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【坂本勉のPIST6徹底回顧】最多優勝の堀江省吾はレース展開に左右されない強さを備えている/レジェンドが見た疾風迅雷 #37

2024/06/28(金) 13:00 0 2

現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)

 netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は6月24日・25日に行われた「PIST6 Championship」の「6月第3戦」の決勝レースを回顧していきたいと思います。

【PIST6 ChampionShip 6月第3戦 決勝レース動画】

一次予選から危なげないレース運びで完全優勝した堀江省吾

 今大会では一次予選から危なげないレース運びで完全優勝。最多優勝回数を11回まで伸ばしたのが堀江省吾です。

最多優勝回数11回を達成した堀江省吾

 この優勝回数が物語るように、PIST6では敵なしと言える強さを見せている堀江ですが、3月30日・31日に行われたフォースクォーターの決勝では、絶対王者として君臨している河端朋之に力の差を見せつけられる形で4着に敗れています。

 今大会はその時よりも恵まれたメンバー構成になったこともありますが、前大会での鬱憤を晴らすかのように、常に積極的なレースを見せていました。

 その堀江に対抗する存在として注目していたのが、「フォースクォーター・ラウンド42」と「2024-25 スプリングステージ ラウンド2」で完全優勝を果たしていた棚瀬義大です。

 今大会も一次予選と二次予選をスケールの大きな走りで難なく通過。ただ準決勝は5番手からの発走かつ他選手も棚瀬の動きを警戒するレース展開を作っていました。その結果、まさかの6着に敗退し決勝進出を果たせませんでした。

 その準決勝ですが、中団からレースを進めながら、後ろにいる棚瀬を出させないような流れを作ったのが常次勇人でした。常次は今大会のタイムトライアルで全体3位となる10秒430を記録しており、これは決勝に進んできた6名の中で最も速いタイムともなります。

 決勝で常次は堀江に続く2番人気に支持されていました。これはスピードで堀江に対抗できるだけでなく、「決勝でも何かやってくれるのではないか?」という、ファンからの期待の表れだったと思います。

堀江に有利な並びだった

 決勝のスタートの並びはインコースから④戸田洋平前反祐一郎堀江省吾依田翔大常次勇人鈴木伸之となりました。

 この並びを見たときに、堀江にとってはかなり有利な流れになると思いました。自分より後ろに常次がいただけでなく、ここまで連勝で来た依田も、堀江のすぐ後ろからのレースを選択するように思えたからです。

 「PEDAL ON」で仕掛けたのは6番手となっていた鈴木です。それに合わせる形で5番手の常次も外から捲っていきます。常次は鈴木の牽制を受けますが、それでも強引に捲り切って、残り2周では先頭に立ちます。ただ、その後ろにポジションを取っていたのが4番手の堀江でした。

残り2周、先頭に立つ常次勇人(ホワイト・1番車)の後ろにポジションを取っていく堀江省吾(ブラック・2番車)

 堀江は残り1周半で常次に並びかけると、ラスト1周では先頭に立ちます。その後ろには番手戦のようにしっかりと依田がついていきます。展開的には依田が有利となったかに見えましたが、その差はなかなか縮まらず、1/2車身差を付けて堀江の優勝。2着は依田で、そこから4車身程度離れての3着には常次が入りました。

残り1周から依田翔大(レッド・3番車)が追撃するも、それを振り切っていく堀江省吾(ブラック・2番車)

予選からのイメージも走りに影響する

 いわゆる「後方に置かれた選手が順番で動く展開」となり、最終的に捲っていった堀江が優勝という分かりやすいレースでした。それでも依田に交わされなかったあたりに堀江の強さが現れています。

 しかも1番手の戸田、2番手の前反ともに、先行していく選手の後ろを狙ってレースを進めたいと考えているだけに、前のポジションを生かして、常次の動き出しを待っていたはず。ただ、常次の後ろに堀江が入っていたので、万事休すといった展開になってしまいましたね。

 これが常次が堀江の前の並びだったのならば、堀江は自分が先に動き出す必要があり、そこで脚を使う分、苦戦を強いられていたかもしれません。堀江と常次は二次予選でも対戦しており、そこでも先行していった常次の後ろに入った堀江が、残り1周で先頭に立つと、一気にその差を広げて1着となっています。堀江からすれば、その時のイメージを持ちながら走っていたでしょう。

 その一方で、常次は二次予選も決勝も“かかり切る前”のタイミングで堀江に叩かれてしまいました。二次予選も常次が3番手で、堀江が5番手からのレースとなりましたが、タイム差の無い選手が揃う決勝では、更にスタート位置が重要であると再認識させてくれたレースともなりました。

展開を読む巧さで実力を証明した依田翔大

 2着の依田ですが、今大会は二次予選で空いたインを付いていったかと思えば、準決勝では絶望的と思われた5番手からの捲り追い込みを決めるなど、展開に応じたレースを見せていました。決勝でも堀江を交わすのではないかと思わせたほどのスピードでレーサーとしての実力も付いてきています。

状況に応じた柔軟な走りを見せる若手実力者の依田翔大

 これは依田が「フォースクォーター・ラウンド46」で2着に入った影響も大きいと思います。依田のようなA級の若手選手は決勝に乗ることで自信もつきますし、普段の競輪では対戦しないS級選手とレースをすることで、走りに磨きをかけていきます。

 そういった意味ではこれで2度目の3着となる常次も、改めて決勝ではどんな走りが必要かを理解できたはずであり、今後の大会でも決勝の常連選手となっていくに違いありません。その経験を積み重ねていけば、依田も常次も悲願の初優勝が見えてくると思います。

展開に左右されない強さがPIST6制覇の鍵

 その2人とは対照的に、今大会のタイムトライアルで1位ながらも、決勝に進めなかったのが原田亮太でした。原田のタイムや競輪・PIST6での実績を見ても、「なぜに優勝していないのか?」は不思議としか言えません。

 PIST6での原田の走りを分析すると、先行して逃げ切った場合には無類の強さを発揮する一方で、後方からのスタートとなった場合には捲り切れずに着を落とす傾向があります。

 原田だけではなく、競輪のレースでも先行向きのスピードがありながら、捲りだとタイミングが掴めずに不発に終わってしまう選手がいます。PIST6で原田と対戦する選手たちもそれを分かっているだけに、前の位置取りから早めに仕掛けていくなどして、原田のスピードを封じ込んでいるのが見て取れます。

 タイムトライアルは他の選手に邪魔されることなく、自分のライン取りで走っていけるので、“タイムを出すためのギア比”にするなどの作戦があります。ただし、レースは生き物でもあります。棚瀬が準決勝で力を出せなかったように、原田も自分のレースができないともろいのは、様々な展開に対応できる走りがまだ確立されていないからでしょう。

 それだけにどんな展開になっても、確実に力を発揮している堀江の強さが際立った結果にもなりました。その堀江ですら優勝インタビューでは、自分より強い選手として河端朋之の名前を出していたように、その向上心は止まる所を知りません。

 今後も更に優勝回数は増やしていくはずですし、その中で河端との再戦や、棚瀬といった生きのいい若手との対戦で、どんなレースを見せてくれるのかが、ますます楽しみになりました。

坂本勉が選ぶ! 今シリーズのMVP

表彰台中央で喜ぶ1位 堀江省吾と2着 依田翔大(左)、3着 常次勇人(右)

 最多優勝回数を更新した堀江しかいませんね。敢闘賞は決勝の6名からだと、一次予選から積極的なレースをしていた常次となるのですが、ここは次の大会でのリベンジを期待して、棚瀬にもあげたいと思います。


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●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。

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