2022/01/25(火) 18:00 0 7
現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリやオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は22日23日に行われた「PIST6 Championship ZERO」ラウンド4の決勝レースを回顧していきたいと思います。
【ZERO・ラウンド4 決勝レース動画】
観ていた方はご存知の通り、決勝は大荒れとなりました。3連単の配当が11,920円。2車単はそれよりも高い12,820円で、2車複も11,430円と3つの賭け式で万車券という具合でした。
これだけ荒れた要因は、初日から3連勝どころか(初出場から数えて)過去11回の出走で1着が10回、驚異の勝率9割オーバーの雨谷一樹(1番ホワイト)が、まさかの3着に敗退したこと。優勝は神山拓弥(4番ブルー)で、2着が恩田淳平(5番イエロー)となりましたが、まさか雨谷が2着にも入れなかったとは、ほとんどのPIST6ファンが想像していなかったのではないのでしょうか。
雨谷にとっても最大の敗因は、圧倒的に1番手が有利なPIST6において、6番手からのスタートとなったことです。そこに雨谷の仕掛けの遅さや、同地区で雨谷の脚力をよく知る、1番手の神山の積極的なレースなど、複合的な要因が絡んでいました。
スタートから振り返っていきましょう。先ほども書いたように、1番手が神山。以下の並びが田頭寛之(6番グリーン)、恩田、東矢昇太(2番ブラック)、木暮安由(3番レッド)、雨谷となりました。レースが始まって2周目、2番手を走っていたはずの田頭が、ポジションを下げ、6番手にいた雨谷の後ろに付けます。2番手という有利な位置取りから、なぜに最後方まで下げてしまったのかを疑問に思った方もいられたはず。
田頭は千葉の選手であり、応援に来てくれた地元ファンのために「なんとか見せ場のあるレースを!」と考えていたでしょう。大本命の雨谷の後ろにつけて、そのまま追走することができれば2着はある、との作戦だったように思います。
雨谷はポジションが1つ上がっただけでなく、後ろに田頭が付けてくれたことでレースはしやすくなりましたが、それでもまだ5番手。一方、1番手を走る神山や、4番手に上がった木暮にとって気になるのは『いつ雨谷が上がってくるか?』ということだけだったと思います。田頭がポジションを下げたように、この決勝で最も勝利に近い位置取りは、雨谷の後ろです。
ただ、その雨谷ですが、ペーサーが外れた4周目になっても、まだ仕掛けていきませんでした。誰もが探り合いのような展開になってしまった中、しびれを切らしたのが木暮。残り2周目で動き出します。こうなると、前にいる神山も引くわけにはいかず、突っ張り先行をする形でラスト1周へ入ってきます。
外を回る木暮の後ろに入った雨谷ですが、いくら、タイムトライアルでは10秒フラットに近い時計を出していても、250バンクで後方からのレースとなると、コーナーで自転車が外に膨らんでしまいます。一方、このバンクの特性を分かっていたかのように、初日から果敢に先行姿勢を見せ3連勝を果たしていたのが神山でした。約1周近くは続いたであろう、木暮との踏み合いを制すると、最終周回では先頭に躍り出ました。その番手には恩田。雨谷は最終コーナーから加速していくも、前を行く2人を交わせませんでした。
タイムトライアルの比較だと、神山と恩田は雨谷より、0,5秒も遅い時計でした。PIST6だけでなく、自転車競技としてもこのタイム差は、かなりのスピードの違いです。それでも、雨谷が2人を交わせなかったのは、今大会において『小さなレース』に終始してしまったからでしょう。決勝までの3レースでは力の違いを見せつけてきたものの、強さというよりも、『上手いレース』をしているような印象さえありました。
一気にメンバーが強くなる決勝では、思い切ったレースを見せてくれるのではと考えていましたが、やはり、自分から動き出していかない『小さなレース』のままでした。ひょっとしたら3連覇を意識し過ぎてしまったのかもしれません。例えばペーサーが外れた後に、強引でも自分から一回ポジションを上げていって、誰かがかましてくるようだと、その後ろか3番手を取るようなレースもできたはずです。この結果は本人が一番悔しがっているとも思います。
そして勝った神山には“あっぱれ”の一言です。先ほども書きましたが、準決勝までの3レースに加えて、この決勝も先行しての完全優勝。調子が良かったのもあるかと思いますが、ここは雨谷との気持ちの差が出たのかもしれません。2着の恩田は結果的に、先行した神山の後ろを追走できたのがラッキーでした。
PIST6で高配当をもたらす選手は今回の恩田のように先行選手、あるいは強い選手の後ろを取れた選手が、そのスピードに乗って2着にくる形です。今後、PIST6で予想を組み立てる時には、1番手、2番手といった内側の選手に注目するとともに、誰が誰の後ろを走るのかを考えてみると良いでしょう。
やはり、これは神山拓弥でしょうね。調子の良さ、気持ちの強さ、そして250バンクを走り慣れているかのようなレースぶりと、決勝まで全てが揃っていました。木暮との踏み合いを制したラスト1周で見せたスピードが落ちない走りも見事でしたし、ここは文句なしのMVPです。
●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。