2021/11/29(月) 19:00 0 2
10月2日にTIPSTAR DOME CHIBA(千葉県千葉市)で開幕した「PIST6 Championship」。すでに数多くの名シーンや名勝負が生まれているが、PIST6に参戦した選手たちはどのような感想を抱いているのだろうか。今回netkeirin編集部では「JAPAN HEROESラウンド3」に出場した“世界を知る男”渡邉一成選手にインタビューを実施。PIST6参戦の感想や決勝レースのことをはじめ、プライベートなことまで盛り沢山に話を聞いた。
※オンラインでインタビューを実施いたしました。
ーー今回はじめてPIST6に参加してみていかがでしたか?
普段の競輪とは違うレース形態ですし、特に演出は全く違うものでした。競輪とはルールが違いますが、本質的なものは変わらないと思いました。なので、レースに臨むにあたり、根幹の部分は変わらずでしたね。周りから僕の姿がどう見えたのかは分からないけれど、すごく良かったと思います。
ーーシリーズを通して全体的に楽しめましたか?
楽しめたかどうかって聞かれたら、正直楽しめてはいないです(笑)。レースに向けて集中しなくてはいけないですし、お金を賭けてもらっている責任感を僕は感じちゃう方なんで(笑)。だから、楽しめたかと聞かれれば楽しめなかったになるんですけど(笑)。でもこれって、悪い意味ではないので。
ーーPIST6に出ることでプラスになったことがあれば教えていただきたいです
自分の競輪選手としてのルーツは自転車競技が多くを占めています。久しぶりにカーボンの自転車に乗ったり、競輪よりも大きなギアを使ったりしたことで、すごく体に良い刺激が入りました。PIST6を走ったことで、今まで見えなかった部分というか、見えなくなっていた部分が見えた気がするので、出場はプラスに働いたと思っています。
ーー肉体的にも精神的にもコンディションが上がったということでしょうか?
はい。というか感覚的な部分で、ですね。具体的に言うと、大きいギヤで1日2本走っての感覚。体をどういう風に使うのかとか、鉄のフレームとカーボンのフレームの違いとか。スポークの車輪とカーボンの車輪で自転車の進み方が違うので、その進ませ方とかを考えていると、細かい感覚的な部分にすごく良い刺激が入りました。
ーー1日2走するレースプログラムですが、体力的なダメージは問題にならなかったですか?
問題ないですね。もっと走ってもいいくらいです。逆に、もっと走って相手を疲れさせたい(笑)。もっとレースの間隔が短くてもいいんじゃないかなって個人的に思ってます。ダメージではないんですけど、デイ開催とナイト開催でお客さんを入れ替えると思うんですけど、そこを短くしてもらった方が自分のテンションは高いまま維持できます。
今はレースとレースの間で3時間ほど空いているので、体がオフになっちゃうし、そこからまた準備してっていうのは余計な疲れが生じるなっていうのを感じましたね。
ーーPIST6への参加が決まってからトレーニング方法などは通常と変えましたか?
練習内容としては、PIST6のタイムトライアルに使用するギヤを試しながら、それに耐えうる体を意識して作るようにしました。ギヤを踏む際に力を発揮できるように、普段使わないような大きなギヤでの練習はしましたね。でも普段の練習の延長線上のトレーニングという感じです。
ーー過去の自転車競技での五輪出場はPIST6にも活かされていますか?
いえ、過去のオリンピックっていうよりも、活かせるのはナショナルチームの練習ですね。僕は2年前までナショナルチームにいたので、当時の練習を自分なりにアレンジして競輪に活かせるようにトレーニングしています。そのトレーニングが大きかったですね。
ーーPIST6はS級A級の混合で戦いますが、意識するものでしょうか?
特に意識することはなかったですね。ただ、事前にどういう選手なのかを頭に入れながら、レースには臨みました。110期以上くらいの若い子たちは凄いバックボーンを持った選手が多いので、そういう選手を注意しながら走っていましたね。
ーー若手の選手と言えばパフォーマンスも派手だったように思います。渡邉選手はやってみたい演出やパフォーマンスはありますか?
いいえ。派手なパフォーマンスをする余裕は僕にはない(笑)。
ーー選手は検車場を出て坂を登り、カメラの前で入場ポーズをとってバンクを一周すると思うんですけど、レースへのスイッチが入る瞬間はどのタイミングなのですか?
僕は「入場」の時ですね。スモークが焚いてあって光が飛び交ってて。お客さんからは見えない状態から急に現れるような演出になっていたと思うんですけれど。あの入場の時に、急に気持ちのスイッチが入りました。あの演出は自分にプラスになりました。
ーー今回はデイ開催のレースが無観客で、ナイト開催が有観客(※)でした。無観客と有観客でモチベーションの違いはありましたか? ※関係者招待
レース中にモチベーションの違いは特にないです。ただレースの後に感じることはありました。過去にヨーロッパで走っていて、お客さんと一体になって走る感じがあったんですよね。まだ日本では観戦に関してお客さんも盛り上がるところとか応援方法がわからないんじゃないか? と思いました。そういう意味では、自分なりに『ここで盛り上がって欲しいな』っていうのを感じたんですよ。
ーーなるほど。選手としてはどんな場面で盛り上がって欲しいのですか?
もちろん勝った瞬間です。あとはお客さんの声援に応えて自分が手を上げたりした時にファンの皆さんも一緒に興奮して欲しいな、盛り上がって欲しいなと思いましたね。今は声を出すような応援はできないかもしれませんけど。
ーー拍手とかはどうでしょう?
拍手も良いと思います。でも、選手としては興奮してもらえるようなレースを見せていきたいので、スタンディングオベーションを目指したい。そこまで感動してもらえるような走りを見せたいっていうのがあります。それにそういう雰囲気を作るのは一緒に走っている他のメンバーの協力も必要だと思いますから、出場選手全員で盛り上げるのが大事だと考えています。
ーーちなみに海外のレースでは応援に決まったフレーズとかあるんですか?
さっき出ていた拍手もそうですし、フランス語だと『Allez-Allez!(アレアレ)』とか、イタリアだと『Forza!(フォルツァ)』とか、それぞれ現地の言葉でありますね。『Allez』なんかは自転車乗りの共通語だったりします。『行け!』とか『GO! GO!』みたいな意味で使われます。
あと、声援だけじゃなくて鳴り物をぜひ活用して欲しいです。PIST6だとハリセンみたいなの配ってますよね。ああいうのをゴール後にバシバシ鳴らしてもらいたいですね!
ーーPIST6は国際基準のルールに基づいていますが、自転車競技における世界との距離は縮まると思いますか?
今頑張っているナショナルチームの選手のみなさんは、すでに世界の最先端を行っていると僕は思っています。ですから世界との距離が縮まっていくという感じは違いますかね。それよりも、日本の競輪選手の全体のレベルが上がって行くような期待感があります。
ーーPIST6はラインがなく個人戦ですが、今後参加される時はどのような作戦を立てますか?
今回と変わらず、ですね。あと出場してみて「PIST6はライン戦ではない」というのは100%ではなかったように感じています。今回走ってみて気づいたこともありました。僕の場合、出場してみて、戦術面というより機材面の方に課題を見つけた感じです。
ーー機材面ですか。今回使用した機材は100点満点中だとどれくらいなのでしょうか?
うーん…。70点くらいですね…。現場に行ってから『この部品は認可されていない』とか、選手に事前周知されていないことが結構あって。自分のものが使えなかったりしました。今のタイミングって選手も色々買っているんで、欲しいものが品切れになったりしてるんですよ。『認定部品』って僕らは呼んでいるんですが、認定されているものが品切れだったりしている状況で。その辺りが揃えばまた変わって違う課題、例えば身体的な課題とかが見えてくるかと思いますね。
ーー機材面で改善したいポイントを教えてもらえますか?
改善点としてはギヤですかね。見栄を張って大きなギヤを踏んじゃって全然ダメだったので(笑)。今、適正ギヤを注文しているところです。あと車輪も認定部品を用意しないといけません。僕の場合、体については正直これ以上強くなることはないと思っているので、どうやって力を発揮できるかが大切。機材面は特別重要なんです。
ーーシリーズを通じて一番印象に残っているレースは? 理由もあれば教えてください
一番印象に残っているのは、やはり決勝です。めちゃくちゃ緊張しました。
ーー渡邉選手はいつも落ち着いていて余裕がある雰囲気に見えます。緊張していたんですか?
緊張しましたね。余裕はありませんでした。通常の自転車競技ならば余裕があるかもしれませんが、PIST6もお金が賭けられている公営競技ですし。どうしても車券が自分から買われているのを見てしまって。でも、タイムトライアルも予選も吉田君がいいタイムを出してくれたんで、ほんのちょっとだけ、吉田君の方が緊張しているかなって(笑)。
ーー決勝は6枠最後方からのレースで、それまでの3走もすべて6枠でしたが、ポジションに好き嫌いはありますか?
正直、僕は6枠って好きじゃないです。すべて6枠というのは悪意を感じました(笑)。ワールドカップだと発走直前にくじ引きで決めるんですけど、僕が後方スタートでガッカリしているとナショナルで一緒だった岡山の河端朋之がその姿を見て喜ぶんですよ (笑)。
ーー河端選手(笑)
今回もPIST6の配信で僕が6枠スタートっていうのを見ていたら、絶対に喜んでると思います(笑)。まあ、それくらい6枠後方枠は苦手です。もちろん戦術にも影響します。
ーーどのような影響があるのでしょうか?
少し詳しく話すと、まずスタートしたら誘導員を追いますよね。6枠だと他の選手全員が落ち着いてから最後に追うことになりますが、これが結構大変で。最初は30kmで入って4周目に50kmになって誘導が外れるんですが、単調に少しづつスピードが上がっていくわけではなくて。前の選手が踏んだりやめたり緩急をつけていて、その煽りが一番影響するのが後方なんですよ。
3周目までに前の選手の順番の入れ替えがあると、一回踏んで、やめて、また踏んで、加速して、となるし、後方は嫌ですよね。
ーースタートのポジションは厳しかったのですね…。そんな中、戦術を練る上で対戦メンバーはいかがでしたか?
決勝メンバーが決まった時点で、吉田君も長い距離を踏んでいいタイムで上がっていました。三浦君も1着、1着、1着で上がっていたし。武田君もそう。みんな積極的に動いて勝ち上がっていたので、注意する選手はそこかなと。で、瓜生君もギヤかかってたし。自分から最初に動くのは怖いなっていう、レース前はそう思っていましたね。
ーー結果は2着でした。この結果は?
勝てる展開で勝てなかったので、お金を賭けてくれる人に申し訳なかったです。オリンピックや世界選手権にも出ていて「競技経験者」という部分、250バンクを走り慣れているという部分。そこを見て賭けてくれたファンに恩返しできなかったのは悔しかった。
ーーファイナルラップでは接触がありました
コーナーは42度くらいの角度があるんですが、走る時に自転車と体を内側に倒さなきゃいけないんですよね。これは走り慣れていないと難しくて。あのとき、前を走っていた三浦君は外側に遠心力がかかっている状態だったと思いますけど、上体同士で接触してしまい外に膨らんでしまいました。
僕がもっと余裕を持って外側を走っていれば良かったんですが、レースに集中していたので、そのあたりの気が回らなかったのが、あのアクシデントを招いた原因だと思っています。これが決勝レースの反省点です。
ーーそれを見逃さなかったのが瓜生選手でした
そうですね。僕が外で膨らんでいるうちに瓜生君が内からうまく仕掛けた。瓜生君は大きなギヤを組んでいたので、最後までスピードを落とすことなく踏み切られちゃいました。最後の最後まで抜き返そうと思って、あきらめず目一杯踏みましたが…。
ーー詳しく振り返っていただきありがとうございました。またPIST6に参戦していただけますか?
もちろんです。むしろ早く走りたい(笑)。いつでも呼んでください!
ーーそういえば、ユニフォームのデザインが瓜生選手と一緒でしたね
正直、四十手前のオヤジが着るデザインじゃねえなっていう話をみんなとしていたら、うりぼう(瓜生選手)が見せにきました(笑)。
ーー瓜生選手と色違いの同じデザインで可愛かったです。配信でも話題になっていました
10個くらいのデザインを子供に見せて、「どれがいい?」って選んでもらいました。そしたら見事にあれが当たりました(笑)。着た時はガッカリしましたけれどね(笑)。
ーー「強い人が着るユニフォーム」のイメージがついたと思います
そう言ってもらえると嬉しいです(笑)。でも、出オチ感あるじゃないですか(笑)。
ーーそんなことないです(笑)。普段クールな渡邉選手なのでギャップも感じられてGOODです
それを見越して子供が選んでくれたんだなと、そのように思っておきますね!
ーーご家族の話が出ましたが、渡邉選手と言えばプロフィールの好きな食べもの欄に「妻の手料理」と書かれるほどの愛妻家ですが
これ何の話ですか(笑)
ーー夫婦円満の秘訣はありますか?
夫婦円満の秘訣? え? (しばし考えながら)…先に折れること(笑)。ケンカはしませんけどね。
ーーケンカしないんですね。イライラしたりしたりは?
イライラしても、ね。ぶつけたら倍になって返ってくるだけですから(笑)。アンガーマネージメントですよ、6秒ルールとかなんとかの。
ーー奥様の好きな手料理はなんですか?
手料理で好きなもの?なんだろうなあ、考えたことなかったな、すぐ出てこない(笑)最近はもう子供のことで忙しくて子供が中心なので、子供のものばかり食べていますよ。
ーー渡邉選手は福島県双葉町出身で、これまでも東日本大震災の慰問活動をされていますが、今後スポーツの力を使ってどのような活動をしていきたいと思いますか?
基本的には僕の故郷双葉町が今戻れない状態で、全町避難という形で福島県のいわき市に移っているんですけれど、引っ越した先で馴染めない子もいたりして。双葉町から避難している人を対象とした小学校とか幼稚園とかがあって。
自分が小・中学校の頃に面倒を見てくれた先生が今教頭・校長になられているので、そこを回っていきたいと思っています。「あったことを、忘れないように、風化させないように」発信していくことが一番大切だと思います。
ーーこれからもSNSを通じての発信を期待しています
プレッシャーです(笑)。でも頑張ります!
ーーさいごにPIST6ファンに向けて、メッセージをお願いします
今までの競輪とは違う国際ルールの派手な演出に派手なレース。それがPIST6だと思います。これを機に競輪もそうですし、自転車競技、PIST6、日本の自転車界が盛り上がって、世界で活躍する日本人選手が生まれると信じています。
もっともっと世界をリードできるような自転車界を作っていくのに、ファンの皆様の声援が必要です。PIST6の応援をよろしくお願いいたします。
出身 :福島県
生年月日:1983/08/12
班級 :S級1班
身長 :176.0cm
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渡邉一成選手のTwitter
渡邉一成選手のinstagram