2024/12/06(金) 18:00 0 3
現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリやオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は12月2日・3日に行われた「PIST6 Championship」の「12月第1戦」の決勝レースを回顧していきたいと思います。
【PIST6 ChampionShip 12月第1戦 決勝レース動画】
今大会を制したのは堀江省吾となります。堀江はこれで15度目の優勝。自身が持つ最多優勝記録を更新しただけでなく、完全優勝は「SUMMER STAGE」の「8月第4戦」ぶりとなります。
今大会の堀江は体調がそれほど良くないとのコメントを出していましたが、タイムトライアルでは一番時計を計測。そして一次予選、二次予選と残り2周で先頭に立ち、そのまま押し切るという、自身の脚質を生かしたレースを見せていました。 また優勝経験もある東矢昇太、決勝に進出した三好恵一郎が顔をそろえた準決勝Cでも、堀江は駆け引きの巧さが光るレース内容で見事に勝利。強さと巧さを見せながら決勝に駒を進めていきました。
一方、堀江と同様に一次予選と二次予選でスピードの違いを見せつけながらも、1番人気の支持を集めた準決勝Bで6着に敗れてしまったのが常次勇人です。常次は今年に入ってからのPIST6で、幾度となく決勝に名を連ねているだけでなく、現行の競輪でも結果を出しています。今期はA級に降級ながらも、前期は121期では初となる特別昇班を果たしたように、高いポテンシャルを備えています。
今大会のタイムトライアルでも堀江に続く2位となっており、堀江の優勝を阻むのなら常次ではないかとも思っていました。しかしながら準決勝は6番手からのスタートとなっただけでなく、優勝経験のある依田翔大を含めて、斉藤樂、保田浩輔と123期の選手が顔を揃えていました。
123期の選手たちからすると、同じ世代の常次には負けたくないとの思いもあったはずです。「PEDAL ON」を前に動き出していったのが斉藤と依田であり、保田も常次より速い仕掛けで終始、前に出させないような走りをしていきます。常次も捲りを狙っていくのですが、常に外を回されるレースで脚を使わされた結果、6着に敗退。積極性とスタート順を生かす走りをした保田と依田が決勝に進んできました。
その後、常次は順位決定戦Dで残り1周半からの先行で快勝し、鬱憤を晴らすようなレースを見せていました。もしも決勝に常次がいれば、堀江を苦しめるようなレースもできたようにも思います。堀江にとっては常次のような先行タイプの選手がいなくなったことで、決勝も走りやすくなったのは間違いありません。
決勝のスタートはインコースから⑥三好恵一郎④保田浩輔③稲毛健太⑤依田翔大①堀江省吾②皿屋豊となりました。
堀江と同じく、ここまで3連勝で勝ち上がってきたのが皿屋です。皿屋も現行の競輪では思うような走りができてませんが、PIST6では3大会続けての決勝進出であり、初優勝を起爆剤にもしたいところです。6番手からのスタートは不利ではありますが、すぐ前に堀江がいるだけに、マークしながらレースを進めていけるというメリットもありましたね。
「PEDAL ON」では後方となった皿屋から動き出していくのかと思っていましたが、最初に仕掛けていったのは4番手にいた依田でした。今大会、依田の1着は一次予選だけながらも、常に積極的なレースを見せていました。ところが、この依田の動きもまた、堀江にはラッキーだったと思います。堀江の持ち味は先ほども書いたように、早めに先頭に立ってからの押し切りなのですが、依田が先に動いてくれたことでその前に入っての「抑え先行」ができる展開となりました。
もし、依田よりも先に後ろにいた皿屋が動いていたら、堀江はその後ろを付いていくレースとなっただけに、他の選手が抑えにかかった時には後方に置かれてしまいます。それを嫌って早めに皿屋を交わしていく手もありますが、脚を早めに使ってしまうだけでなく、すぐ後ろに皿屋が入っていたのならば、最後の叩き合いで交わされてしまう可能性もあったはずです。
しかも、堀江が上手かったのは依田を交わしていった時に、そのまま後続を引き離していくのではなく、抑え先行を選んだ作戦でした。これは数々の優勝経験があるからこその気持ちの余裕がもたらした走りであり、皿屋の仕掛けを待つ展開となりました。
こうなると、堀江と依田の外を回っている皿屋は捲っていくしかありません。その皿屋のすぐ後ろに入っていたのが保田であり、残り2周過ぎでは皿屋の番手に入っているという絶好の展開となります。
保田としては3番手となった堀江が仕掛けてくる前に動き出そうと、後ろを確認しますが、踏み出すタイミングを計っていた残り1周で、一気に堀江が保田を交わしにかかります。
結果的に踏み出しのタイミングが遅れた保田は、インコースで堀江だけでなく、後ろを付いていった依田にも蓋をされる形に。一方、一気にスピードを上げていった堀江は、逃げ粘る皿屋に並びかけると、最後の直線ではマッチレースを制しての勝利。2着には皿屋が粘り込み、3着は堀江の後ろに付いていた依田が入りました。
先行した選手の番手という、絶好の位置でレースをしていた保田ですが、いい位置すぎたばかりに仕掛けが遅くなってしまいました。残り1周の直線に入る前から、皿屋を交わしに行くようなレースをしていれば、堀江はその外を回されていただけに、優勝も危うかったはず。そうなれば保田自身も、皿屋選手を交わし切るのは難しかったとしても、2着は充分にあったレースでした。
2着となった皿屋ですが、残り2周から踏み出していきながら2着まで残した走りは見事でした。本人も復調気配を感じ取ったレースになったはずであり、競輪に臨む際も今回の走りはいい刺激になったでしょうね。
依田も後ろに強い2人がいるのを分かっていながら、自ら動き出していったことが、3着という結果に繋がったと思います。以前の依田は何が何でも先行していくようなレースでしたが、参戦を重ねていく中で、自分より脚力が上の選手がいた場合には、その選手の番手を取っていくような上手さも出せるようになっています。これも決勝の経験や、優勝の実績から来る気持ちの余裕があるからでしょう。
しかし“気持ちの余裕”といった意味で堀江は他の選手よりも更に余裕があるということ。実際の走りでそれが顕著に出ています。決勝での上手さと強さを兼ね備えたレースにも現れていましたし、一枚上手の余裕が強さに反映されています。
今大会は競輪のGIでも活躍している小原太樹など、実績的には堀江よりも格上の選手たちも出場していました。それでも堀江が優勝しているのはPIST6ならではの面白さであり、しかも、レースが熟成されてきたことで、より「引き出しの多い選手」が活躍できる傾向も出てきています。
若手選手たちにとっては自身の脚力を格上の選手たちを相手に試す場でもありますし、これからもドンドン参戦してきてもらいたいです。また、実績のある選手たちもPIST6を走ることで、現行の競輪では使えない重いギアでの走りが経験できます。
少し競輪の話をしますが、最近の競輪では目標選手がいない場合に競りに行くのではなく、単騎戦を選ぶ選手もいます。その際にPIST6で個々の走りが培われていたのならば、単騎戦となった場合でも応用が利くはずです。来年から行われる「KEIRIN ADVANCE」への布石ともなっていくだけに、これまで以上に色々な選手が参戦してきて、PIST6を盛り上げてもらいたいですね。
勿論、堀江です。堀江も更に優勝回数を伸ばしていくような走りを見せていくはずであり、「打倒、堀江!」の構図は色濃くなっていくでしょう。今後も若手選手の目標となるような存在になってもらいたいです。そして敢闘賞は皿屋と依田の2人です。2人ともに自ら動いていきながら、堀江に迫っていく走りは見事でした。今回は堀江の強さに屈しましたが、皿屋も依田も今のレーススタイルを貫いていけば、決勝常連ひいては優勝も見えてくるはずです。
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●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。