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【松浦悠士の状況報告】競輪場の外で見た決勝戦 ひたすら悔しくて「今すぐ走りたい」

2024/03/31 (日) 18:00

 netkeirinをご覧のみなさん、こんにちは松浦悠士です。ウィナーズカップでは落車で怪我をしてしまいご心配をおかけしました。今回は「瀬戸の王子杯争奪戦」と「ウィナーズカップ」の振り返り、現状の報告を書いていきたいと思います。

玉野記念「瀬戸の王子杯争奪戦」を制した松浦悠士(写真提供:チャリ・ロト)

ウエイトトレーニングを取り入れた

 本題に入る前に最近はじめたことについて書きます。すぐに効果を見込んでのものではないですが、1年半程度の期間をかけて「体づくり」に取り込もうと考えています。今まではコロナ禍でバンクが使用できない時や雨で走れない時にジムに行き、少し“かじっていた”くらいの感覚で行っていたウエイトトレーニングですが、今は本格的に取り組んでいるところです。

 最近はずっと「自力の強化」にテーマがありますし、そのテーマに向き合うときに体づくりの必要性を感じていました。これから長い視点で自分の体づくりに意識を置き、強くなるために挑戦していこうと考えています。

 さて、玉野記念の振り返りですが、前検日の僕は筋肉痛にやられていました。ウエイトトレーニングのダメージを残してしまい、練習の疲れも相まってコンディションは最悪。初日のレースでは裕友が3番手を取ってくれて、3コーナーで仕掛けていったところで僕のコースも開いて確定板でしたが、めちゃくちゃなコンディションで迎えてしまい、調整の仕方に改善が必要だと学びました。(この気づきはウィナーズカップ前のスケジューリングで活かすことができました)

番手を走る時に思う「先行選手を残したい」

常々「先行選手にどんなサポートができるのかが重要」と語っている(写真提供:チャリ・ロト)

 リズムを良くしたい2日目のレースは落車のアクシデントがありました。無事に避けられたのは良かったですが、僕は落車に気がつくのが遅れ、急減速しつつ普段しないような動きで避けてしまい、勝負所を迎える前にかなり脚力消費をしてしまいました。連係した山根君ですが、落車のアクシデントを超えて後ろの無事を確認し、しっかりと仕掛けてくれました。仕掛けてからの強さもすごかったです。

 ですが、レースを振り返ると「仕掛けのタイミング」にもったいなさを感じました。レースではアクシデントが起きた時に一瞬流れが止まるというか、各選手に隙が生じます。ライン全員が落車を無事に避けた時点で間髪入れずに踏めていたら、結果は違うものになっていたのかもしれないと想像しています。落車に限らず、アクシデントによって相手の体勢が乱れている時はある意味チャンス。今回は叶いませんでしたが、次は山根君と一緒に決めたいです。

 3日目の準決勝は石原君と岩津さんとの連係でした。番手を走る時に思うのは「先行選手と決めたい、先行選手を残したい」ということです。ただ、このように後ろに岩津さんがいる場合は、瞬時にシビアな判断もしなくてはいけません。石原君の仕掛けるポイントやペースを注視して、躊躇のない判断が必要になります。出てくなら出てく、残せるなら最善のサポートをする、という感じでレースに臨みます。

松浦悠士が絶大な信頼を寄せる地元地区の先輩・岩津裕介(写真提供:チャリ・ロト)

 レースでは石原君のカカリも悪くなく、僕は「残せる!」と思って走っていました。でも仕掛ける前のペースが速かったこともあるのか失速気味になっていき、そのタイミングで久徳さんも良い勢いで来ていたのでシビアに踏むことを選びました。ここで躊躇してしまうと、北津留さんも迫ってきますし、あのクラスの選手だと「来た」と認識した時にはもう遅い、というケースになります。脇本さんや深谷さんも思い浮かびますが、姿が見えたらもう遅い。

 ここが番手を走る上で難しい部分です。先行選手を一番大事にしなくてはいけない位置にいながら、先行選手が苦しそうになった時に判断をして動かなくてはいけないということ。躊躇して負けるなら、先行選手の頑張りにも応えられませんし、後ろの選手のチャンスも潰すことになります。このポイントを見極めるのは本当に難しく厳しさも伴いますね。

岡山の選手と走れる喜びに大きな意味を感じる

 そして最終日の決勝戦。僕の戦法的にもこれまでの経験的にも雄吾の前を走ってはいませんし、加えて雄吾や岩津さんと別で戦う選択肢もありませんでした。3人で雄吾、僕、岩津さんで並ぶことを決めました。

 前を走る雄吾は眞杉君を相手にしっかりと力で勝つ走りをしてくれました。なんとかサポートしたかったのですが、オーバーペース気味に頑張ってくれていましたし、眞杉君も雄吾に当たっていく感じの走りでした。僕は追走していて内に進路を取ろうかとも考えましたが、拳矢君が来た時に内に詰まるパターンも想定できたので、レースの流れに乗りながら戦況を見ていました。

 そんな中、2コーナー付近では雄吾も眞杉君も失速したので、「岩津さんと決める」と考えをシフトして前に踏みました。あのレースはバックが向かい風でしたし、タイミングに間違いはなかったように振り返っています。結果、優勝することができ本当にうれしかったです。2センターくらいでは「これ岩津さんに抜かれるな」と思っていましたが、勝つことができて、しかも岩津さんとワンツーでゴールできて本当によかったです。

決勝ゴール線は1/2車輪差で制した(写真提供:チャリ・ロト)

 玉野記念は地元地区の開催ですし、自分の中に盛り上がる気持ちがあります。でもそれよりも岡山の選手と一緒に頑張れることに大きな意味のある開催です。公私ともにお世話になっている岩津さんと連係して戦うことにも喜びがありますし、ともに成長していきたい選手も数多くいます。決勝で気持ちのある走りをしてくれた雄吾も頑張って欲しく、サポートしたい選手です。地元の力で優勝できたことで、連覇をめざすウィナーズカップに弾みがつくシリーズになりました。

感触が悪くない! 連覇めざしてウィナーズカップへ

 ウエイトトレーニングを本格的にやり始めてから「感覚がわからない」というのが正直なところで、ウエイトをしつつ、自転車に乗る練習もしつつだと、疲労がスッキリ抜け切った状態がない感じになります。そのため、経験から学習するほかありません。今回は筋肉痛を残してしまった玉野記念の反省を活かして、前検日から逆算してトレーニングを早めにズラして調整しました。ウィナーズカップ前検日には不安もありましたが、いざ会場入りして走ってみると悪くない感触。シリーズが楽しみになりました。

連覇を狙うべく取手競輪に入った(撮影:北山宏一)

 初日は反省点もありますが、感触の良さを感じながらレースを走ることができました。お客さんから見ると、道中で犬伏君と連結を外す危険性があったように見えたかもしれないシーンがありましたが、あの場面は冷静に状況が見えていて、しっかりとドッキングするまでの流れも浮かんでいました。犬伏君の前はコースが開いたけど僕の前は開いておらず、外を回って合流すべくルートを取っています。とはいえ、ドッキングしたところでホッとはするんですが(笑)。

 犬伏君が出切ったところでは風も強くて3コーナーあたりでは「後ろから誰か来るだろう」と考えて僕は一回外に振る動作を入れました。その時、開いた内にすごい勢いで小林君が入り込んできました。僕は小林君が来ていることにまったく気がついておらず、その瞬間は小林君ではなく慎太郎さんが来たと思っていました。

内から入ってきた小林泰正との攻防シーン(撮影:北山宏一)

 スピード差もあり、うまく体重をかけて当たれる体勢でもなかったので、カントを利用してスピードを確保しながら対処しました。このあたりはイメージと違うことが咄嗟に起きても、しっかりと対処できましたし、冷静に走れていたと思います。でもこの対処をしている間に深谷さんに行かれてしまっているので、このクラスでする走りを考えると、もっと精度を上げる必要があると課題も感じました。

裕友の強さを実感した毘沙門天賞

 そして2日目の毘沙門天賞は四国組と分かれて、僕は裕友と連係しました。このレースは驚きがあって、過去に裕友についてきた中で加速度合いや強さは確実にトップ3に入る凄さでした。前述したとおり、僕の感触は全然悪くなく、シッティングでも「めちゃくちゃ踏めてる感がある」走りだったんです(シッティングの状態で「踏めてるぞ」と思うことは結構稀な感覚です)。

 クチが空いたり離れたりするレースは大抵の場合、自分が「踏んでも進まないから」なんですよね。“踏めてる感”があるのになかなか追いつかないというのは、これまであまり経験したことないものでした。最終バックから3コーナーにかけて向かい風が強かったので、なんとか追いつきましたが、本当にそういう要素があって追走できたというのが正直なところです。裕友と比べると良い感覚の中でも「脚がなかった」と言わざるを得ません。

毘沙門天賞の最終1センター、5番車・清水裕友を追う1番車・松浦悠士(撮影:北山宏一)

 追走に関してはそんな感じなのですが、レース自体は落ち着いて戦えたと思います。追いつくことを目的にしてしまうと車間を適切に保てず、後ろをスピードに乗せて引き連れていってしまうことにもなります。このあたりは判断できていたので、けん制を入れながら最終4コ-ナーでしっかり自分が抜け出すための車間を取り、うまく走れたように思います。

苦しくなった準決勝はスタートから反省がある

 準決勝のスタートは北井さんや新田さんの動きまでは視認できていたのですが、ヒデさんがすごく速くて。「うわースタートやられた…」と思いました。スタート3番手からになったのが、苦しいことになった最初のポイントです。連係した豪ちゃんの脚質的にレースを想定すれば、初手の位置は厳しかったです。豪ちゃんは打鐘過ぎの3コーナーで一回カマしに行こうともしてくれたのですが、北井さんも踏み上っていたし、苦しかったですね。

 また、最終2コーナーから捲りに行った時も伊藤君にあわされるようなタイミングになり、一旦僕は内に抜けました。これもロスに繋がる判断だったかもしれません。豪ちゃんは脚がたまっていたのか南関のすぐ横まで追い上げていたので、「外ならまだチャンスある!」と外を踏んで行きましたが、微妙に脚をロスしている分、豪ちゃんを抜け切るところまでは行けなかったです。

最終3コーナー、勢い良く前に迫る佐々木豪を追走し、外のコースに活路を見出していく(撮影:北山宏一)

 落車の瞬間を思えば、“気づかぬうちに”という表現でしたね。僕の外から脇本さんも来たので、「負けないぞ!」と懸命に踏んでいたところ、気づけばヒデさんと豪ちゃんの間にいた感じです。豪ちゃんの外を踏んでいたのに2人の間にいたわけですから「あれ?中をいったんだっけ」と思ったくらいです(苦笑)。

 レースが終わりヒデさんの失格を知ることになるのですが、内側のことはまったく見えておらず、落車の瞬間はヒデさんがハウスして吹っ飛んできたのかと思っていました。それにしても「完全に前で決まっちゃったなあ…」と思ったあの直線の形で、僕のさらに外から行けてしまう脇本さん。ちょっと考えられない強さでしたね。

競輪場の外で見た決勝、ひたすら悔しかった

 僕は左手の指を2本折ってしまったので途中欠場をしました。そのため、決勝は競輪場の外でみました。本当に全員がすごく良いレースをしていて、「こんなレースを一緒に戦いたい!」と思う内容でした。

 窓場君の北井さんを出させまいとする先行意識も走りも強かったですし、伊藤君も単騎ながら自分のタイミングでしっかりと仕掛けていた。そんな中で北井さんもしっかりと踏み切っていた。裕友も前を確実に捉えて、あと少しで超えそうな勢いでしたし、それを阻んだ古性君のブロックも絶妙でした。

 指が折れていて当然痛いんですが、それを忘れるくらい「今すぐにでも走りたい!」と悔しい気持ちになりました。連覇を狙いに行っていたウィナーズカップだったので、決勝に参加していないことも悔しかったですし、良い内容のレースを戦えなかったことも悔しかったですし、とにかくひたすら悔しかったです。

死闘が繰り広げられたウィナーズカップ決勝(撮影:北山宏一)

怪我の状態について、そしてダービーへの意気込み

 最後に怪我の状態を伝えつつ、ダービーへの意気込みを綴りたいと思います。骨折した左手の薬指と小指は手術をするかしないかという判断が必要でした。ドクターによると手術をしてもしなくても「ギリギリダービーには間に合うか?」という感じらしく、それなら針金を入れた状態で走りたくないので、ダービーのことを考えて手術はしない方向で決めました。どのみち「ダービーを走る」というのは僕の中で決定事項ですし、そこは変わらないので、最善の選択をしたつもりです。

 今現在、前に痛めた鎖骨も痛むのですが、それが入れているワイヤーのせいで痛いのか、今回の落車が原因なのかはまだわからず、そこは少し不安に思っています。まだダービー時点で治るとも治らないともわからず、お客さんには迷惑をかける可能性も残すかもしれません。ここはコメントなりでしっかりとお伝えしていきますし、できる限りの状態で臨めるように努めていきたいと思います。今はウィナーズカップの悔しさをバネにして「ダービーをしっかりと走りたい」という自分の感情や意思を大事にしたいです。

怪我の回復スピードなどは未知数だが、松浦悠士の感情は100%決まっている(撮影:北山宏一)

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松浦悠士の“真っ向勝負!”

松浦悠士

Matuura Yuji

広島県広島市出身。日本競輪学校第98期卒。2010年7月熊本競輪場でレースデビュー。2016年の日本選手権競輪でGⅠ初出場、2019年の全日本選抜競輪では初のGⅠ決勝進出を果たす。2019年の競輪祭でGⅠ初優勝を飾り、同年KEIRINグランプリにも出場。2020年のオールスター競輪では脇本雄太との死闘を制し、優勝。自身2つ目のGⅠタイトルを獲得した。ファンの間ではスイーツ好き男子と知られており、SNSでは美味しいスイーツの数々を紹介している。

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