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【坂本勉のPIST6徹底回顧】前へ前への気持ちが勝利に繋がる!“勝負所”見極めた山田義彦の絶妙な仕掛け/レジェンドが見た疾風迅雷 #3

2022/02/15(火) 18:00 0 3

現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)

 netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は12日、13日に行われた「PIST6 Championship ZERO」ラウンド7の決勝レースを回顧していきたいと思います。

【ZERO・ラウンド7 決勝レース動画】


“順当な結果”の裏側、積極性が勝敗を分けた

 優勝は山田義彦、2着は三浦翔大、3着は隅田洋介という結果になりました。人気は上位順に1番人気、3番人気、2番人気。タイムトライアルでも山田が1位、三浦が3位、隅田が2位だったので、『順当な結果』に収まったと言えるでしょう。ただ、なぜこの着順になったかを考えてみると、3選手の『積極性の違い』が影響していたように思います。

表彰台入りを果たした3選手のスタート順は2枠隅田(ブラック)、3枠山田(ホワイト)4枠三浦(レッド)だった

 ペーサーが外れた4周目、6名の選手は互いに誰が動き出すのかを牽制し合うように車間を取っていましたね。そんな中、先行していったのが三浦です。

ペーサーが外れて最初に動きを見せた三浦翔大(3番車・レッド)

 この時、山田は3番手からのレースとなっていましたが、連日のレース内容にも表れていたように、常に先行意欲を持ち合わせており、踏み出しも遅れることなく、しっかりと先に抜け出した三浦の後ろを取れました。

 一方、先行する形となった三浦からすると、後ろから山田が来るのは当然分かっていたはず。しかも、もし山田が先行した場合、その後ろには他の選手が付けていることにもなり、ポジション的にも不利になるだろう、と考えての先行策。それぞれの思惑が交錯する場面でしたが、結果的に三浦の後ろには山田がはまる形となりましたね。

巧かった! 虚を突いた山田義彦の判断

 三浦もまた、ここまでの3レースを先行で勝ち上がってきました。山田が後ろに入ったとは言え、そこから踏み出していく手もあったかと思います。しかし、スピードでは山田の方が上。三浦からすればゴール前で捲ってくることも想定していたでしょう。なので、あまりペースを上げられず、脚を溜める形でファイナルラップに向かっていく公算だったと思います。だが、それを見逃さなかったのが山田でした。

 山田とすれば、先行した三浦にそのまま押し切られるのが嫌だったはずです。なので、スピードが落ちた残り1周半ぐらいで、一気にかわし去っていくという、積極的なレースを選択したのだと思います。三浦もまさかあのタイミングで来られるとは思っていなかったのか、慌てたような動きを見せていました。結果的に踏み出しも遅くなり、スピードに乗るのも遅くなった結果、山田の先行を許す形になってしまったのだと思います。

ラスト1周半、早々と三浦の前に出ていく山田義彦(1番車・ホワイト)

 ここで注目したいのが、残り2周時点で山田の後ろにいた松岡健介です。山田が三浦をかわした時、松岡はついて行けなかったどころか、インで粘る三浦もかわし切れずに3番手。ファイナルラップでは後ろからきた隅田にもその上を捲られてしまいました。

 松岡に関してはこれまでのレースでは自力を出さず、先行しそうな選手の後ろを回るという、人任せのレースをしてきました。決勝でも山田の後ろという絶好の位置取りでしたが、これまでのレースのように、直線に入ってからのショート捲りにかけようとしていたのでしょう。松岡もまた、まさか1周半から山田が動き出すとは思っていなかったということですね。

スタート好位置の隅田は積極性を出すべきだった

 そして、それは隅田も一緒です。山田、三浦と一緒に3連勝で決勝に臨んできたとは言え、全てのレースが捲りでした。ただ、PIST6では良い位置を取れないと捲りも決まりません。しかも、決勝のようにメンバーが強くなると、捲り切るのはさらにひと苦労します。

 隅田のスタート順は2番手、人気の3選手の中では最も良い位置を取っていながら、ラスト2周半まで動かず、しかも、取りたかった位置であろう山田の後ろも松岡に奪われてしまいました。さすがに4番手からの捲りだと、タイムトライアル上位の隅田と言え、3着が精一杯です。やはり、三浦が動き出したタイミングで、脚を使っても前に前に踏んでいき、山田ではなく、隅田が三浦の後ろを取っても良かったのではと思います。

 きっと松岡も隅田も、捲りを狙うためにここで脚を消耗したくないという考えもあったのでしょう。ただ、250バンクでは、道中で少しでも前の位置にいた方が有利です。それだけに、2人には積極的なレースを見せて欲しかったというのが、率直な感想です。

3着の隅田洋介はスタート順は2枠と好位置ながら勝負どころでは苦しい位置からの捲りになった

“級班”は関係ない、タイムと走路理解がPIST6攻略への近道

 優勝した山田、そして2着の三浦からすると、松岡や隅田は競輪では『格上の選手』になります。それでもなぜに格下の2人がPIST6のレースで勝てるかと言えば、山田も三浦も過去の大会で優勝を決めているように、250バンクの特性を理解し、習得したような走りができているからでしょう。

 特に山田はタイムも凄いですね。タイムトライアル10.113秒という結果にはとても驚かされました。山田は競輪でも良い自力を持っていますが、ここまでのタイムが出せる選手だとは思っていませんでした。5.67という大ギアの効果はあるにしろ、この結果とスピードが出せたのは彼の自信になると思います。

 それは山田だけでなく2着の三浦も同様です。2人とも今後は競輪で格上の選手とレースをする際にも、PIST6の経験を生かすことができるでしょうね。“スピード”と“積極性”は競輪のレースにも応用できるのは言うまでもありません。もちろん、これからのPIST6でも、さらに結果を残して行けるのではないのでしょうか。山田と三浦はとても楽しみな選手だと思います。

最終直線ではすでに勝負あり。山田を巻き返せる選手はいなかった

坂本勉が選ぶ! 今シリーズのMVP

 これは山田義彦以外には考えられませんね。積極的なレース運びもさることながら、今開催を見ても「ここまで強いのか! 」と、正直に言えば驚きすらあります。レースごとに修正点を見つけては次のレースに生かし、修正してくるような印象さえありますし、次回も人気に応えるようなレースを見せてくれるでしょう。

表彰台中央でダブルピースを披露した山田義彦。両隣の三浦と隅田も惜しみなく拍手を送り、山田を讃えていた

▶︎PIST6公式サイトはこちら


●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。

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