閉じる

【坂本勉のPIST6徹底回顧】予選から“差”が出ていた藤井昭吾と朝倉智仁、明暗を分けたのは「先行への意識」/レジェンドが見た疾風迅雷 #8

2022/05/24(火) 18:00 0 4

現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)

 netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は 5月21日・22日に行われた 「ファーストクォーター」ファイナルラウンドの決勝レースを回顧していきたいと思います。

【ファーストクォーター ファイナルラウンド 決勝レース動画】


朝倉智仁は予選段階で“先行”を見せておくべきだったのかもしれない

 今回の出場メンバーですが、過去の開催で優勝をしているのは藤井昭吾だけ。そして、タイムトライアルの時計も差がありませんでしたし、能力の拮抗したラウンドになるのではと思っていました。

 その中でタイムトライアルでは10秒417で3位ながらも、競輪で実績を残していたのが朝倉智仁です。1次予選では2着だったものの、そこからの連勝で、決勝では単勝1.9倍の1番人気に支持されました。

過去開催でも決勝進出を逃していない朝倉智仁、今ラウンド決勝では単勝1.9倍の1番人気でレースに臨んだ(Photo by Kenji Onose)

 落車による怪我の影響もあったのかもしれませんが、競輪では先行を見せているにも関わらず、2次予選、準決勝ともに捲りで勝ち上がっています。優勝を意識した走りとも言えますが、どこか消極的なレースをしているようにも見えました。

 ただ結果としては2次予選か準決勝のどちらかで先行を見せておいた方が良かったかもしれません。決勝で他の選手に「朝倉は先行してくるかもしれない」と思わせることができれば、展開は違ったような気がします。捲りを狙ってくる選手だけでなく、先行では分が悪いと思っている選手も朝倉の後ろに付いてくるので、より自分のレースがしやすくなったはずです。

藤井昭吾の勝因は1次予選の負けをすぐに修正したこと

 一方、2次予選と準決勝ともに残り2周前からの先行と、長い距離を踏んでいたのが藤井昭吾でした。その藤井は「ZERO ラウンド3」で完全優勝した時のように、早めに先行してどれだけ粘れるかが自分のスタイルです。

 ただ、今回の1次予選では最後方からのレースとなったにも関わらず、普段は先行をしない牛山貴広に主導権を握られると、そのまま逃げ切られてしまいました。これではいけないと気持ちを入れ替えたことが、2次予選からの走りにも表れたのでしょう。

 決勝ですが、天田裕輝-朝倉智仁-藤井昭吾-鹿内翔-岡村潤-後藤悠の並び順となりました。一見、朝倉の後ろの位置に入った藤井が、絶好のポジションに見えますが、その好ポジションに甘えることなく、今までの自分のスタイルを貫き『早めに先行したこと』こそが、優勝に繋がったと思います。

4周目で上昇していく藤井昭吾(3番車・レッド)、早々と先行していく覚悟があった

順応した鹿内翔の冴える勝負勘は見事

 自分のスタイルというよりも、PIST6に順応した走りを見せていたのが、3着に入った鹿内でした。

 その鹿内ですが、準決勝では早めに脚を使って先頭に立ったかと思うと、すぐに巻き返してきた藤井の後ろに飛びついての2着。この決勝でも藤井の後ろを付いていくと、ゴール前では朝倉に交わされはしたものの、6番人気ながら3着に入っています。

 これも準決勝で共に走ったことで、決勝でも主導権を握るのは藤井だと読んだのでしょうし、結果としてその勝負勘が正しかったと言えます。一方、主導権を握るのは朝倉だと思っていたのが、1枠スタートの天田だったのではないのでしょうか。

 残り2周前から藤井と鹿内が動き始めた時、鹿内は2番手。追走するように朝倉も上がっていきますが、内の3番手にいた天田裕輝は、その朝倉を自分の前に入れる形となりました。

残り2周前で4番手に車を下げ、朝倉の後ろからのレースを選択した天田裕輝(6番車・グリーン)

 天田と朝倉は同じ関東の選手です。競輪のライン戦では脚質的に見て朝倉の後ろを天田が走ることもあったことでしょう。きっと、決勝でも朝倉が早めに捲っていけば、そのスピードについていけると天田は思っていたのでしょうが、朝倉が捲っていくタイミングが遅くなったことで6着に敗れています。

 この辺が競輪とPIST6の違いであり、難しさです。天田は今開催の朝倉のレース内容から判断し「朝倉を3番手に入れたら自分の勝機は無い」と見るべきでした。いくら競輪では強い朝倉と言えど、本調子でもなく、先行意欲は見られませんでしたからね。天田は朝倉ではなく鹿内の後ろをキープしたほうが、まだ上位に食い込める余地があったように思います。

 3番手から捲っていった朝倉ですが、3コーナー過ぎで鹿内に外へ振られた影響もあって2着に敗れています。前述したように先行意欲を予選から見せておくだけでなく、捲りのリスクも考えた走りをしていく必要があります。その辺りが掴めてくると、今後のPIST6の成績は安定してくるでしょうし、念願の初優勝も見えてくるはずです。その実力はある選手だと思います。

スピードを上げて捲りに行くも3コーナー過ぎでは鹿内翔(5番車・イエロー)に外へ振られてしまった朝倉智仁(1番車・ホワイト)

 また、この決勝で注目していたのが、競技をしていた大学時代から注目しており、日本自転車競技連盟の強化指定選手としてもピックアップしていた後藤悠でした。その頃から将来性のある選手だと見ていましたし、脚質や積極性からもPIST6は後藤に合うと思っていました。

 ただ決勝の6枠スタートや踏み出していったタイミングで朝倉に合わせられたことは難しかったと思います。最終的に5着に敗れていますが、PIST6で経験を積んでいけば、後藤は必ず勝てる選手になると思います。

荒れるか荒れないかを予想するポイント

 今開催は10万を超える車券も出るなど、高配当が続出しました。本命党が多いPIST6ファンには予想がしにくかった開催かもしれません。でも逆に穴党には面白いレースが多かったに違いありません。

 まず『荒れるか荒れないか』を判断する基準は、ずばりタイムトライアルの結果です。タイム的に抜けた選手がいると、レース全体は堅くなります。しかし、このラウンドのようにタイム的にも力が拮抗していると枠順や展開に左右される面が大きくなり、高配当のレースが多くなりそうです。

 荒れるか荒れないかを見極め、穴を開ける選手を考えましょう。PIST6のレースでは、予選から思い切りのいい積極性の高い走りを見せている選手、もしくは長めの距離を覚悟して先行意欲を見せている選手と言えます。こうした選手は、準決勝、決勝と勝ち上がりやすい=車券に絡みやすいですし、捲りばかり使っている選手は、時として取りこぼすこともあります。今後のPIST6の車券攻略として覚えておいて損はありません。

坂本勉が選ぶ! 今シリーズのMVP

 MVPは積極的なレースで優勝した藤井昭吾ですが、今回は敢闘賞を鹿内翔にあげたいと思います。鹿内は先行選手ではないにも関わらず、準決勝で果敢に攻めるような早めの仕掛けに打って出たことや、決勝で藤井の後ろを選んだ勝負勘など、強さではなく、“巧さ”が目立っていました。

勝負勘と“巧さ”を示した鹿内翔は表彰式で「出来過ぎでした」とコメントを残した

 PIST6のレースに限れば、脚力のある先行選手と比べて人気の中心になる機会は少ないかもしれませんが、鹿内のような選手は駆け引きや戦術、ここぞという時の踏み出しの良さなど“巧さ”で車券に絡んでくれる選手になると思います。その期待を込めて、敢闘賞に選出させてもらいます。


【netkeirinご利用のお客さまへ】
 4/18(月)の開催より、PIST6の車券をnetkeirin経由で購入できるようになりました! 予想は楽しんでいただけたものの、実際に投票 できないというこれまでの課題を解消。今節や前回出場時の成績など内容充実の出走表を見ながら買い目を作成、TIPSTARを通じて車 券投票をお楽しみいただけます。

 また、出走表下部の「予想の基本」にPIST6攻略法を掲出していますので、予想の仕方が分からない方も安心です。開催日にはレース 映像のライブ中継も実施していますので、ぜひ映像をみながら車券を的中させてください。


●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。

閉じる

新着競輪ニュース

ニュースランキング

ニュース&コラムを探す

検索する
投票