2022/02/04(金) 18:00 2 13
「netkeirin」をご覧になってる競輪ファンの皆さん、そして全国300人のワシコーファンの方々、こんにちワシコー!
2022年も幕を開けて競輪界も新たな一年がスタートしました。昨年末の競輪グランプリでは近畿地区からただ1人出場した古性優作(大阪・100期)が初優勝で2021年の王者となりました!
その勢いをもらって今年は近畿地区も上昇ムードになって行くと思うので、自分もその波に上手く乗って行けるように日々精進して頑張っていきたいと思います。
年末の競輪グランプリが終わると約2ヶ月間はG1開催がない。2月の後半に行われる「全日本選抜競輪」までは年明けの立川記念からひたすらG3開催が続く。その「全日本選抜競輪」の前まで行われるG3連続開催の最後となるのが「奈良記念G3 春日賞争覇戦」である。
毎年最初のG1開催の直前とあってトップ選手達は弾みをつけたい開催であり、それ以外の選手達はそんなトップ選手達に一泡吹かせたいと熱く挑戦をする激闘必至の開催になる為、毎年涙あり笑いあり落車あり失格ありのまさにサバイバルレースとなる。
そんな真冬らしからぬ熱いレースが繰り広げられる奈良記念だが、どんなベテランよりも若手よりもS級S班の選手よりも誰よりも何よりもその大会を優勝したい男がいる。
ご存じの方も多いと思うが、三谷3兄弟の次男でありワシコーとは同期同級生、競輪学校では一年間、衣・食・住を共にした同志である。奈良記念に賭ける思いは地元選手の中でも群を抜いており、過去の当大会の成績は7割強の確率でファイナルに進出するなど、実力からは考えられない程の異次元の強さを発揮している。
度重なる落車や失格で満身創痍になりながらも泥臭く走り続ける姿に玄人ファンからは絶大なる信頼と支持を受けており、時代はスピード競輪へと変化しているが、どんな状態でも奈良記念だけは「気持ち」と「根性」の2つのみで結果を求めて毎年熱い走りを見せている。
今回のコラムではそんな三谷将太の「勝負強さ」と「厳しさ」と「理不尽さ」と「愛しさ」と「切なさ」と「心強さ」を伝えたいと思う。
あれは忘れもしない2012年の8月2日。今から10年前の当時A級だったワシコーは奈良競輪のF2開催に参加だった。いつも通り前検日の11時に到着するように自宅を出て、予定通りその時間に奈良競輪場に着いた。車から自転車を下ろして荷物を下ろして検車場の中に入ったのだが、その瞬間目の前に当時既にS級だった三谷将太がいて、なぜか突然いきなりキレられた。
三「おい、コラ、お前遅いねん! 何時やと思ってんねん!!」
ちなみに言っておくが前検日の集合時間は13時であり11時に着いたワシコーはむしろ早い方だった。更には当時S級だった三谷将太はそのF2開催には当然参加ではなかったのだが、彼の右手を見ると袋に入ったお土産(地元選手は遠方から参加した同期に地元の特産品などを渡す風習がある)を持っており、どうやらワシコーの到着を待っていてくれていた様子。
鷲「キレながらも可愛い奴やなお前は」
三「ふんっ」
と言いながらお土産を受け取り、しばらく近況報告や練習内容などを2人で話していた。
数分間、話をしていると当時福井登録だったデビューして間もない玉村元気(香川・101期)が
玉「鷲田さん、今節は宜しくお願いします。」
とこっちまで挨拶に来てくれた。
鷲「おうー、宜しくー」
と返事をして玉村元気がお辞儀をしてその場を去ろうとすると三谷将太がいきなりキレた。
三「おいコラ!ちょっと待たんかい!コラ!」
玉「はい?」
三「お前な? 竜生の同期ちゃうんかいコラ!」
竜生とは勿論競輪ファンはご存じの三谷竜生(奈良・101期)の事であり、2018年競輪グランプリ王者にして三谷3兄弟の三男の事だ。
ワシコーは二人の板挟みになり非常に困った。三谷将太という男はとにかく礼儀という事に関して凄く厳しく、競輪において良い仕事、良いライン関係を築くにはそういう所からちゃんとしないとその関係は成り立たないと思う男だ。
だが玉村元気の気持ちもわかる。同県の先輩であるワシコーにしっかり挨拶をしたはいいが、見た事もない何やら怖い表情の先輩選手が横にいたらスルーしたくなるのは当然と言えるだろう。どうフォローしようかワシコーも悩んでいたが、そうこうしている内に話は進んで
玉「はい、竜生さんとは同期です」
三「ほなお前何で挨拶せーへんねんコラ?」
玉「すいません 」
三「お前なー、俺は一体誰や?コラ?」
鷲、玉「…。」
ワシコーは耳を疑った。この場合普通は
「お前は一体誰や?」ではないのだろうか…。
自分が誰だかわからなくなったのだろうか…。
フリーズするワシコーを他所に玉村は答えた。
玉「三谷将太さんです」
三「わかっとんならええ。もう行けコラ」
いやいいんかい。何やったんやこの時間は…。
ってかそもそも何で怒ったんやお前は…。
色んな事が脳裏に浮かんでしまって、その後何事もなかったかのように話し続ける将太の言葉は1mmもワシコーには入ってこなかったが、やはり凄い男だという事だけはわかった。
これも絶対忘れはしない2016年2月19日、6年前の当時ワシコーはS級に昇級していて奈良記念G3の三日目から補充選手として途中参加した。既に二日目までが終了していて三谷将太は準決勝に進出していた訳だが、三日目からの参加となったワシコーは各近畿の部屋に挨拶回りをしていて、当然奈良勢の部屋にも挨拶に行った。
鷲「今日から補充で来たのでお願いします!」
奈良勢「おー、ワシコー! よろしくね!」
二日間終了しているし、到着したのが夜とあって、緊張感というよりはむしろリラックスムードだったが、1人の男だけは物凄い気合いとオーラを解き放っていた。勿論、三谷将太だ。
目が合ったし同期同級生なので当然、
鷲「おう、将太! 二日間よろしく頼むわ!」
奈良記念の準決勝前日という事で気合いも入っているだろうし、挨拶だけして部屋を出ようと思った瞬間、彼から一言…。
三「お前今開催は俺に話しかけんなよコラ?」
ただならぬ気迫と信念だった。おそらく残り2日間は鬼となり獣となり全集中の全勢力で奈良記念制覇に向けて己を高めているのだろうと。
鷲「わかった。今回は大人しくしとくわ」
三「頼むで。んで風呂は何時に行くねん?」
鷲「…。」
もうわけがわからなかった。今の今、俺に話しかけるなと言って風呂は一緒に行くんかい。俺はお前に話しかけるけど、お前は俺に話しかけるなよって、もはやベテランと新人、王様と奴隷、ジャイアンとのび太やん。
そして次の日の準決勝は会心の走りで勝ち上がり決勝進出。この時は本当に厳しくて勝負強い男なのだと思った。
最後のエピソードは2015年の1月1日で奈良F1の正月開催だ。その日は2日目の準決勝戦で最終のメインレースに近畿から、稲毛健太(和歌山・97期)を先頭に三谷将太とワシコーの3人で並ぶラインが本線だった。ウォーミングアップを終えて、控え室でユニフォームに着替えていると稲毛が出走表を持ってこっちに来て
稲「鷲田さん、将太さんの所に行って作戦会議しましょう」
と言われたので2人で彼が居る場所に行った。
稲、鷲「よろしくお願いします」
三「…。」
なぜか返事もせずに滾った顔をして座っていたが、稲毛はそのまま作戦会議を始めた。
稲「初手はどこから行きますか?」
三「…。」
またもや返事をしない三谷将太で沈黙の時間は10秒〜20秒。その空気に耐えられなくなったワシコーが堪らず声を出した。
鷲「初手は中団からでいいんちゃう?」
稲「そうですよね。中団から行きますか」
メンバー構成的に稲毛もワシコーもそこからレースを作った方が良いと考えていたが、ここで三谷将太が初めて口を開けた。
三「後ろからやろコラ…」
稲、鷲「じゃあ後ろからでお願いします」
稲毛もワシコーも反抗する気すら起きなかった。いや、正確にはした所で意味がないという事を2人してすぐに気付いたと言えるだろう。
だがレースが始まると別戦ラインが後ろ攻めに拘った為に中団からの組み立てになった。稲毛は残り2周から先行してそのまま逃げ切って三谷、ワシコーも続いて上位を独占。3人で決勝進出を決めた。
実はこの時ワシコーは初めてS級の決勝戦に進出したので、凄く感慨深い気持ちでクールダウンをしていた。嬉しさが込み上がってくるのを何とか抑えて気持ちを落ち着かせていたら、あの男が怒鳴りながらローラー場に入ってきた。
三「おいコラ、小僧! こっち来んかいコラ?」
何度も言うが三谷将太とは同期同級生だ。小僧というワードは間違いなく年下に対するワードのはずだし、さらに今回に限っては近畿ワンツースリーという最高の結果だったからキレられる理由が全くないはずだった。
鷲「ん? どうした?」
三「お前な、稲毛と俺はG1で何回も走って後ろからって決まっとんねん! 覚えとけコラ!」
色々とツッコミ所が満載すぎて絶句した。まず稲毛も中団からが良いと言っていたし、将太が無言だったからワシコーが作戦提案をしただけで、それなら作戦会議の最初に言ってくれよ。
と言いたくなったがそんな事を言える訳もなく
三「次からは気をつけんかいコラ?」
鷲「はい、すいませんでした」
とやり取りを終えた訳だが、その時にワシコーは思った。なんて熱くて理不尽な男なのだと。
今年の奈良記念は2月10日〜13日までの4日間の日程で開催される。ワシコーは2年連続で準決勝に進出しているくらい相性の良い大会だが今年は残念ながら斡旋されず。だが上記で語り尽くした三谷将太は勿論、現時点ではS級S班から5名が出走予定で、そしていよいよ福井のエース「脇本雄太」が長期欠場から復帰する。
初日から最終日まで見逃せない開催になるのは勿論、決勝戦で近畿勢が勝ち上がりすぎて大渋滞が起こるかもしれないぐらい熱くて激しいシリーズになりそうだ。
各選手、熱い走りは勿論だが選手控え室や検車場では作戦会議や激しい討論、そしてセッティング調整や身体のメンテナンスとレースを走るまでに色んな流れがあって、それらを踏まえてファンの人達に熱い走りを見せている。
今回の奈良記念もきっと熱いドラマがあるのは間違いなく、決勝戦で【脇本雄太-古性優作】とは近畿別戦勝負で【三谷竜生-三谷将太-三谷政史】の3兄弟ラインという戦いも、もしかしたら見られるかもしれない。
直前の広島F1決勝戦では気合いが入りすぎて落車失格をしてしまった三谷将太だが幸い軽傷で済んだ。そこでの失敗を糧に地元の大舞台では活躍を誓うと本人からもコメントを貰えた。
ファンの方々には推し選手を応援してもらう一方で、不器用ながらも勝つ事に一生懸命な三谷将太の応援も是非よろしく頼むぞコラ…。