2022/11/09(水) 18:00 0 3
現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリやオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は11月5日・6日に行われた「PIST6 Championship 2022-23」サードクォーターファイナルラウンドの決勝レースを回顧していきたいと思います。
【PIST6 サードクォーターファイナルラウンド 決勝レース動画】
前回のコラムで取り上げた、サードクォーターラウンド8の決勝レースと同じように、今回の決勝も根田空史、堀江省吾、隅田洋介の3人が無傷で決勝に勝ち上がってきました。
その一方でタイムトライアルでは2位だった東矢昇太と、タイムトライアル4位かつ過去4度の優勝経験がある伊藤信が揃って準決勝で敗退。その準決勝は東矢、伊藤ともに6番手からのスタートとなりましたが、勝負どころで後方に置かれたことで、持ち味であるスピードを発揮できませんでした。
これは道中で脚を溜めながら一発を狙っていく2人の脚質がアウトコースからのスタートに合っていないということでしょう。特に伊藤のレースに関して言えば「道中動いて位置を探してくるようなレースはしてこない」と他の5名はわかっていたように思います。
それならば、伊藤が後方から動き出す前に踏み上げてしまえば、必然的に外に振られてしまう伊藤の捲りは不発に終わります。スタートの枠順は運ですが、他の選手も250バンクを走り慣れてきたことで、勝負どころの判断がうまくなってきたり、もしくは自分から前々に踏んでいったりするような選手も増えてきました。
これまでは(決勝で結果が残せない選手でも)準決勝までは力の違いで勝ち切っていましたが、ここ最近では準決勝から力が拮抗してくるように変化してきています。こうなるとスタート順はより重要になってきますし、後方になった際には「PEDAL ON」の前に脚を使ってでも一度は前に出て行く必要があります。
しかも、今ではそこから長めに先行できるだけの脚が無いと、決勝に勝ち上がるのも難しくなってきましたね。2人にとっては教訓になったと思いますし、先日書いた予想の6つの心得に「準決勝はスタート順が重要」という格言を加えるべきなのではとさえ思っています。
さて、決勝レースのスタートの並び順ですが、インコースから②隅田洋介①堀江省吾③根田空史⑥恩田淳平④望月一成⑤鈴木伸之となりました。
サードクォーターラウンド8の決勝とは違って、今回は人気の3名がともにインコースからのスタート。この並びで一番有利に見えたのは、前の2人の出方を見ることができる根田でした。
根田は競輪でもPIST6でも早めに動き出しての“力を出し切るレース”ができる選手です。ここ最近ではそのスタイルに結果がついてきています。今ラウンドも先手を取られても早めに巻き返して、果敢に先行していました。前回の優勝者である中島詩音と同じように、根田も2大会連続優勝をしている自信がレースに表れていたと思います。
「PEDAL ON」の前に動き出したのが6番手にいた鈴木でした。ここでその後ろに飛びついたのが根田です。しかも根田は鈴木が前を行く隅田を捲り切ったと見るや、コースの上まで外に車を走らせ、坂の勢いも加えながら、残り2周で先頭に躍り出ました。
その根田の仕掛けにすぐに反応したのが、こちらも2度の優勝経験のある堀江でした。堀江も根田の番手につけるかのように自転車を外に回していきました。ただ、その間隙を縫ってきたのが恩田です。
恩田は競輪だけでなく、このPIST6でも動いていきながら先行選手の番手を狙う競走で決勝へと進んできました。そういった意味で恩田は競輪で培った経験をPIST6にもうまく活かしていますし、根田が下がってきたのを見計らい、番手の位置に狙いを定めていきましたね。
一方、準決勝までの3戦で力の違いを見せつけてきた隅田ですが、1番車という有利なスタート順になったにも関わらず、根田や堀江が動き出した時に、その仕掛けを“見過ぎて”しまいました。
隅田は根田が動き出した時に、すかさず自分も行くべきでした。優勝を意識し過ぎたばかりに、根田や堀江の後ろの“好位置”を探してしまったのかもしれません。しかし気付いた時には2人は遥か前方…。隅田の勝ち上がりは完璧に近いレースでしたが、この決勝では唯一とも言える手痛い失敗を犯してしまいました。
こうなると優勝争いは根田と堀江の力比べとなっていくわけですが、内に恩田がいただけに、堀江は終始外を踏まされていました。タイムトライアル1位の堀江と6位の根田の差は、おおよそ0秒1差でしたが、こういったレース展開になると、タイムで上回っている堀江と言えども、カカっている根田を交わすのは難しくなります。
ひとつ言えるのは堀江は根田の番手を取りに行くのではなく、早めから前々に踏んでいくべきだったということです。過去のコラムでも「PIST6に格は無い」と言ってきましたが、まだ若く、クラスもA級の堀江は「この機会だからこそ!」と根田に対して挑戦者となるべきでした。
もし、堀江が早めに先頭に立っていたのなら、逆に根田の追撃を受ける形になっても振り切っていた可能性があると思います。堀江はPIST6だけでなく、競輪の走りを見ても力を付けていることがわかります。それだけに、この決勝では根田の番手を狙うのではなく、格上の胸を借りるつもりで“真っ向勝負”を挑んで欲しかったですね。
根田に目線を移すと『堀江と恩田が並走する展開』は運に恵まれたとも言えるでしょう。ただし、その運を引き寄せたのは根田自身の心構えです。「自分が主導権を取っていく」というスタイルが勝機を創り上げたと言っていいと思います。
後方5番手まで下げてしまった隅田は残り1周から猛烈な追い上げを見せていました。最高時速は1、2着争いをした2人を上回る『時速70㎞』に到達。それでも前を行く3人とかなりの差があったのが勿体ないところでしたね。
最終的には優勝争いを繰り広げていた3人の中で堀江と並走していた恩田が失速。第3コーナーから前を行く根田との争いに持ち込みますが、内と外の差はいかんせん埋めようもなく、根田が3/4車身振り切っての優勝。2着は堀江で、3着には物凄いスピードで画面の外から飛び込んできた隅田となりました。
根田はサードクォーターラウンド1、ラウンド5、ファイナルラウンドと出場3大会すべて優勝です。しかも4連勝での完全優勝となりました。自分の持ち味である先行を貫き通せただけでなく、TIPSTAR DOME CHIBAで普段から練習できるホームバンクの強みを活かし切れている結果でしょう。スプリント競技で優秀な成績を残していることもまた、PIST6向きの走りとなっているのでしょう。
今ラウンドの根田の走りを見るに、同じように連勝を重ねている中島や永澤剛との対決が益々楽しみになってきました。その永澤ですが普段の競輪でもかなり良くなってきています。PIST6出場後の追い込み選手には良い効果があるのでしょう。
これはPIST6のレースでは先行選手のような“タテ脚”が重要になることに関係しています。普段は番手に控えている追い込み選手たちも「自分から動き出していこと」が必要になるPIST6のレースではタテ脚とスピードが強化されていきます。このあたり競輪とPIST6の相乗効果が見て取れるので、競輪の車券を買う際にも気にしてみるといいかもしれません。
実力と経験値を兼ね備えた走りを見せてくれた根田ですね。ただ、敢闘賞は面白いレースを見せてくれた恩田にあげたいです。競輪では自在型の恩田ですが、今回は好位置を取っていくという新たな指針・戦い方をPIST6に示してくれたと思います。車券に絡む可能性も高くなりそうですし、今後も恩田の走りに注目したくなりました。
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●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。