2025/11/28(金) 18:00 0 6
今年の顔であり、2026年S級S班所属となる9名の選手たちによる一発勝負。競輪界の一大決戦「KEIRINグランプリ2025」が30日、平塚競輪で開催される。netkeirinでは9日間にわたり、出場選手たちの特徴やグランプリまでの道のりを日替わりでお届けしていく。今回は元・ナショナルチームでトラック競技でも活躍した寺崎浩平を紹介する。(構成:netkeirin編集部)
大学時代はマディソン、チームパシュートと中距離系の種目で日本チャンピオンに輝き、養成所でも好成績を収めて早期卒業を果たし、鳴り物入りでデビューした寺崎。
さらにその後はナショナルチームにも加入し、今度は短距離の才能が開花。22年のアジア選手権ケイリン種目で金メダルを獲得するなど、世界でも活躍するスピードを身に着けた。しかし、競輪の方ではナショナル在籍期間中、1度しかビッグレースで決勝へ進めず、ポテンシャルを活かすことが出来ない競走が続いていた。
そんな寺崎だが、23年の世界選手権を区切りにナショナルチーム引退を決断し、競輪一本に専念することとなった。
競輪専念後、昨年までもそれなりの成績は残していた寺崎だが、今年に入りさらに大きくスケールアップ。まず年明け一発目のGI・「全日本選抜競輪」では脇本雄太と同県ワンツーを決めて準優勝を果たし、そして「ウィナーズカップ(GII)」では古性優作、「高松宮記念杯競輪(GI)」では脇本雄太を優勝に誘うなど、近畿の切り込み隊長としての役割を全うした。
今年のダービー前に行った当サイトの独占インタビューでも「現実的にタイトルを獲れるような脚力は付いてきている」、「現実的に『S級S班』っていうイメージが見えてきている」と話したように、そろそろ後ろのためだけに走るのではなく、自分も獲りたい! という感情も秘める中で迎えたGI・オールスター。
24年でも7・8月でGIIIも含めて1度も優出を果たせなかったように、夏場に成績を落とす寺崎にとっては鬼門となる開催。初日、2日目は共に7着と大敗を喫し、今年も厳しいのか…と思われていた中、準々決勝、準決勝と鮮烈な捲りを放ち連勝で優出を決めて、周囲の不安を一掃した。
迎えた決勝戦。近畿からは寺崎の他に脇本雄太、古性優作、南修二と強力メンバーが集い、その並びにファンの注目が集まったが、脇本が「今年は2回(GIの決勝で寺崎に)お世話になっている」からと寺崎の前回りを決断。前は輪界最強の脇本雄太、後ろは輪界屈指の仕事人である古性優作、南修二が固める布陣となり、寺崎にとっては千載一遇の大チャンスだ。
号砲が鳴ると太田海也、佐藤礼文といったスタートが速いメンバーを差し置いて古性優作が前を取る。そしてグイグイとペースを上げる脇本雄太の突っ張り先行に別線も積極策で抵抗することはできず、そのままの隊列でレースは最終バックに突入。吉田拓矢が捲り迫ってきたところで寺崎は躊躇することなく番手捲りを放ち、吉田を合わせ切って最後の直線へ。
古性優作が外に持ち出し寺崎を抜きにかかるが、抜かせてたまるか! と言わんばかりに必死に前へと踏み込み、最後は1車輪差で古性を凌ぎ寺崎が悲願の初タイトルを手に入れた。
レース後、2着に敗れた古性が「悔しさがあるけど、優勝したのが寺崎君でよかった」と語っているように、いかに寺崎のタイトル獲得が本人だけでなく近畿全体の悲願であったのかが良く分かる。今までの地区への貢献が報われた瞬間だった。
村上義弘、脇本雄太と受け継がれてきた“近畿の競輪“の後継者として今年のグランプリはもちろん、来年以降も近畿地区を引っ張ってこのバトンを繋いでいく。
寺崎の選手としての魅力と言えばやはり電光石火の捲りだろう。
その魅力を象徴するレースが4月の武雄記念の最終日。残念ながら負け戦周りとなってしまったが、メンバーを見渡してみると北津留翼、岩本俊介、阿部拓真、そして寺崎の番手も稲川翔と、負け戦とは思えない決勝レベルの超豪華メンバーが揃った。
レースでは北津留が最終ホームで岩本を叩き、3番手以降の後続をグングンと突き放していく中、寺崎は最後方に置かれる絶望的な展開となる。しかし、あの稲川を千切るほど異次元のスピードで前団に迫り、最終的には1車身突き放して快勝。そして驚くべきはそのタイム。なんと上がりタイムは10.6と、世界選手権でケイリン・スプリント両種目制覇を達成した世界的スターであるテオ・ボスが残した武雄のバンクレコードを塗り替えてしまったのだ。
この偉業を成し遂げておきながら「内容は良くないですけどね…」というコメントを残した寺崎。コメントの通りラインで決められなかったのは確かだが、普通ならテオ・ボス超えともなれば浮足立ってしまいそうなものだ。
この男が求めている理想はいったいどこまで高いのか。そしてその理想にたどり着いたとき、寺崎に対抗できる選手はいるのだろうか。もはや恐怖でしかない。
