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【坂本勉のPIST6徹底回顧】V9達成・堀江省吾に向いた運 2着根田と3着前反も讃えるべき好レース /レジェンドが見た疾風迅雷 #32

2024/01/30(火) 18:00 0 2

現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)

 netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は1月26日・27日に行われた「PIST6 Championship」の「フォースクォーター ラウンド35」の決勝レースを回顧していきたいと思います。

【PIST6 ChampionShip フォースクォーター ラウンド35 決勝レース動画】

一次予選の死闘! 徳田匠に14連勝止められた堀江省吾

 今回の「フォースクォーター」で4場所連続かつ、歴代最多となる通算9度目の優勝を果たしたのが堀江省吾です。ただ、これまでの3大会とは違い、初日の一次予選で2着に敗れたことで完全優勝とはなりませんでした。

 その一次予選で堀江の14連勝を止めたのが、堀江とは同じ119期生であり、学生時代から自転車競技でも競い合ってきた徳田匠でした。

 この一次予選では堀江が1番手、徳田が4番手からのスタートとなっています。「PEDAL ON」で後方の選手が動き出していった時、1番手の堀江は突っ張っていくのではなく、徳田も含めた後ろの3人を前に迎え入れます。

 堀江としては二次予選に進むだけでなく、連勝を途切れさせないためにも安全策を取ったのでしょう。ただ、ここで2番手に上がった徳田は道中で何度も後ろを振り返り、残り2周で堀江が動き出すのを確認すると、番手発進のような形で先頭へと躍り出ます。

一次予選、堀江省吾(ホワイト・1番車)の動き出すのを確認して先頭へと躍り出た徳田匠(ブラック・2番車)

 堀江と徳田は競輪では同じ先行タイプの脚質であり、PIST6でも積極的な走りを見せています。前に出た徳田に対して、堀江は外から並びかけていきますが、コーナーで膨らんでしまうのでなかなか前には出られません。

 両者のマッチレースは2周に渡って繰り広げられましたが、軍配が上がったのは先に動き出していた徳田でした。1番手から引いた堀江としては「PEDAL ON」で突っ張ったのなら勝ち切れないとの思いもあったのでしょう。ただ、踏み合う相手となったのが、PIST6の優勝経験もある徳田だったのは不運だったと言えます。

一次予選、堀江省吾(ホワイト・1番車)の14連勝を止めた徳田匠(ブラック・2番車)

 しかも、徳田からすると堀江は学生時代からのライバルでありながら、今やPIST6だけでなく、競輪でも先を行かれている存在となっています。一次予選と言えども並びを見た時には「ここで堀江に一泡吹かせたい」との思いも強かったはずです。

 この敗戦を機に堀江はスイッチが入ったのでしょう。その後の二次予選、準決勝と早めの仕掛けで勝利をあげています。この修正能力こそ、堀江が絶対王者として君臨している要因のひとつかもしれません。

5度の優勝経験の根田と原田の“同門対決”にも注目集まる

 決勝のスタートの並びはインコースから②原田亮太堀江省吾竹内智彦小畑勝広前反祐一郎根田空史となりました。

 今大会では唯一、無傷の3連勝で勝ち上がってきたのが地元の根田となります。決勝メンバーの中では競輪の実績もずば抜けている根田は、PIST6でもここまで5度の優勝を経験してしています。

 根田は今大会のタイムトライアルでも1位を記録。単勝でも一番人気に支持されましたが、PIST6では不利とされる6番手を引いてしまいました。また、この決勝では同じ千葉所属で、弟弟子となる原田も勝ち進んできただけに、その対決にも注目が集まります。

 一方、根田に人気は譲った形となった堀江は2番手となっただけでなく、機動力のある原田が前にいることで、非常にレースがしやすくなりました。

 原田は一次予選から準決勝まで、常にバックを取る走りを見せています。それだけに堀江としては、道中は必ず動いてくるであろう、原田の後ろについていけば、勝負どころで抜け出しを図れるため、レースプランは組み立てやすかったはずです。

原田亮太(ブラック・2番車)の後ろで機会を伺う堀江省吾(レッド・3番車)

PEDALONから積極的に動き出した根田、前反、原田

 レースが始まって2周目に5番手を走っていた前反が、ワープをして根田の後ろに付けました。「坂本勉のPIST6徹底回顧 #30」でも書いたように、タイムトライアルでは若手選手と開きがある前反ですが、脚力の差をカバーすべく、5.00倍という重いギアを回しているだけでなく、道中では先行していきそうな選手の後ろのポジションを狙っていきます。

 その番手をゴールまでキープしながら、確実に次のレースへと勝ち上がってきていくあたりは、競輪で培ってきた追込選手の巧さと言えます。そうかと思いきや、二次予選では誰も動き出さないのを見計らって先行も見せてました。この辺りの臨機応変さはベテラン選手らしいというのか「PIST6を良く勉強しているなあ」とうならされるばかりです。

「PEDAL ON」で動き出していったのは、やはり根田でした。その後ろには前反が続き、2人は残り2周のホームで出切ってしまいます。そこに3番手から襲い掛かっていったのが原田です。

「PEDAL ON」で動き出していった根田空史(ホワイト・1番車)、前反祐一郎(イエロー・5番車)、原田亮太(ブラック・2番車)

 先ほども書いたように根田と原田は、同じ千葉所属というだけでなく、今大会にも出場していた中村浩士を師匠とする『中村道場』の兄弟子と弟弟子の関係となります。

 競輪ではラインを組むことも多い2人ですが、PIST6はあくまで個人戦の競技です。互いの走りや手の内も分かっていたはずですが、残り1周半からの原田の捲りに、インコースで一歩も引かない根田との同門対決は見ていても面白かったですね。

運や展開も味方に付けて圧倒的着差をつけてゴールした堀江

 それでもホームの手前で原田は失速。その時に一気に外から鮮やかに根田を捲っていったのが脚を溜めていた堀江でした。

 スピードに乗った堀江は、みるみる後続との差を広げていきます。そのまま、実力者が揃う決勝では、めったに見られないほどの着差を付けてのゴール。圧巻の強さで9度目の優勝を果たしました。

一気に仕掛けて捲り切った堀江省吾(レッド・3番車)

 今大会では決勝が一番強いレースとなった堀江ですが、もし、原田のような積極的な選手が自分の前にいなかった場合や、根田より後ろからのスタート順になっていたのなら、自分で脚を使いながら動き出していく必要があったはずです。そういった意味では実力もさることながら、運や展開も味方につけられたことが、あの着差に現れたと言えるでしょう

 運や展開は味方にできなかった根田ですが、残り2周半から踏み出していっただけでなく、原田との叩き合いを制して、しかも、2着を守り切った走りは「強い!」 の一言です。そして、その根田に続いて3着となった前反は巧い。「あの走りに良く食らいついていったなぁ」と前反にも驚かされました。

好レースを演じた表彰台選手たち 1位 堀江省吾(中)、2位 根田空史(左)、3位 前反祐一郎(右)

 クラスだけでなく、脚質や年齢も問わずに様々な選手が参戦しているPIST6では、タイムトライアルの時計にも証明されているように、ベテランの追込選手よりも若手の先行選手が結果を出しやすい傾向があります。

 それでも前反の走りが、作戦次第では追込選手でも通用することを証明していますし、今後は前反を含めた追込選手の更なる活躍も見てみたくなりますね。

 今回は2番人気の堀江が1着。1番人気の根田が2着となりましたが、3着が6番人気の前反だったことで、3連単は3,570円となかなかの配当になりました。今後のPIST6でも前反が出走していて、先行してきそうな人気のある選手の後ろに付けられそうな並びならば、前反を2着、もしくは3着に入れた3連単が狙い目となってきそうです。

坂本勉が選ぶ! 今シリーズのMVP

前人未到のV9を達成した堀江省吾

 勿論、堀江です。次は10度目の優勝を狙っていくのでしょうが、堀江と同期の選手だけでなく、最近、参戦が目立ってきた若い選手たちにとっても、その走りは刺激になっているはずです。これからはこうした若い選手の挑戦を受ける立場ともなりますが、互いに切磋琢磨しあいながら、更に優勝回数を増やしてもらいたいです。

 敢闘賞は根田と前反の2人ですね。根田は原田との同門対決という、PIST6ならではのレースを見せてくれましたし、前反は年齢を感じさせないほどの走りというか、更なる「進化」をこのPIST6で見せてくれています。今大会は決勝も含めて面白いレースが続いていましたが、その立役者3人の名前をあげさせてもらいました。


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●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。

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