2025/03/15(土) 18:00 0 2
現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリやオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は3月11日・12日に行われた「PIST6 Championship」WINTER STAGEの『3月第2戦』の決勝レースを回顧していきたいと思います。
【PIST6 ChampionShip WINTER STAGE 3月第2戦 決勝レース動画】
今大会は優勝経験者が原田翔真と藤原俊太郎の2人だけであり、過去に決勝へ進出した選手も少ない混戦模様のラウンドになりました。
初日のタイムトライアルでは山田駿斗が1位でしたが、「10秒451」のタイムはレベルの高いラウンドであればトップ5入りも難しいタイムです。そしてまた、2位以下の選手とのタイム差もそれほど離れてはいませんでした。参加選手の誰にでもチャンスのある状態でしたが、僅かなタイム差の中で勝負を分けることになるため、レースにおける積極性が鍵となってきます。
タイムトライアルで1位となった山田ですが、たまたま自分が平塚競輪の解説をさせてもらった時に、目に留まった選手でもありました。
その時の予選では1周を逃げ切って優勝したものの、2次予選は勝ち上がりを意識し過ぎたのか、消極的なレースになってしまいました。それで発奮したのか、最終日は後続の選手を引きつれながら逃げを打っていきました。結果は番手の選手に交わされての2着でしたが、やはり風を切っていくと強い選手だと再確認できました。PIST6が3度目の参戦となりますが、その時のように今大会でも大きなレースを見せて欲しいと期待をしていました。
その山田にとって意識する存在となっていたのが、同じ123期の佐藤壮志だったと言えるでしょう。123期生はこれまでに数多くの選手が参戦しているだけでなく、その中から優勝者も誕生しています。競輪でもしのぎを削り合っている2人ですが、PIST6 でも互いよりも早く優勝したいと思っていたはずです。
その山田と佐藤の2人は準決勝Cで対戦しています。その時は山田の番手に入った佐藤がゴール前で差し切って勝利をあげており、無傷の3連勝で決勝へと進みました。佐藤と同じように3連勝で決勝に進んだのが原田と、そして今大会は予選からバックを取り続けた相川永伍でした。
相川は競輪では追い込み選手となっていますが、以前は徹底先行型の選手として名前を売っていました。PIST6でもバックを取る走りをした方が成績が安定しており、今大会は予選からそのスタイルを貫いた形でしょう。PIST6ファンも“S級の力”を加味した上で、決勝では相川が1番人気に支持されていましたね。
決勝のスタートはインコースから⑤吉田茂生⑥長谷部龍一②相川永伍①山田駿斗④佐藤壮志③原田翔真となりました。
吉田、長谷部とPIST6では自力を出していない選手が1番手と2番手に入った一方で、今大会でバックを取ってきた選手たちが、3番手以降となる並びとなりました。こうなると後方の選手たちは前に出る必要が出てきますが、最初の1周を回った時点で、6番手から一気に上昇したのが原田でした。
PIST6は最初の1周はインコースから順番に並びますが、2周目以降はポジションを取りに行ってもいいルールとなっています。また、1番手に入った選手は誘導員に付いていかなければなりませんが、他の選手が前受けにいった場合には、その位置を譲ることもできます。
吉田は有利な1番手ながらも、自力を出すようなレースをしていないだけに、ここでは前に誰かに入ってもらって、その後ろからレースを組み立てたいとの狙いもあったはずです。そこで”渡りに船”とばかりに原田が来てくれたので、その後ろからレースを組み立てる作戦を取ったのでしょう。原田からしても、吉田や長谷部が自分の後ろについてきてくれるのならば、他の自力選手の捲りを封じることにもなります。このあたりは各選手の思惑が交錯していましたし、利害関係も一致していましたね。ただし、そうはさせまいとばかりに「PEDAL ON」を前に6番手から動いていったのが佐藤でした。
佐藤は誘導員が退避するタイミングを見計らって、競輪でいうところの「イン切り」をして先頭に立ちます。原田としては絶好の位置となっただけに、佐藤との車間を空けるだけでなく、幾分外に自転車を向けながら、次に動き出してくるであろう山田や相川の捲りに備えていきます。
ここで動き出したのは最後方となっていた山田ではなく、その前にいた相川でした。ただ、原田は3コーナーで捲ってきた相川に合わせて、佐藤と並走するように前に出ます。ここで原田が上手かったのが、佐藤を交わし切るのではなく、スピードを落とすことで相川が捲ってくるスピードを殺したことでした。原田は残り1周のホーム過ぎで佐藤を交わして先頭に立ちますが、その外から捲りに行った相川としては、一度減速してしまっているだけに、原田を交わし切れるほどのスピードはありませんでした。
その時に相川の外から一気に上がっていったのが山田でした。一時は最後方の6番手となっていた山田ですが、前にいた相川が動いてくれたことで、サラ脚でポジションを上げていけました。ブルーラインの外から相川を交わしていき、残り1周のホームでは前を行く原田に並びかけていきます。
その時点で山田は他の選手よりもかなりの距離を踏んでおり、しかも外に浮かされたような展開にもなってしまいます。並の選手ならば、前の選手に合わせていったとしても、そのまま失速してしまうのでしょうが、そこは持続力のある脚が使える山田の強みなのでしょう。
山田は残り1周では内を回っている原田と並走し続けただけでなく、残り半周で先頭に立つと、そのままゴールまで押し切って見せました。2着にはゴール前で原田を交わした佐藤が入っています。
この決勝は出入りの激しい、非常に面白いレースになりましたね。それも山田、佐藤、原田と若手選手たちが、積極的なレースを見せたのは勿論のこと、決勝では前に出られずに5着に敗れた相川も、準決勝までは競輪での徹底先行を思い出させるような走りで大会を沸かせてくれました。
惜しかったのが2着の佐藤です。一時は先頭に立っていた原田の番手という絶好のポジションに入っていただけでなく、山田がブルーラインの近くを回りながら捲ってきた時には、先に動くことも可能だったと思います。ラスト一周で原田の前に出ていれば結果は違ったのかもしれません。
佐藤は準決勝で山田を交わして勝利していただけに、ここでもゴール前で原田の番手から抜け出すという気持ちがあったのでないのでしょうか。一方で山田は前にいる原田を交わすことしか考えていなかったはずです。その積極性の違いが、準決勝とは真逆の結果をもたらしたと言えるでしょうね。
勿論、これがPIST6初優勝となる山田です。地元千葉の選手でもある山田からすると、ここで優勝したのは嬉しかったはずです。次にPIST6へ参戦した際には心の余裕もできていると思いますが、その時も競輪と同じように風を切るような走りを心がけてもらいたいです。
敢闘賞は相川ですね。あれだけ自力を出せるのならば、競輪でも追い込みにこだわる必要は無いと思います。例えば7車立てのレースで目標不在となるようならば、単騎捲りがはまる展開もあり得るはずですし、その意味でも山田と同様に相川も今後の競輪、そしてPIST6の走りに注目していきたいです。
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●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。