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【坂本勉のPIST6徹底回顧】過去の失敗を栄光に繋げた伊藤信! 気持ちの強さ見せた晝田宗一郎! これからのレースはより“ハイレベル”に/レジェンドが見た疾風迅雷 #4

2022/03/03(木) 15:00 0 4

現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)

 netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は26日、27日に行われた「PIST6 Championship ZERO」ラウンド9の決勝レースを回顧していきたいと思います。

【ZERO・ラウンド9 決勝レース動画】


“失格にならない走り”自力勝負に徹した伊藤信

 まずは、PIST6における失格の話からしていきましょう。PIST6のレースは競輪ではなく、オリンピック種目にも選ばれた“ケイリン”に準ずる形で開催されています。自転車を横にも動かしていく競輪のレースとは違い、並走の時に少しでも接触があると審議となり、場合によっては失格が課せられます。

 今開催ラウンド9でも失格となった選手が数名いましたが、それだけ競技のケイリンでは、競輪で言うところの“競り”ではなく、自力で動いていけるような脚力が必要不可欠となってきます。その点において、完全優勝を果たした伊藤信は前検日のタイムトライアルで10.013秒という抜群の時計を記録しています。それだけの脚力とスピードがありながら、伊藤は前回、そして前々回の開催では失格となっていました。

 しかし、今回の伊藤はこれまでの反省を生かし、きっちりと修正した走りでレースに臨んでいたように思います。ペーサーがいなくなった後に動いていくのではなく、残り1周での力勝負に徹していたように見えました。結果的に“失格しないという意識”とその意識による“失格にならない走り”が完全優勝を引き寄せたのだと思います。

過去出場時の失格も糧にし、修正しての走りを披露した伊藤信

最善を尽くした晝田宗一郎、一瞬の隙を突く巧さ

 それでは決勝のレースを振り返っていきましょう。1番手からのレースとなったのは藤井昭吾。以下、外に向かって晝田宗一郎石井洋輝徳永哲人、伊藤、大矢将大の並びでレースは進んでいきました。決勝に進んだ伊藤以外の選手たちは、ここまでの3戦で力の違いを見せつけられてきています。伊藤がラスト1周で動き出すことは誰もが分かっていたことでしょう。

 だからこそできるだけ前の位置につけて、あわよくば前の選手を上手く利用しながら、早めに発進していこうと考えていた選手が、晝田と石井でした。1番手となった藤井は有利なポジションではありましたが、このまま突っ張っていこうかと考えていたであろうラスト2周、ここが勝負どころと見てポジションを上げていった晝田、そして石井にも交わされていきました。

 藤井としては、晝田や石井を前に出さないようなレースをしたかったはず。ただ、スピードを上げていく中で、ずっと後ろの動きを見ていることもできなかったのでしょうし、一瞬の隙を見逃さず、勝負できる位置を確保した晝田が巧かったと思います。

勝負どころを見極め、5周目で先頭位置に動いた晝田宗一郎

わかっていても対処しようがない圧巻のスピード

 このまま粘り込みたい晝田、その番手という絶好の位置を取れたことで、ゴール前の勝負に持ち込みたい石井でしたが、ラスト1周半でダッシュをかけてきたのが伊藤です。晝田や石井だけでなく、他のどの選手もこのような展開を想定していたことでしょう。それでもバックストレートで先頭に立った伊藤の勢いを誰も止めることはできませんでした。

外から目一杯踏み込んだ伊藤信。バックストレートで晝田、石井を捉え、そのままゴールまでスピードを維持した

 2着となった晝田ですが、伊藤に勝つのは難しいと思いながらでも、積極的に前々でレースを進めてのこの着順は立派だと思います。その一方でもったいなかったのが3着の石井です。晝田の番手と言う絶好の位置取りだっただけに、まだ脚力があったのならば、伊藤の捲りに併せての番手捲りで、もう少し伊藤をヒヤリとさせることができたのかもしれません。

 もしもの話ですが、タイムトライアルで石井よりも上位のタイムを出していた藤井と晝田が縦に並んでいたのならば、伊藤の完全優勝はなかったかもしれない…とも思います。

これからの開催、さらに迫力あるバトルが期待できる

 シリーズを通して興味深かったのは、普段走っている競輪でも活躍している伊藤や晝田といった調子の良い選手たちが、そのままPIST6でも好成績を収めていたという事実です。

 これまでは競輪で調子が良くても、PIST6は勝手が違うのか、思うような結果を残せない選手も多々見受けられました。逆にラウンド7で優勝した山田義彦のようにPIST6の方が合っているような選手もいます。

 伊藤や晝田に共通していたのは、競輪でも証明してきた実力の高さに加えて、PIST6でのレースにおいて重要な“積極性”が見られたことです。それは2人に限った話ではなく、2日間全体を振り返っても、どの選手も動き出しが早くなっていますし、ラスト3周以降のポジションも目まぐるしく変わっていました。

 継続して参戦してくる選手が増えたこと、250バンクに走り慣れてきたこと。PIST6のレースで成績を出すためにはどうすべきかを、誰もが掴んできたからこその流れだと見ています。

開幕から4ヶ月が経ち、回を重ねるごとにレース内容も変化してきている(photo by Kenji Onose)

 今後はさらに迫力のあるレースが期待できますし、観ている方もレース中に多彩な攻防があることで、さらにPIST6に魅力を感じていくはず。それはPIST6が競技“ケイリン”に近づいてきた証とも言えます。

 また、PIST6の参戦を通して、ケイリンといった競技サイドに興味を持つ若手選手が増えてくれば、これから日本の自転車競技のレベルも上がっていくと思います。全体を通して明るい兆しが随所に見て取れる開催でした。

坂本勉が選ぶ! 今シリーズのMVP

 決勝で自分の力を信じ、早めに動いていった晝田の気持ちの強さは素晴らしいものがありました。しかし、シリーズMVPとするのなら、やはり4走すべてにおいて圧巻のレースで魅せた伊藤となるでしょう。

 競輪でも持ち前のタテ脚を使って好成績を残していますし、今回の優勝という結果だけではなく、250バンクで記録した10.013秒のタイムは伊藤の自信になったはずです。まだまだPIST6のレースに慣れていきそうな気配がありますし、今後は競輪とPIST6の双方で目立った活躍を期待したくなります。

表彰式のインタビューで2着晝田の「伊藤さんが強すぎたので自分は実質1位だと思っている」のコメントに反応し笑顔を見せた伊藤

▶︎PIST6公式サイトはこちら


●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。

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