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【坂本勉のPIST6徹底回顧】“思い切りの良さ”と“ギア比の差”が噛み合った! 19歳・岩井芯の初優勝の背景/レジェンドが見た疾風迅雷 #38

2024/09/09(月) 18:00 0 1

現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)

 netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は9月4日・5日に行われた「PIST6 Championship」の「9月第1戦」の決勝レースを回顧していきたいと思います。

【PIST6 ChampionShip 9月第1戦 決勝レース動画】

125期生が多数参戦!フレッシュなメンバー構成に

 今大会は優勝経験があるのが、山田義彦だけ。そして今年、デビューしたばかりの125期生の4人(岩井芯栗山和樹松本昂大與古田龍門)が参戦という、フレッシュなメンバー構成となりました。

 その125期の中で、私が最も注目していたのが栗山です。栗山は高校、大学と競技をしていた頃から良く知っていた選手であり、アマチュア時代は1kmタイムトライアルを得意としていました。

 栗山は大学卒業後はサラリーマンとして勤めた時期もあったようですが、養成所に入学してからは元々持っているポテンシャルが違っていたというのか、在所3位という優秀な成績を残していました。選手になってからも3場所連続での完全優勝を達成し、125期生の中では最初の特別昇班を果たしています。

125期生の中で最初の特別昇班を果たした栗山和樹

 ただ、栗山は重いギア倍数で走るのが久しぶりだったからか、タイムトライアルの時計(11秒006)もそれほど良くなく、初日の1次予選では1着を取ったものの、続く2次予選では残り2周で市本隆司に叩かれる展開となっての3着となりました。

 2着以内に入らなければ決勝進出とはならない準決勝でも、残り1周で森本桂太郎の番手という絶好のポジションだったにも関わらず、ペースを緩めた時にすぐ後ろにいた市本に再び交わされての3着。勝ちを意識して消極的なレースをしてしまったのは残念です。

 一方、2度に渡って栗山を叩き切った市本は見事でした。PIST6慣れしているのもありますが、到底53歳の選手とは思えない。走りが若々しいですよね。このレースでは市本の後ろを取っていた、こちらも52歳の北野武史が2着となり、50代の2人が揃って決勝へと進出。そして、125期からは19歳の岩井芯も準決勝で2着に入り、決勝に駒を進めてきました。

タイムトライアル1位・菊地圭の出走順

 決勝のスタートはインコースから④北野武史市本隆司岩井芯山田義彦上野恭哉菊地圭の並びとなりました。

 人気を集めていたのはタイムトライアルで1位となっていただけでなく、準決勝までの3走でいずれもバックを取っていた菊地です。これまでのPIST6では能力はありながらも、準決勝が壁となっていた感もあっただけに、その壁を打ち破った今回は、ファンからの優勝の期待も大きかったはずです。

 ただ、その菊地の前に立ちふさがってきた新たな壁が、6番手という出走順。残り5周を過ぎたあたりで1番車にいた北野がワープして、菊地の後ろに入りますが、前に機動力のある市本と岩井、そして、中段に山田が構えていることもあってか、「PEDAL ON」となっても、前の出方をうかがうかのように、動き出しをためらってしまいました。

 菊地としては山田が動いていくと思っていたのかもしれませんし、山田も菊地の仕掛けを待っていた感があります。そういった後方での駆け引きとは対照的に、前を行く市本と岩井は後ろとの差を広げていきますが、残り2周半を前にして岩井が一気に市本を交わしにかかります。

残り2周、先頭に立つ市本隆司(ブラック・2番車)を交わす岩井芯(レッド・3番車)

 残り2周で先頭に立った岩井は、これがPIST6初参戦。高校の頃はインターハイのケイリンで優勝するなど、競技実績もある岩井はタイムトライアルでも4位となるなど、250バンクで適性の高さを示していました。

 ただ、準決勝までは思うように走れていなかったのか、脚力はありながらも自分でレースを作れてはいませんでした。だからこそ、展開も向いた決勝では思い切りの良いレースをしようと残り2周でのロングスパートとなったのでしょう。

勝負を分けたギア倍数

 岩井の踏み出しに立ち遅れた感もある市本、そして岩井の後ろにいた山田ですが、これは岩井とのギア倍数の差もあったかと思います。

 決勝における市本のギア倍数は5.00。そして大ギアで名を馳せている山田のギア倍数は5.67です。対照的に岩井のギア倍数は4.58と、決勝メンバーでは最も軽いギアを踏んでいました。

 岩井はこの軽いギアを踏んでいたからこそ、残り2周を前にして、一気の加速ができたわけです。市本も山田もまさかあのタイミングで岩井が仕掛けていくとは思っていなかったはずであり、そこから踏み込んだとしても、いち早くトップスピードに達した岩井は、その差を広げていきます。

残り1周半、トップスピードに達して後続との差を広げていく岩井芯(レッド・3番車)

 残り1周で大ギアを踏んでいる市本や山田もようやくカカリ始め、岩井を追いかけていきますが、その差は思うように縮まりません。一本棒となった展開の5番車におかれた菊地も、意地で捲りに入りますが、あまりにも前との距離は遠く、結果は6着に敗退。

 逃げ切った岩井が優勝、2着には市本、3着が山田となり、残り2周における、ほぼ隊列通りの結果となりました。結果は単調なレースにも見えますが、優勝を意識した他の選手たちの仕掛けが遅くなった一方で、若さを武器に思い切ったレースかつ、軽いギアを有効に使った岩井に勝利の女神がほほ笑んだと言えるでしょう。

思い切ったレースで逃げ切った岩井芯(レッド・3番車)

 岩井は125期としての初優勝だけでなく、10代選手としてもこれが初めてのPIST6優勝。しかも、自分より格上の選手たちと渡り合っての勝利ですから、大したものだと思います。この勝利は岩井にとっても自信になったはずであり、今後の大会では予選から自ら風を切って、優勝をめざしてもらいたいところです。

 またこの岩井の優勝は、他の125期の選手たちにとっても刺激になったに違いありません。しかも競技を経験している選手たちは、充分に勝負になることを同期・岩井が証明しただけに、若手選手たちにはまだまだPIST6に参戦して、大会を盛り上げてもらいたいです。また、来年からはPIST6だけでなく競輪でもインターナショナルルールを下敷きにした、「KEIRIN ADVANCE(ケイリン アドバンス)」が始まります。

 「KEIRIN ADVANCE」はPIST6とは違って競走得点も入りますが、PIST6を経験している選手たちは「KEIRIN ADVANCE」でもすんなり順応できるはずです。パリオリンピックでケイリン競技を見て、改めて自転車競技の奥深さを知った方も多いかと思いますが、今後もPIST6や「KEIRIN ADVANCE」で、選手たちがどんなレースをしているかを見てもらえたらと思います。

坂本勉が選ぶ! 今シリーズのMVP

表彰台で喜ぶ1位 岩井芯と2着 市本隆司(左)、3着 山田義彦(右)

 初出場、初優勝という快挙を果たした岩井でしょうね。今後もPIST6に新たな風を吹き込ませるようなレースを期待したいです。そして敢闘賞は市本です。先ほども書いたように、年齢を感じさせない程に積極的なレースを見せており、今後のPIST6でも若手選手にとっていい壁となってくれるはずです。市本はこの後、マスターズ世界選手権に出場を予定しているとのことですが、今大会で見せた若々しい走りができるならば、1年ぶりとなる優勝も期待できそうです。


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netkeirinではPIST6の出走表を見ながら、ラクラク買い目を作成することができます。作った買い目はTIPSTARの車券購入ページに送れる ので、そのまま車券投票が可能です。選手の成績やタイムトライアル結果などを参考にしながら、ぜひベッティングを楽しんでください。


●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。

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