2022/01/04(火) 18:00 0 11
現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリやオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今年から月2回ほどのペースでPIST6のレース回顧をお届けしていきます。自転車競技に近いPIST6ですが、自転車競技選手と競輪選手の双方の視点を持ち、できるだけわかりやすく伝えていこうと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。
1日と2日の両日に渡って開催された「ZERO」ラウンド1。決勝には朝倉智仁(1番ホワイト)、根田空史(2番ブラック)、市本隆司(3番レッド)、佐藤友和(4番ブルー)、伊藤成紀(5番イエロー)、今井聡(6番グリーン)が進みました。
【ZERO・ラウンド1 決勝レース動画】
抽選の結果で最内枠からのスタートとなったのが根田。自転車競技の基準に沿った形で行われるPIST6ですが、スタートしてからの1周は、決められたスタート順の通りに走行しなくてはいけません。この決勝は前から②根田③市本①朝倉⑥今井④佐藤⑤伊藤というのがスタート時の並びでした。
自転車競技と同様にPIST6でも最内枠が物凄く有利となります。根田はタイムトライアル2位となったスピードもあり、しかも2日間のレース内容も目を引くものがありました。そこに抽選で最内枠に入ったことは、運もまた、根田の味方についたと言えるでしょう。
レースが動き出したのは4周目。最後方6番手の伊藤が一気に先頭に躍り出ました。伊藤のように道中で後ろに位置した場合は、ぺーサーが離脱してから動き、出ていかざるを得ません。その時にはスピードが時速50キロ以上に上がっており、そこで前を叩きに行くと、脚を消耗してしまいます。ただ、後方のままだと何もできない上に、最後の1周で巻き返そうとしても、遠心力で大きく外に振られてしまいます。
決勝のレース、伊藤は脚を消耗することは承知の上で早めに動き出したと思いますが、ひょっとしたら1番手となっていた根田や、タイムトライアルで1位となっていた朝倉の後ろを狙っていたのかもしれません。ただ、結果として伊藤が先頭に立ったったことで、脚を使わずして5周目に入っていけたのが、2番手となった根田でした。
4番手となった朝倉が、前を行く市本との車間を空けて、一気に捲りに行くチャンスをうかがっていましたが、それに先んじるかのように、残り1周半から伊藤を交わしていったのが根田でした。このあたりの駆け引きは普段からTIPSTAR DOME CHIBAで練習をしている根田がバンクの特徴を生かした走りで一枚上手と言えますね。ここで一気に先頭に立ったことで、追走する朝倉は、追走に脚を使わされる形にもなりました。
朝倉は前を行く根田が、1周半前から仕掛けるとは思ってなかったのではないのでしょうか。これまでのレースなら、3番手からでも、残り1周で前の選手を交わせたのかもしれません。ただ、決勝は実力者が揃っていただけでなく、その前から先行していた根田の脚力を考えると、スピード上位の朝倉でも、3番手から交わしていくのは至難の業と言えます。
その一方で、こちらもくじ運が良かったというのか、終始、根田の後ろを走っていたのが市本。ラスト1周でも離されることなく、最後の直線でも朝倉の追撃を振り切って2着となっています。市本は50歳ながらもタイムトライアルでは全体3位。これは朝倉、根田に続くタイムですし、運だけでなく、実力通りの結果を出せたと見るべきなのでしょう。
優勝した根田も含めて、結果としてはタイムトライアル上位3位の選手たちで決まったレースとなりました。枠順も含めて、4番手以下にいた選手たちは何もできなかったと言えますが、それでも三連単の配当が1520円となったのは、やはり、枠順の妙もあったかと思います。
上位3名の中ではタイム的に朝倉が上ですが、この並びならば、市本が先行していくことが見込める根田の後ろに付けられただけに、2着は充分にあり得るとの見方もできたはずです。それを頭に入れられた方が、この三連単を的中されたのではないのでしょうか。
PIST6は普通の競輪とは違い、枠順がとても重要となってきます。今回の根田のように、ダッシュ力があり、先行していけるだけの脚力を持った隣の選手は、スムーズに後ろを回ることができます。もし、競走得点で見劣っていたとしても、三連単の2着に入れておくといった予想をしておくべきでしょう。それが高配当の車券に繋がっていくはずです。
これはもちろん、優勝を果たした根田空史です。地元千葉所属の選手としては初優勝ともなりましたし、普段からこのバンクで練習をしているというアドバンテージを生かした走りで魅せてくれました。この優勝は今後のPIST6における、このバンクで練習をしている選手たちの活躍にも繋がっていくはず。そして根田自身も、次回参戦ではどんなレースを見せてくれるか? とても楽しみになってきます。
●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。