2024/09/11(水) 12:00
<前編はこちら>
気になっていた神社は、「矢立初めの碑」のすぐ奥にある「橋戸稲荷神社」だ。小さな神社なのだが、黒と赤を基調としたアーバンな雰囲気も漂う社と、祀られたお狐さまの躍動感が印象深い。お狐さまには子狐もいて、しっかりと赤いよだれかけがかけられている。
この神社には、名工、入江長八が、子を抱いた母狐と、父狐とを対に、やさしいタッチで描いた漆喰で作るレリーフ状の工芸画「鏝絵(こてえ)」があることでも知られている。平常時はガラスで保護されたレプリカが飾られており、年に3回のみ、本物の鏝絵が開帳されるそうだ。
この横の公園で、先ほどのだんごをパクリ。海苔がしっかりとしており、甘みは抑えられ、とても食べやすい。何より、食感にこだわったというもちは弾力があって、もっちもち!感動の味だった。このクオリティーでこの値段。人気があるのがよくわかる。
再び旧日光街道方面に戻り、足立市場へ。玉子焼を購入できる店があるというので、立ち寄ってみた。ここは鶏卵卸の会社なのだが、厚焼き卵やプリンを販売している。営業時間を尋ねると、朝3時半からとのこと。その時間から動いてくれる方々がいるから、この便利な世の中が成り立っているのだと妙に納得。感謝の思いも込めて、厚焼きたまごをひとつ購入した。手にしたたまごは、ずっしり重く、ありがたみを感じた。
ここから「やっちゃば緑道」へ向かった。この緑道は、青果物市場への引き込み鉄道の跡地を足立区が譲り受けて整備したものだという。にぎわっていた商店街とも、車が行き交う街道ともまた異なり、緑豊かで静かな住宅街の遊歩道というイメージ。線路下を通る箇所などもあり、冒険感もあって楽しい。道幅も狭いので、のんびりと、行こう。
緑道を抜けて、ガードの下をくぐって、線路の東側のエリアへ。こちらはまた、昭和の香りがする風情の異なるエリアが広がっているようだ。
最初に向かったのは「稲荷ずし 松むら」。江戸のころから庶民に愛されていた稲荷ずしを変わらない味で提供してくれる老舗だ。住宅街の中にある店舗にたどり着くと、想像していたよりも小ぶりなお店だった。外側のショーケースには、大きなパッケージしか並んでおらず声をかけると、中に入って注文してくださいとのこと。引き戸を開けると、カウンターと少々の座席があるこじんまりした店舗だった。このカウンターで注文するスタイルらしい。
のり巻き1本と稲荷ずし2つを頼んでみた。すると、海苔を出してきて、目の前で巻いてくれる様子。貴重だ!写真撮影は禁止されており、記録には残せなかったが、のり巻きを手際良く巻いて、カットすると、いなり寿司と詰め合わせ、渡してくれた。お礼を言って、店舗を出た。
作り立てを食べたくて、さっそくお店の前でつまむと、海苔の風味が生きており、甘さ控えめにしゃっきりと煮付けられたかんぴょうの歯応えもよい。お惣菜に売っているものとは、格の違うのり巻きだった。稲荷ずしも、油揚げがジューシーでさっぱりしており、絶妙な味。「巻いてもらう」贅沢さも相まって、立ち寄る価値のある店舗だと感じた。
次は、駅の西に伸びるレトロな雰囲気も漂う街並みを散策してみよう。このエリアには、風情のある家と新しく建て替えられたらしき家が混在しているが、今でも裸電球の残る細い路地も存在している。むき出しになった電球が据えられた路地に入り込むと、映画の世界に入り込んだような不思議な気分だ。973万人が暮らす東京23区内に、裸電球が灯る路地があるとは。
今度は商店街に出た。美登利湯という銭湯が見えてくる。この辺りには、銭湯が多いことでも知られており、このエリアだけでも、他にも、松の湯、松むらのそば大和湯、駅そばの梅の湯と、それぞれに個性のある銭湯が営業している。鯉のタイルが見事だったり、屋根構えが豪華だったりと、どれも独自の世界観があって、それぞれにファンがいるらしい。散策した後で一汗流し、飲み屋に直行するのも人気の行程なのだとか。
この日は、昭和のパン屋的雰囲気を醸し出す「つるまきベーカリー」を訪れた。アンパンなどの甘いパンもあるが、サンドイッチやスパゲッティーパンなどの調理パンが豊富に並ぶ。庶民的な雰囲気が残り、お値段もリーズナブル。次々とやってくる客は、ほとんど迷うことなく商品を選び、レジへ向かっていく。地域の生活に根ざした店舗なのだろう。大きなコロッケパンを買ってみたが、生地はふわふわで、コロッケはサクサク。お値段以上の買い物だった。
またガードを越えて、線路の西側エリアへ戻っていく。
◆後編に続く