2023/01/25(水) 18:00 0 3
現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリやオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は1月21日・22日に行われた「PIST6 Championship(ピストシックス チャンピオンシップ)」のフォースクォーター ファイナルラウンドの決勝レースを回顧していきたいと思います。
【PIST6 ChampionShip2022-23 フォースクォーター ファイナルラウンド 決勝レース動画】
今大会の決勝には過去に4度の優勝経験がある根田と木村に加えて、ナショナルチームに所属していた河端と稲毛も勝ち上がってきました。
河端と稲毛は、自分がナショナルチームのコーチをしていた頃の強化指定選手となります。競技でも優れた実績を残している河端が、PIST6でも適性を示していたように、初参戦となる稲毛もPIST6が行われている250バンクは走り慣れています。しかも、稲毛は競輪でも実績を残しているだけに、今大会はダークホース的な存在になるのではと期待をしていました。
ただ、タイムトライアルでは稲毛の10秒388より速い、10秒1台のタイムを出していたのが河端と根田でした。稲毛のタイムも大会によっては1位となるような好タイムではありましたが、それより0秒2も速い2人(河端、根田)は抜けた存在です。特に河端は予選から後続を引き離していただけでなく、積極的なレースを見せていただけに、ついに初優勝を果たすのではとも思っていました。
ただ、決勝レースの河端は最終周における木村の斜行の影響を受けて、大きく外に振られた結果、4位入着(結果は木村が失格となったことで3位)と、今回も優勝を逃す形となっています。一方、果敢に先行した根田は、後続がもつれたこともあって、5度目の優勝となりました。この2人の勝敗を分けたものとはどこにあったのかを含めて、決勝レースを振り返っていきたいと思います。
決勝のスタートの並びはインコースから③稲毛健太⑥相川永伍①根田空史②河端朋之④佐藤友和⑤木村皆斗となりました。
以前に“6つの心得”でも書かせてもらったように、PIST6は前でレースができる内枠にいる選手が有利となっています。そう考えると、最もスタート順で有利な位置となっていたのが稲毛であり、そして不利だったのは木村でした。
そして、根田の後ろとなった河端も絶好のポジションとなっていました。競輪と同様に、PIST6でもほぼ先行を見せている根田は格好の目標ともなりうるからです。
「PEDAL ON」を前にして、最後方から動き出していったのは木村ですが、その前に稲毛の番手からインを切りに行ったのが2番手の相川です。PIST6での相川は残り2周ぐらいで強引気味に前を取りに行き、その動きを見て先行していく選手の後ろを狙っていくレースを良く見せます。勝ちに行くというよりも、確実に上位を狙える位置を取りにいきながらゴール前での逆転を狙う、ベテランらしいレース運びとも言えるでしょう。
「PEDAL ON」直後、2番手に下がった稲毛は車間を取りながら相川を追走していきます。そこでバックストレッチから第3コーナーにかけて、一気に捲り上げていったのが根田でした。
その根田の仕掛けに反応したのが3番手に入っていた木村でした。一方、先行選手の番手を狙っていた相川は、一気に加速していった根田と木村のスピードに反応できません。その相川の後ろにいた稲毛も、外から捲ってきた根田-木村-河端-佐藤の4人に包まれたことで、残り1周では6番手まで順位を下げてしまいます。
稲毛は相川にインを切られた後に車間を取るのではなく、タイミングを図ってその上を捲っていくか、根田の番手を取りに行っても良かったと思います。ただ初出場かつ、初めての決勝という経験値不足がだったからこそ、レースの流れを見過ぎてしまったのでしょう。
同様に根田の番手には絶好の位置取りだったはずの河端も、木村にそのポジションをあっさりと譲ってしまいます。河端は無理に木村と並走して脚を使っていくよりも、今大会の調子ならば、3番手からでも捲っていけるとの判断だったと思います。
稲毛と河端がどこか構えてしまった一方で、根田の後ろにこだわりを見せていたのが木村でした。この2人は準決勝でも戦っていますが、その時も同様に木村は根田の後ろを回っています。根田-木村-河端-佐藤-相川-稲毛で迎えた最終周回、バックを前についに河端が動き出します。
木村は河端がいつ動き出してくるかも注意していたはずであり、河端が捲ってきた時には牽制の意味で、少しだけ外に車を振ったのでしょう。その時の接触で2人は“くっつく”ような形となってしまった上に、スピードに乗り切った木村には外側への力が大きく働いてしまっていました。2人はすり鉢状バンクの上まで大きく斜行してしまいます。
ビックリしたのは捲り上げていた河端でしょう。競技のケイリンに準じたルールで行われているPIST6において、競輪のような「競り」の形になってしまったわけですからね。ただ、河端の脚力やバランス力が秀でていたからこそ、落車をせずに何とか持ちこたえることができていました。河端の後ろにこだわっていた佐藤もその“あおり”を受けますが、持ち前の捌きの上手さでインコースに進路を切り替えて難を逃れました。
結果として後続のもつれも関係なく、いつも通りに先行策を取った根田が5度目の優勝を果たします。競輪でも前にいる選手の逃げを放置した結果、思わぬ結果になるレースはあります。このPIST6でもあまり無い結果でしたよね。
ただ、これも根田が自分のレースを貫き通した結果であり、言わば「無欲のレース」を決勝で見せたことが大きいと思います。過去のPIST6でも根田のような無欲のレースというのか、「大きいレース」を見せた選手が好成績を残しています。根田の場合は過去に優勝しているという「余裕」が成せる業なのでしょう。
その部分を比べれば、木村は「余裕」の無さと、勝ちたいという「欲」が、斜行に繋がったのかもしれません。河端もまた、決勝で「小さなレース」をしてしまったのが、あの位置取りのレースとなったとも解釈できます。
こう書くと根田の優勝が恵まれていたような感じになってしまいますが、それは違います。そもそもこの決勝メンバーを相手に2周近く踏んでいける脚力とメンタルは大したものです。今後も「大きなレース」でファンの期待に応えてくれることでしょう。
今回の決勝メンバーの顔触れを見ても、競技を経験してきた選手が多数を締めていました。初出場となった稲毛も順応力を示していたように、競技経験者の選手は「PIST6はホームバンク」だとの気持ちをもって、どんどん大会に臨んで欲しいですね。
これで5度目の優勝となる根田で文句なしですね。地元選手としてこのバンクは走り慣れているだけでなく、PIST6を盛り上げたいとの気持ちも、大きなレースに繋がっていると思います。今後も優勝記録を伸ばしてくれることでしょう。敢闘賞は河端です。もし、バックで木村を抜き去っていれば、ゴール前では根田を交わしていたのではないかという出脚の良さを見せていました。河端も一度優勝すれば、また余裕を持ってレースに臨めると思うので、次の大会では「大きなレース」で結果を出してくれるのを期待しています。
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●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。