2023/10/12(木) 18:00 0 2
現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリやオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は10月8日・9日に行われた「PIST6 ChampionShip」サードクォーターラウンド22の決勝レースを回顧していきたいと思います。
【PIST6 ChampionShip サードクォーターラウンド22 決勝レース動画】
今大会で優勝を果たしたのは村田瑞季となりました。村田はこれで3度目の優勝。今大会はタイムトライアルでも1位です。実力面でも格上ながら、4走すべて1着で、各レースの内容も素晴らしかったと思います。
一次予選では早めの仕掛けで他の選手をねじ伏せたかと思えば、二次予選と準決勝では、脚を温存してからの捲りを見せ、ゴール前では図ったかのように先に抜け出した選手をとらえていました。
PIST6での戦い方を理解している村田ならではのレース勘やどんな展開にも対応できる自在性あっての結果ですね。特にそれら“引き出し”が遺憾なく発揮されていのが決勝の走りでした。
決勝のスタート並びはインコースから⑥前反祐一郎③神田龍④緑川修平①村田瑞季②松山桂輔⑤吉本哲郎となりました。
村田と同様に無傷の3連勝で決勝に進出したのが神田となります。PIST6優勝で経験もある神田の持ち味は、競輪でも見せている「先行力」です。今大会でも神田は一次予選から先行を見せています。神田は出切ってしまえば、なかなか交わされない“しぶとさ”も兼ね備えています。この決勝でも神田がどの位置から仕掛けてくるかがレースの重要な鍵だったように思います。「PEDAL ON」でまず動き出していったのは6番手となっていた吉本でした。
吉本からすれば前を叩いていくことで、タイミングを見計らって先行してくる神田の動き次第で中団のいい位置を確保できるとの狙いもあったはずです。ただ、その吉本の動きに即座に反応していたのが、後ろについていた村田です。すると、村田の後ろにつけていた松山が前にいた2人を交わし、残り2周で先頭へと躍り出ました。
松山としては、神田にしろ村田にしろ「そろそろ動き出してくるだろう」との狙いもあったとは思います。ですが2人とも動かなかったため、準決勝と同様に自分から仕掛けていったのでしょう。
残り2周で5番手となっていた神田ですが、ここで満を持してスパート体制へと入ります。その仕掛けるタイミングを常に注視していたのが、3番手の村田でした。残り2周のバック手前で、再び神田の位置取りを確認したかと思うと、ギリギリまで引き付けてから、神田を外に張り気味にします。
神田に外を走らせることでスピードを鈍らせると、残り1周の最終ホームを前に仕掛けを開始。あっという間に松山と吉本をとらえると、終始、村田の番手を取っていた前反に詰め寄られることもなくゴール。強さもさることながら、村田の判断力の良さ、“レースの巧さ”が際立っていましたね。
レース後のコメントにもあったように、村田は神田が上がってきた時に突っ張るだけでなく、その後ろに付ける作戦も考えていたようです。それだけ落ち着いてレース状況が見えていたということでしょう。
巧かったのは村田だけではありません。この決勝で際立っていたのが6番人気ながら2着となった前反でした。1番手からのスタートで何でもできるポジションではありましたが、残り3周で吉本と村田に交わされた時に、後ろから来た松山を入れさせず、村田の番手を確保していきました。
準決勝でも前反は村田とレースをしていましたが、その時も1番手だった前反は、6番手から動き出していった村田を自分の前に入れると、その番手を追走。村田が包まれても動じることなく、最後は捲りに乗っていっての2着となり、決勝進出を果たしています。
この決勝でも、前反は村田の番手が勝てる位置だとわかってレースをしていたと思います。この辺りはさすがベテランの嗅覚が冴えています。しかも前反は番手戦だけでなく、二次予選では残り2周から先行も見せていました。今年で49歳と思えないような前向きさが、決勝での2着という結果に繋がったと思います。
前反は競輪のレースにおいて「追込選手」です。ですが、PIST6のレースはライン戦ではなく個の勝負。そこで結果を残すために追込選手と言えども自力が必要になることを理解しています。自分で動き出していく必要性もしくは積極的に動く選手に付け切るレースを心がけているに違いありません。
前反は過去のnetkeirinのインタビューの中で、「PIST6で自力を出しているのがいい結果に繋がっている」と話していました。前反は今大会も5.00倍と重いギアでの参戦となっています。その重いギアを回しながら、普段の競輪では走らない250バンクで自力含みの走りを重ねています。この流れが競輪選手としての実力を高めることにも繋がっているのでしょう。
前反の前向きな選手姿勢がPIST6の成績に繋がっていることは結果を見れば一目瞭然です。前反も村田や神田と同様に最近では専ら決勝常連になっていますからね。この決勝では3連単6,350円の配当の立役者となりましたが、今後も穴となる車券を演出してくれそうです。
前反のようなベテラン選手が頑張っている一方で、どこか残念だと思えたのが、今大会に出場していた若手選手たちです。中にはタイムトライアルでいい時計を出している選手もいましたが、レースでは積極性が見られませんでした。
私はこのコラムで『PIST6はデビューしたばかりの若手選手でもS級戦を走っている格上選手たちとラインに関係なく、個々の能力をぶつけ合って戦えるレース』と常々書いています。だからこそ自分の実力を確かめるべく、時には踏み合いになっても引かないような先行をして欲しい気持ちがあります。結果を残そうという思いが強いばかりに消極的なレースを選択するのは勿体なく、どこか寂しくなりました。
もちろん車券を買って応援してもらっているファンの皆さんに、結果で答えたいという気持ちはわかります。ただ、結果もさることながら、神田のように競輪でもPIST6でも先行を貫いていくスタイルは強くなるためには大事だと思いますし、前反のように競輪ではできない走りをPIST6で挑戦していくことも大事になります。
神田や前反の姿勢こそ結果に繋がっているのです。2人ともPIST6に対する「前向きさ」があるのだと思います。これから参戦する若手選手たちにも神田や前反のように、結果を出している選手たちの走りを参考にしてもらいたいです。その時に生まれてくる前向きな気持ちが、選手としてさらに成長できる機会になります。その成長はPIST6での活躍にとどまらず、競輪のライン競走にも活かせるはず。双方に良い影響をもたらすでしょう。
これは自身初の完全優勝を果たした村田でしょうね。今大会でも証明した自在性は、村田にとっての最大の武器でもあるだけに、今後は河端朋之や、堀江省吾にリベンジを果たすようなレースも期待したくなります。
そして敢闘賞は前反と神田です。神田は村田ほどの自在性はありませんが、先行一本で迷いがないレースは応援しがいがありました。34歳となった神田ですが、今後もPIST6では若々しい走りを見せてもらいたいです。
【netkeirinからPIST6のレースに投票しよう!
netkeirinではPIST6の出走表を見ながら、ラクラク買い目を作成することができます。作った買い目はTIPSTARの車券購入ページに送れる ので、そのまま車券投票が可能です。選手の成績やタイムトライアル結果などを参考にしながら、ぜひベッティングを楽しんでください。
●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。