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【松浦悠士のオールスター回顧】胸の内にある“焦り” 自分で自分のチャンスを逃してしまうようなメンタルだった

2024/08/30 (金) 12:00

ファン投票結果3位でオールスター競輪に乗り込んだ松浦悠士(撮影:北山宏一)

 netkeirinをご覧のみなさん、こんにちは松浦悠士です。今回はオールスターの振り返りを書きたいと思います。残念ながら決勝には乗れず、最終日は落車失格でファンや関係者の方にご迷惑をおかけしました。シリーズ後はケガの影響で入院し、走る予定だった小田原記念を観ながらこのコラムを書いています。なんとか来月の共同通信社杯で復帰できるように頑張ります。

ドリームレースは1着だったが

 結論からいえば、今年のオールスターはシリーズを通して「納得がいくレース」があまりなかったです。初日のドリームレースも1着とはいえ、切り替えてのものでした。自分の中で焦りながら判断しているような感覚もあり、内容を考えれば手放しで喜べるレースではありません。

 ただ、脚の調子はまずまず良かったですし、最後は狭いコースでしたが、大きく動かないように注意を払いつつ、脇本さんと深谷さんの間を「大丈夫だ!」という感覚を持って差し込んでいけました。あのメンバーの中で1着まで行けたこと自体は、シリーズを戦っていく上での自信にはなりました。

ドリームレースの勝者となったが、表情は明るくない(提供:チャリ・ロト)

 そして一次予選2はパリから直行したオリンピック帰りの太田海也君との連係でした。まず海也と最初に会った時、「お疲れ様」と伝えました。海也と中野君が奮闘したケイリンのレースは見ていましたし、結果云々ではなく、オリンピックに向かって頑張り抜いたということ、日本代表として戦ってくれたことに対して伝えたい言葉でした。

 競技と競輪では扱う自転車も異なるので、海也は1走目のオリオン賞であまり脚の感触が掴めなかったようです。そのため、ここでしっかりシリーズを戦える感覚を掴んで欲しいという思いがありました。レース前には「1周タイムと仕掛けのタイミングだけ気をつけていこう」と話をしました。

 僕たちの作戦は「スタートが取れれば突っ張ろう」というものでしたが、雨谷さんに取られてしまって。ですが、フタをされたとして、「その場所次第では引こう」とも話していたので、海也も落ち着いて組み立てられたと思います。引いてからはタイミング良く行ってくれましたし、スピードも良かったです。

一次予選2では太田海也と連係、レース前に労いの言葉をかけた(撮影:北山宏一)

 最終局面では「捲ってくるなら伊藤旭君かな」と準備していましたし、しっかり止めにいく態勢を取れていました。止めてから直線を踏んで行き、脚もキツい感じにはなっていませんでしたが、差せず。最後まで踏み切れていた海也は強かったですね。

 伊藤君を持って行く時にやや身体が崩れた部分に反省点はありますが、それにしてもゴールへ向かって加速していく中で、捉えられなかったのは海也の強さです。しっかりと踏み直せるということはペース配分も意識していたのだと思います。後ろから見ていてもダッシュをそこまで使わずスムーズに走れていましたし、連係していて「上手に行ったなぁ」という感じでした。

好連係でレースを終えグータッチ! 順当にシャイニングスター賞へ駒を進めた(撮影:北山宏一)

シャイニングスター賞の不完全燃焼

 2走を終えてシャイニングスター賞へ勝ち進むことができましたが、ここで単騎戦になりました。レースでは「どうあれしっかり動きたい」と思っていたのですが、眞杉君の動きが想定外のもので、眞杉君が番手に下りた際、守澤さんも急激に下がってきて、僕がそのまま行ったら突っ込んでしまう位置関係になってしまいました。危険回避で内に避けたものの、そのまま踏むと「内側追い抜き」になってしまうので、引かざるを得ない形になりました。

内側追い抜き禁止のルール上、前に進路を取れず、後方に引く展開になってしまった(提供:チャリ・ロト)

 あの場面で勝負圏を逃してしまった感は否めず、もったいなかったですし、不完全燃焼で情けなく、見せ場も作れずに終わってしまいました。それに「タテでどのくらい動けるかどうか」を確認できなかったのが痛かったです。

 シャイニングスター賞でうまく回せて仕掛けられたら、準決勝への備えも違ってきます。良い状態を確認したり、悪かったとしても“どの程度”の状態なのかを把握したりすることで、翌日のレースに良い影響があります。今回は何とも煮え切れないまま走り終えてしまったので、準決勝にも悪い影響が残ったと思います。

 そして、その準決勝。番組を見た瞬間「正直、厳しい」という思いがよぎりました。自分よりも脚がある2人の選手には前を走る選手もいたので、無策で自分1人の力で対抗するのは難しいです。いかにうまくレースをコントロールできるか?という気持ちでプランを練りました。

 レースでは窓場君が来た時に「これは駆けるはず」と判断できたので、スピードが合っていた3番手を奪いました。ここまではうまく進めている感覚はありましたが、その後が思うように行きませんでした。

 僕は3番手の位置に入って「すぐに北井さんが来る」と思っていたので、スピード域的には車間を切れるところだったのですが、車間を切りませんでした。一度斬って飛びつくような脚の使い方をすると瞬発力が失われてしまうので、車間を切ってスピードに乗せる必要があります。そのため、あのタイミングで車間を調整すべくトライするべきだったかもしれません。そうすれば最終局面で外のコースを行く選択肢もあったような気がします。

運命の最終4角、古性優作からの強烈なブロックを受け止めながら勝機を探るもスピードは止められてしまった(撮影:北山宏一)

 レースが終わってから桑原さんや柏野さんにも「3番手を取ってから車間を空けられていたら、最後はいい勝負できたんじゃないか?」と言っていただきました。レースでは冷静に判断していく感じではなく、落ち着きがなかったですし、自分で自分のチャンスを逃してしまった形に…。とにかくここでも“焦り”があったと思います。

焦らずにやっていくしかない

 気持ちを引きずらないように切り替えて臨んだ最終日。僕は北井さんラインの後ろから勝負したいと考えていました。フタをしようと思いましたが、下げられてしまいましたし、斬って待つことにしました。

 斬ってからどうするかは「北井さんのペース次第で」という感じで、バーンと来るなら4番手でもいいと思って準備していました。ただ、ジワジワ来ての『ペース駆け』をしたい雰囲気だったので、番手に行きました。ですが、持って行った時に北井さんにハウスしてしまって、自分の技術不足で落車を誘発させてしまいました…。

勝利への最善策として南関ラインの番手を奪いに行くも北井佑季に接触してしまった(撮影:北山宏一)

「年末のグランプリに向けて」という感覚を持てずにここまで来ている現状で、やはり根本的な焦りがレースにも出てしまった感は否めません。僕の走りを楽しみにしてくれていたファンや開催関係者の方に迷惑をかけるレースをしてしまい、反省しています。

 帰りに決勝戦は見ましたが、やっぱり窓場君と古性君は強かったですね。準決勝で戦った時、古性君は僕に意識を向けて止めに来ていますが、それでも窓場君を差せないとは思いませんでした。それだけ窓場君の仕上がりも良かったということです。僕にとっては苦いシリーズで幕が降りてしまいましたが、焦っても状況は良くなりません。まずは体と向き合うところからやり直さなくてはいけません。

ケガと向き合い、状態を取り戻していただけに悔しさ極まるシリーズとなった(撮影:北山宏一)

ケガの状況と復帰見込みについて

 オールスターは厳しい結果になってしまいましたが、ファン投票も応援も改めてありがとうございました。いいレースを見せられず情けない限りですが、またやり直して復帰したいと思います。最後にケガの状態と復帰の見込みについて書いておきます。

 ケガは頭部打撲と右大腿部打撲でしたが、内出血がひどいものでした。大きな血腫が股関節のところにあり、最初のうちは歩けず、オールスター後に約10日間の入院生活をしました。松葉杖なしで歩けるようになったのは24日くらいで、痛みも引いていません…。今は「早く復帰したい」という気持ちと「焦らずにやるしかない」という気持ちを持っています。残りのGIは2つ。その事実を考えれば焦りもありますが、焦ってはうまくいきません。

 今回の落車で自転車もダメにしてしまったので、もう一回セッティングを出すところからです。セッティングまわりは最近かなり良くなっていただけに厳しいですが、落車した身体に合わせていかなくては勝負になりません。落車後に体を整えていくのはハードな練習よりもエネルギーを要します。

 そのため、今はまだどうなるかはわかりませんが、まずは共同通信社杯でしっかり復帰できるようにと考えています。グランプリがどうのこうの以前に、まずはしっかりと体を直し、セッティングを出すこと。そして「いいレースを見せられるように」ということを念頭に置き、復帰を目指していけたらと思います。

焦らずに復帰を目指して(撮影:北山宏一)

読者の方から寄せられた質問に答えます

 それでは今月も質問に答えていきたいと思います!

今回は3つの読者質問に真っ向勝負!(提供:チャリ・ロト)

ーー松浦選手は「漢字の競輪」が巧みな選手という印象です。そんな松浦選手はオリンピックの自転車競技を見ていましたか? 見ていたらどのような視点で見ていたのでしょうか?

 全体を見ていたわけではないですが、日本の選手が出ているレースは見ていました。僕は競技用の自転車が苦手というか、あれを踏むにはみんな筋肉とかすごいんですよ。自分にはない能力がいるなあ、あれだけの肉体が必要なのだな、とか思いながら見ていましたね。走行フォームなんかには目が行きましたね。

 海也のレースはルールを知らないから深くは言及できませんが、日本の競輪だったらなぁとかは思っちゃいましたね。とにかく海也をすごく応援していたので、本人が一番悔しかったと思いますけど、僕も悔しかったです。

ーー自転車を始める前に水泳をやっていたと知ったのですが、自由形ですか?何を専門にしていたのか教えてください。松浦選手は平泳ぎじゃないかな?と予想します。思い出話などがあればお聞きしたいです。

 水泳は小学校と中学校の9年間やっていました。兄の影響で始めました。平泳ぎは一番遅かったです(苦笑)。一応、専門は自由形とバタフライでしたね。一番速く泳げる自由形が一番好きでした。中学時代は入賞したいと考えて「400メートル個人メドレー」とか「1500メートル自由形」とか、きついけど人が少なくて入賞確率が高い種目に出ていました。何位だったかは覚えていませんが、広島市の大会で入賞した記憶があります。いろいろとやって、中学3年は中長距離でしたね。その後は就職を目的に高校に進学しましたが、その高校に水泳部がなかったのでやめてしまいました。水泳部があったら入部していたと思います。

ーーシャイニングスター賞やゴールデンレーサー賞、白虎賞など、いわゆる「準決勝フリーパス」のレースはどのような気持ちで走るのでしょうか?通常のレースと変わるのか変わらないのか教えてください。

 気持ち的にはだいぶ変わりますね。「どこかでいい仕掛けをしたい」といった気持ちが強くなります。もちろん、勝ちを目指しに行くのはまったく変わりません。でも勝ち上がりでは「ここで行くとちょっと早いかな?」とか躊躇したりすることもありますが、勝ち上がりが確定している中で走る分、思い切り行ける感覚にはなりますね。

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松浦悠士の“真っ向勝負!”

松浦悠士

Matuura Yuji

広島県広島市出身。日本競輪学校第98期卒。2010年7月熊本競輪場でレースデビュー。2016年の日本選手権競輪でGⅠ初出場、2019年の全日本選抜競輪では初のGⅠ決勝進出を果たす。2019年の競輪祭でGⅠ初優勝を飾り、同年KEIRINグランプリにも出場。2020年のオールスター競輪では脇本雄太との死闘を制し、優勝。自身2つ目のGⅠタイトルを獲得した。ファンの間ではスイーツ好き男子と知られており、SNSでは美味しいスイーツの数々を紹介している。

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