2025/05/21(水) 18:00 0 7
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。5月26日に青森競輪場で「第72回全日本プロ選手権自転車競技大会(以下:全プロ競技大会)」が開催されます。青森では2018年以来の開催。青森で生まれ育ち、現在も地元に暮らす私にとって、この大会が再び青森で行われることは非常に嬉しいです。
ところで、全プロ競技大会ーー。競輪ファンの中にも、「実はあまりよく知らない」という方もいらっしゃるかもしれません。今回はこのコラムで、全プロ競技大会の目的や種目の紹介、見どころなどをお伝えしていけたらと思います。
全プロ競技大会は、普段競輪で活躍している選手たちが、1kmタイムトライアル、スプリント、エリミネーション、ケイリン、個人パシュート、4kmチームパーシュート、チームスプリントの7種目で競い合う大会です。
もともとは「世界選手権の選考レース」としてスタート。当時はアマチュアの自転車競技専門の選手たちが先に出場し、その後、同じバンクでプロの競輪選手が同じ種目に挑戦するという形式でした。そして両方の大会で優秀な成績を残した選手は、アマチュア・プロを問わず世界選手権に出場できたのです。
現在では、世界選手権やオリンピックに出場する選手は「ナショナルチーム」の一員として、プロ・アマの区別なく活動しています。トレーニングも国際大会の日程に合わせて組まれているため、全プロ競技大会が世界選手権の選考レースとして使われることはなくなりました。
しかし大会の「競技性」は受け継がれ、現在ではGI・寛仁親王牌の出場選考条件にもなっており、競技に強い選手がGI出場に挑戦できる大会になっています。同大会で優勝など好成績を収めた選手は、「特別選抜予選」や「日本競輪選手会理事長杯」に出走できるため、予選の勝ち上がり段階でも有利になります。
ただし出場資格はS級選手のみ。A級選手はどれだけ優秀な成績を残しても出場はできません。しかし、A級選手がここで結果を出せば、賞金を手にすることもできますし、“格上選手を破る経験”がその後の競輪でも活かせる確かな自信につながり、とても大きな意味を持ちます。
全プロ競技大会に出場するには全国8ブロック(北日本、関東、南関東、中部、近畿、中国、四国、九州)での地区プロで好成績を収める必要があります。あまり知られていないと思いますが、各種目ではブロックごとに点数が加算され、最後に「総合優勝」も決定されます。これにより、各支部の選手選考も本気度が出てくるんですよね。
支部長が監督や助監督を務めるケースが多く、地区プロの結果を踏まえ、「この種目はこの選手を出そう」といった戦略が練られます。選考では、当然ながら地区プロでの成績が重視されますが、その種目の経験の有無もかなり考慮されます。
さて、ここからは注目の種目をご紹介しましょう。まずはエリミネーションレースです。「2周ごとに最後尾の選手が脱落していくというシンプルなルール」で、初心者にもわかりやすく楽しめる種目だと思います。
この種目の最有力は2023年、24年の覇者である関東ブロック・小林泰正です。また今回は不出場ですが、小林の叔父・小林潤二も2016年、17年に同種目を制覇しており、昨年は51歳ながら2位入賞し、2023年・24年と2年連続で甥と共に表彰台に上がる快挙を見せました。
脚力よりも位置取りや駆け引きがカギとなるレースだけに、ベテラン選手にも十分に勝機があります。今年は、北日本ブロックから54歳の内藤宣彦が代表に選出されているように熟練者の経験が光る種目なので、若手だけではなくベテラン選手に注目しても面白いでしょう。
7種目すべてのルールを解説すると壊滅的に膨大な内容になりますので(笑)、ここでは「出場選手」に注目して観戦する楽しさをお伝えします。特に注目すべきは各種目とも昨年の優勝者たちと団体競技で優勝したブロックの動向です。
種目 | 2024年大会優勝者 |
---|---|
1kmタイムトライアル | 菊池岳仁 |
スプリント | 河端朋之 |
エリミネーション | 小林泰正 |
ケイリン | 山口拳矢 |
4km個人パーシュート | 近谷涼 |
4kmチームパーシュート | 九州ブロック |
チームスプリント | 四国ブロック |
中でも1kmタイムトライアルで3連覇を狙う菊池岳仁に注目です。昨年2位の新田祐大、3位の村田祐樹も元ナショナルチームの実力者。そして彼らに挑む若手先行型として頭角を現し始めた後藤大輝に注目しています。
1kmタイムトライアルは、スプリントのような爆発的なスピードだけでなく、持久力も問われる種目です。近年の競輪は「長く踏める先行型」が活躍する流れにあるので、この種目で好成績は出す選手は競輪での“活躍期待度”が高いとも言えるでしょう。元ナショナルチームの力走にも注目しつつ、後藤のタイムがどこまで迫れるかも楽しみです。
例年、激戦となるのがスプリント。昨年12年ぶりに優勝した河端朋之、そして昨年は2位、一昨年は優勝の雨谷一樹が今年も注目株で間違いないでしょう。やはりナショナルチーム経験者が、競技特化の技術で一歩抜け出す傾向にあります。
そして、最も馴染み深いのがケイリンですよね。山口拳矢が3連覇を狙いますが、今年はS級S班の選手が8名も出場予定。新山響平、眞杉匠、岩本俊介、郡司浩平、脇本雄太、古性優作、清水裕友、犬伏湧也という顔ぶれで、まさに混戦が予想されます。
またケイリンの楽しみ方でおすすめしたいのが「追い込み型の選手の動き」に注目することです。ヨコの動きが制限される中でも、展開次第では先行に出る場面があったり、普段は連係するライン同士でも、ゴール前で激しく競り合ったりすることもあります。競輪で見せる顔とは別の意外な一面も見られるのが“全プロのケイリン”の醍醐味です。
そのほか、個人パシュートもかなりの見応えになる気がしています。2023年、2024年と連覇している近谷涼はさることながら、元ナショナルチームの新村穣も期待できる選手です。今回は昨年の世界選手権・男子スクラッチで優勝した“現ナショナルチーム”の窪木一茂が特別推薦で出場します。窪木は今年の「アジア選手権トラック2025」で、アジア新記録・日本新記録を樹立しています。まさに世界トップレベルの力を持つ選手ですから、その走りは見逃せません。
団体種目であるチームスプリントや4kmチームパーシュートは、「どの選手をどの順番で起用するか」といった監督や助監督の采配が結果に大きく影響します。これらタイムを競う種目では「地区プロのタイムはあまり参考にならない」という点が面白いポイントです。天候やバンクの状態により、同じ選手でも結果が大きく変わりますし、地区プロにおけるコンディションの違いも、各地区で開きが大きいのです。
たとえば北日本では寒くて重いバンクで開催されますし、九州では温暖な気候が残る中で地区プロが開催されます。関東は前橋競輪の屋内バンクで行われ、こちらは風の影響はありません。そのため、全プロ開催場の「当日のコンディション」で勝負が決まることも多く、まさに現地でしか味わえないリアルな競技の面白さがあります。こちらは普段応援している地区や選手に目線を絞って、観戦するのがおすすめですね。選手個々の技術に加え、「地区対抗戦」としての熱さも楽しめるはずです。
普段の競輪では見られない選手の新たな一面が見えたり、1kmタイムトライアルのように今後の競輪成績を占ううえでも参考になったりするのが全プロ競技大会です。24日・25日には「全プロ記念競輪」も開催され、まるでFIIとは思えないほどの豪華な出走メンバーが揃います。競技大会に出場する選手たちも含めて、まさにGI級とも言える白熱の2日間となるでしょう。
「全プロ記念競輪」と「全プロ競技大会」どちらも見逃せません。ぜひ青森競輪場に足を運んでいただけたら嬉しいです。私は「全プロ記念競輪」では解説を担当します。「全プロ競技大会」では元競技者として、心から楽しませていただくつもりです。このコラムが、みなさんの競技観戦のきっかけになれば幸いです。
●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。