2022/11/20 (日) 20:00
みなさんこんにちは、松浦悠士です。今回は防府記念『周防国府杯争奪戦(GIII)』の振り返りを書いていきたいと思います。読者の方から質問もいただいていますし、裕友と連係した準決勝のレースに関しても僕の正直な気持ちを記していけたらと思います。
防府記念は体の状態も良く、地元地区の安心感もあり、リラックスして前検日に入っていけました。シリーズを戦う前にセッティングを微調整していたのですが、かなり感触が良くて初日走るのが楽しみでしたね。でも以前コラムでも書きましたが、練習と実戦は違いますから、いざレースになると自分が思うほど反応は良くなく、初日は踏み遅れるような感じになりました。
裕友が強いのは言うまでもありませんが、これはバンク特性が影響している気がしました。防府では練習もしていますが、どこか乗り慣れない感覚もあって「33バンクの中でも難しいな」という認識があります。初日に「練習と実戦の違い」を改めて反省して、セッティングを微調整する前の状態に戻して2日目へ臨みました。
2日目の二次予選は高橋晋也君との対戦がありました。今開催はあまり話すことができなかったのですが、会えばよく話をしたり、意見交換したりする選手です。高橋君はいつも気持ちの良いレースをする選手で、真っすぐに力をぶつけてきます。僕も戦うたびに“真っ向勝負”をぶつけ返したい気持ちになり、すごく対戦を楽しみにしているんですよね。初対戦の相手には絶対に湧かない感情が出てきてしまうというか(笑)。
普段の僕はレースで特定の選手に意識を向けないように気をつけています。9人で走る以上は特定の1人に意識を向け過ぎるのはリスクがあるし、相手が思うように動いてくるとは限りません。ですが、今回も高橋君は真正面からの勝負をしてきてくれたので、僕も間髪入れずに応戦していくスイッチが入りました。もちろんラインで決めるために早く踏み込んでいく想定はしていましたが、その作戦とは別に感情の部分が働きました。「休んで溜めての勝負は失礼になる!」という気持ちにさせられるんです。高橋君の走りって。
今回は脚を使わず良い位置が取れて僕が有利なレース展開の中で勝つことができました。でも自分が不利な展開の中で戦うことを想像すると、どこか怖くなるような強さを感じました。敵ながら良好な関係性があり『真っ向勝負で明暗を決めるレース』ができる相手です。今後も負けたくないし、高橋君とは熱く力を出し切る勝負をしていきたいと思います。
そして3日目の準決勝ですが「絶対に裕友と決勝へ行くぞ!」と気持ちを入れて臨んだレースでしたが、結果としてそれは叶いませんでした。僕の中では納得のいかないレースとなり、心もざわつきました。正直に言えばレース後も腑に落ちず、落ち着かない心境でした。
僕の感触では捲り切れる自信の中で走っていましたが、裕友のイメージとは違う走りになってしまっていたと思います。確かにあの準決勝、僕は道中であおりを受けていましたし、サッと行けずにまごついた“もこもこした走り”になっていたことは否めません。「早い判断をしてしまい申し訳ない」と裕友はコメントしていましたが、後ろが安心できない走りをした僕自身にも裕友の“早い判断”の一因があるのは言うまでもありませんし、僕にだって当然責任があります。
ただ、裕友が自力を出して僕に並び、そして超えられていくとき、3コーナーあたりの心の声をそのまま文字にすれば「え…!? 嘘だろ!? 何やってんだよ…」です。何とも言えないネガティブな感じになりましたし、その瞬間は受け入れられず混乱しました。今まで裕友と連係して数々のレースを戦ってきて感じたことのない気持ちでしたし、レース後も気持ちの処理に時間がかかりました。
裕友の地元に懸ける思いも理解していますし、レース判断や走り方は背景によって形を変えることがあるのが競輪です。でもこのレース単体でみれば、僕と裕友ならもっと違う戦い方ができたはずですし、納得できるものにはできませんでした。これからも裕友と一緒に上を目指していきたいからこそ、しっかりと向き合うべきレースだと思います。
レース終了後に不穏な空気になっていた僕に柏野さんが声をかけてくれました。僕と裕友の考え方の相違する部分だったり、客観的にどう映っているかだったり、自分の中で整理する必要があったので、信頼している柏野さんと話ができたことは良かったです。
そんな準決勝がありましたが、最終的に防府記念を制したのは裕友です。『結果を残せるということは勝ちあがり段階での判断も正しかった』ということです。裕友の優勝じゃなければ、僕の煮え切らない葛藤も長引いていたかもしれません(笑)。
競輪のレースは33バンクのように小回りになればなるほど何が起きるかわからないリスクも生じますし、地元記念のプレッシャーと5連覇のプレッシャーを背負いながら裕友は勝ち切りました。5連覇という偉業を成し遂げ、この記録は今後も伸びていくかもしれません。地元で5連続優勝することって本当にすごいことだと思います。あの準決勝があったからこそ、余計に僕の中でも喜びや感動が大きかったです。裕友、おめでとう!
話は前後しますが、僕の最終日の特別優秀戦を振り返りたいと思います。僕は「勝ち上がれなかった次の一戦」をとても大事にしています。ここでしっかりとラインで決める走りができるかどうか? とても重要なことに感じていました。しかも連係した山下一輝さんとは“戦いの記憶”を共有しています。
過去に山下さんが僕の前で先行してくれて、新田さんに勝つことができたレースがあるんです。その時の記憶があったので「今度は僕がレースを作る!」と特別な気持ちで臨みました。レースではスタートこそ思うようにいきませんでしたが、仕掛けるべきタイミングで思い切り仕掛けることができて、山下さんとワンツーを決めることができて本当に嬉しかったです。
モヤモヤして、メンタルをコントロールするのに難しいシリーズにはなりましたが、最終日のレース内容に納得して終えることができたのは良かったと思います。全体的に振り返ると、やはり準決勝のレースに課題を感じています。僕は裕友ともっと強くなっていきたいです。今後さらにお互いのスタイルや考え方を理解し合い、最強のラインを築こうと思います。今回の防府記念はそのための糧にしていきたいですね。
それでは今月も質問に答えていきたいと思います! 今月は3問の質問に答えていきます!
ーー「松浦君からセッティングについてアドバイスをもらった」とニュースを目にすることがありますが、他地区の選手に助言をすればライバルを強くすることにも繋がると思います。それは気にならないでしょうか?
はい、まったく気になりません。選手同士よく意見交換しますし、レース外の情報収集も大切にしています。僕も聞かれたら何も隠すことなく答えるようにしています。質問に答えているつもりが自分の学びに繋がることも多々ありますし、僕が他地区の選手に質問をして課題を克服できた経験もあります。「ライバルをただ強くするだけ」とは思っていないですね。
でもライバルを強くすることに繋がってもこのスタイルは曲げたくありません。アドバイスをしたりされたりをする中でお互いに成長して、本番でぶつかり合いたいです。
ーー前も後ろも走れる松浦選手の一番嬉しい勝ち方はどんな形ですか? さまざまな勝ちパターンの中で喜びの大きいパターンは?
番組を見てから「1着を獲るのが難しそうだな…」と感じるレースで勝つことが気持ちいいです。レースパターンを考えて、その考えたことが活かし切れる時にアドレナリンが多く出るような気がします(笑)。今年で言えば富山記念決勝とオールスター決勝がまさに「考えた作戦がハマったレース」になります。
富山の決勝は難しかった分、すごく嬉しかったです。オールスターは勝つことができませんでしたが、もしも勝てていたらすごく最高の気分になったのではと想像しています。難しい局面を戦略で打破し、本番で勝利をもぎ取っていくような形が一番達成感に包まれますね。
ーー春夏秋冬で一番得意なシーズンはどれ?
あまり得意も不得意もないですね。以前は冬が苦手で春が得意と感じることもあったのですが、今はオールシーズン戦えるように意識を徹底しているので「この季節が得意だ!」と思うシーズンはありません。
強いて言うなら7月8月は得意かもしれません。成績にも表れていますし、安定している感覚があります。その逆に僕は秋に花粉症が出るので、そこはちょっと苦手に感じてしまうポイントです。秋はレースに影響が出ないように気をつけて体調管理しています。
今月のコラムはここまでにします。裕友と一緒に年末のグランプリを戦えるように競輪祭も気持ちを入れて走ってきます。ちなみに競輪祭の前検日は僕の誕生日です。熱い応援と祝福メッセージをお願いします!もちろんプレゼントも大募集中です(笑)。『裕友と2人で表彰台に上がる』を胸に刻み、小倉6日間の長丁場に挑みます。精一杯頑張りますので、応援よろしくお願いします!
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松浦悠士
Matuura Yuji
広島県広島市出身。日本競輪学校第98期卒。2010年7月熊本競輪場でレースデビュー。2016年の日本選手権競輪でGⅠ初出場、2019年の全日本選抜競輪では初のGⅠ決勝進出を果たす。2019年の競輪祭でGⅠ初優勝を飾り、同年KEIRINグランプリにも出場。2020年のオールスター競輪では脇本雄太との死闘を制し、優勝。自身2つ目のGⅠタイトルを獲得した。ファンの間ではスイーツ好き男子と知られており、SNSでは美味しいスイーツの数々を紹介している。