で構成された西日本ライン(撮影:北山宏一)

 実際に脇本さんと一緒に走ってみると、やはり外側から見ている景色とは全然違いました。脚力だけの選手ではないことは元々知っていましたが、本当に脚力だけじゃなかったです。技術がすごいです。その技術に関して学びになりましたし、僕の思うポイントを中四国の若手にも伝えていきたいと思っています。

 そして、いつかまた同じように条件が揃い、タイミングがあえば、僕の気持ち的の中では、また脇本さんと連係したいと思っています。

 それでは今月はこのくらいで締めようと思います。前回のコラムで「サマーナイト3連覇を狙う」としていましたが、有言実行となり格別の思いです。特別競輪を3連覇できるなんて、以前は考えもしなかったです。サマーナイトはすごく相性が良くてずっと決勝には乗り続けていますし、ストレス少なく走ることができています。僕はナイター競輪が得意なのかもしれません。

 夏になり最高の状態で戦えているので、次走の富山記念もしっかり優勝を目指します、もしもチャンスが巡ってきたら『netkeirinの競輪好プレー』で取り上げざるを得ないような“☆5つの新ワザ”を繰り出せたらいいですね。

サマーナイト決勝レース後、3連覇が確定し両手を広げ喜んだ(撮影:北山宏一)

読者の方から寄せられた質問に答えます

 それでは今月も質問に答えていきたいと思います!

今回は3つの読者質問に真っ向勝負!(撮影:北山宏一)

ーー『のむシリカ』は美味しいですか? 買おうと思っているので、松浦選手からひと押しください!

 めちゃくちゃ美味しいです。ミネラルウォーターの中ではかなり飲みやすい方だと思います。飲みやすさが気に入ってずっと飲み続けていますよ!

ーー周回中に後方から追い上げるときなど、心理的作戦として対戦相手を威圧することはありますか。睨みを利かせたり何かを言ってみたり。

 これはないですかね。言動や態度で威圧するのは違うと思っています。ただ横で走るときに相手のパーソナルスペースに入っていき、圧を感じさせるような走行は工夫しています。スレスレの位置で並走されると嫌なものです。そういう「相手が嫌がること」を正々堂々と研究しているところはあります。

ーーコロナ禍と比べて競輪場の活気も元に戻ってきましたね。雰囲気が戻ってきた今、選手も気持ち的に違いますか?

 無観客開催と有観客開催ではまったく違いますし、生声援は本当に嬉しいですね。最近ファンの方とお会いすることもだいぶ増えてきて、コロナ前の状態になったと実感しています。というよりも、コロナ前よりも街などでも声をかけてもらう機会が増えており「ファンの方が増えてるのかな」とかも思ったりします。

 先日、プロ野球のオールスターゲームの観戦に出かけたのですが、フライドポテトを買おうと売店で並んでいるときに声をかけてくれた人もいました(笑)。すごくうれしかったですね。これからも応援をお願いできたらと思っています。

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松浦悠士の“真っ向勝負!”

松浦悠士

Matuura Yuji

広島県広島市出身。日本競輪学校第98期卒。2010年7月熊本競輪場でレースデビュー。2016年の日本選手権競輪でGⅠ初出場、2019年の全日本選抜競輪では初のGⅠ決勝進出を果たす。2019年の競輪祭でGⅠ初優勝を飾り、同年KEIRINグランプリにも出場。2020年のオールスター競輪では脇本雄太との死闘を制し、優勝。自身2つ目のGⅠタイトルを獲得した。ファンの間ではスイーツ好き男子と知られており、SNSでは美味しいスイーツの数々を紹介している。

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