2023/09/15(金) 12:00 0 2
現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリやオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は9月11日・12日に行われた「PIST6 ChampionShip」セカンドクォーターラウンド18の決勝レースを回顧していきたいと思います。
【PIST6 ChampionShip セカンドクォーターラウンド18 決勝レース動画】
今大会は勢いのある若手選手が多く参戦してきたこともあってか、決勝メンバーも前反祐一郎以外は全員20代となりました。その中でも注目していたのが、これがPIST6初出場となる藤井侑吾です。
藤井は競輪学校でゴールデンキャップを獲得したほどの実力があり、最近の競輪では記念開催(GIII)でも活躍しています。先行した時のスピードにも表れているように、申し分ない脚力を持っており、「250バンクへの対応力はどうなのか?」と楽しみにしていました。
本人も250バンクを走るのは、「講習会以来」と話していたようですが、やはり力があるというのか、流れが向いたレースがあったにせよ、決勝まで勝ち上がったその実力は大したものと言えるでしょう。
250バンクは競技を経験していない選手にとっては、かなり特殊なバンクです。競輪学校で練習する機会はあったにしても、しばらく乗っていなければ身体もどんな走りをしていたか忘れてしまいます。
タイムトライアルも「脚力さえあれば好タイムを出せる」というわけではありません。自分の脚力や走りにあったギア倍数を見つけるだけでなく、どこを通ったらタイムが出せるか、そしてそのギアにあった加速のポイントはどこなのかなど、走りながら探していく必要があります。だからこそ、PIST6は継続して出場し、参加回数の多い選手が好成績を収めているわけです。
タイムトライアルでは思ったほどタイムが出ていなかった藤井も、レースでは競輪で培ってきた実力が遺憾なく発揮されていました。次回以降のPIST6では、更に250バンクにマッチした走りを見せてくれるに違いありません。
また、同じく決勝に勝ち上がった荒川達郎もゴールデンキャップを獲得している選手であり、大学では全日本大学自転車競技大会チームスプリントで1位となっています。その競技実績からPIST6向きの選手と言えます。
荒川は今大会が2度目の出場であり、今年の4月に競輪デビューしたばかりの123期生となります。デビュー数ヶ月後にしてPIST6に参戦し、今節ではじめて決勝進出を果たしました。新人らしい思い切りのいいレースは高評価できる内容です。今後が楽しみな選手だと思います。
PIST6は荒川のようなデビュー間もない若手選手たちが、すでにS級で活躍している上位の選手たちと真っ向勝負ができるところに面白味があります。経験を重ねるという意味でも格好の舞台です。若手選手にはどんどん参戦してもらいたいです。
決勝のスタートの並びは、インコースから⑤佐藤啓斗-④荒川達郎-③藤井侑吾-①堀江省吾-⑥前反祐一郎-②村田瑞季となりました。
単勝1.6倍の一番人気を集めていたのが、ここまで6度優勝している堀江であり、2度優勝している村田が3.3倍で2番人気となりました。その堀江と村田と同じく、予選から3連勝で決勝に進んできた藤井が4.1倍と、3人が人気の中心となりました。
残念だったのは連勝で準決勝まで勝ち上がっていた木村佑来と田口勇介が、揃って4着に敗れてしまったことです。木村も田口も一次予選から突っ張っての先行、もしくは早めに主導権を獲っていく「迷いのないレース」をしていました。
決勝には勝ち上がれなかったものの、2人の走りからは「PIST6ではこの走りを貫く」といった意思も感じ取れました。250レース用の重いギアで、スピードと持久力を高めていくような走りは、今後の競輪のステージでも生かされていくはず。2人には次回参戦時も、このレーススタイルを貫き、決勝へ勝ち上がってもらいたいと思います。
先行型の木村・田口が準決勝で敗退したことは、堀江にとって良かったのかもしれません。ですが、優勝経験のある村田がいます。村田は今年3月に行われた「EXTRA STAGE 年間ファイナル」で大逃げを打っており、堀江にとってはどのタイミングで仕掛けてくるのか気になる存在だったことでしょう。
一方、村田にとって6番手は最悪のスタート順でしたね。「PEDAL ON」で佐藤のインを切りにいって先頭に立ち、他の選手の出方を待ちました。それを見た堀江は村田の後ろに切り替えますが、内にいた佐藤に突っ張られたこともあり、残り2周では村田を交わして前に出ます。
その時に後方から加速し、残り1周半で一気に先頭へと躍り出たのが荒川でした。この辺は新人らしい思い切りの良さを武器に「大きなレース」を見せてくれましたね。
この展開ならと初出場の藤井も黙ってはいません。後ろから加速し、荒川の外を攻めて行きました。荒川と藤井の踏み合いは半周ほど続き、残り1周でこの“ゴールデンキャップ争い”を制したのは藤井でした。そして、失速した荒川をすぐに交わし、堀江が前を行く藤井を追走していきます。
カカリきっていた藤井も抵抗を見せますが、ゴールで3/4車輪だけ前に出ていたのは堀江でした。2着は粘り込んだ藤井で、3着には堀江の後ろに切り替えていた村田が入っています。結果としては上位人気3人での決着ながらも、出入りの激しさもあり、非常に面白いレースでした。
堀江は決勝後のインタビューで、「2日目は疲れが溜まっていた」と話していました。その状態でこの決勝を『時速69㎞』というスピードを出して優勝したことにも驚きました。ただ準決勝も決勝も体調が万全ではなかったからこそ、冷静に位置取りを探すようなレースができていたのでしょう。
これで7度目の優勝となった堀江。過去にも今回のようにベストな状態で臨めなかった大会もあったはずです。それでも今回のように「常に優勝争いできるポジション」を走っている部分に“視野の広さ”を感じます。この能力は優勝経験で培われているものと見ていいでしょう。
それに加えてタイムトライアルで1位となるような脚力も備わっているわけですから、この結果も頷けます。堀江は木村や田口のように、自分が主導権を獲るような「大きいレース」もできる選手です。今後もメンバー構成に合わせられる引き出しの多さで、さらに優勝回数を増やしていくでしょうね。
文句なしに完全優勝を決めた堀江ですね。ただ、敢闘賞には3人の選手を挙げるべきでしょう。まずはでPIST6初出場とは思えない走りを見せてくれた藤井。そして、準決勝で敗れはしたものの、木村と田口もその積極的なレースぶりに将来性を感じます。この3人は讃えておくべきでしょう。
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●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。