2022/05/16(月) 18:00 0 3
現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリやオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は 5月12日・13日に行われた 「ファーストクォーター」ラウンド7の決勝レースを回顧していきたいと思います。
【ファーストクォーター ラウンド7 決勝レース動画】
伊藤信が史上初となる3連続優勝を果たした今大会ですが、その布石となったレースが、2着に敗れた準決勝でした。この準決勝Cでは、残り2周で先行していた小嶋敬二を市本隆司が交わしに行った時、5番手にいた伊藤も動き出していったことで、残り1周では市本と伊藤でもがきあう形となりました。
これまでのレースでは持ち前のスピードで「残り1周半からの捲り」を得意としていた伊藤にしては、仕掛けが早かったレースだと言えます。ただ見方を変えるとすれば、3連続優勝のかかる伊藤は、この準決勝は勝ち上がるだけでなく、最悪でも決勝に残るレースをするために、市本を早めに叩きにいったとの見方もできます。
準決勝で、最後方に構えていた人気の雨谷一樹が、残り2週から踏み出していくも、藤原憲征の目標になってしまったどころか、外を回ってきた大塚英伸にも交わされて3着に敗退。注目されていた伊藤との直接対決とは叶わなかった。
との話を書きました。
一方、伊藤は準決勝でも消極的なレースをすることなく、いつもより長い距離を踏みながらも、確実に決勝に進めるような「勝ち上がりを意識した手堅い競走」を選んだと言えます。結果は2着とはいえども、その意志の強さも含めてさすがだなと思わされました。
その伊藤の3連続優勝の前に立ちはだかる存在となったのが、競輪学校で同じ92期の山田義彦、そして、優勝経験のある望月一成でした。両者ともにここまで3連勝。伊藤の3連続優勝を阻むだけでなく、完全優勝にもリーチをかけて勝ち上がってきています。
ペーサーが外れた残り3周。けん制が見られた中で、先に動き出したのが4番手からレースを進めていた望月でした。競輪では先行選手の望月ですが、今大会は先に動き出しを図る選手もいたので、終始捲りでのレースとなっていました。ようやくこの決勝では望月らしい積極性が出たと思います。
その後ろでけん制を続けていたのが、3番手から4番手に車を下げた伊藤と、5番手の山田でした。先に動き出したのが5.67という大ギアを踏んでいた山田です。山田は競輪選手の中でも「トルクがある」と言えるほどのパワーを持ち合わせており、残り2周からグングンと加速を続けていきます。
山田の後ろにいた6番手の市本隆司も、すぐに山田を追いかけていきますが、その内にいたのが伊藤です。その伊藤と並走になった時、市本は競走妨害も頭をよぎったのか、一瞬だけ車を引いた感じとなりました。
それを見逃さなかった伊藤は、4.85のギア倍数で一気に加速を始めると、前を行く山田を目標に定めます。ただ、山田も山田で会心のレース運びをしていました。けん制こそしましたが、それでもタイミングを見て、伊藤より速く踏み出していくというプラン通りのレースだったと思います。むしろ、かかった山田を捲り切った伊藤が「強すぎる」と言えるでしょう。
もし、山田の踏み出しに市本が離されずに付いて行けたのなら、その後ろからのレースとなっていたであろう伊藤は、山田を交わし切れなかった可能性もあります。これも4.85のギア倍数が伊藤にとっては俊敏に動けるだけでなく、トップスピードを出すにも最適なギア倍数を選べているということでしょう。
レースは生き物とも言われますが、PIST6でこのギアを使いこなせる伊藤ならば、どんな流れや展開となっても自分の得意とする、残り1周半からの捲りを決められるはずです。
その伊藤ですが、最近は競輪でも好成績を残しています。最初の優勝となった「ZERO」 ラウンド9以降、よりタテ脚が良くなっているだけでなく、レースでの積極性も出てきました。山田もPIST6と競輪が相乗効果になっているような走りを見せていますし、それは雨谷にも言えることです。
ライン戦である競輪ですが、それでもトップスピードに秀でている選手が強いのは間違いありません。PIST6に出場している選手たちは、250バンクで勝てるだけの脚力を高める練習も取り入れているはずです。それが結果として競輪にも生かされているのは、競輪選手と競技を続けてきた私自身にとっても、非常に嬉しい限りです。
3連続優勝を果たした伊藤しかいません。この強さからしても4連続優勝も期待したくなりますが、それだけでなく、次のタイムトライアルでは9秒台の時計も狙ってもらいたいです。こうなると、その伊藤にスピードで挑んでくるような、スピード自慢の参戦も期待したくなりますね。
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●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。