2024/10/14(月) 18:00 0 1
現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリやオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は10月9日・10日に行われた「PIST6 Championship」の「10月第2戦」の決勝レースを回顧していきたいと思います。
【PIST6 ChampionShip 10月第2戦 決勝レース動画】
今大会はこれで14回目のPIST6出場となる原田翔真が優勝。原田は10日が24歳の誕生日であり、この優勝は自らのバースデーを祝う勝利になりました。
その原田をはじめ、決勝には20代の選手が4人進んできました。その4人もそうですが、今大会は120期台の選手が多く出場しており、予選からしのぎを削るような、見ていても面白いレースが繰り広げられていました。
120期台の選手たちは勝った原田を含めて、これからのPIST6や競輪を盛り上げてくれそうな走りを見せていただけに、今後もPIST6でも競輪でも力勝負のレースを見せてもらいたいですね。
決勝のスタートはインコースから④依田翔大①原田翔真②今井希④深澤伸介③小玉拓真⑤栗山和樹となりました。
この6名の中で人気を集めていたのが、初日の一次予選から準決勝から無傷の3連勝で決勝に勝ち上がってきた今井です。今井は「9月第1戦」と「10月第1戦」で連覇を果たした岩井芯と同じく125期の選手となります。最近のPIST6では125期の活躍が目立っており、2度目の参加で初の決勝に進んできた栗山も125期となります。
栗山は「疾風迅雷 #38」のコラムでも書きましたが、競技で活躍していたアマチュア時代から注目していた選手であり、期待通りとでもいうのか、125期生の中では最初の特別昇班を果たして、PIST6にも参戦してきました。
前回の大会(9月第1戦)では、久しぶりの競技形式のレースに戸惑いもあったのか、一次予選の1勝をあげただけで決勝進出とはなりませんでした。ただ、今大会では一次予選から積極的なレース運びで準決勝へと進出。その準決勝ではタイムトライアル1位の滝本幸正、そして原田といった自力型を相手に、「PEDAL ON」から踏み合っただけでなく、残り1周半からは前を行く滝本をマークするかのように並走していきます。
コーナーの傾斜がきつい250バンクでは並走をした場合、外の選手がかなり不利となるのですが、栗山のスピードは落ちなかったどころかゴール手前で滝本を交わして1着。そして2着には外を回ってきた原田が入ります。
準決勝3つのレースを見た時に、最も勝ち上がりが厳しいのはこのレース(準決勝C)だと思いました。そのようなレースでS級で活躍している滝本を相手に、思い切ったレースで勝利した栗山は相当強いなと思いました。このレースでは原田も滝本を交わしての2着となっており、決勝でもこの2人の走りには注目していました。
レースは1番手となった依田など、自分で動ける選手が前にいたこともあり、ワープもなく、選手たちは残り周回を重ねていきます。この周回中に依田との距離を取っていたのが、2番手に入っていた原田です。
原田としては依田の後ろでレースを進められるのは、願ってもない展開となった一方で、すぐ後ろの3番手には今井、そして6番手には栗山と機動力のある125期生がいるだけに、その出方も気になっていたはずです。
ここで原田が取った作戦は依田との距離を取って、後ろの選手が仕掛けるタイミングを“ズラす”ことでした。競技では「波を作る」と表現するのですが、あれで6番手にいた栗山は“出るに出られない状態”になったはずです。
その気持ちは、1番手を走っていた依田も一緒だったはず。後ろを振り返っても、来ると思っていた125期の2人(今井、栗山)が来ないわけですから。
「PEDAL ON」を迎えた時、原田は徐々に依田との差を縮めていきます。残り2周半では外からのスタンディングで依田に並びかけていきますが、それを見た依田も前に行かせるかと一気に加速。結果としては突っ張り切ったのですが、原田はすんなりと2番手に引いていきます。
栗山の他にももう1人、原田の作り出した”波”に飲み込まれてしまったのが、3番手にいた今井でした。今井は若手選手らしい無欲の走りができていたというのか、一次予選から自分の力を出し切るレースを見せており、見ていても爽快さがありました。
今井は決勝でもここまでの3戦と同様に、残り1周半から仕掛ける気持ちはあったと思います。ただ、依田と車間を切っていた原田が前にいたので、すんなりとは出ていけなかっただけでなく、同じように”波”に飲み込まれていた栗山も動きだしてこない。ここで少しの迷いもあったかと思います。前にいた原田が上がっていった際にはスピードに乗り切れず、5番手までポジションを下げてしまいました。
一方でレース巧者だったのが、これが13回目のPIST6参戦となる小玉でした。原田が外に動いていった時に空いたインコースを突いていくと、原田が依田の番手に戻ってきた際にはその後ろへと入っていました。6番手にいた栗山も小玉の動きに同調するかのように、内を通りながらポジションを上げていきました。
残り2周の隊列は先頭から依田-原田-小玉-栗山-今井-深澤となります。前を行く依田は残り2周過ぎでも後ろ選手が来ないと見るや、腹をくくったかのように先行体勢へと入っていきます。ファイナルラップでは5番手にいた今井も捲りにかかりますが、かかっている依田までの距離はあまりにも遠く離れていました。
一方で再び依田の番手に入っていた原田は、ここでも車間を空けていくと、残り半周で一気に依田を交わしていきます。このメンバーを相手に早めに先行体勢へと入っていた依田の余力は残っておらず、第3コーナーで失速していきます。
そこで初めて先頭に立った原田は、後ろにいた小玉の追撃を振り切って勝利。小玉の後ろにいた栗山が3着に入り、3番人気-4番人気-5番人気で決まった3連単は27,080 円という高配当になりました。
2番手のスタートから、終始、後続との車間を取り続けた原田の作戦勝ちにも見えますが、今大会のタイムトライアルでは2位となっていたように、そもそもの脚力も持ち合わせていました。”波”を作り出した走りができたのは、これまでのPIST6の経験値を生かした結果とも言えますし、それは2着となった小玉にも言えることです。
今回が初参戦となる今井は決勝で5着という結果ながらも、それまでの3戦を見ていても、自分がやるべきレースはできていました。それだけに決勝のレースは悔しいと思いますが、その経験が次に生かされてくるはずです。
“良い経験”という意味では栗山にも当てはまります。6番手からのレースで原田の作り出した”波”に翻弄されてしまった経験は糧になるでしょう。負けはしましたが、125期の2人は「脚力を信じて、大きなレースをすれば決勝に進める」とわかったはずであり、その向こうにある表彰台や優勝も視野に入ってくるでしょう。
これが初優勝となった原田ですね。過去には2位となったように、原田もまた優勝を目指して大会に参戦し続けたはずです。現行の競輪でもA級1班に昇班しているように、確実に力を付けているのは間違いなく、今後も競輪とPIST6の双方で更なる活躍が期待できます。
敢闘賞は先行した依田ですね。依田からすれば、決勝の6名では唯一の優勝経験があり、しかも1番手となったからには、誰が来ても突っ張り切るという強い気持ちもあったのでしょう。あのプライドは選手として必要な武器になります。今後のPIST6や競輪にも生かされていくレースをしていたと思います。
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●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。