2022/09/21(水) 18:00 0 3
現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリやオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は9月16日・17日に行われた「PIST6 Championship 2022-23」サードクォーターPIST6カップ1の決勝レースを回顧していきたいと思います。
【サードクォーター PIST6カップ1 決勝レース動画】
サードクォーターPIST6カップ1はS級不在の大会かつ、タイムトライアルの差も拮抗しており、誰が優勝してもおかしくないと見ていました。その中でも競輪での近況成績や果敢な走りも含め、私が注目したのが村田瑞季でした。
今ラウンドでも村田の積極さは失われることなく、1次予選から早めの仕掛けで3連勝。この決勝でも最内枠1番手の絶好ポジションとなりました。
その村田と同じく3連勝で決勝に進んできたのが木村皆斗と中島詩音です。木村はセカンドクォーターラウンド1とファイナルラウンド、中島はセカンドクォーターPIST6カップ2を制している優勝経験者であり、両選手とも落ち着き払っていましたね。その実績が1次予選からのレースぶりによく表れていたと思います。
ただ、中島が前々のポジションを取りながら勝ち上がったのに対して、木村は勝ちにこだわったようなレース運びでの3連勝。これは「勝ち上がり方を知っている」とも言えますが、村田や中島と比べると、どこか“構えて”走っている感じも見受けられました。
スタートの並びはインコースから②村田瑞季⑥連佛康浩③遠藤勝弥①中島詩音⑤大谷靖茂④木村皆斗となりましたが、1番人気を集めたのは、タイムトライアルで一番時計を出していた中島でした。
レースは1周目から動き出します。2番手となった連沸が6番手に移動し、木村の後ろを選択しました。村田の後ろも絶好のポジションではありますが「PEDAL ON」の前に木村や中島に動かれて、外に蓋をされるのが嫌だったのかもしれません。あるいは優勝経験のある2人の後ろに付けた方が、仕掛けのタイミングをわかっていると判断したのでしょう。
その連佛の目論見通り、「PEDAL ON」の前に5番手となった木村が動き始めます。ただ、そのスピードに乗っていったのは連沸ではなく4番手の大谷でした。
大谷は一旦、外で様子を見ますが、向こう正面から一気に村田を叩いていき、残り2周では先頭に躍り出ます。大谷はタイムトライアルで12位、中島や村田とのタイム差は0秒3ほどありました。それだけにスピード勝負では分が悪いと考えていたはず。それならば(大谷の脚質的にも)先に動いて、前残りを狙うレースプランになったのでしょう。
この大谷の仕掛けに“構えて”しまったのが木村でした。5番手から上がっていったときに、そのまま村田を交わしても良かったかもしれません。ただ、行くか行かないかを迷っていたところを、大谷に行かれてしまった印象を受けます。ここで木村がレースの主導権を握っておけば、また違った結果になったと思えるだけに、1つの分岐点となった重要なシーンでした。
逆に大谷が先頭となったことで、俄然、優勝に近づいたのは村田です。ただ、優勝を意識したせいか、残り1周でワンテンポ仕掛けを遅らせてしまいましたね。
それを見計らったかのように、1周半前から動き出したのが中島です。中島は残り1周で村田と木村よりも前にいないと優勝はないと思っていたのでしょうし、その気持ちの強さと積極性が、あの絶妙なタイミングでの仕掛けともなったのでしょう。このタイミングの仕掛けが1つの大きなポイントであり、中島の勝因だと思います。
外から中島が動き出したのを見て村田も加速に入ります。向こう正面まで続いた両者の踏み合いは見応えもありましたが、それを制した中島が先頭に躍り出たのを見計らって、次は後方から木村が迫ってきました。
中島と木村は同じ119期生。競輪の世界ではさまざまなライバル関係が構築されていきます。中でも「同期生」というのは苦楽を共にした仲間であると同時に、互いを知り尽くしているからこそライバル心も強くなります。中島も木村も「アイツだけには負けたくない!」の思いを持っていたことでしょう。最後の直線での接戦は意地のぶつかり合いとなりました。
結果的に3/4車輪だけ先に出ていたのは中島。この差こそレースでの“積極性”の差だったのかもしれません。中島も木村も残り1周では横の動きがありましたし、他の選手に迷惑をかけてしまいました。でもこれは両者のバチバチとした「負けられない!」といった気持ちの表れとも言えるでしょう。
それだけにもったいなかったのは村田です。大谷が先頭に立った時点で前に踏んでおき、中島の仕掛けと併せるように踏み上げていたのなら、踏み合いを制していたのかもしれません。もしくは大谷との車間を空け、中島や木村をさらに後方へと置いておく作戦もあったはずです。この辺は優勝経験の無さが判断力を鈍らせたように思います。
また木村は優勝経験があるからこそ、行くべきポイントで“構えて”しまったように見えました。セカンドクォーターファイナルラウンドの決勝では早めの仕掛けから、雨谷一樹といった実績上位の選手たちを退けての優勝。木村本人がインタビューで話していたように「アッと思わせる競走」で魅せてくれました。
木村なら勝利を求めて”構える”だけでなく、ファイナルラウンドの決勝のように、自分から動いて“勝ちをもぎ取りに行く”レースでも結果を残せるはずです。これからのPIST6だけでなく競輪も沸かしてくれる選手だと期待しているので、次回の走りには注目すべきです。
優勝した中島ですが、1次予選から迷いがなかったように見えました。実は中島は私の大学(日本大学)の後輩でもあり、高校生の頃からその存在を知っている選手です。学生時代には八戸自転車競技場にもトレーニング合宿で来ていたので、私も練習を頻繁に見に行っていました。
競技実績にも証明されているように脚力は申し分ありませんでしたが、あまりにも性格が優しい子だったので「競輪選手になる」と聞かされた時には、プロでやっていけるのか? と心配になったのを覚えています。
実際にプロとしてデビューして間もない頃、中島のその優しさは悪い意味でレースにも出ていました。「もっとガツガツした面が出てくれば…」と思ったものです。ただ最近のレースではプロの競輪選手らしい“厳しさ”も出てくるようになり、たくましく成長している様子がレースに表れています。
中島がPIST6で見せた積極性、その「迷いのなさ」は必ず競輪に生かしていけるものでしょう。PIST6でも優勝を重ねながら、今後さらに選手として上を目指してもらいたいですね。
MVPは決勝だけでなく、4走すべてのレース内容を見ても中島以外には考えられません。ただ木村や村田といった若手の選手たちが強さを見せ、今ラウンドを白熱させたのは間違いありません。村田は今回の決勝の走りが糧になるでしょう。次のPIST6の優勝に繋がることを期待して敢闘賞は村田に贈りたいと思います。
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●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。