アプリ限定 2023/12/19(火) 18:00 0 17
11月26日、朝日新聞社杯競輪祭終了後に「KEIRINグランプリ2023」の出場選手および2024年シーズン「S級S班」となる9名が発表された。新時代を創る9名のヒーローたちの2023年はどんな1年だったのだろうか? グランプリまでの道のりを振り返りながら、選手の印象に残っている「今年の1本」について話を聞いた。18日から26日まで全グランプリ戦士が毎日登場! 今回は脇本雄太編をお届けする。
東京五輪が終わり、自転車競技から競輪に本格復帰した昨年はGI・2勝。KEIRINグランプリも制し、年間獲得賞金は競輪界では史上初となる3億円を突破。最強最速と呼ぶにふさわしい内容だった。しかし、今年は年初からの腰痛に加え、8月のオールスター競輪では「落ちた記憶すらない」というほど激しい落車に見舞われる。右の肋骨と肩甲骨の骨折および肺気胸の大怪我を負い、全治半年の診断が下されたが、3カ月後に復帰。6日間制の競輪祭を走り抜き、決勝進出。獲得賞金8位でグランプリ出走にこぎつけた。今年GI未勝利に終ったが、身体への負担が少ない一発勝負のグランプリで輝きを取り戻す。
そんな脇本雄太に「今年の1本」を尋ねると、5月の平塚GI「日本選手権競輪準決勝(開催5日目・10R)」との回答。レース映像と本人解説は以下のとおり。
「レース前に考えていたのは、日本選手権競輪の初日に不発に終ってしまい8着だったので、それだけは避けよう、と。整えられる前に整えないといけない。僕自身が仕掛けないと、犬伏(湧也)くんが全てを確認したところで、例えば僕が行かなかったら、僕が8番手になったのを確認してから犬伏くんは発進する。犬伏くんとすればそれが理想の展開ですよね。だから、整えさせる前に自分が駆ける展開にしよう、と。犬伏君が意識する前に行く。出切ってからはペースで踏めたのが良かったですね。レースとしては単調ですが、最後までしっかりと踏めた。自分の番手で走った古性(優作)君がレース後、苦しそうで、あんなにしんどそうな古性君は見たことなかったんです。
昔、先行選手として“電車道”を作れたらいいなって思っていたんです。理想のレースっていうんですか。レース映像で打鐘から最終ホームを見て欲しいんですが、GIの準決を戦う9人でこのばらつきは見られないですよね。最終バックでの電車道、誰も仕掛けてこれてない。普通なら誰か踏んできてますから。ヘヘヘ。
会心のポイントは、犬伏君が誘導から車間を切って見ているところ、視線をかいくぐる勘、そこをしっかり押さえることができたところですね。もうちょっと泳がせても、というところを身体が勝手に動いた。
『視線をかいくぐる』というのは物理的な面も含めてです。犬伏くんは他のラインも見ていますから、状況を確認する前に駆けるという意味ですね。後ろで走っていて、時速60キロ以上のスピードが出ている中でも、遠くにいる選手のことがわかります。自在選手はそれが上手くて位置取りが上手い。読むのも上手い。対処の速さがウリというか、ウマくて速いんです。ありとあらゆる事をシミュレーションしているのかわからないですけど、例えば松浦(悠士)くんはそれがウリですよね。それが出来ないと僕みたいに動きがワンパターン化するというか…(苦笑)。
1回外側に行って、その後に内側に入った時に確認するんですね、犬伏君は。それで確認して、落ち着いたら駆けるわけです。あのレースで僕はそれをさせる前に駆けたということです。犬伏君は『いきなり脇本さんが来た』とレース後のインタビューで話していたようですが、実際、僕はタイプ的にそんなに早く動かないので。でも、この時は身体がちゃんと動いてくれた。
レースで大事なことは、どのレースもそうですが、単に出切ってというわけではない。この選手だったらどういう風に動くか、そこを考えて勝負(仕掛け)しています。そこの認識が他の選手と僕は違います。8対1になるところを1対1の勝負にしたい。相手の土俵に乗らないことが大事なので。なるべく早く動くとか突っ張るとか、いろんな事をする。本当にこのレースは仕掛けのタイミングが早くても遅くてもダメでしたね。早過ぎたら犬伏くんに、3番手からのカマシとか、閉じ込めるとか、反撃のチャンスを与えることになる、遅く行ったらそもそも前に出られない可能性があります。
初日の失敗を基に成功させたレースという意味でも、会心のレースと言えると思います。視界に映らないとこから抜くのが理想なんです。
でもね…。あのレースがね…。犬伏君を目覚めさせてしまったんですよ(苦笑)。本人にとって成長につながるターニングポイントのレースだと思います。犬伏君はダメなレース、として挙げると思いますけど。犬伏くんはレース後、とにかく驚いていて、ホント、すごい顔をしていたんですよ。ですが、決勝は僕が後ろに下がった瞬間に犬伏くんは駆けていた。僕が後ろに引いて隊列を整えさせる前に行っているわけです。だから、そういった意味で『彼は目覚めてしまった』『彼を目覚めさせてしまった』と言えるんです。あ〜。」
取材:前田睦生
構成:netkekrin編集部