2022/04/28 (木) 12:00
みなさんこんにちは、松浦悠士です。今回は玉野記念『瀬戸の王子杯争奪戦(GIII)』、川崎記念『桜花賞・海老澤清杯(GIII)』の振り返りを中心に書いていきたいと思います。川崎ではやっと節目となる300勝を達成することができました!
玉野記念は体の調子が日に日に下降していくようなシリーズでした。初日と2日目の調子はそれほど悪くなかったんですが、3日目と最終日は全力で戦うには難しい状態にまで落ちてしまいました。名古屋で落車した直後のウィナーズカップ、僕は調子の良さを感じていましたし、シリーズ通して出力全開で戦うことができました。でもやはり落車明けは落車明け、最終日のレースではその反動があり、腰から臀部にかけて痛みが出てしまいました。
そのダメージは玉野の初日にも残っていましたが、シリーズ中に時間経過とともに痛みが和らいでいった感じです。ただ、これは裏を返すと、体の良い部分を使えていないという証拠でもあると思います。しっかりと出力全開で踏み込むことができていたのなら、痛みは回復しないはずだと思うからです。自分の体のコンディションと向き合うと、色々なことに気がつくことができました。
その玉野では、地元の山根将太君との初連係がありました。連係する前、すでに山根君のレースを見ていたので、「どういう走りをする選手なのか」、「どういう力量を持っている選手なのか」は理解しているつもりでした。ですが、ただ映像で見ているのと一緒に走るのとでは大違い。山根君の力は自分が想像していたものよりも強く、とても頼もしい選手でした。上のレースで戦える脚力があるのは間違いありません。
今回レースを一緒に走ってみて、いくつか気がついたところをアドバイスしました。山根君は玉野後の防府でも良い走りをしていたので、きちんと受け取ってくれたのだと見ています。次回連係することを楽しみにしています。
また、山根君とは「調子の良い時に連係したかった」というのが本音です。決勝のレースは追走するだけで精一杯という感じになってしまい、厳しいものがありました。脇本さんはとてつもなく強く、完全に力負けです。ですが、自分のできる限りの状態を作り、しっかり戦いたかったと振り返っています。
今回の玉野記念はリニューアルも話題でした。バンクに隣接されたホテルは僕ら選手の宿舎でもあり、お客さんも宿泊することができます。ごはんも美味しかったですし、お客さんとの距離も近くに感じられるのがよかったです。僕ら岡山・広島の中国勢はホテルの6階に泊まったのですが、そこには海が見えるテラス席があるので、朝の眺めが気持ちよかったです。すごく良い環境の宿舎でした。
あと僕にとって大きなメリットが、宿舎にあるベッドの質が高いところです。選手にとって宿舎環境はとても大事で、睡眠などはシリーズ中のコンディションにも大きく影響します。僕はマットレスや加湿器を持って行くなど工夫しているのですが、備え付けのベッドの感触が自分に合っていて最高です(笑)。どのホテル、どの宿舎よりも自分にフィットするベッドでテンションが上がりました(笑)。
新しいホテルではお客さんにとっても競輪がより近く感じられると思いますので、ぜひ泊りでレースを楽しんでいただければと思いました!
開催に入るため、僕は前泊していたのですが、川崎駅には『桜花賞・海老澤清杯』の開催を告げるポスターがたくさん並んでいて嬉しかったです。川崎駅という大きな駅(僕の感覚では広島駅規模)で大々的にポスターが貼られているということ、街全体で競輪を盛り上げてくれることを知って頭が下がる思いでしたし、気持ちも引き締まりました。
レースを振り返ると、初日はレース運びがスムーズにいかなかった部分があります。展開の中で選択に迷いが生じてしまい、仕掛けのタイミングも今一つでした。コンディションも踏み込んだ感触もよかっただけに、1着を逃がしたことは反省しないといけません。300勝も達成できず、「このままずっと300勝を達成できないのでは…」という気持ちにもなりました。
そして準決勝、結果は1着でしたが、このレースも判断という点では納得できませんでした。それこそ“結果だけ”という感じで、リスクを背負ってしまう走りになってしまいました。決まり手は「差し」ですが、戦法的には「捲り追い込み」になります。
僕の中で「捲り追い込み」はレースミスをしているケースが大半を占めており、今回もそうです。仕掛けるタイミングを見極めて、打鐘過ぎ4コーナーからホームにかけて行っていれば、しっかりと小倉さんとゴール勝負できるレースだったように思います。
ただ、決勝に向けて良い感触もありました。二次予選で踏み込んだ際に「チェーンを張りすぎたかな、もう少し緩めにセッティングしたほうが良かったな」と感じました。準決勝ではこの点を修正してから走れたので、セッティングがうまくいっている感触は得られました。
競輪の自転車は「チェーン引き」というパーツがあり、チェーンの張りを締めたり緩めたりが可能です。微調整がものをいう世界なので、そこがバチっと合うことが大切。二次予選終了後に自転車を調節し、ハンドルやサドルの位置調整をしたり、チェーンの張りを緩めたりしました。
決勝を前にセッティングに不安が残らないのは良いことです。判断の面で反省があるものの、優勝に向けて戦えるという気持ちにもなりました。車券予想に役立ててもらえるように、僕は自転車のセッティングが「合っている・合っていない」もコメントを出しますが、これは正直にお伝えしているので、ぜひ予想の参考にして欲しいです。
シビアな視点で決勝を振り返ると、外併走がうまくできなかったことが悔やまれます。東口さんが出たところでも、後ろに入り切れず休むことができませんでした。脚が溜まっていなかったのもありますが、もう少しうまい走りができたはず。調子の良い時は自分のイメージ通りに走ることができるのですが、そういう感じでもなかった走りでした。
終了後に「もっとやれたのに…」と思うレースだったので、勝ち切って“単独”優勝という結果にしなくてはいけなかったと考えています。でも、振り返って反省点を見つけたことは事実ですが、同着優勝という結果に対して胸の内を正直に言えば「嬉しかった」しかないですね。
ゴールしてすぐモニターを見たんですが、(自分の前輪がよく見えなかったのもありますが)「ああ、負けた〜」という気持ちでした。自分の中ではタイヤくらいは行かれているような感覚しかなかったので、写真判定になったときも「あれ?」という感じでした。そんな中での同着優勝、一度は負けたと思っているわけですから、「勝っていた」という結果は素直に嬉しかったです。
そして何より同着優勝の相手が郡司浩平君だということ。実は決勝レースの前日にスピードチャンネルを見ていて、僕と郡司君の過去3年間の対戦成績が「26勝26敗」ということを知りました。僕らはいつもどちらかが勝って嬉しがっていて、どちらかが負けて悔しがっていて。改めて「ライバルなんだなあ」と思って走った決勝で、同着優勝というのは出来過ぎているような気さえしました。
必ずレースでは勝ち負けがつくのに、勝ち負けの決着がつかず、両者“勝ち”という結末。郡司君がどう思っているかはまったく想像もできませんけど、僕は今回の同着優勝が嬉しかったです。次やる時は、単独優勝したいと思います。
前述した振り返りでも書きましたが、川崎記念の初日に2着だったとき、「このまま300勝できないのかな」なんて感覚もあったくらいです(笑)。ウィナーズカップあたりから現場でもファンのみなさんからも300勝について話題が上がっていたので、時間がかかってしまった…という感想です(笑)。
でも、今回のコラムで無事300勝の節目を報告することができます。これを“通過点”と捉えてこれからも一生懸命走り、400、500と積み上げられるように頑張っていきたいです。
300勝という節目を冷静に考えると、自分自身「こんなに1着を獲れる選手になるとは思わなかった」というのが本音で、達成感のようなものもありません。でもこの感覚は悪くないものだと思います。心の底から“通過点”と思えている感じがしています。
去年はダービーに向けて調整に励んでいたので、気持ちの面でも入れ込み気味でした。その分すごく緊張したことを覚えています。今年も緊張はするんでしょうけど、できるだけ平常心で臨みたいなというのがあります。
6日間のダービーはシリーズ中の過ごし方や休み方、調整の仕方も大切ですが、その部分が未知数で、まだよくわかっていません。でも開催が終わった後に「もっとこうしておけばよかった」と思わないよう日々アンテナを張りながら戦っていこうと思います。連覇を目指して気負うことなく精一杯走ってきます!
それでは今月も質問に答えたいと思います!今回は4問の質問に答えていきます!
ーー前で走る時に誰が後ろでも仕掛けるタイミングを変えない(遅くしない)とのことですが、連係する人によって気持ちの高ぶりも変わらないものでしょうか? 「他地区の選手がつくと燃える!」や「この人だからこそ行く」 みたいなものはないでしょうか?
超難解な質問です(笑)。全部を話そうとすると深い話になります。でも結論を書くと“変わらない”です。僕は勝率が高い仕掛けをやろうと心がけています。自分の仕掛けるタイミングを「車券貢献できるか否かで判断すること」が圧倒的に多いです。
なので、そういう判断基準で走っていると後ろが誰であっても関係ないというか。1着を目指して仕掛けるのは当たり前ですが、航続距離やスピード、加速感、レース状況を見ながら車券貢献を外さないように考えています。
あと、すごく大事なのがラインで決めることの意識です。これは同地区とか他地区関係なく、その時に連係する仲間と勝つということです。僕の競輪選手としての生き方というか勝負論が“ライン前提”にあるんですよね。これは僕の意見ですし、それが絶対に良いことってわけじゃないです。
選手それぞれに個性があり、ファンのみなさんには色々な選手のスタイルを見つけて欲しいと思います。ラインで戦う必要がないくらい強い選手がいたとして、それが僕と同じ 考えで仕掛けどころを判断するかと言えば絶対に違いますからね。この選手の走りが好きだ! という選手を応援すれば競輪はさらに楽しくなると思います。
ーー昔と比べると本当に強くなりましたね。コラムで若い頃と今とで考え方が変わったと読みましたが、きっかけは何だったのでしょう? また、ご自身の中で“一皮むけた!”と感じた一番の要素(戦術・脚力・経験など)はなんですか?
成長できたきっかけは色々思い当たるので一概には言えませんが、「自分で考えるようになったこと」です。なかなか結果が出なかった頃は「強くなりたい」と思って練習をしていました。でも「強くなりたい」と思って練習をしていたら強くはなれないと気がつきました。
結果が出ない時に「なんでこんなに練習してるのに強くなれないんだ!」って思ったり。練習をしているかどうか、勝てたか負けたかだけを見ていたということです。でも「自分がどうなりたいか」ということが凄く大切で、考え方に本質的なバージョンアップが必要でした。
これに気がついてからは「負けて悔しいから練習しよう」から「負けて悔しいからどうやって克服できるか考えてみよう」と意識が変わり、質の高い練習メニューの考案なども自然とストイックになれたような気がします。「意識の持ち方でこんなに違うんだ」と実感してます。
だから一番の要因は、メンタル以外の何物でもないです。感謝をしながら生きたい、とか後悔をしないように時間を大事にするとか、ですね。その気づきを与えてくれたのは、引退した広島のある先輩のひとことだったりします。
ーーファンへの対応が素晴らしいです。ファンからかけられる言葉で嬉しい言葉はどんな言葉ですか?
ありがとうございます。個人的に好きなのは「一緒に戦ってくれている言葉」ですね。追いかけてくれているんだなとわかる言葉も嬉しいかもしれません。
今回の川崎記念の二次予選(300勝を達成したレース)で発走機についた時、観客席のお客さんが「300勝おめでとう!」って声をかけてくれました。心の中で「そうなるといいんですけど!」と思って走り出したんです。
次の日には「301勝おめでとう!」という声もいただきました。そういう言葉は印象に残りやすく、ファンのみなさんのありがたさを感じています。でも、どんな言葉でも応援してくれるだけで嬉しいです。
ーー松浦・清水の別線勝負が見たい。組むラインにもよると思うが、どんなレース展開が予想できるか?
結局は別線勝負にはなりませんでしたけど、2年前の(同地区あっせんの)久留米記念で裕友と勝負できそうな機会はありました。実は僕と裕友もよく似たような話をしていて、死力を尽くすガチンコ勝負になるのは間違いありません(笑)。地区プロで一回やり合ったことがありまして、その時は僕が負けました。
レース展開の話になると、組むラインにもよるので予想のしようがありませんが、選手タイプが違うので面白いレースになると思います。僕はレース状況で判断して動くこともありますが、裕友はスタート位置もレース運びも「こう決めたらこう!」とブレないところがあります。そういった性質の違いはモロに出るだろうなとは思いますね。
それでは今月のコラムはそろそろ終わろうと思います。そういえば、競輪とは全く関係ないんですが、先月東広島市のケーキ屋さんの「アイ・クレール」さんと僕のコラボで「ル・ヴェロ」というスイーツが期間限定で販売されました。それで、「夏に向けて新商品のアイディアはないですか?」と再オファーをいただいております。
たまに僕のSNSにも問い合わせをもらいますが、広島だけでしか手に入らないのはもったいないと思っているので、お取り寄せスイーツなんてどうだろう?とか考えています。なんかスイーツの道も本格的になってきました(笑)。それでは日本選手権も頑張ります!
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・松浦悠士Twitter
松浦悠士
Matuura Yuji
広島県広島市出身。日本競輪学校第98期卒。2010年7月熊本競輪場でレースデビュー。2016年の日本選手権競輪でGⅠ初出場、2019年の全日本選抜競輪では初のGⅠ決勝進出を果たす。2019年の競輪祭でGⅠ初優勝を飾り、同年KEIRINグランプリにも出場。2020年のオールスター競輪では脇本雄太との死闘を制し、優勝。自身2つ目のGⅠタイトルを獲得した。ファンの間ではスイーツ好き男子と知られており、SNSでは美味しいスイーツの数々を紹介している。